「庭園美術館」は、その名の通り、広い庭園の中にある美術館である。
私たちは、邸内の中に入った。
平日と言うこともあり、お客さんは、少なかった。
料金は、彼が全部支払ってくれた。
相変わらず、一つ一つに説明をしてくれていた。
その彼の説明を聞いて、私たちの前にいた中高年の婦人二人組は振り向いた。
『そうなんですか。』
婦人たちは、彼の説明に、うなずいた。
彼は、その様子を見て、嬉しいそうである。
そんな単純な面も持っていた。
彼は、ある絵について、別の意味があることを教えた。
私は、そのことに応えた。
『それは、バーテンダーの人が、ワンフィンガー、ツーフィンガーを
別の隠語として使うのに、似てますね。』
彼は、びっくりして、私の顔を見た。
『あなた、そんなことを、知っているんですか。』
少し、不愉快な様子が見て取れる。
『花電車とかも、知ってます。』
『女性が口にすることでは、ない。』
明らかに怒っている。私は、彼に質問した。
『花電車に行ったことが、あるでしょう。』
確信した口調で、私は言った。
『ありますよ。』
彼は、言い放った。
『やっぱり。そうやと思てました。
私、吉行淳之介の小説とか読むから、そういうこと、知ってるんです。』
『そう。』
彼は、嫌がっている。
私の友人は、私の言うことを、まったく理解していない。
バーテンダーの隠語も、「花電車」の意味も知らない。
それでも、彼は、何も聞かなかったように、続けて絵の説明をした。