それから、エレベータに乗って、役員室に入った。
Zは自分の友人に、挨拶をしていた。
私もその人に頭を下げた。
『このたびは、ご迷惑をおかけしまして、本当に、申し訳ございません。』
『いいえ。気にしないでください。
Zの頼みですからね。
早速ですが、ウチの人事部長が待っていますから、面接を受けてもらえますか。』
なかなかの好青年である。
Zは、私のその部屋を教えてくれた。
彼が、私のことをその友人にどんな風に説明しているか、私には、わからなかった。
聞いたこともないし、また、聞くつもりもなかった。
聞いたところで、どうなるというのだろうか。
人事部長と言う人は、最初から、私に対して、いい印象は持っていなかった。
そして、私と会うことによって、彼の答えは確信に変わったようであった。
彼は、入社したら、どんな仕事をしたいかと私に訊いた。
しかし、それは、あくまでも、おざなりの質問に過ぎなかった。
私の熱心な答えには、彼にはまったく無反応で、『はぁ、そうですか。』
としか答えなかった。
人事部長が興味があるのは、私とZの関係であった。
『Zさんとは、どういう関係ですか。』
彼は、ジトとした目で、私を見た。
『友人です。』
『どういう友人ですか。』
『うまく説明はできないです。でも、ただの友人です。』
『Zさんも、そう思っていますかね。』
『そうだと思います。』
『そうですか。』
『Zさんとは、どこで、知り合われたのですか。』
私は、かなりうんざりしてきていた。
要するに、この人は、私が女を武器にして、Zをたぶらかし、
この会社に就職しようとしている、そんな風に考えているのだ。
それは、ミエミエである。
けれど、それは、正しいのかもしれない。
他人から見れば、誰だって、そう見えるに違いない。
何だかんだ言っても、私もZの気持ちを利用しているのだ。
『美術館です。』
『ほぉ。美術館、ねぇ。珍しいですね。どんな風に知り合われたんですか。』
『言わないといけませんか。』
『いえ、別に、かまいませんがね。』
私は、自分なりに、自分を抑えていた。
とにかく、Zに迷惑をかけることだけは、避けなければならない。
そして、もう一つ、決心していた。
この会社で働くことは、しないでおこう。
仮に、働いたとしても、かなり、いづらいことは、容易に想像できる。
私が本当にZとつきあっていたとしたら、
多分、この会社で働いていただろう。
たとえ、その会社で、女を武器に就職したと陰口をたたかれとしても、
好きな人と一緒の街で暮らせるのであれば、我慢もできたのだ。
人事部長は、近いうちに、結果をお知らせしますから、と私に告げた。
面接は、終わった。
結果は、すでに、出ていた。
私は、その会社を出て、二人が待つ喫茶店に向った。