君が黙っているから

僕も黙っている


僕が黙っているから

君も黙っている


黙っているうちに

分からなくなる

無口なのは

どっちだったか

どうすれば

その想いは届くのか

生き物は願いによって

進化する


一つの木の実を摘み取るために

長い時をかけて

鼻や首を伸ばしたり

羽を生やしたりして


命は何かのメッセージを

次に生まれる命へ

語り継いでいくのだろう

遺伝子にそっと混入させるように


人の心が生んだ願いは

体の中で呼吸し続ける

命と命の間を流れ

未来に変わる力になる

難しい顔をして

実は単純なやつだってこと

とっくに君は見抜いていたんだろう


埋められない距離を

遠回しな言葉で埋めようとした

時はもう終わり


正しい答えはどこにもない

だけど僕は

僕なりの答えを持って

君に逢いに行く

早く眼が覚めた朝に

外に出てみたら

新聞を乗せて

原付が走ってくる

あいさつを交わし

ポストより先に

新聞を受け取る


犬と散歩に行くと

一番乗りで

ごみを捨てている人がいる

こんな薄暗い時から

ジョギングする人も

太陽はゆっくりと

地平を昇っている


新しい朝に

いつもの人が

いつも通りのことをする

それが僕にとっての

大事なニュース


誰も広げていない

新聞の手触りが

とても良かったから

中身の記事は

どうでもよかった

急に寒くなってきた

空気にまだ慣れなくて

厚着しては

すぐに脱いで


羽にほこりを乗せて

うつむいたままの

扇風機にも

秋の予感


季節の変わり目の

ありがちな気だるさ

扁桃腺によぎる

若干の不安

誰からも好かれる

あなたみたいになりたいと思ってた


あなたの側にいるだけで

あなたみたいになれる気がしてた


みんなに見せる眩しい笑顔を

僕にも見せた時

すごく嬉しくて

少し寂しかった


僕は今でも僕のままで

いつもの電車に揺られている

あなたは今

どんなあなたでいますか

雲の切れ間に

満月が灯っている


満たされながらも

消えそうな

ほのかさで


空は不穏に

呻き声を上げ

月を少しずつ

薄めていく


その立体を

僕らに見せず

月はまた姿を消した

安売りしていたヨーグルト

賞味期限ぎりぎりの牛乳

またも買い忘れたマヨネーズ


お一人様一パック限りの卵と

3本束のソーセージで

今晩のおかずをさっさと作る


後先考えず詰め込んだ食品を

腐らせる前に使いきろうと

冷蔵庫に追われる毎日

流れる時を飲み込んで

僕は大きく育ち

同時に少しずつ老けていってる


失ったふりをしていた

時はまだここにある

甘酸っぱさを表面に付けて


逃げ出しても自分は自分

そして他人にとっての他人

逃げ出したい自分が増えるだけ


流れる時を飲み込んで

僕はどこかへ伸びていくだろう

ちょっぴり飲み込みすぎたら

少し吐き出しながら

戦争が終わったと

歴史書は言う


事件が終わったと

裁判記録は言う


テレビに映らなくなったことは

忘れ去られたことは

誰が決めるでもなく

終わったことにされる


次から次に表れるニュースに

僕らの感性は忙しい

まな板の上に置かれた出来事を

小気味いいコメントで斬り捨てる


食い散らかされた事件の残骸

目まぐるしく動く時代の隅っこで

誰もが忘れ去った

悲しみを生きている人がいる