百目へのカウントダウンを始めて以降、特にトップテンは、今まで釣った魚種とは近縁種ではない魚で揃えたいと考えていたが、日本固有種でもあり希少性もあることから、モツゴとは近縁ではあるものの、シナイモツゴも候補に挙げていた。
そして一度は幻の第97種目に終わったシナイモツゴだったが、懲りずにまた探し回っていた。
今回訪れたのは、東日本の某所で、2018年の秋にその地域を挟んだ東西を探し回って全くの空振りに終わっていた場所だった。
その際、東の方はいることがかなり確実だと思われたが、訪れると野生生物を採らないでの看板があり、断念。また最近は山菜ブームやクマの出没のせいで入山禁止の場所が多く、山の中の隠れ池的なものにもアクセスが難しい。
一方、西の方はオイカワ、コイ、それにバスしかいなくて完全に失望させられていた。
その後、これらの間に位置する今回の地域がかなり有望なことがわかったので、いくつか目星を付けて順に回ってみた。
だがそう甘くはなかった。あるはずの池がなかったり、あっても見つかる魚影はキタノメダカだけだったり、魚影がそもそもなかったりと、だんだん期待は失望に変わり、今回もダメかなという気になってきた。
そうして収穫がないまま、目星を付けた最後の池に来た。それは今までのとは違ってやけに浅かった。
底まではっきり見えるが、魚影はない。そこで、しゃがみ込んで岸辺に目を転じた。
すると、メダカサイズの魚影発見。だが今まで見てきたメダカとは明らかに泳ぎ方が違っていた。
ひょっとしてと思い、さらに岸辺を見つめ続けていると、障害物の隙間を、メダカサイズの個体の親サイズの、何か黒っぽい魚がニョロっと移動して別の隙間に隠れた。
あまりにニョロっとした動きとその頭でっかちな俯瞰から、ホトケドジョウではないかと思った。
だが次の個体が現れ、それが岸に近づいたときに真っ黒な個体が飛び出てきて威嚇して隠れた!
ホトケドジョウではなく、確かにモツゴの動きだ。ということは、シナイモツゴだ!
最後の最後でとうとうシナイモツゴの池に辿り着いた!後は釣るだけだ。
あまりに岸に近いので、手竿でやることにした。たなご用の二尺四寸のウキ仕掛け(新半月)を取り出し、マルキューの黄身練りを付け、さっきの真っ黒なオスが隠れた穴の前に仕掛けを入れる ... ところが緊張のためか、仕掛けごと落としてしまった。
それを拾い、チチワを指に付けて再投入。穴の前で誘うが、魚は出て来ない。
すると、別の方角から一尾現れ、黄身練りを吸い込んだ。アワセる。掛かった!だがすぐにバレてしまった。
気を取り直し、少し手前に入れると、また一尾現れ、黄身練りを吸い込んだ。今度は若干間を置いてアワセたところ、腕の動きに合わせて宙を舞った。
やった、ついにシナイモツゴを釣った!そしてとうとう日本百目に到達した!
初めて釣ったシナイモツゴ。手にしてみると仔細を確かめるまでもなく、明らかにモツゴとは受ける印象が違った。
初シナイモツゴの別影
初シナイモツゴの俯瞰
初シナイモツゴの腹側
初シナイモツゴの側線
初シナイモツゴの追星の出た吻
この後、すぐに二尾目が釣れたが、あの真っ黒なオスはどうしても釣れなかったのであきらめて納竿とした。違法でも条例違反でもないが居心地が悪いので長居は無用だ。二尾ともリリースした。
二尾目のシナイモツゴ
シナイモツゴのハビタット。やはりシナイモツゴのいる所ジュンサイありだった。
シナイモツゴは宮城県にあった品井沼で1930年頃に最初に学術的に発見されたことから名付けられた名前で、かつては東日本に広く分布していたが、モツゴと交雑すると次第にモツゴに置き換わってしまうため分布域がどんどん減ってしまい、今ではなかなか見つからなくなってしまっている。
モツゴとシナイモツゴが交雑する場合、一般的にモツゴがオスでシナイモツゴがメスのペアになり、そのハイブリッドは一般に生殖能力がないので、メスをモツゴに取られたシナイモツゴのオスは繁殖機会が減る一方、シナイモツゴのメスは次の代で終わる子孫しか残せないので、次第にモツゴに置き換わってしまうと言われている。
実際、2018年春の遠征の中で東北某所のシナイモツゴの分布する地域の小さなため池で釣った時には、てっきりシナイモツゴが釣れたと思ったのだが、よく見るとモツゴとのハイブリッドだった。近くの川の氾濫時にモツゴが侵入してしまったらしい。この侵入者も元を辿ればおそらくヘラブナやコイの放流に混じって移入したのだろう。
シナイモツゴとモツゴのハイブリッド
シナイモツゴはモツゴと比べて側線が極端に短く、最初の3~5枚の鱗にしかない。また頭部が大きく、尾柄が太くて短いのでモツゴに比べてずんぐりしている。またこのずんぐりした見た目は、丸みを帯びたヒレにもよるところがあるだろう。
何はともあれ、ようやくこれで日本百目に到達することができた。釣り歴四十五年、昭和、平成、そして令和と、足掛け三時代を跨いでのゴールインとなった。