私の友人の平田は、私に話しかけた。
『あの人、加藤のこと、ほんまに好きやで。
待ってる間、加藤のことばっかり、
しゃべってたもん。
見た目も、素敵な人やん。
今日かて、加藤のために、会社休みはったんやろ。
なんで、アカンの。
私やったら、つきあうで。』
私だって、彼を愛せたらどれだけ、いいだろう、と思う。
彼は、私を大事にするだろう。
もちろん、他の女性と深い関係になることもあるだろう。
それでも、私を想ってくれるのに、違いない。
彼は、私にいろいろなことを強いることは、わかっている。
タクシーの乗り方一つ見ただけでも、それは、簡単に想像できる。
それを差し引いたとしても、
彼の強い想いは、私を守ってくれるだろう。
けれど、それは、無理なのだ。
私は、何年か前に好きでもない人と付き合い、
本当に、牢獄につながれているような毎日であった。
その人も、いい家のお坊ちゃまである。
ただ、「線からはずれている」ようではなかった。
小さなときから、私立の幼稚園・小学校・中学校・高校と通い
国立大学に合格して、その国立大学の大学院に進み、
有名IT会社に就職した。
彼にとって、劣等感を感じることは、
一浪したことであった。
おうちは、別荘を持ち、
彼のお見合い相手は、例えば、元阪神タイガーズの監督の娘だったりする。
彼は、それを、冗談で話をしたが、
関西で、相当のおうちであることは、十分、うかがい知れる。
彼は、マスコミに関して、怒りを覚えていた。
彼の姉が離婚して、マスコミがあること、ないこと、書きたてと言うのである。
仮に私の姉が離婚しても、親戚の間では、多少の噂になると思うが、
マスコミは、何の興味も持たないだろう。
つまり、そういう家の長男である。
私は、1mmさえも彼が好きでは、なかったのだ。
酷な言い方かもしれないが、正直な気持ちだ。
私は、そんな気持ちしか持ち得ない人とつきあうべきではなかった。
その彼を、私は、精神のバランスを崩した私の友人に紹介したことがあった。