ビジネス系の新書が、けっこう好きです。
出版の世界も、昔とくらべマーケティング技術が格段に進歩したのだと思いますが、素人には近寄り難くかつ時機を得たテーマを、その分野の専門家でかつそこそこ信用のおけそうな人が、ちょっとびっくりするくらい簡潔に解説した、というようなすぐれた企画(本)が、近年はたくさん出ています。書店での扱いも目立つので、きっと売れているのでしょう。
もちろん、そのような専門的なテーマが新書の分量で論じきれるわけはなく、こんなものを読んだくらいでそのテーマについてわかったような顔をして話すのは厳に慎まなければいけないのですが、新書というのはそういうものだ、と割り切って読めば、短時間でキーとなる要素を頭に入れることができる、たいへん便利なものです。
この「ざっくり分かるファイナンス」(石野雄一/光文社新書)も、銀行から転職後薄れる一方(もともともそんなにない)の知識をおさらいしておこう、という軽い気持ちで手に取ったのですが、想像したよりずっと深い本でした。
そもそも私はファイナンスというものを誤解していたようで、資金調達、資金運用、ぐらいの狭いイメージでとらえていたのですが、ファイナンスというのは経営そのものなんですね。この本を読むと、会社の経営状況というのはバランスシートにあらわれない、キャッシュフローから考えていかなければだめだ、というのが、よくわかります(イヤ、よくわかった気になります)。
法務の仕事との関係で役に立つのは、資金調達のコストはどのような要素で構成されているか、IRを行う意味とはなにか、そして新規プロジェクトのリスクとリターンのバランスをどのように考えていったらいいか(すなわち、どのような状態であれば新規プロジェクトにOKを出してよいのか)、といったあたりでしょう。内部統制とか経営判断の合理性とかが厳しく問われる昨今ですが、もっとこういったファイナンスの切り口からの定量的な分析をもとに緻密な議論を行わないといけないな、と思いました。