何枚かの絵を観た後で、彼は、私たちにお手洗いの場所を教えた。
『僕は、ここで待っているから。』
彼は、壁にもたれかけた。
友人の平田は、歩きながら小声で、私に話しかけた。
『なんで、私がお手洗いに行きたいのが、わかったんやろ。』
『そういう人なんや。』
何から何まで、完璧にこなさないと自分自身が許せないのだ。


面接に行く会社まで、タクシーで行くことになった。
彼は、駅前でタクシーを止めた。
上座である運転席の後ろに、私を座らせようとした。
私に、『どうぞ』と手招きをしたのだ。
私が、タクシーに乗ろうとすると、彼は、私に指示を与えた。
『まず、シートにおしりをのせるんだ。
 それから、両足をそろえて、ゆっくり中に入れる。』
私は、彼の顔を下から眺めた。
「やれやれ、マイフェアレディアか。」
もし、オードリと私に共通点があるとしたら、
背が高く、やせているという点である。
身長169.5cmで、体重50kgちょっとという私は、やせっぽっちであった。
(今は、だんだん太ってきて、一年中、ダイエッターである。)
けれど、この私の体型も、きっと、彼の好みであったのだ。
彼は、太い女性を、好まない。
そんなことは、口にしたことはないが、多分、そうだろう。


彼は、平田には、私の隣に座るように、勧めた。
彼は、私の友人には、座り方については、何も言わなかった。
そして、彼は、助手席に座った。
面接は30分ほどで終わる予定であるから、
Zと平田は、会社の近くの喫茶店で待っていてくれる、
と言うのである。
悪い、と私は言ったが、二人は同意してくれた。
待ち合わせの喫茶店で、まず、私の友人を降ろした。
それから、私と彼は、その会社に向った。
会社に入ったときには、さすがに、私は自分でコートを脱いだ。
彼は、すでにその会社の役員となっている自分の幼なじみに挨拶をすると言う。
会社の前について、受付で、手続きをした。