軍曹!時間だ!… -6ページ目

運用上における戦車の運動性能(戦車工学)

1・2・4 運用上の運動性能

 

 運用上の運動性能というのは、戦車が長距離にわたって道路上を自力で迅速に移動し得る能力をいうのである。 

 運用上の運動性能は次の諸項により決まるものである。

 1) 常用速度

 2) 連続運行に対する戦車の能力

 常用速度とは戦車縦隊が対戦車障害物の無い各種の道路上を走行する場合の平均速度である。

 戦車の常用速度は伝動装置や懸架装置の構造及び発動機の出力によりきまるものである。もし装輪装軌式戦車《コンバーチブルタンク》ならば、その常用速度は、道路の状況が良好であれば履帯によるよりも、車輪による方が大きいものである。

 これに反して、道路状況が悪い時、または断絶した地形においては、常用速度は車輪によるよりも履帯による方が大きい。

 戦車が個々独立して不整地を行動する時は、その最大速度は20~30%だけ低下し、また夜間の行動に当たってはなお20~40%だけ低下する。

 実際、縦隊で行動する時の常用速度は単独戦車が良好な道路上で出し得る最高速度の約50%であるという事がわかっている。それ故、最大速度が大きくなればなるだけ、個々の戦車ならびに戦車部隊全体の平均速度も大きくなる。現代の装軌式ならびに装輪装軌式高速戦車の良好な道路上での最高速度は30~70km/hである(単独ならば100km/hまで出せるものもある)。重戦車の最高速度は15~45km/hである。こういう状況であるから、戦車の常用速度は平均15~30km/hであり、言い換えれば好条件の下で1昼夜に150~300kmである。

 

 戦車の常用速度は戦車のこれら純技術的性質の外に、地形、季節、昼夜、気象状態にもより、操縦者の技量及びその時の車の技術的な状態によっても異なるものである。

長時間の運行に対する能力は次の要素によって決定される。

 

 a) 戦車の各装置及び細部の堅牢度

 b) 手入れの利便及び運行中の操縦の難易

 c) 道路に及ぼす走行部の影響の程度、道路面の破壊は次に続く戦車の走行条件を悪化し、時には戦車部隊の輸送に対して良好な道路を利用し得なくする(即ち道路の輸送能力に関係する)からである。従ってこれらの見地から車輪を持つ事、及び無限軌道を可及的に改善する事は極めて望ましい事である。

 

戦車操作の利便性と容易な取扱い(戦車工学)

「1・2・3 乗員の戦闘能力と戦車の確実性」の4)、5)項の細部記述である。《》内は言葉の説明である。

 

1・2・3 乗員の戦闘能力と戦車の確実性

乗員の戦闘力を保証する戦闘車両の技術上の性能は次の様なものである。

1) 戦場においての外部観測法

 

2) 外部との連絡法(部隊及び分隊編成の場合の指揮)

3) 内部の連絡法

 

4) 操縦、運転や射撃の利便及び乗員の作業上の正規衛生条件を備える事

5) 重要部分の取扱い容易な事

 

戦車の操縦の便利さと乗員の作業条件の便利さ: 乗員の疲労度、したがって又その戦闘力は設計に際して戦闘状況において戦車の運動を掌握し、火砲を操作するための利便をどの程度まで充分にあらかじめ考慮してあるかによって定まるのである。この要素に対して最近の戦車製造界では大なる注意を払いかけて来たようである。これは、世界大戦型《第1次世界大戦型》の戦車は、乗員の行動に便利な操作にしておくという見地からすれば、なお全く不完全であったからである。

 今日要求される所は

1) 衝撃を受けた時や障害物を通過するのに当たって、戦

 闘員が打撲傷を受けぬ様に各員をめいめいの席に最も

 具合よく配置する事

2) 綿密な観測を要するすべての器材、及び分置されたそ

 れらの機材を操作する槓桿《レバー》最初の計画にお

 いて便利な様に配置する事

3) 戦場でも、また道路上でも、観測に差し支えない様に器

 材類の照明をよくする事

4) 操縦用槓桿には余り力を要しないようにする事、またそ

 の槓桿の動きを小さくし、しかも操作の度数を減少する事  

5)  標準温度状態を確保する事、すなわち夏季における温

 度がはなはだしく上がり、また冬季において温度が下がる

 のを防ぐ事

6) 乗員に対し新鮮な空気を保証する事、すなわち燃料の

 燃焼生成物およびガソリンの蒸気を車体内より完全に駆

 逐し、また塵埃の侵入を十分に防ぐ事

7) 運転に当たっては、乗員を疲労せしめるばかりでなく、戦

 車ないしは戦車集団の行動を暴露する騒音を可及的に減

 少しめる事

8) 負傷乗員の医療救護を表示し得る事、および戦列に離

 れた者を乗員中の他のものに換え得る様にしておく事

  操縦に浪費する努力を減少する事と、操作回数を減少

 する事とはサーボモーター機構を用いるか、伝動装置の

 機能そのものを完全にする事によって達成される。

 

 標準温度条件を維持するには特殊の換気装置をつけ、かつ熱の不良導体(アスベスト等)で装甲板に裏張りをする事により冬季にあっては空気を暖め、また夏季にはこれを冷却する事によって行われる(イギリスのビッカース12t戦車)。

 戦車が縦隊をつくって舗装しない道路や凸凹な砂利道を運行する場合、夏季には多量の塵埃が舞い上がり路上の監視を困難とし、かつ乗員及び戦車の機構に有害な影響を及ぼすものである。

 したがって、近代戦車の設計に当たっては換気装置《ベンチレータ》、吸塵器《エアフィルタ》、排塵器等の組み合わせがあらかじめ考えられるようになった(ドイツおよびその他の諸国)。

 各戦車は撒毒地帯内の進行の際に毒ガスの作用に対し2時間までは乗員を防御する様に集団的または個人的防毒装備を持っていなければならないとされている。

 戦場において戦車が活動している時、排気ガスや火薬ガス中にある一酸化炭素(CO)が、戦車の戦闘室内に侵入してくる。ある資料によれば、戦車の活動時間とその構造とによりCOの濃度は1ℓの空気中に0.022~0.05㎎に達し、又ある場合には0.11㎎/ℓにまで達する事があるという事である。COが長時間空気中に滞留する時は、その濃度が0.05㎎/ℓでも既に人体の器官の障害を惹起《じゃっき:事を引き起こすこと》するから、戦車内の換気装置には特別の注意を払う必要がある。

 

騒音: 騒音は隠密性を暴露する要素であり、また乗員の作業能率に影響するものであるから望ましくない現象である。永い間騒音の作用を受けると、行動間も行動後も聴覚に異常を来すものである。

 戦車における騒音発生の原因は、次の様なものである。すなわち

 a) 発動機《エンジン》および伝動装置の回転

 b) 無限軌道およびその他の走行部全体のガチャガチャ

   する音

 c) 射撃する時の音響学的作用

 

 発動機は低い音響を、走行部は高い音響を発する。高い音響は著しく耳に響くものである。一般に2~3時間連続運転後には聴覚の鋭敏度は平均して1/3に低下する。又その時出入口を開けておくと、聴覚は更に低下してしかも持続的で修復し難いものである。

 運転中の騒音を減少するためには、伝動装置の組立てを完全にし、また歯車の仕上程度を改善して静かな噛み合わせを使用し、あるいは走行部の各装置の関係を最も正確な組み合わせになる様に選択する事等により実現される。しかし、これに対する技術的対策は未だ十分に研究されてもいないし、活用もされてもいない。

 不完全な観測器具と明るさの不足の下では視力の鋭敏さが低下する。したがってこの方面に対しても注意が向けられる様になった。戦闘室および器材の照明は昼と夜とではかえている。

 連続的に反復される車体の衝撃と振動とは、たとえその力が大きくなくとも、人体に対しては極度に影響を与えるものである。すなわち、普通の疲労と、筋肉の凋萎 《ちょうい:しぼみなえること。》とがあらわれ、兵員に「酔う」といった様な症状を起こさせる(これは船酔いと同じ症状である)現代の大多数の戦車においては乗員に対するこの様な症状は、中等度の不整地を2~3時間連続走行すると現れるものである。  

 重要部分の取扱い容易な事: 車両の一般的構造に対して課せられた主要な要求の1つは主要部分の点検、手入、小修理、または部品の取換えに当たって車から出ないでも容易にその装置に近付き得る事である。

 最も緊密な結合を要する箇所に対しては特にそうである。すなわち、発動機の気化器《キャブレター》や、ガソリンおよび潤滑油《エンジンオイルやトランスミッションなどに使用されるギヤオイル》の濾過器《フィルター》や点火栓《スパークプラグ》や、注脂器《グリスニップル等》のある場所がこれである。戦車にヂーゼル機関を用うる場合においては、この他、噴射系統に対しても確実に近づきやすくしておくべきである。なお、電気部品(点火装置、照明装置、信号装置等)は、その確実性のほかに、速やかに損傷の箇所を発見し、それを迅速に除去する事が出来る様にしておかねばならない。構造が複雑な電気式や、水力式《油圧式》あるいは空気式のサーボモーター機構や装置を有する場合も同様な事がいえる。これらの要求は特に重要なもので、実際の戦車設計に当たってもある種の装置はいかに優れていても、このためだけで拒否される事さえある。

 戦車全体の確実性は戦車に対する最も重要な要求であって、設計の際の正しい計算と許容応力および材料の正しい選択とによって確保されるものであり、また設計の際は材料とその熱処理および機械加工とに応じて各部品に適当な工作条件を与える事により確保されるものである。 

 

戦車内外の連絡手段(戦車工学)

1・2・3 乗員の戦闘能力と戦車の確実性

乗員の戦闘力を保証する戦闘車両の技術上の性能は次の様なものである。

1) 戦場においての外部観測法

2) 外部との連絡法(部隊及び分隊編成の場合の指揮)

3) 内部の連絡法

4) 操縦、運転や射撃の利便及び乗員の作業上の正規衛生条件を備える事

5) 重要部分の取扱い容易な事

 

外部連絡手段: 全ての小部隊及び全部隊の火力と機動力とを確実に結び付けるためには、戦車間の外部連絡を確保する事が必要である。

現代の小部隊の連絡方法及び指揮の方法は大体次の様なものである。

 

a) 小旗通信

b) 送受信用または受信用ラジオ装置

c) 火光信号(火箭、ランプ)、赤外線の送射(信号灯)

 

 小旗信号のためには特殊の口が取付けられるが、この口はその突出部が観測を妨げぬ様に配置される。

戦車内にラジオを据え付けるには砲塔内が最も適している。

 火光信号法は近頃ますます多く戦車に普及される様になったが、これらの多くは未だなお適当な形になっていない。

 

内部連絡手段: 乗員の動作を整然と行わしむるためには戦車の内部での乗員間の連絡設備が必要である。軽戦車では直接連絡出来るから、戦車通話器等の特殊の設備はあまり用いられない。多数の乗員を有する重戦車では戦車通話器の使用は必要欠くべからざるものである。これに対する根本的要求は次の通りである。

a) 任意の条件の下で作用が確実である事

b) 使用に便利な事

c) 全員に命令の伝達をなし得ると同時に、各戦闘員別個にも伝達し得る事

今日のところ、内部の連絡手段はなお不完全で、将来の技術的完成を必要とするものである。

 

【用語解説】

 

小旗通信

いわゆる「手旗信号」である

 

送受信用または受信用ラジオ装置

いわゆる「無線機」

 

火光信号(火箭、ランプ)、赤外線の送射(信号灯)

視覚通信の発光信号である。

火箭(かせん)は火をつけた矢(火矢)のこと。