愛手袋家
昨日午後二時ごろ、人体町手在住、西田さん方の手袋が、行方不明になりました。いなくなったのは、西田さん夫妻が日頃からとてもかわいがっている通算57双めの手袋、西田エヴォルグちゃん推定3歳。大動脈線界隈をお散歩中に突如としていくなったとのことです。失踪当時、エヴォルグちゃんは、お気に入りの白色に黄色い線がはいったオシャレな服を着ていました。夫妻によると、とてもシャイな性格だそうで、自己主張はあまり得意ではなく、黙々と与えられた仕事をこなす静かな子。しかし、根はとても暖かく気さくな子だそうです。寂れた商店街の片隅で佇んでいたところを、夫妻によって引き取られ、西田夫妻の五十八女として今まで幸せに暮らしていました。
近所では愛手袋家として知られている西田さん夫妻、身代金目的の誘拐も考えられるとみて、事件・事故の両面で捜査をしています。
ジェラしい
「ほら、また来るらしいわよ」
「きいたわよ。いや~ね~」
「いつも冬になるとくるんだから」
「ホント、いいご身分よね~」
「言いかえると、冬にしかこないんだから」
「ホントホント、いいご身分よね~」
「たまにくるもんだから、キャーキャー騒がれちゃってさ~」
「そうそう」
「絶対タイミング計算してるのよ」
「え、そうなの?」
「そうよ。決まってるじゃない。それ以外考えられないわ。『たまにきてチヤホヤの法則』よ。でも、あれよ。噂できいたんだけど、北のほうでは、けっこううっとうしがられてるって話よ」
「やっぱり?」
「そりゃ、そうよ。いつもいたんじゃ嫌よ」
「嫌われてるのね」
「だと思うわ。いい気味よ。そうそう、それに私、あれ苦手なの」
「何が?」
「ほら、逢うなり覆いかぶさってくるじゃない?」
「あぁ、あれね」
「馴れ馴れしいったら、ありゃしないわよ」
「迷惑よね」
「迷惑よ。寒気がするわ」
「あぁ、わかる。ワタシもよ」
「でも、どうせすぐいなくなるんだから。我慢しましょ」
「そうね、我慢我慢」
椅子に三行半
お元気ですか?
あなたに手紙を書くのは、いつ振りでしょうでしょうか。今となっては思い出すこともはばかってしまいます。
深い仲になって、初めてわかったあなたの感触。今でもはっきりと覚えています。あなたはいつでも私をやさしく包んでくれました。支えてくれたのは、たくましい四本の足。
私はあなたに座り、あなたは私を座らせた。
この関係が未来永劫、変わらず続くものと思っておりました。
しかしながら、
私は、私以外を容易に座らせてしまうあなたの姿勢が、どうしても理解できないのです。我慢できなかったのです。
そして、とうとう私はあなたが嫌になってしまいました。
2008年2月1日
あれだけ好きだった、あなたの場所を去る決心がつきました。
今までありがとう
さようなら
椅子に恋文
初めてお手紙を書かせていただきます。
あまりに唐突で、このような形になったこと、驚かれていることと思います。
失礼とは承知で渡させていただきました。
それもこれも、あなたの魅力に心惹かれてしまったためなのです。
疲れている方に、無償でひと時の休息を与える心の大きさ、何が起ころうとも寡黙に佇むその真摯な姿勢をお見受けするたびに、私の胸は高鳴っていきました。
そして、その高鳴りは、どうしようも抑えきれぬほど膨らみ続け、とうとうこのようにあなた様に手紙を書く衝動へとかわっていったのです。
先刻まで、あれを書こうこれを書こうと、思案を巡らせていたのですが、いざ、筆をとると思うようには書けぬ心苦しさ。お察しいただければ、幸いに思います。
またお会いできる日を楽しみにしております。







