台風だけど
連絡がないから
行く準備
こんな時ぐらい
休んでもいいのに
年中無休を維持しているコンビニ
風は荒ぶり
雨は乱れど
頑なに日常を守ろうとする経済
折れた木
舞うダンボール
倒れ看板
激しい嵐は
いつもの通勤を
ちょっとした旅にした
階段を上り
目の前のドアを
勢いよく開けると
恐ろしく
しんとした室内
一番乗り
手に握ったものは
全部凶器になり得る
書き残した言葉は
誰かの鈍器に変わり得る
捉えどころのない心にも
ひょっとしたら刃はあるのかもしれない
僕は奴に近づいていく
奴の背中が挑発している
罪に試されて
僕は奴の前に立ちすくむ
可能性という凶器を
握り締めたまま
次の一手を見い出せずに
玄関も
ロッカーも
自動車も開かない
使い道の分からない
鍵が僕の心にはある
ぴったり鍵穴にはまらない
気持ちの悪さ
この鍵が求めている
扉を探す旅に出ようか
それともこの鍵にちょうど合う
扉を作ってあげようか
すぐに忘れてしまう
好きなことをしていた時に
隣にいた好きな人のことを
すぐに忘れてしまう
好きなもので夢中になった時に
一緒に遊んだ好きな人のことを
すぐに忘れてしまう
チョコレートよりも
大切なものを知った後の
チョコレートのおいしさを
彼が生きてきた時間を
雄弁に語ることできない
彼はシンプルな一つのことを
守り続けたにすぎないのだから
彼が歩いた道のりに
足跡は残らなくても
彼の周りに人々は集い
そこには幸福な時間が流れた
運命さえ驚くくらいに
与えられた時代を受け入れていく
物語は後からついてくるだろう
君が言っていることは
僕にはよく分からないけど
君が言わんとしていることは
とてもよく分かる んだ
それが何なのかを
僕にも上手く説明できないけど
伝わるだけで嬉しいんだ
僕が言っていることを
君はきっと分からないだろうけど
僕が伝えようとしている気持ちを
君はきっと分かってるだろう
君と僕とをつなげていたのは
言葉とか血とか優しさじゃなく
共に過ごした日々だった
濡れた空に
滲んで光っている星々
雨はもう地上に降らずに
宇宙をゆるやかに流れている
隔たる川一つないのに
逢えないでいる日々が過ぎ
風が吹いて
しなる笹の枝
揺れながらぶら下がる
頼りない想い
あの人の願いごとが
どうか叶いますように
君が鳴らすチャイムを
僕は布団に潜って聞いていた
人の思いやりを
感じないふりをして
後悔に暮れることが
過去への償いだと思っていた
僕の傷が
君を傷つけていた
電池切れの時計が転がる
モノクロに溺れた景色を
蹴破る力もなく
苦しみで保たれている生
ドアの向こうから聞こえる泣き声
僕はどれだけの優しさを拒んできたんだ