出来上がった言葉は
今までがなかったように
さっぱりとし過ぎていて

迷いに迷った年月が
入り込む余地もない

言葉が
時間を豊かにする
過程であるように

通り過ぎていく心を
活きのいいまま届けてくれる
詩を願う
信じていやしない価値に
すがって生きて

信じてもいないのに
「裏切られた」とつぶやく

差し込む夕陽に
ためらいを隠せない

見慣れた景色が
僕の目にかすむ
二人で語っていた
理想の未来の計画を
僕は生活の中で忘れた

建前でしか
存在しなくなった言葉を
君はまだ信じていた

君に見えていた希望が
僕には見えなかった
それだけの話

僕が挑発した口げんかに
乗らないままで
君はいなくなった
詩人の石垣りんさんが亡くなられたそうです。つい最近石垣りんさんの詩に出会い、「くらし」「私の前にある鍋とお釜と燃える火と」など、自らの生活に結びついた迫力のある詩に衝撃を受けたのを憶えています。ご冥福をお祈りします。
車輪を弾く勢いで
僕は自転車を走らせた
落石注意の標識の向こうで
海は静かに待っていてくれた

やりきれなさが声に変わるのを
心はようやく許したのに
僕は叫び方を思い出せない
寒い空に触れたときには
「さむい」って
自然と言葉が出てくる

熱い鍋に触れたときには
「あちっ」って
思わず口が反応する

でも悲しいときは
さんざん溢れた涙のずいぶん後に
「かなしい」って

あんまりゆっくり言葉になるから
人に伝える時にはもう笑い話
駅で差し出された
一本の花を
あっ、そうかと
納得して受け取れる日

綺麗に飾りつけられた
一軒一軒の家々を
ゆっくりと眺めながら
家へと帰る日

配られる優しさに
意味を求めたりしない一日だから
知らない人たちがくれた幸せを
今日は遠慮なくもらって帰る
姿形を変え
命の旅は続いてる
行き先は決まっているかもしれないけれど
知らされていないのは確かだ

伝わることを知らないエネルギーが
毎日造られ費やされる
その無駄の繰り返しが
繰り返す無駄が
再び新しいエネルギーとなって
僕らを望む場所へと向かわせる

それは一瞬のひらめき
それは未知なる第六感
それは神様のいるところ
とっくに終わった感情に
引きずられて
弾けきれないでいる笑顔

とっくに失くした感情を
引っばり出して
下ろせないでいる拳

とっくに捨てた感情に
義理さえ感じて
うなされている枕元
これなしじゃ生きていけない
と思っていたものが
百個ぐらいあったのに

これをなくしても
あれをなくしても
僕は大丈夫だった

覚悟して
閉じていた目を
ゆっくりと開いたら

一つを飲み込み
一つを吐き出し
僕はまた続いていく