「プリティエグゼクター」。1987年に発売されたオリジナル特撮ビデオである。ご存じの方は・・・多分殆どいないであろう。

原作は破李拳竜さんによる同名マンガである。(コミックスの映像化なのか、同時進行のコミカライズなのかは不明だが)

破李拳竜さんと言えば平成ゴジラシリーズで「ゴジラVSキングギドラ」(1991)のキングギドラ役を皮切りにバトラ、ゴジラジュニアなどを担当したスーツアクターとしての方が有名かも知れないが、元々漫画家であり、「プリティエグゼクター」以外にはロリコンコミック雑誌「レモンピープル」で連載した特撮パロディ作品「劇殺!宇宙拳」が人気であった。破李拳竜さんは朝日ソノラマから発行されていた特撮雑誌「宇宙船」でアクション関係の記事の執筆やイラストも担当し、平成ゴジラシリーズではイメージコンテなども描いている。

 

その破李拳竜さんが平成ゴジラに参加する以前に監督として製作したのが「プリティエグゼクター」だ。「宇宙船」には毎号のように製作リポートが載ったが、制作会社の都合で企画が白紙に戻ったり、破李拳竜さんが権利を引き取り撮影を進めたが何らかの事情で女優さんが降板したりと踏んだり蹴ったり。一旦仕切り直して主役のリサ役に貝ますみさんを迎え、演技演出を野伏翔さんが担当、破李拳竜さんは総監督に就任する事で再スタートを切った。手前味噌ながらこのタイミングで私はこの作品にスタッフとして参加したのである。1時間弱の作品の本編撮影に1月半を要し、撮影は早朝から深夜まで及んだが、映像製作の世界で参加した数少ない作品のひとつとして私にとっては思い出深い作品なのだ。

 

作品の出来は、と問われればアクションシーンや特殊メイクなどに一見の価値は充分あるが、正直言ってドラマ的には少々弱い。また予算的にも厳しい中で特撮シーンに魅力のある画作りは難しかったであろう。だが、この作品、出演者がなかなか豪華であった。1987年当時既にアニソン歌手として不動の地位を築いていた水木一郎。「うる星やつら」(1981~)のメガネ役でブレイクした千葉繁。出世作「ちびまる子ちゃん」(1990~)より前の出演ではあるが、「戦闘メカ・ザブングル」(1982)のチル役のTARAKO。「ウルトラQ」(1966)の一平役でおなじみの西条康彦。また出演ではないが音楽は「ゴジラ伝説」の井上誠が担当している。「ゴジラ伝説」のバックコーラスに破李拳竜さんも参加しているので、その縁があったのだろうか。(もっとも全てがオリジナルの新曲ではなく、当時発売された和田慎二原作の「ピグマリオ」のイメージアルバムのために作曲した曲の未使用曲などを使用すると聞いた覚えがあります。他は井上誠以外の著作権フリー音源を利用したと思われます)

アニメや特撮のマニアであった私にとっては眩しいメンバーでしたが、いちスタッフと参加している以上その立場はわきまえて皆さんには接しましたが、皆さんそれぞれとってもいい方たちでした。待ち時間が長引きイライラして私を叱責したあるキャストを優しく諭して私をかばってくれた水木一郎さん。少ないスタッフに交じってお弁当を配るのを手伝ってくれたTARAKOさん。現場を明るく盛り上げて下さった千葉繁さん・・・。原作者であり総監督でもある破李拳竜さんにもマニアである事は当然隠して接していましたが、ホントは言いたかった。「劇殺!宇宙拳」好きです!、と(笑)

 

主役のリサを演じた貝ますみさんはとても穏やかな性格の優しい女性で、スタッフとも気さくに接して下さる気配りの方だった。長丁場の撮影という事もあり、私のようないちスタッフも親しくおつきあいして頂いた。しかし一旦演技モードに入るとその集中力は素晴しく、また目力のある女優さんだった。バイクに乗るシーン、アクションシーンもよほど危険なシーン以外は吹き替えなしで自分で演じる!と強い意志でやり切った。特撮シーンでハイパーテクターを装着したリサは吹き替えだが、露出度が高い衣装が故の配慮だったのだろうが、本人は出来上がった映像を見て、「こんな事なら私が自分でやったのに。私の方がスタイルいいもん!」とふくれていた(笑)

 

貝ますみさんは同年「仮面ライダーBLACK」第6話「秘密透視のなぞ」にゲスト出演しているので、特撮ファンにはこの作品が一番知られているかも知れない。「プリティエグゼクター」も苛酷な撮影が多かったが、この回も川に浸かったり、なかなかに大変そうな撮影であった。

また同年NHKの朝ドラ「チョッちゃん」に後の役所広司の奥さんになる役で出演したがここでもセリフは少ないものの、相変わらずの目力の強さで好演していた。今回残念ながら画像を発見する事は出来なかった。

更に川崎敬三、小手川伸子(古手川祐子の妹)が司会のテレビ朝日系のワイドショー「新・アフタヌーンショー」の料理のコーナーにアシスタントとして出演するなど活躍した。私は「仮面ライダーBLACK」の出演後に電話でお話ししたのが最後で、その後の貝さんの消息は存じ上げない。今はどうしていらっしゃるだろうか。