20080511 日本経済新聞 朝刊
企業に勤めている人ならば「厚生年金基金」や「確定拠出年金」といった企業年金にも加入している人が多いだろう。これらは国民年金や厚生年金に上乗せされる「三階部分」で、こちらにも目配りが必要だ。年金の基本的な仕組み第三弾は、種類が多く仕組みも複雑な「企業年金」について解説する。
「あまりに少なくてがくぜんとした」。千葉県在住の会社員、松井俊介さん(仮名、60)は、五年前に社会保険事務所で年金額を知った時をこう振り返る。二十四歳から現在まで厚生年金に加入し続けているが、六十五歳で受け取る年金額は、基礎年金と厚生年金を併せて年間約百三十万円と記されていたからだ。
「独自」と「代行」
厚生労働省の資料によれば、平均的な給与の男性会社員が四十年間制度に加入すると、年金は年間約二百万円。これより約七十万円も少ないことになる。
だがそれには理由があった。勤務先の会社が「厚生年金基金」という企業年金を採用し、年金額が一見少なく見える仕組みだったのだ。厚生年金基金は大企業を中心に、二〇〇七年三月末時点で約四百七十四万人が加入する企業年金。会社が単独もしくはグループ会社などと共同で基金を設立し、資金を運用する。
厚生年金基金は公的年金に上乗せする「独自部分」と、厚生年金の一部を管理する。後者は国に代わり基金が運用するため「代行部分」と呼ばれる(図A参照)。社会保険事務所は「代行部分を除いた公的年金額」しか示さなかっため、松井さんの額は少なく見えたのだ。厚生年金基金の加入者が陥りやすい点だ。
〇七年になって松井さんのもとに連絡が届き、公的年金のほかに厚生年金基金を年額約九十八万円受け取れることが判明した。
厚生年金基金の給付は一生続くが、額は企業によってまちまち。当初の給付額のまま変わらない場合や、一定期間のみ高額で後は減る場合もある。独自部分の平均月額(〇六年三月末、全額一時金選択者を除く)は一万六千円弱。加入者が年金の額を知ったり、年金を受け取り始めたりするには、社会保険事務所に加え、それぞれの基金での手続きが必要だ。
企業年金は二種類に大別できる。一つは将来の給付額をあらかじめ約束する確定給付型。厚生年金基金もその一つだ。ほかに代行部分がない「確定給付企業年金」や中小企業に多い「税制適格退職年金」(一二年三月末に廃止)などがある(図B参照)。福利厚生策として、企業が独自に自社年金を設けるケースもある。
ところがバブル崩壊後に資金運用が難しくなり、厚生年金基金が解散したり、給付を引き下げたりする企業も出てきた。運用の失敗を企業が穴埋めするため、負担が重くのしかかる例もある。
そうした背景もあり、〇一年に政府が解禁したのが、確定拠出年金(日本版401k)だ。企業型と個人型とがあるが、企業型の確定拠出年金の場合、企業は掛け金を拠出し、従業員が自ら運用する。導入企業は徐々に増え、加入者も〇七年三月末時点で約二百十九万人まで伸びた。
投資信託に資金
東京都の会社に勤める山本美和さん(仮名、27)も加入者の一人。〇七年秋に入社して以降、会社から毎月四千五百円が確定拠出年金用の口座に振り込まれる。拠出額の上限は他の企業年金を併用していないと月額四万六千円、併用だと二万三千円。勤続年数や役職に応じたポイント制で拠出額が決まる会社もある。
インターネットを通して、投資先を決められるように設備を整える企業も多いようだ。山本さんもパソコンを使って運用方法を決め、銀行預金のほか株や債券に投資する投資信託に資金を振り向けた。
もっとも積極的に運用する人は少数派で、多くは元本保証型商品を選ぶ傾向がある。加入者が投資先を選ばないと、自動的に預金として運用する設定の会社が多いのも一因だ。だが現在のように金利が低い状況では、預金だけで従来の確定給付型を上回る利回りを確保するのは難しい。
そのため確定拠出年金を採用した企業にとっては、社員に運用技術を身に付けさせることが課題。社員全員が同年金に加入する野村総合研究所は〇八年四月、何も選ばないと、株式と債券の両方を組み入れた「バランス型ファンド」に投資先が自動でなるような設定に変えた。「運用について考えてもらう機会をつくるのが狙い」(同社)だ。
規模がある程度以上の会社に勤めると、会社が手続きをしてくれることが多く、年金制度について理解する機会を逸してしまいがちだ。しかし転職時や受給時は自分で手続きしないと、損をすることもある。会社によって制度が異なる企業年金は、特に仕組みをよく知ることが大切だ。(小林由佳)
【図・写真】確定拠出年金の運用成績を確認
企業に勤めている人ならば「厚生年金基金」や「確定拠出年金」といった企業年金にも加入している人が多いだろう。これらは国民年金や厚生年金に上乗せされる「三階部分」で、こちらにも目配りが必要だ。年金の基本的な仕組み第三弾は、種類が多く仕組みも複雑な「企業年金」について解説する。
「あまりに少なくてがくぜんとした」。千葉県在住の会社員、松井俊介さん(仮名、60)は、五年前に社会保険事務所で年金額を知った時をこう振り返る。二十四歳から現在まで厚生年金に加入し続けているが、六十五歳で受け取る年金額は、基礎年金と厚生年金を併せて年間約百三十万円と記されていたからだ。
「独自」と「代行」
厚生労働省の資料によれば、平均的な給与の男性会社員が四十年間制度に加入すると、年金は年間約二百万円。これより約七十万円も少ないことになる。
だがそれには理由があった。勤務先の会社が「厚生年金基金」という企業年金を採用し、年金額が一見少なく見える仕組みだったのだ。厚生年金基金は大企業を中心に、二〇〇七年三月末時点で約四百七十四万人が加入する企業年金。会社が単独もしくはグループ会社などと共同で基金を設立し、資金を運用する。
厚生年金基金は公的年金に上乗せする「独自部分」と、厚生年金の一部を管理する。後者は国に代わり基金が運用するため「代行部分」と呼ばれる(図A参照)。社会保険事務所は「代行部分を除いた公的年金額」しか示さなかっため、松井さんの額は少なく見えたのだ。厚生年金基金の加入者が陥りやすい点だ。
〇七年になって松井さんのもとに連絡が届き、公的年金のほかに厚生年金基金を年額約九十八万円受け取れることが判明した。
厚生年金基金の給付は一生続くが、額は企業によってまちまち。当初の給付額のまま変わらない場合や、一定期間のみ高額で後は減る場合もある。独自部分の平均月額(〇六年三月末、全額一時金選択者を除く)は一万六千円弱。加入者が年金の額を知ったり、年金を受け取り始めたりするには、社会保険事務所に加え、それぞれの基金での手続きが必要だ。
企業年金は二種類に大別できる。一つは将来の給付額をあらかじめ約束する確定給付型。厚生年金基金もその一つだ。ほかに代行部分がない「確定給付企業年金」や中小企業に多い「税制適格退職年金」(一二年三月末に廃止)などがある(図B参照)。福利厚生策として、企業が独自に自社年金を設けるケースもある。
ところがバブル崩壊後に資金運用が難しくなり、厚生年金基金が解散したり、給付を引き下げたりする企業も出てきた。運用の失敗を企業が穴埋めするため、負担が重くのしかかる例もある。
そうした背景もあり、〇一年に政府が解禁したのが、確定拠出年金(日本版401k)だ。企業型と個人型とがあるが、企業型の確定拠出年金の場合、企業は掛け金を拠出し、従業員が自ら運用する。導入企業は徐々に増え、加入者も〇七年三月末時点で約二百十九万人まで伸びた。
投資信託に資金
東京都の会社に勤める山本美和さん(仮名、27)も加入者の一人。〇七年秋に入社して以降、会社から毎月四千五百円が確定拠出年金用の口座に振り込まれる。拠出額の上限は他の企業年金を併用していないと月額四万六千円、併用だと二万三千円。勤続年数や役職に応じたポイント制で拠出額が決まる会社もある。
インターネットを通して、投資先を決められるように設備を整える企業も多いようだ。山本さんもパソコンを使って運用方法を決め、銀行預金のほか株や債券に投資する投資信託に資金を振り向けた。
もっとも積極的に運用する人は少数派で、多くは元本保証型商品を選ぶ傾向がある。加入者が投資先を選ばないと、自動的に預金として運用する設定の会社が多いのも一因だ。だが現在のように金利が低い状況では、預金だけで従来の確定給付型を上回る利回りを確保するのは難しい。
そのため確定拠出年金を採用した企業にとっては、社員に運用技術を身に付けさせることが課題。社員全員が同年金に加入する野村総合研究所は〇八年四月、何も選ばないと、株式と債券の両方を組み入れた「バランス型ファンド」に投資先が自動でなるような設定に変えた。「運用について考えてもらう機会をつくるのが狙い」(同社)だ。
規模がある程度以上の会社に勤めると、会社が手続きをしてくれることが多く、年金制度について理解する機会を逸してしまいがちだ。しかし転職時や受給時は自分で手続きしないと、損をすることもある。会社によって制度が異なる企業年金は、特に仕組みをよく知ることが大切だ。(小林由佳)
【図・写真】確定拠出年金の運用成績を確認