R2予備試験民訴の答案を書いてみました。

分量はA4で2枚(=答案用紙で4枚)です。

ご参考までに。

 

第1 設問1

1.受訴裁判所が本訴について下すべき判決

(1)結論

 受訴裁判所は本訴につき全部認容判決を下すべきと考える。以下理由を述べる。

(2)理由

ア.判例の立場からの帰結

 本訴の訴訟物はXのYに対する本件事故による損害賠償債務(人的損害に係る部分に限る)一切である。他方、反訴の訴訟物は当該損害賠償債務中500万円の部分である。すなわち、反訴は一部請求である旨を明示しており、残部請求の可能性をXは認識可能であるからXに不意打ちとならない。また、Xは後述のとおり適法に本訴を提起することができ、本訴により残部も含め裁判所の判断を得ることが可能である。Yは、現在も治療中であると主張しており、治療費用を填補するため500万円の一部請求を先行して行う利益があることも否定できない。以上から、反訴の訴訟物は明示された一部に限定されるものと考える。

 債務不存在確認の訴えは給付訴訟の反対形相であり、両訴えの訴訟物は同一である。本訴と反訴の訴訟物は全部と一部の関係にあり量的相違があるものの、一部の限度では訴訟物が同一であるから、訴訟物が同一の場合と同様に扱うべきと考える。

 判例は同一の請求権に関する債務不存在確認の訴えに対し給付訴訟が反訴として提起された場合、前者は、後者の係属により訴えの利益を欠くに至ったとして、これを却下すべしとの立場をとっている。給付訴訟は確認訴訟と比べて執行力がある分だけ紛争解決能力が大きいところ、確認訴訟の確認の利益を否定しなければ142条の適用により、後に提起された訴訟(給付訴訟のこともありうる)が却下されることになるのを回避するためである。当該判例の立場によれば、受訴裁判所は、本訴につき、却下判決を下すべきこととなる。

イ.私見

 本訴につき却下判決を下すことは、以下の理由から妥当でない。すなわち、本訴は確認訴訟ではあるが、訴訟物が一部に限定されていないため、本件事故による人的損害に係る損害賠償債務一切を解決することが可能である。他方、反訴は給付訴訟ではあるが訴訟物が500万円という一部に限定されており、この点で本訴と比較すると紛争解決能力が小さい。たしかに反訴につき全部棄却判決を下した上でYが残部請求訴訟を提起した場合には信義則によって当該請求を棄却することも可能ではある。しかし、信義則はアドホックに適用される一般条項であり、制度的効力である既判力(114条1項)と比較すると、紛争解決基準として不安定であることは否めない。

 また、給付訴訟が執行力を有するといっても、受訴裁判所としては本件事故による人的損害は一切発生していないとの心証を抱いている以上、反訴につき請求認容判決が下される余地はなく、本件では執行力の有無が紛争解決能力の大小を左右するものではない。

 本件では本訴の方が紛争解決能力が大きいのであるから、本訴に確認の利益を認めることは上記判例の趣旨に反するものではなく、むしろ適合するものである。以上の理由から、受訴裁判所は心証に従い、本訴につき全部認容判決を下すべきである。

2.本訴についての既判力の客観的範囲

 既判力は「主文に包含するもの」に生じるところ(114条1項)、これは訴訟物たる権利義務又は法律関係に関する判断をいうと解される。後訴の判断の柔軟性を確保する要請と、裁判の実効性を確保するための最低限度の確定力の要請との調和点として、訴訟の主題たる訴訟物に関する判断に既判力を認めるべきと考えるからである。本訴の訴訟物はXのYに対する本件事故による損害賠償債務(人的損害に係る部分に限る)であり、当該債務の全部が存在しないとの判断に既判力が生じると考える。

 

第2 設問2

1.前提及び判例の立場からの帰結

 前訴判決中、本訴につき、第1、2で先述した判断に、反訴につき請求に係る500万円の債権の不存在という判断に、それぞれ既判力が生じており、既判力の消極的作用によってX及びYが後訴において上記既判力ある判断と矛盾抵触する主張をしても、当該主張は排斥されるのが原則である。

 交通事故による人的損害は、顕在化していない症状(損害)も含め、事故発生時に全てが発生したものと解されるため、後遺症及び3000万円の損害の発生を主張することは、前訴判決中、本訴に係る既判力ある判断と矛盾抵触する。

 判例は、被害者からの給付請求において「事後的に後遺症が発生した場合、当該後遺症に係る損害賠償請求は別途行う」旨が黙示的に示されており、加害者たる被告もそれを当然認識可能だったことを論拠に、残部請求として当該損害賠償請求を認める立場をとっている。

 しかし、本件ではYからの反訴につき上記解釈を施したところで、本訴に係る既判力ある判断との矛盾抵触を回避することはできない。

2.Yの立場からの立論

 基準時時点で存在しなかった事由は、主張立証できなかったとしても当然である。かかる事由については、主張立証につき期待可能性がなかったのであるから、後訴において既判力による遮断を認めるべきでない。当該事由につき後訴において手続保障を与える必要があるからである。民事執行法35条2項はその旨を宣明したものである。基準時時点で存在していた事由であっても、主張立証につき期待可能性がなかったのであれば、基準事後の新事由と同様に扱わなければならないと考える。

 前訴時点でYに生じていた症状は頭痛であり、後遺症である手足のしびれとは全く異なる症状である。前訴の時点でYにおいて将来手足のしびれが発生することを予見し主張立証を尽くすことなどおよそ期待できるものではない。後遺症(及びこれによる3000万円の損害)の発生は基準事後の新事由に準じて、前訴判決の既判力に妨げられることなく主張立証が許されるものである。

以上