6月9日21時9分配信 産経新聞


 たばこ1箱の値段を現在の3倍程度、1000円に値上げしようという動きが急浮上しているという。いまの政治社会情勢からして、これは実現可能性が高いとみていいのではないか。
 来年度から基礎年金の国庫負担を現行の3分の1から2分の1に引き上げるため、これに2・3兆円必要だ。本来ならば、消費税の引き上げ(1%で税収2・5兆円)でまかなうのが妥当なのだが、福田政権には消費税に手をつけるだけのパワーがあるとは思えない。
 たばこ増税だと、仮に値上げによって消費量が3分の1に減ったとしても3兆円ほど見込めるのだという。喫煙に対する抵抗感が強まっている世相に便乗すれば、消費税よりもはるかにたやすいといえそうだ。
 野党は消費税引き上げに猛反対しているが、たばこ増税には理解を示す向きが多い。なるほど知恵者はいるもので、いいところに目をつけたものだ。
 政府の社会保障国民会議は先ごろ、基礎年金の財源をすべて消費税でまかなう場合、9・5%~18%になるという試算を初めて公表した。
 これは年金財源だけだ。医療や介護なども含めて、福祉財源全般を視野に入れた消費税論争がいよいよ政治の中心テーマになるかと思われたのだが、当面、たばこ増税でしのげるのなら、この大問題を先送りできる。
 なんのことはない。消費税引き上げが福田政権の命運を決するとまで喧伝(けんでん)されていたのが、あっさりと肩透かしをくらわすことになる。
 「欧米並みだと1000円」というのも妙な説得力がある。さあ、喫煙派はどうするか。このさい禁煙に踏み切るか、家計と相談しながら「たばこ1000円時代」に備えるか。
 社会から厄介者扱いされて肩身が狭い喫煙派だが、年金財政の破(は)綻(たん)を救う崇高な役目を負うのだとすれば、これは堂々としていていいことになる。国家の危機を一手に引き受ける正義の味方「スモーカーマン」の登場だ。(客員編集委員 花岡信昭)ご意見などは次のブログへどうぞ http://hanasan.iza.ne.jp/blog/

20080609 日本経済新聞 夕刊

 自宅で高齢者を介護している家族が「数日間、家を空けたい、どこかに高齢者を預かってくれるところはないか」というような場合、ショートステイ(短期入所)という介護保険の制度がある。
 ショートステイは、介護する家族の負担を軽くし、長期にわたる自宅介護を持続可能にするために必要不可欠な制度。しかし、このショートステイも医療を必要とする場合には困難を伴う。
 今年四月、「中心静脈栄養法(IVH)」と呼ばれる、大静脈内に栄養液を送り込む管を挿入する手術を受けた東京都世田谷区のS男さん(89)のショートステイ先を、家族が探した。ところがこの管を入れた人の受け入れ先はなかなか見つからなかった。
 S男さんは一昨年末、胃がんで胃を全摘出。その後、順調に回復していたが、四月初旬に状態が急変して救急車で入院。IVHの管を挿入され十日余り後に「容体が急変したらすぐ連れてきなさい」と医師に言われて退院した。自宅では家族が順番で管の管理などの介護をしていたが、疲れがたまり始めていた。
 医療機器装着者を受け入れてくれるショートステイ施設としては(1)介護療養型医療施設(いわゆる老人病院)(2)老人保健施設(3)特別養護老人ホーム(4)有料老人ホーム――が考えられる。これらの実情を知っておきたい。
 (1)は介護保険の施設ではあるが、そもそもは病院なので最もよい選択肢といえる。だがこの施設は厚生労働省の方針で二〇一一年までに廃止の方向。既に減りつつあり、空き病床をみつけるのが難しくなっている。
 (2)は施設によって受け入れるかどうかは異なる。(3)は医療に重きを置いていないので、原則的にはIVHの患者などは難しそうだ。一つの施設が「三カ月前に予約すれば受け入れ可能かどうか協議する」との返答をくれたが、これでは緊急時に間に合わない。(4)も施設によって異なるが、受け入れてくれても相当な費用がかかりそうだ。
 結局、介護療養型医療施設のひとつがS男さんの短期入所を検討してくれることになったが、その後すぐS男さんは亡くなった。医療が必要な要介護高齢者の受け入れ先がきちんと整備されていれば、こんな慌ただしい死は避けられたのではないかと家族は考えている。
(ファイナンシャルプランナー長沼 和子)
20080607 日本経済新聞 地方経済面

 七十五歳以上の高齢者を対象とする「後期高齢者医療制度(長寿医療制度)」が始まって二カ月余り。首都圏の各自治体の窓口では制度開始当初のような殺到する問い合わせはなくなった。とはいえ、制度の内容が浸透したわけではない。分かりにくさに輪をかけるように、今も進む改変議論が混迷を深める要因になっている。
 東京都足立区内の地域センター会議室に六月上旬、十数人の高齢者が集まり、高齢医療・年金課の職員の説明に熱心に耳を傾けた。A4判八ページの資料を使い、後期高齢者医療制度の概要や年金天引きによる徴収方法などを解説していく。
 自分の保険料を算出するチャート図を配ると、出席者は口々に「急に言われても計算できない」とお手上げの様子だ。約一時間半後に説明会は終了したが、近所の男性(81)は「誰がどれくらいの保険料を払うかなど、何度聞いても分からない」と、ため息をついていた。
 制度開始から二カ月がたち、自治体の窓口への問い合わせは大幅に減った。神奈川県後期高齢者医療広域連合では四月は一日八百件にのぼる日もあり、「電話を切ったらすぐに次の電話」という状況だった。最近は数十件におさまったが、お年寄りが制度を理解したからというわけではなさそうだ。
 各自治体は今も制度の周知に頭を悩ませる。東京都の広域連合は五月末、何とか制度を知ってもらおうと、概要を説明した新聞の折り込みチラシ約四百二十七万枚を都内全域で配布した。七月にも通知書類の見方などを解説した折り込みチラシを配布する予定だ。
 ただ、制度が変わったことは分かっても、いざ自分の払う金額はいくらになるのか、間違って引き落とされはしないかと疑念は晴れない。
 神奈川県厚木市は五月中旬から下旬にかけて、市内の十五カ所で個別相談を実施した。仕組みはもちろん、保険料の算定方法などをそれぞれに説明した。宇都宮市も二十―三十人を集めた「出張ミニ説明会」を開いている。
 制度浸透が不十分なところに問題をややこしくしているのが政府・与党の見直し議論だ。まだ数は少ないものの、各自治体には高齢者から「今度はどう変わるのか」という問い合わせが届く。
 ある県の広域連合の担当者は「説明したくても、国から通知を受けていないため対応できない」と打ち明ける。
 新制度が早くもまた変わりそうとあって「政府の見直し議論が進むと、我々の説明の信ぴょう性を疑われかねない」。自治体の現場からはこんな声があがる。近藤弥生・足立区長は「正直困惑している」と弱り顔だ。
 群馬県安中市では一時、独自の助成を検討したが「見直し議論の結論が出ないうちに助成方法を決めるわけにもいかない」(国保年金課)と困惑する。宇都宮市内に住む八十歳代の女性はネコの目のように変わる状況に「どうなっているのかさっぱり分からない。そもそも後期高齢者という言葉自体が人をバカにしている」と怒る。
 福田康夫首相の地元、群馬県内の自治体担当者からも「国の対応は後手後手になっている」との声が漏れる。
▽埼玉県桶川市…
 後期高齢者医療制度の被保険者が人間ドックを受ける際に1人当たり年2万5000円の補助金を出す方針。1500円かかる特定健康診査の受診料も無料にする方針
▽東京都渋谷区…
 後期高齢者医療制度の保険料の支払いで、年金からの天引きか、納付書による支払いか選択できる制度を検討中
20080607 日本経済新聞 朝刊

 自民、公明両党は六日、二〇〇九年四月に七十―七十四歳の医療費の窓口負担を、現在の一割から二割に引き上げる措置の凍結を検討すると決めた。今秋からの来年度予算編成で具体策を詰める。週明けにまとめる後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の見直し案とあわせ、高齢者の不満回避策と位置付ける。単年度で千四百億円という財源の検討が必要になる。
 同日の与党プロジェクトチームの会合で決めた。来週初めにまとめる与党の後期高齢者医療制度の見直し案に「さらに検討すべき課題」として盛り込み、政府・与党決定にも明記する方針。
 これまで会社員の子供に扶養され、保険料を自分で払っていなかった二百万人の後期高齢者について、保険料軽減の拡充を秋に検討する方針も確認した。対象となる二百万人の保険料は現在は全額免除だが、十月から九割、来年四月から五割と減免割合が下がる。来年四月以降も九割軽減を継続する方向で検討する。
 保険料軽減を適用する基準を、世帯単位から個人単位に変えることも課題に挙げた。現行制度では、高齢者個人の収入が少なくても、世帯収入が多ければ軽減措置が適用されず、不満の声が上がっていた。
20080606 日本経済新聞 夕刊

 参院は六日午前の本会議で民主党など野党四党が提出した後期高齢者医療制度(長寿医療制度)廃止法案を民主、共産、社民、国民新各党などの賛成多数で可決し、衆院に送付した。衆院では多数を握る与党が法案に反対しており、廃案となる見込みだ。
 法案は今年度から導入した後期高齢者制度を二〇〇九年四月一日にもとの老人保健制度に戻すのが柱。年金からの今年十月の保険料天引きを取りやめ、新制度導入によって保険料が上がった被扶養者への負担軽減措置も盛った。
 参院本会議は法案採決に先立ち、与党が「委員会運営に公平性を欠いた」との理由で提出した岩本司参院厚生労働委員長(民主)の解任決議案を野党の反対多数で否決した。