20080609 日本経済新聞 夕刊

 自宅で高齢者を介護している家族が「数日間、家を空けたい、どこかに高齢者を預かってくれるところはないか」というような場合、ショートステイ(短期入所)という介護保険の制度がある。
 ショートステイは、介護する家族の負担を軽くし、長期にわたる自宅介護を持続可能にするために必要不可欠な制度。しかし、このショートステイも医療を必要とする場合には困難を伴う。
 今年四月、「中心静脈栄養法(IVH)」と呼ばれる、大静脈内に栄養液を送り込む管を挿入する手術を受けた東京都世田谷区のS男さん(89)のショートステイ先を、家族が探した。ところがこの管を入れた人の受け入れ先はなかなか見つからなかった。
 S男さんは一昨年末、胃がんで胃を全摘出。その後、順調に回復していたが、四月初旬に状態が急変して救急車で入院。IVHの管を挿入され十日余り後に「容体が急変したらすぐ連れてきなさい」と医師に言われて退院した。自宅では家族が順番で管の管理などの介護をしていたが、疲れがたまり始めていた。
 医療機器装着者を受け入れてくれるショートステイ施設としては(1)介護療養型医療施設(いわゆる老人病院)(2)老人保健施設(3)特別養護老人ホーム(4)有料老人ホーム――が考えられる。これらの実情を知っておきたい。
 (1)は介護保険の施設ではあるが、そもそもは病院なので最もよい選択肢といえる。だがこの施設は厚生労働省の方針で二〇一一年までに廃止の方向。既に減りつつあり、空き病床をみつけるのが難しくなっている。
 (2)は施設によって受け入れるかどうかは異なる。(3)は医療に重きを置いていないので、原則的にはIVHの患者などは難しそうだ。一つの施設が「三カ月前に予約すれば受け入れ可能かどうか協議する」との返答をくれたが、これでは緊急時に間に合わない。(4)も施設によって異なるが、受け入れてくれても相当な費用がかかりそうだ。
 結局、介護療養型医療施設のひとつがS男さんの短期入所を検討してくれることになったが、その後すぐS男さんは亡くなった。医療が必要な要介護高齢者の受け入れ先がきちんと整備されていれば、こんな慌ただしい死は避けられたのではないかと家族は考えている。
(ファイナンシャルプランナー長沼 和子)