20090120 日本経済新聞 朝刊
均等待遇強化こそ本筋 派遣禁止で解決せず 「社会的企業」の役割重要に
ポイント
・雇用の量的拡大と質的向上、同時追求せよ
・ワークシェア、働き方の改革につなげよ
・社会全体で人づくり進める総合戦略を
わが国の雇用情勢が急激に悪化している。雇い止めなどで年を越せない派遣労働者の存在が社会問題になったが、労働市場の構造自体が大きく変質した事実を見据え、時代の要請に即した雇用戦略の再構築が求められている。以下では、最近の雇用調整の動きを再検証し、どんな対策が今必要なのか、考えてみたい。
日本の労働市場は一九九〇年代後半の金融危機をきっかけに大きく変質した。バブル崩壊後もそれまでは正規雇用と非正規雇用はともに増加していたが、九八年以降は、非正規は増加を続けているが、正規は減少するようになった。しかも非正規の中で、かつてはパートやアルバイトなど短時間労働者の増加が主だったが、九八年以降は契約社員や嘱託、派遣など期間を定めて雇われる有期雇用が急増した。
従来は景気悪化とともに削減された総労働時間も、金融危機後は一時的には短縮されたが、その後は景気後退が続くなかで逆に延びた。特に週六十時間以上の長時間労働者が三十歳代を中心に急増。労働市場の二極化が進展した。
従来の雇用調整は、労働時間の短縮を経て、中途や新卒者の採用削減、早期退職希望者募集という段階を踏んで実施された。今回は、派遣や有期雇用の雇い止めなど、直接、雇用削減に至るケースが目立つ。事実、労働経済学の手法(雇用調整関数)を使い、最適な雇用量に達するまでどれだけの期間を要するか計測したところ、八〇年から九七年では過剰雇用の解消に二・九年を要したが、九八年以降は雇用調整がスピードアップし、二・二年に短縮された。
高い成長が期待できる時代なら、一時的に過剰雇用に陥っても、長期的には人材が必要だから、雇用を保障することは企業にとっても経済合理性に合う。だが右肩上がりの成長が期待できなくなると、人件費固定化のリスクを回避しようと、企業は雇用調整のやりやすい体制を整える。まして過剰雇用を抱えたままリストラを実施しないと、株価下落や株主代表訴訟の恐れが高まる。グローバル化の進展も労働市場の変質に拍車をかけている。雇用政策はこれにどう対応すべきか。
経済協力開発機構(OECD)は九四年、当時の先進各国が直面する高失業率の引き下げと労働市場のパフォーマンス改善に規制改革が必要だとする「雇用戦略」を発表した。この指針は、その後の各国の政策運営に影響を与え、景気回復もあって雇用の「量的拡大」が可能になり、失業率を低下させた。
一方で、雇用の安定性や労働条件の改善など「質的向上」が新たな課題として浮上。OECDは二〇〇六年、「労働市場の二極化を回避し、高齢化や経済のグローバル化、急速な技術進歩に対応するには、税社会保障制度の改革や職業能力開発の支援、働き方の多様化・柔軟化を進め、均衡処遇を強化すべきだ」とする「新雇用戦略」を策定した。日本でも労働者派遣法改正や有期雇用に関する規制の緩和で、景気回復期には雇用が拡大するようになったが、後退期には短期間で雇用が調整され不安定労働者が増えた。
確かに、派遣や有期雇用をすべて禁止し、正社員しか雇えなくなると、不安定労働の問題は目の前から消えるかもしれない。だがそうなると雇用が新たに創出されず、間接的に失業者が増える恐れがある。いま問われているのは、雇用の量の拡大と質の向上を同時に達成することであり、対症療法より労働市場の二極化を解消するための抜本的対策である正規と非正規の均等待遇の強化こそ必要だ。
「均等待遇」について、企業間の雇用条件に差がある以上、派遣労働者がどの企業に派遣されるかで不公平が生じるという問題が提起される。しかし必要なのは、派遣労働者の枠の中での公平性の確保ではなく、枠を超えた一般労働者も含めた公平性である。
派遣先企業の責任が強化され、良好な雇用条件の派遣労働者が増えれば、そうでない企業に行こうとする人は減り、派遣労働者全体の処遇が改善される。職能資格などに基づき処遇が均等になれば、受け入れ企業は派遣会社に手数料を払う分だけ、派遣労働は割高な存在となり、派遣労働活用の本来の目的である緊急性や専門性が求められない場合は直接雇用に切り替えられ、派遣期間は短縮される。
非正規労働者に対するセーフティーネット拡充も必要である。パートや有期契約労働者が家計の補助的存在だった時代は、失職による経済的痛手は小さいと判断され、基準以下の年収や労働時間、雇用見通し期間の労働者が雇用保険の適用対象から外されるのも正当だと考えられてきた。だが賃金で生計を立てる非正規雇用者が増えると、適用基準緩和が必要になる。
既に年収要件は撤廃され、週当たりの労働時間要件も二十時間に緩和された。今回、「一年以上の雇用が見込まれる」といった適用要件も「半年以上」に緩和される方向にある。それでも適用対象の増加人数は、百四十八万人にとどまるという。日雇い労働求職者給付金制度は一昨年から日雇い派遣が対象に加わったが、いまだ十分周知されておらず、受給者は少ない。欧州では、一定の条件さえ満たせば、失業保険の対象にならない人でも一般財源から給付を受けられる「失業扶助制度」が存在する。わが国でもモラルハザードが起きない工夫を施した上で、この種の制度導入を検討してよいだろう。
ワークシェアリングについては、労働者の賃金が低下したり、人員削減に比べた人件費の十分な削減につながらなかったりすることが懸念されている。これに対し政府は、事業活動の縮小に追い込まれた企業が雇用を維持する際に助成する「雇用調整助成金制度」を活用し、実施企業に休業手当の一部を助成するとしている。中期的視点で雇用の安定につながるよう、認定の際、「仕事と生活の調和」促進の具体的計画を要件に加えてはどうか。
ワークシェアリングを実施するには、時間管理や職務の見直し、均等処遇の促進、短時間正社員の増加を議論することになり、これを、今後の働き方の改革につなげていくことが望ましい。
少子高齢化や環境問題への対応など、時代の要請に即した雇用創出を政府が支援するのはもちろんだが、同時に、他の先進国で重視されている「民間企業でもない、政府セクターでもない、中間組織」の支援を拡大すべきだろう。
英国の「社会的企業(ソーシャルエンタープライズ)」は、一般の民間企業と異なり、利益は追求するがそれを株主ではなく地域社会に還元することを目的に設立された企業体である。寄付や補助金に頼らずに事業活動で安定的な資金を集める。一方、特定の社会問題解決を目的に出資した投資家は、企業から元本だけを返済され、配当の代わりに社会貢献したという満足感を得る。利益が出れば、事業の改善や拡張に使われる。
英国ではバスの運行やリサイクル、地域再生、学校の課外活動の運営、家具や装飾品製造など多岐にわたる事業が行われ、長期失業者や障害者などに座学や現場訓練を実施し、自ら雇用したり、他社へ就職あっせんし、「教育訓練つき社会的企業」として自立支援を行ったりしている。民間企業に比べ給与が低いわけではなく、経営能力にたけた人も多く、労働者の意欲が高い分、一般の民間企業よりも生産性は高いという。英国政府の調査では、社会的企業は〇六年には従業員を雇っている全企業の五%にのぼり、働く人は〇五年に七十八万人に拡大した。
従来、日本企業は、所得や生きがいを社員に保障し、人づくりを進める役割を果たしてきた。だがグローバル競争が激化する中、その機能が弱体化した。それを社会としてどう補っていくのか。国内外の環境変化を見据え、新たな資本主義社会のパラダイム形成に向けた総合的なパッケージ戦略が求められている。
ひぐち・よしお 52年生まれ。慶応大博士。専門は計量経済・労働経済
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