体は賢い

無駄なく働き

五本の指を動かす器用さ

五感を結びつける繊細さ


心は不器用

ねじれる悩み

ちょっとしたつまずきで滞り

目の前を通り過ぎるものに

吸い寄せられる気まぐれ


僕はまだ

僕を使いこなせていない

脳の中にいる

出番のない僕が

魔物のように呻いている

こんな悲しいのに

ランチを食べてる自分が嫌

こんな悲しいのに

ジョークを言ってる自分が嫌

こんな悲しいのに

テレビを見て笑う自分が嫌

こんな悲しいのに

すやすや眠れる自分が嫌


こらえた涙を

いつ流そうか

タイミングを計っている自分が嫌

計りかねて結局

出せずじまい

書類に押した印鑑は

裁判ぐらいにしか役立たない

すっと嵌めた指輪に

覚え始めてる違和感

かたちのないものを

形にして見せても

そこにあるのはただの残骸で


心を捕らえるには

不十分だ

どんな約束も

どんな誓いも

抱きしめるそばから

こぼれていく

昨日までは確かだと思ってたのに

いきなり空から爆弾が

落ちると思って生きていない

それはとても幸せなこと


いちいち地面にガビョウが

落ちてるか確かめて歩けない

日常は疑いを軽く越える


植えつけられた恐怖も

いつか人は忘れていく

だから失敗を繰り返すし

再び笑顔を取り戻せる


肩肘張って生きる体が

重荷を背負って生きる体が

逆らい切れない眠りに安らぐ

僕についてる眼と

君についてる眼は違うから

同じ花を見ていても

違うふうに見えるのかもしれない


僕が歩んだ歴史と

君が歩んだ歴史は違うから

同じ人に抱く印象が

全然違ってくるのかもしれない


僕が抱えている心と

君が抱えている心は違うから

僕が信じているあの神様と

君が信じているその神様は

同姓同名の別人かもしれない

夜空が吸い込んでいく一日

いつもバスで帰る道を

今日は歩いて帰る


噛み締めたい想いがあった

静かに光る星々があった

風は程よく冷たかった


見つめた先に

明日は見えない

橋があるから渡る

一度目の快感が

二度目を誘惑する

三度四度とやってるうちに

義務になる


あらゆる物に

あらゆる行為に

依存は潜む

悪魔の誘いのように

希望の光のように


よりよい暮らしを目指し

僕らは進歩してきた

自ら作った文明に依存して

永遠に発展し続ける

未来のイメージに依存して


やってすっきりした気持ちと

やってしまった後悔とで

頭は整理がつかないでいる

そこに未来がないと知りながら

一度目の快感を忘れられない

あのホームランが

晩から朝まで

一日中何度も放送される

スポーツのハイライト


あの合戦を

小中高と

ひたすら記憶に叩き込む

歴史のハイライト


強すぎる照明は

他の全てを影にする

記録に残らないものを

打ち消してしまう


人は光で

影の全てを語ろうとするが

影は光を目指していたわけではない


歴史書に載らない

DVDに保存されない

自分の人生を

記憶はどう編集してくのだろう

人にどう編集されていくのだろう

内側にある体の循環と

外側にある物質の循環

そのひしめき合いの中で

かろうじて存在している自分


僕の中で育った心が

僕を育てた世界を見上げる

何かがひそかに広がっている

何かがひそかに限られている


宇宙の果て

その向こうにあるものを想像する

心が届くところまで

言葉が届くところまで

置きっぱなしの荷物と

落書きだらけの机で塞がった

あんな小さな部屋が

昔の僕にとっての全てだった


補習を受けている教室の窓から

元気に走る同級生を覗き込むように

足早に通り過ぎていく世界が

瞳にどこか遠く映る


学び舎から解き放たれた

今の僕には何がある

夕陽が伸ばした影の下

引きずっている放課後