20080512 日本経済新聞 夕刊

 新制度の「メタボ健診」が四月に始まったそうね。どんな内容の制度なの? なぜいま新しい制度が始まったのかしら?
 いわゆる「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」を調べるための健診制度が四月に始まった。メタボ健診の内容や狙いは何なのか。太っている人だけでなく、多くの国民に影響を及ぼす可能性もありそうだ。上原真紀子さん(33)と内田由紀子さん(36)が生活経済部の山口聡編集委員に聞いた。
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 ▼メタボって、そもそもどんな状態のことですか。
 「太っていると健康に悪いと昔からいいますが、最近では特に内臓脂肪による肥満が生活習慣病に大きくかかわっていることがわかってきました。『メタボリックシンドローム』とはこの内臓脂肪による肥満に加えて、高血圧、高血糖、脂質異常のうち二つ以上が該当する状態を指します。内臓脂肪肥満の基準は腹囲が男性八十五センチ以上、女性九十センチ以上です」
 「こうした状態は糖尿病などの生活習慣病の一歩手前で、脳卒中や心臓病にもつながりやすいのです。そこで健康診断を実施して該当者やその予備軍を探し出し、生活習慣の改善指導を受けてメタボ脱出を目指してもらうことになりました。これが四月から始まった特定健診・特定保健指導、通称『メタボ健診』です」
 ▼メタボ健診の具体的な内容は?
 「対象は四十―七十四歳の全国民です。企業の健康保険組合、市町村の国民健康保険など公的医療保険の運営者が健診・指導を実施します。会社員の場合は、会社で実施している健康診断に腹囲の測定が加わると考えればいいでしょう。問題は国保に入っている自営業者や会社員OBの人たちです。受診券を送付して近所の医療機関などで受診してもらうようですが、会社員のようには進まないでしょう。健保組合などでも従業員の扶養家族にどう受診してもらうかが難題です」
 「健診の結果、メタボ症候群に該当することがわかると生活習慣の改善指導を受けます。最初に面談や講習を受け、その後も三―六カ月にわたって定期的に専門家から面談や電話でアドバイスを受けることになります。腹囲は基準以上だったが、そのほかに数値が悪かったのが一項目だけなどの場合は最初の面談だけとなります」
 ▼健診のそもそもの狙いは? 
 「生活習慣病の予防による医療費の抑制です。きちんと健診を受けてもらい、成果を出すために新しい仕組みも導入します。健診や指導の受診率などが低い健保組合や国保は、高齢者医療のために払う支援金を増やすという内容です」
 ▼健診結果はどう保管されるのですか。
 「各医療保険運営者には健診結果を電子情報として蓄積することも義務化されました。国民の健康状態が把握しやすくなります。また、この健診情報と患者が病院で治療を受けたときの診療情報を併せて分析し、どのような医療行為が効率的であるかといった研究を進める思惑もあります」
 ▼関連ビジネスも生まれそうですか。
 「検診結果情報のデータベース作りなどはIT(情報技術)産業の大きなビジネスチャンスになります。フィットネスクラブをはじめとして健康指導サービスを請け負う企業なども増えました。メタボをキーワードとした健康食品も目立っています」
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 ▼今後、どうなりそうですか。
 「メタボ健診は壮大な実験という面があります。生活習慣病の予防が進み、医療費を減らすことができるのか、確たる根拠はないためです。健診の受診率を高められるか、健康指導によって生活習慣を変えられるかなど、まだ不透明な部分がかなりあります」
 「データベース化された個人の情報が外部に漏れる危険性もあり、安全対策が必要です。腹囲八十五センチ以上の男性は珍しくなく、膨大な数のメタボ症候群患者が現れる可能性もあるので今後、制度の見直し気運が高まるかもしれません」
 「人口の高齢化で医療費の増加が続けば、経済社会が疲弊してしまう」。三年ほど前、こんな危機感の高まりの中で「メタボ健診」も含めた医療制度改革の内容が固まった。
 強く医療費の抑制を求めたのは、小泉純一郎政権下の経済財政諮問会議。予防で医療費が減るかどうか明確な根拠はないのだが、厚生労働省は苦し紛れのような形で、生活習慣病の予防により将来の医療費は減らせるとの見通しを示した。
 改革を実施しなければ、今三十兆円弱の医療給付費は二〇二五年度に五十六兆円に増える。ところが、メタボ健診や高齢者の長期療養病床の削減、後期高齢者医療制度の創設などでこれを四十八兆円に抑えられるという。これが〇六年に成立した医療改革関連法の中身だ。
 ただ医療費の長期予測などそもそもあてにならないとの見方もある。そんな数字を基に抑制を進め、必要な医療まで削られたのでは支障も出かねない。現に地域によっては医師不足で十分な医療が提供できないという問題も起こっている。どんな医療や健康対策が必要で、その費用、効果はどうなのか。根拠に基づいた議論が求められる。
(編集委員 山口聡)
 「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」に関連する記事は朝刊では、経済、企業、消費、社会の各面や日曜日付の健康面などに掲載されます。三月二十九日付の消費面には「スーパー各社、メタボ対策コーナー、コンビニ、低カロリー食品投入」という記事が載りました。
 夕刊では二月二十六日付の一面に「NEC・トヨタなど、社員のメタボ健診充実―年齢幅広く、医療費スリム化期待」という記事が掲載されました。関連記事は生活面などにも掲載されます。
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