20090122 日本経済新聞 夕刊

 化粧品のボーテコンシェルジュ、食品のフードアテンダント、靴のシューカウンセラー――。百貨店の伊勢丹は数多くのブランドのなかから自分に合うものを無料でアドバイスするサービスを展開している。二〇〇八年八月から金融の分野で顧客の要望にあった商品を紹介する「フィナンシェルジュ」を設けた。
 サービスを展開するのは伊勢丹アイカード。「グループとして顧客のあらゆるニーズに応える」。いわゆる「ワンストップショッピング」をめざし、TLA推進部長の塚本健(48)が金融分野での対応を検討してきた。
 塚本は一九八四年に伊勢丹に。ハンドバッグの売り場担当から、外商などを経て〇五年、伊勢丹アイカードに移った。企業年金に携わったことはあるが、金融は門外漢だ。
 そこでまず顧客からアンケートを取ってみた。「プッシュ型の営業が多い」「客の立場で商品を紹介してほしい」「プロの話が聞きたい」。既存の金融機関への批判が続いた。
 対面でしっかり顧客の要望を聞いて商品を紹介する方針はすぐ固まった。ところがほかの商品と違って金融には厚い壁があった。商品を紹介する以上、専門知識が必要になる。そこでファイナンシャルプランナーや証券外務員の資格を持った人を合計四人、アイカードの社員として雇った。
 金融商品を対面販売することになるが、規制が網の目のように張り巡らされ勝手に売れるわけではない。証券では野村証券と資産運用商品の仲介で、遺言信託などでは三菱UFJ信託銀行と代理店で、相続相談についてはタクトコンサルティングと相談業務で、それぞれ提携した。
 ポスターを作ろうとしたが、金融商品取引法が立ちはだかる。リスクが伴う旨を記載すると半分くらいを文字で埋めなくてはならないため断念した。
 専門のブースを設けたのは〇八年八月。日本の金融機関でいえばプライベートバンキングの相談コーナーのようなつくりだ。対象はアイカード会員で利用料はほかのコンシェルジュ同様無料。予約制で対応し、当然土日もやっている。
 顧客が来ると、資金運用についてどういう考えか聞くところから始める。一回のコンサルティングで具体的な商品提案までいくことはまれで、二回目でようやく提案することが多い。
 まだサービスは滑り出したばかりだが、アイカードの会員は約百六十万人。一〇年に三越カードと統合すれば会員は三百万人を超える。老舗百貨店だけあって顧客には富裕層も多く、金融機関の資産運用の顧客とも重なる。
 百貨店の競争は激しい。顧客重視は金融業界よりはるかに徹底している。塚本は「数多くの商品から顧客の要望に合うものを探し出す。顧客が満足するだけでなく、感動してもらう必要があるというのが伊勢丹の考え」と強調する。まず自らの利益ありきの金融証券界に一石を投じそうだ。
=敬称略
(編集委員 太田康夫)

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20090121 日本経済新聞 朝刊

支援はピンポイントで 賃下げで雇用増えず 職業訓練・雇用保険、改善を
ポイント
・非正規増加と規制緩和、因果関係は不確か
・社会保障制度で救えない人に重点支援
・市場機能をより発揮させる制度整備急げ
 製造業における派遣労働者の契約不更新や契約期間満了前の契約打ち切りが問題になっている。厚生労働省によれば春までに職を失う派遣労働者は最低でも八万五千人であるが、二〇〇八年十一月時点の労働力人口約六千六百五十万人に対する比率でみれば約〇・一三%と、数字自体は必ずしも大きくはない。しかしながら、職を失った派遣労働者が、住居の喪失も含めた消費水準の激しい落ち込みを余儀なくされていることは深刻な問題だ。これに政府はどう対応すべきか、問題の所在を整理した上で考えてみたい。
 まず考えるべきは雇用の非正規化の原因だ。非正規雇用には派遣労働者、請負工、直接雇用のパートや期間工などの雇用区分があるが、長期にわたり雇用の保証が得られない点では共通する。労働者全体に占める非正規労働者の比率は長期的な傾向として増加し、一九九九年の派遣労働に対する対象業種の拡大、〇四年の製造業派遣の解禁や派遣期間の一年から三年への延長といった規制緩和の年に非正規労働者比率が跳ね上がったことは確認できない(図)。
 では何が長期的な傾向を説明するのか。プリンストン大学のファーバー教授は日米の企業が共通してグローバル化の影響で将来の製品需要の不確実性に直面するようになったと仮定。米国では一般労働者(正規雇用者)の解雇が比較的容易なので、どの年齢層をみても一般労働者の平均勤続年数は以前より短くなっているが、一般労働者の解雇が難しい日本では、配置転換、出向、非正規労働者の雇い入れという形で不確実性への対応を行ってきたと指摘する。
 日米の企業が同じ経済環境に直面しているが、それぞれの歴史・制度に依存する形で違う調整が行われたというわけだ。いずれにせよこの長期的なトレンドの裏にあるメカニズムを探し当てないと、派遣労働の禁止という法的対応をとったとしても派遣労働者から請負工やパート・期間工への転換が進むだけで不安定雇用自体は解消しない。
 雇用の不安定を前提に政策的な対応を考えるとどうなるか。この際、所得の変動と消費の変動の二つの問題を分けて議論することが必要だ。失職の最も深刻な帰結は消費水準が下落してしまうことで、今回の派遣問題の深刻さは消費の根幹をなす住居の喪失という形で端的に現れている。
 だが、所得の下落は必ずしも消費の下落に直結しない。個人的なレベルで貯蓄を取り崩したり、借り入れを行ったりして消費水準を維持するという選択肢があるし、世帯の中でやりくりをする方法もありえる。もしある世帯が構成員の所得をプールしているなら、誰かが職を失っても、全員が少しずつ消費を我慢することでやり過ごすことができる。さらに民間の保険、公的な社会保障制度などによって所得の変動が消費の変動につながらないようなリスクシェアリングがより広い範囲で機能している可能性もある。
 実際、大阪大学の小原美紀准教授、大竹文雄教授と一橋大学の齊藤誠教授による一連の研究は日本で家計所得の変動がそのまま消費の変動には伝わらないことを示し、完全ではないが所得の減った労働者自身と社会とのリスクシェアリングが一定の範囲で行われてきたことを示唆した。その一方、阪神大震災に伴う大きな所得ショックはうまく吸収し切れず、消費水準を大きく変動させたという。
 今回の雇用ショックも同様な大きさである恐れが強く、リスクシェアリングの枠からはみ出した人、特に社会保障制度からこぼれ落ちている人を重点支援することが基本となろう。では具体的にどんな対応がありうるのか。
 まず短期的対策として提案されているワークシェアリングを検討しよう。これが成功する前提は、一人ひとりが働く時間を減少させる代わりに賃金も減らし、時間当たりの賃金コストを一定に保つことだ。もし労働者一人当たりに固定費用部分があれば、賃金の減少率は労働時間の減少率を上回らないと時間当たり賃金コストを一定に保てない。
 この賃金引き下げに労働者が納得するかがポイントとなるが、筆者と大阪大学の大竹文雄教授の研究によれば二〇〇〇年のデフレ期ですら賃下げは労働者の労働意欲を大きく引き下げた。これを知っている企業も賃下げは避けようとするため、ワークシェアリングはあまり広がらない可能性が高い。世界的にもこの傾向が報告されており、ランド研究所のカプティン研究員らは経済協力開発機構(OECD)十六カ国の四十一年にわたるデータを分析し、労働時間の減少は時間当たり賃金率の上昇をもたらし、最終的には雇用を増加させないと結論づけている。ワークシェアリングを成功に導くためには、一般労働者の理解と納得に基づく妥協が成立し、労働意欲を低下させないようにできるかがカギを握る。
 次に緊急雇用創出事業であるが、真の狙いはセーフティーネットから漏れてしまった人々への所得の移転である。この春までに失職するとみられる派遣労働者八万五千人に仮に月十万円の所得移転を行ったとしても年間一千億円強の規模にとどまる。
 単純な所得移転がもたらすモラルハザードや不公平感を解消するため、民間の経済活動を代替しない公的な仕事を創出する必要があるが、既に多くの自治体が臨時職員の短期雇用枠を設けているため参考になるだろう。しかし、これはあくまでも短期の緊急避難的措置にすぎず、通常の雇用への移動を促す職業紹介・職業相談や、中長期的な雇用政策との連動が必要になる。
 中長期的対策として議論されているのが、職業訓練の拡大だ。OECDの統計によれば〇六年の職業訓練への公的支出の国内総生産(GDP)に対する比率は日本は〇・〇四%と、フランスの〇・二九%、ドイツの〇・三三%より低い。一方で米国は〇・〇五%、英国は〇・〇二%などアングロサクソン諸国とあまり変わらない。ただ米国の数値は厳しい政策評価の結果、プログラムが縮小され趨勢(すうせい)的に下落した結果である点に注意が必要だ。
 訓練参加者と訓練非参加者の就業状況や所得の履歴を使い公的職業訓練の就業促進効果や収益率などを推定する国際標準の方法が東京大学の市村英彦教授らにより開発されている。その手法を用いて厳密に公的職業訓練の便益と一人当たりにかかる訓練費用を分析し、他の政策の費用対効果と比べた上で政策の是非を議論する必要があろう。
 職業訓練の収益率は受講者の柔軟性や受講後の就業期間などに依存するため、年齢によって大きな違いが予想される。中高年には還付可能な勤労所得税額控除などを用いて実質的に賃金を補助したほうがより有効なワーキングプア対策となる可能性も大きい。
 雇用保険の適用拡大も考えてみよう。現在、週二十時間以上就業し、一年以上継続して就業する見込みがあることが雇用保険の加入条件だが、この「一年」は「六カ月」への緩和が予定されている。リスクシェアリングの範囲拡大につながるが、仮に改正されれば運用事務が煩雑になると予想される。社会保障番号の導入などで記録がきちんと保持され、利用者が使い勝手のよい制度にする工夫が必要だ。
 また、東京大学の玄田有史教授が既に指摘しているが、解雇確率の低い正規雇用者の保険料で確率の高い非正規雇用者への失業給付がまかなわれるという実質的な所得移転が起こる可能性がある。これによって、不安定な仕事を提供する事業所の仕事が魅力を増して労働者を引き付けてしまう可能性もある。事業所レベルでの解雇実績に応じて保険料率を変動させる制度をきめ細かく運用していくのが一つの対処法だろう。
 保険市場や労働市場には本来経済的なショックを和らげる調整機能が備わっている。政府の雇用政策は、その枠組みから漏れてしまった人々のピンポイントでの救済や市場メカニズムがよりうまく機能するような制度の整備を中心とすべきである。現下の不況のショックは大きいが、基本に立ち返った議論の盛り上がりを期待したい。
 かわぐち・だいじ 71年生まれ。早大政経学部卒。ミシガン州立大学経済学博士。専門は労働経済

適格年金廃止で確定拠出を紹介、長野銀がセミナー。





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20090121 日本経済新聞 朝刊

 住友生命保険は二十日、通院日数に応じて保険金を支払う「通院特約」の新規販売を停止すると発表した。死亡保険など主契約に付ける通院特約で保険金の不払いが多かったことに対応。代わりに、入院後に一時金を支払う新しい特約を二十三日から販売する。


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20090121 日本経済新聞 朝刊

 東京海上ホールディングスとNTTグループは携帯電話やインターネットを使い自動車保険などを販売する事業で提携する。近く共同出資で専門の損保会社を設立、今春の開業を目指す。国内市場が頭打ちの中で、契約者に直接販売する損保は保険料の安さなどを武器に拡大している。両社は家庭のテレビや携帯ゲーム機から保険加入できる新しい仕組みの開発も視野に入れる。
 新会社には東京海上と、NTTグループで金融関連事業を手掛けるNTTファイナンスが出資する。資本金は未定だが、東京海上が八割以上を出す見通し。月内にも準備会社を設立し、今春にも保険業の免許を取得したうえで開業する。
 直販型の損保は販売代理店への手数料などがかからないため、保険料を安くできるのが特徴。年齢や条件によっては大手より二―三割安い場合もあるという。新会社も保険料を抑えた自動車保険の新商品を開発、携帯電話やネットで販売する方針。国内の大手損保では初めて、携帯電話だけで加入手続きが完結する仕組みも導入する方向だ。
 NTTの次世代通信ネットワーク(NGN)を使った新サービスの研究開発も進める。NGNは高速大容量の通信網。高い安定性を生かし、家庭用テレビや無線LAN(構内情報通信網)機能を持つ携帯ゲーム機を使って保険に加入する仕組みの実用化を検討する。NTTは新サービスの開発で、NGNの利用を促す狙いもある。
 国内の損保市場は少子高齢化や自動車販売の不振などの影響で頭打ちの状態にある。業界の再編機運も高まっており、損保二位の三井住友海上グループホールディングス、四位のあいおい損害保険、六位のニッセイ同和損害保険が週内にも統合計画を発表する予定にしている。
 最大手の東京海上はこれまで、代理店経由という既存の販売ルートを尊重し、直販は手がけてこなかった。しかし、市場が縮小する中で若者など新しい顧客を開拓するには直販にも進出することが不可欠と判断した。
 すでに直販を手がけている損保との違いを打ち出すため、NTTグループとの連携で新しい直販の形をつくり、収益拡大につなげたい考えだ。




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20090120 日本経済新聞 朝刊

均等待遇強化こそ本筋 派遣禁止で解決せず 「社会的企業」の役割重要に
ポイント
・雇用の量的拡大と質的向上、同時追求せよ
・ワークシェア、働き方の改革につなげよ
・社会全体で人づくり進める総合戦略を
 わが国の雇用情勢が急激に悪化している。雇い止めなどで年を越せない派遣労働者の存在が社会問題になったが、労働市場の構造自体が大きく変質した事実を見据え、時代の要請に即した雇用戦略の再構築が求められている。以下では、最近の雇用調整の動きを再検証し、どんな対策が今必要なのか、考えてみたい。
 日本の労働市場は一九九〇年代後半の金融危機をきっかけに大きく変質した。バブル崩壊後もそれまでは正規雇用と非正規雇用はともに増加していたが、九八年以降は、非正規は増加を続けているが、正規は減少するようになった。しかも非正規の中で、かつてはパートやアルバイトなど短時間労働者の増加が主だったが、九八年以降は契約社員や嘱託、派遣など期間を定めて雇われる有期雇用が急増した。
 従来は景気悪化とともに削減された総労働時間も、金融危機後は一時的には短縮されたが、その後は景気後退が続くなかで逆に延びた。特に週六十時間以上の長時間労働者が三十歳代を中心に急増。労働市場の二極化が進展した。
 従来の雇用調整は、労働時間の短縮を経て、中途や新卒者の採用削減、早期退職希望者募集という段階を踏んで実施された。今回は、派遣や有期雇用の雇い止めなど、直接、雇用削減に至るケースが目立つ。事実、労働経済学の手法(雇用調整関数)を使い、最適な雇用量に達するまでどれだけの期間を要するか計測したところ、八〇年から九七年では過剰雇用の解消に二・九年を要したが、九八年以降は雇用調整がスピードアップし、二・二年に短縮された。
 高い成長が期待できる時代なら、一時的に過剰雇用に陥っても、長期的には人材が必要だから、雇用を保障することは企業にとっても経済合理性に合う。だが右肩上がりの成長が期待できなくなると、人件費固定化のリスクを回避しようと、企業は雇用調整のやりやすい体制を整える。まして過剰雇用を抱えたままリストラを実施しないと、株価下落や株主代表訴訟の恐れが高まる。グローバル化の進展も労働市場の変質に拍車をかけている。雇用政策はこれにどう対応すべきか。
 経済協力開発機構(OECD)は九四年、当時の先進各国が直面する高失業率の引き下げと労働市場のパフォーマンス改善に規制改革が必要だとする「雇用戦略」を発表した。この指針は、その後の各国の政策運営に影響を与え、景気回復もあって雇用の「量的拡大」が可能になり、失業率を低下させた。
 一方で、雇用の安定性や労働条件の改善など「質的向上」が新たな課題として浮上。OECDは二〇〇六年、「労働市場の二極化を回避し、高齢化や経済のグローバル化、急速な技術進歩に対応するには、税社会保障制度の改革や職業能力開発の支援、働き方の多様化・柔軟化を進め、均衡処遇を強化すべきだ」とする「新雇用戦略」を策定した。日本でも労働者派遣法改正や有期雇用に関する規制の緩和で、景気回復期には雇用が拡大するようになったが、後退期には短期間で雇用が調整され不安定労働者が増えた。
 確かに、派遣や有期雇用をすべて禁止し、正社員しか雇えなくなると、不安定労働の問題は目の前から消えるかもしれない。だがそうなると雇用が新たに創出されず、間接的に失業者が増える恐れがある。いま問われているのは、雇用の量の拡大と質の向上を同時に達成することであり、対症療法より労働市場の二極化を解消するための抜本的対策である正規と非正規の均等待遇の強化こそ必要だ。
 「均等待遇」について、企業間の雇用条件に差がある以上、派遣労働者がどの企業に派遣されるかで不公平が生じるという問題が提起される。しかし必要なのは、派遣労働者の枠の中での公平性の確保ではなく、枠を超えた一般労働者も含めた公平性である。
 派遣先企業の責任が強化され、良好な雇用条件の派遣労働者が増えれば、そうでない企業に行こうとする人は減り、派遣労働者全体の処遇が改善される。職能資格などに基づき処遇が均等になれば、受け入れ企業は派遣会社に手数料を払う分だけ、派遣労働は割高な存在となり、派遣労働活用の本来の目的である緊急性や専門性が求められない場合は直接雇用に切り替えられ、派遣期間は短縮される。
 非正規労働者に対するセーフティーネット拡充も必要である。パートや有期契約労働者が家計の補助的存在だった時代は、失職による経済的痛手は小さいと判断され、基準以下の年収や労働時間、雇用見通し期間の労働者が雇用保険の適用対象から外されるのも正当だと考えられてきた。だが賃金で生計を立てる非正規雇用者が増えると、適用基準緩和が必要になる。
 既に年収要件は撤廃され、週当たりの労働時間要件も二十時間に緩和された。今回、「一年以上の雇用が見込まれる」といった適用要件も「半年以上」に緩和される方向にある。それでも適用対象の増加人数は、百四十八万人にとどまるという。日雇い労働求職者給付金制度は一昨年から日雇い派遣が対象に加わったが、いまだ十分周知されておらず、受給者は少ない。欧州では、一定の条件さえ満たせば、失業保険の対象にならない人でも一般財源から給付を受けられる「失業扶助制度」が存在する。わが国でもモラルハザードが起きない工夫を施した上で、この種の制度導入を検討してよいだろう。
 ワークシェアリングについては、労働者の賃金が低下したり、人員削減に比べた人件費の十分な削減につながらなかったりすることが懸念されている。これに対し政府は、事業活動の縮小に追い込まれた企業が雇用を維持する際に助成する「雇用調整助成金制度」を活用し、実施企業に休業手当の一部を助成するとしている。中期的視点で雇用の安定につながるよう、認定の際、「仕事と生活の調和」促進の具体的計画を要件に加えてはどうか。
 ワークシェアリングを実施するには、時間管理や職務の見直し、均等処遇の促進、短時間正社員の増加を議論することになり、これを、今後の働き方の改革につなげていくことが望ましい。
 少子高齢化や環境問題への対応など、時代の要請に即した雇用創出を政府が支援するのはもちろんだが、同時に、他の先進国で重視されている「民間企業でもない、政府セクターでもない、中間組織」の支援を拡大すべきだろう。
 英国の「社会的企業(ソーシャルエンタープライズ)」は、一般の民間企業と異なり、利益は追求するがそれを株主ではなく地域社会に還元することを目的に設立された企業体である。寄付や補助金に頼らずに事業活動で安定的な資金を集める。一方、特定の社会問題解決を目的に出資した投資家は、企業から元本だけを返済され、配当の代わりに社会貢献したという満足感を得る。利益が出れば、事業の改善や拡張に使われる。
 英国ではバスの運行やリサイクル、地域再生、学校の課外活動の運営、家具や装飾品製造など多岐にわたる事業が行われ、長期失業者や障害者などに座学や現場訓練を実施し、自ら雇用したり、他社へ就職あっせんし、「教育訓練つき社会的企業」として自立支援を行ったりしている。民間企業に比べ給与が低いわけではなく、経営能力にたけた人も多く、労働者の意欲が高い分、一般の民間企業よりも生産性は高いという。英国政府の調査では、社会的企業は〇六年には従業員を雇っている全企業の五%にのぼり、働く人は〇五年に七十八万人に拡大した。
 従来、日本企業は、所得や生きがいを社員に保障し、人づくりを進める役割を果たしてきた。だがグローバル競争が激化する中、その機能が弱体化した。それを社会としてどう補っていくのか。国内外の環境変化を見据え、新たな資本主義社会のパラダイム形成に向けた総合的なパッケージ戦略が求められている。
 ひぐち・よしお 52年生まれ。慶応大博士。専門は計量経済・労働経済



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