今回は「管理監督者と残業手当について」を解説します。
管理監督者には、労働基準法で定められた以下のルールが適用されません。
それは、「労働(残業)時間」「休憩、休日」についてです。
この規定が適用除外となるため、残業手当や休日出勤手当を支払う必要がないのです。
しかし、単に管理職というだけで管理監督者になるわけではありません。
管理監督者の判断要素は、経営者と一体の立場で重要な職務を担い、それに関する責任と権限を有するかどうかです。
法律上の労働時間などの制限を受けない管理監督者に該当するかは、その社員の職務内容、責任と権限、勤務態様、待遇をふまえ、基準は次の4つです。
〇労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有している。
〇労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有している。
〇現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないものである。
〇賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされている。
以上の基準を満たしている場合は管理監督者とみなされますが、実際には役職だけ与えられ、残業手当や休日出勤手当が支給されない、休憩時間が与えられないといった場合は認められません。
「4つの基準」をもとに管理監督者かどうかを判断する際は、次の判断要素を参考にします。
〇経営者と一体の立場で仕事をしている
〇出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていない
〇その地位にふさわしい待遇がなされている
〇重要な職務であるため、地位、給料その他の面で、一般社員より優遇されていること。
しかし、各社、事情が異なるので、判断が難しいです。
この未払残業に立ちむかった裁判があります。
<恩賜財団母子愛育会事件 東京地裁 平成31年2月8日 東京高裁 令和元年12月24日>
〇医長である医師Aが残業代を請求した。
〇逆に病院から管理職手当の返還を求められた。
〇医師には、時間外見合いの医師手当が支給されていた。
〇労基署から残業代に関して是正勧告を受けるなど、管理監督者でないことに争いはない。
そして、裁判所は以下の判断をしたのです。
〇東京地裁は、内規に時間外労働等の対価と規定された医師手当を固定残業代と認めた。
〇一方で、医長Aに管理職手当の受給権限はないとして不当利得の返還を命じた。
東京地裁は、内規に時間外労働等の対価と規定された医師手当を固定残業代と認めた一方、医長Aに「管理職手当の受給権限はない」として不当利得の返還を命じたのです。
その後、裁判は控訴となり、高裁も地裁の判断を維持したのです。
管理職手当を支払っていたのに未払割増賃金請求がなされた場合に考慮すべき裁判例と考えられます。
いずれにせよ、冒頭での判断基準、判断要素を理解して、管理監督者を定義してください。