人の裏を読もうとすると

今度は表が見えなくなる


左から見たあなたは笑っていても

右から見れば泣いてるかもしれない


宇宙から眺めても

地球は表しか見せてくれない

人は豆粒ほどにも見えない


あなたが見せた心の断片が

宇宙の奥行きを見せる

誰にも見渡せない立体



光という光を遠ざけた後の

僕が僕を夢に消し去る前の

寝室の暗闇の中を

時計の針の音が支配する


だんだんと近づいてくるような音

しだいに遠ざかってゆくような音

ゆるやかに盛り上がってくるような音

たんたんと沈んでゆくような音

どこかに向かってるような音

どこにも行けないでもがいているような音


あの音の行方を

かき立てられた感情が追いかけて

ようやく捕まえた瞬間

目が覚めた

全ては流れ始めた

心はもちろん

体も僕も


あらゆる決め事も

守りたいものも

時の粒子となって

見えなくなった


風には空が

川には海があるのに

僕にはそれも見つからないのだ


ひそかに溜めておいた涙も

ここに留めては置けなかった

流れていく僕は

失うものを見届けることすらできない

薄曇りの午後は

海も空も雲も曖昧で

鳥の羽ばたきだけが確かだ


海猫の鳴く前よりも

鳴いた後の方が

静寂は深さを増す


船のエンジンが

リズムを刻みながら

離れ小島を横切る


長く尾を引く航跡が

また残した淡い色に

寄り添うおぼろげな休日

とっさの一言に

まだ知らない自分がいた


踏み出した一歩目に

らしくない自分がいた


二歩目…三歩目…

僕は僕をはみ出していく


振り返る後ろには

戻れない自分がいた


前を見ると

見慣れない自分がいた

今 僕は

見ているのか

見られているのか

向き合えているのだろうか


今 僕は

知っているのか

知らされているのか

考えているのだろうか


今 僕は

生きているのか

生かされているのか

繋がれているのだろうか


今 僕は

話しているのか

喋らされているのか

訊かれてもいないのに

僕の手からも

こんなに美しく

広がるなんて


くすぐられて

水が少し

微笑んだみたいに


喜びを

振りまいた

朝の空に


揺らいでも

水面に映る

世界は元通り

太陽は無口だ

ただ辺りが賑わっているだけで


雨はおしゃべりだ

ただ周りが静まっているだけで


空と地上は

あまり気が合わないみたいだ


雲りのもごもごが

一番僕らに近いかも

てくてくとやって来た

もう顔なんて見たくもない

君に再び会いに来た


しみじみとやって来た

もう今にも忘れちゃいそうな

君にさよならを言いに来た


はるばるとやって来た

海を渡り電車に乗り

はるばるとやって来た

君にさよならを言いに来た

悲しみは

色のついた言葉に

染められてしまうけど


歩き出す

一歩は過去の破片を

踏みつけてしまうけど


少しずつ

薄れゆく君は

今僕が生きている証


体から

こみ上げてくる

形のない記憶