今回は令和2年の司法試験民訴の解説を行います。

 

1.全体的な印象

全体として極めてつまらない問題という印象ですが、ポジティブに言えばとっつきやすい問題だったと言えないこともないでしょう。とはいえ、民訴は司法試験の良心として、面白い問題を出し続けてほしいところです。言っても仕方ないですが。

 

2.設問1について

(1)課題1について

まず「条件付請求権」「将来給付の訴えの適法性」というキーワードで請求適格の検討をするよう極めて丁寧に誘導してくれていることに感謝すること。課題1で問われているのは元ネタである百選(4版基準)27事件の理解。確認訴訟には補充性がある(これを言い換えたのが皆さん大好きな「方法選択の適否」)にもかかわらず、当該判例が給付ではなく確認訴訟を適法とした理由が問われている。すなわち、当該判例は賃貸借契約終了前における敷金返還請求権については給付訴訟が不可能(請求適格が認められないため)であることを考慮し、確認訴訟の活用を認めたものであることを説明する必要がある(当該判例は法理判例の体裁で書かれていることに注意)。

請求適格の議論は大阪空港判決からスタートしなければならない。当該判例のロジックは少し入り組んでおり規範の分量も長いため直前期に丸暗記すれば足りる。当該判例は①135が念頭に置いている条件付請求権等に言及した部分と②継続的不法行為に言及した部分に分かれている。②の「Ⓐ右請求権の基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し、その継続が予測されるとともに、Ⓑ右請求権の成否及びその内容につき債務者に有利な影響を生ずるような将来における事情の変動としては……明確に予測し得る事由に限られ」という部分から、単純計算ルールとでも呼ぶべき基準を抽出しなければならない。これがH24の駐車場の判例でも問題になったわけだが、請求額が将来でなく現在の時点で単純計算可能でなければ請求適格は認められないというのが判例のルールである。大阪空港判決の判旨からは明確ではなかったが、Lの発言「条件付請求権であっても、将来給付の訴えの適法性が認められるとは限りませんよ。」という部分から、単純計算ルールは条件付請求権が訴訟物の場合にも妥当し得るのではないかと当たりをつける必要がある。

27事件が、請求適格が認められない(ので方法選択の適否をクリアできる)と考えたのは、賃貸借契約終了前における敷金返還請求では単純計算ルールをクリアできないから。未払賃料や原状回復で敷金がどの程度控除されるかわからないのだから、事前に単純計算などできるはずがないという極めて常識的な考慮。これを被告の立場から言い換えると、防御のしようがないという不利益があるということになる。以上をそのまま説明すれば良い。

(2)課題2について

確認の利益の判定基準について3要素で説明しても良いが、27事件がわざわざ「現在の法律関係」をベースに説明していることに鑑みれば、現在限定原則(山本克己命名)で説明するのがより適切だろう。すなわち、現在の法律関係が確認対象となっている場合、原則として確認の利益が肯定され、原則と例外をひっくり返す要素として即時確定の利益を位置付けられる。本件では、敷金返還請求権は条件付の権利として現在既に存在しており、現在の法律関係として、原則として確認の利益が認められるところ、例外的に確認の利益を否定すべき事情もないと説明することになる。以上の形式論に加えて、実質論からの説明も明示的に要求されている。即時確定の利益は原告の地位に不安があり、当該不安が現実性、切迫性を有する場合に認められるところ、本件では敷金返還請求権について被告が「Aが差し入れたのは礼金である」と主張し、法的性質を争うことで、現実的な不安が生じていると評価できる。また、現時点では敷金から控除される費目・内容について当事者間に争いはなく(それ以前の段階で争っているから当然と言えば当然だが)、敷金か否かについて既判力をもって確定することが「敷金か礼金か」という当事者間の紛争を解決しY2の不安を解消する上で有効適切だと説明する必要がある。

 

3.設問2について

(1)裁判所は何を心証形成の資料とすることができるとされているのか

ここで問われているのは第1テーゼの問題ではないことに注意しなくてはならない。「Y2の発言から……心証を得て、それに基づいて判決をすることはできないのですね。」というQの発言は、立証段階の議論をしていることを明確に示す誘導である。また、「心証形成」という用語自体が立証段階の問題であることを含意している。心証形成の基礎とできるのは、当事者が申し出て証拠調べが行われた証拠から感得された内容(=証拠資料)である。和解手続における当事者の発言を証拠資料たる供述と扱うことはできない。なぜなら、当事者はかかる供述を証拠提出していないからである。仮に、かかる発言を証拠資料と取り扱えば、職権証拠調べとして第3テーゼ違反になるだろう(職権証拠調べという問題のみならず、当事者に対し証拠調べであることを告知していない点でも重大な問題がある)。以上の理由から和解期日におけるY2の発言は証拠資料にはあたらない。以上は形式的な理由である。

(2)和解手続における当事者の発言内容を心証形成の資料とすることができるとすると、どのような問題が生ずるか

こちらが実質的な理由に当たる。仮に和解手続における発言内容を証拠資料として扱われる可能性があるのだとすれば、当事者は不利な認定を避けるために和解手続で本音を語らなくなり、和解の成立が阻害されることが容易に予想される。和解手続が持つ効用を十全に発揮するためには、当事者が本音で話せる環境を整備することが必要である。これは政策的な観点からの議論である。あわせて和解自体の効用(自主的な紛争解決であり任意履行が期待できる)についても簡潔に議論しておけば説得的な説明となるだろう。

 

4.設問3について

(1)課題1について

本件訴訟は共同相続人に対する訴えである。百選の100事件は共同相続人に対する建物収去土地明渡請求訴訟につき、不可分債務であること等を理由に固有必要的共同訴訟にはあたらないとした。本件訴訟は契約終了に基づく返還請求ではあるが、債務の内容は物権的請求の場合と異ならない。したがって、当該判例の議論を用いることが可能である。なお、当該判例は実質的考慮として、貸主は借主の相続人の人数、所在等を把握していないことが珍しくないため、全相続人を被告とすることを要求するのは相当でないと判断したものと考えられるが、この点を重視すれば、XはAの相続人を全員把握している本件では判例と逆の結論を導くことも可能である(H24の設問3ではそのような議論が要求されていた)。しかし、本問ではY2に対する訴えのみを取り下げることができることを前提とした課題2があることから、そのような議論を展開する必要はない。判例に従って、固有にはあたらないと論ずれば足りる。

(2)課題2について

152条2項は平成18年で出題されて以来の再登板である。まず前提として「共同訴訟における証拠調べの効果」として共同相続人間の証拠共通の説明をする必要がある。その上で、同条項の反対解釈として、証人以外の証拠調べの結果は、併合前に証拠調べが行われ、当該証拠調べに関与する機会のなかった者との関係でも援用等の特段の手続なしに証拠資料になる(最判S41.4.12民集20巻4号560頁)ことを説明する。そして、手続関与の機会がなかった者との関係ですら証拠資料となるのだから、手続関与の機会があった分離前の共同訴訟人との関係でも当然に同様の規律となる(勿論解釈)ことを説明し、「訴えの取下げによって影響を受け」ないと結論付ければ良い。