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戦車の武器(戦車工学)

1・2 軍用車両に対する諸要求の技術的対策 の続き

 

戦車の武器 は軽戦車では戦車砲も機関銃も回転射撃(360°にわたって)が確実にできる様に、また中戦車及び重戦車では全部の戦車砲と、2/3以上の機関銃の火力を前方と側方とに集中し得る様に配置されることが必要である。中戦車及び重戦車の砲を配置するには主砲を中央砲塔内に置き、回転射撃はできないが副砲もまた砲塔内に置く傾向がある。

 

火砲の威力を最大限に利用する ためには、今日いまだ設計者達が解決できない多数の技術的問題がある。その主なものは次の様なものである。

 

a) 砲塔を極めて迅速に回転させる方法として、砲塔(主として中央砲塔)の回転装置に機械式または電気式伝動装置を取付ける事、すなわち乗員の労力の消耗を最小限に止めて火器を移動させる方法

b) 射撃の命中率を著しく高めるために複雑な光学的照準具を採用する事

c) 回転砲塔の特殊自動制動装置すなわち可及的短時間内に自由自在に砲塔の回転を止める装置をつける事

d) 火砲の自動装填装置。これは重構造のものでは特に重要である。

e) 「行進射撃」を成し、しかもその射撃の瞬間に十分狙いがつけられる様にするために、角動揺をなるべく少なくする様な走行装置を設計する事。重機構の自走砲にあっては、戦車と異なり「停止射撃」をするものであるが、発射後、装置の動揺のため射撃速度を低下させないためと、また(ある場合には)試射によって目標に狙いをつけた照準装置の変化を来さない様に、射撃の際に懸架ばねを固定する事が必要である。

f) 現在の戦車の兵装に対し弾薬の平均数はある程度定められている。すなわち火砲の1門に対し弾薬70~120発、また機関銃1門に対し2000~3000発を標準とする。しかしながら兵装の多い少ないはその配置の設計上の可能性により決定されるが、また状況によってその配置はあちらこちらに自由に著しく変更することが出来る。

g) 火砲の構造上の能力の発達傾向は、次の発射力の式により簡単に推察する事が出来る。

 ここに示したものは火器の大体の傾向を表すものと見なければならない。

 現代式の各種戦車の全火器の威力は表1-3の通りである。最後の欄には火器の威力比、すなわち戦車の重量1kg当たりの全火力を㏋単位で表した数値の大体の値が揚げてあり、これらを比較する場合の特性値となるのである。

 各種戦車の火器の威力を比較判断するには、この威力比以外に装備している弾薬数をも考慮すべきである。というのは装備火器の威力を増大するために、時には装備の弾薬数を減少しなければならない事があり、結局、効果を低下する場合があり得るからである。

 

軍用車両に対する諸要求の技術的対策(戦車工学)

1・2 軍用車両に対する諸要求の技術的対策

 

 軍用車両―戦車に対するすべての要求は次のごとき項目に分けることが出来る。

 

 1) 戦闘器材の威力

 2) 防御器材の確実性

 3) 乗員の戦闘力と車両自体の確実性

 4)  運用上の運動性能

《訳者注:自走車両としての走行性能》

 5) 戦術上の運動性能

 6) 偽装

 7) 機材の特殊使命より生ずる要求

 

 次にこれら戦闘上必要な要求を検討し、同時にこれらの要求を充当すべき技術的特性すなわち対策を簡単に述べることにする。

1・2・1 戦闘器材の威力(或いは戦車の火力)

 この要求を満たすためには次のような要素について考えなければならない。

 a) 火器を充分効力ある様に正しく選定する事、すなわち戦闘上の与えられた使命に適応して戦車の武装を行う事

 b) すべての方向に火力を最も効果的に発揮できる(すなわち最大火力を発揮する)様

に、戦車自体の火器の配置を最も効果的にする事

 c) 一定の任務を確実に遂行するに足る十分な装備を有し、それを最も有効的に配置する事

 

 戦車の火器は戦車の型式に適応させなければならない。    すなわち与えられた戦車の遂行すべき任務の一般的性質適応するものでなければならない。

 このためには、主として装備火器の口径及びその数量を適当に選定し、その火器の特性を発揮するために種々の弾薬(人馬に対する射撃に対しては普通の弾丸及び榴散弾を、対戦車との戦闘に対しては徹甲弾及び榴弾を、またトーチカの火器との戦闘に対しては小破片となって飛散する弾丸を備える等)を備える事が必要である。軽戦車は多くの場合歩兵と協力して戦闘をするもので、多くの場合下記項目の完遂を期するものである。

 a) 敵の人馬の撃破

 b) 小規模であっても効力ある敵の火力点(機関銃及び対戦車砲)との戦闘

 c) 敵の戦車との戦闘

 d)  対空戦闘

 中戦車は主として相対峙する敵の砲兵、戦車、司令部及びその背後に対して行動せねばならない。つまり中戦車は主として敵の縦深地帯における行動に対し使用せられるのである。

 さらに重戦車は敵の防御地帯を突破するをもってその任務とする。

 戦車の火砲の威力を高める最も合理的方法は火砲の弾道学的特性を改善し、弾丸の初速度、射撃の命中度、射撃速度を向上し、装置を小柄にし、同一重量に対して出来るだけ大きな火砲を備える事である。

 戦車の搭載火砲の弾道学的特性 は特殊のものであり、したがってその構造も戦車特有のものでなければならない。戦車用の火砲は次の様な性質のものでなくてはならない。すなわち平射弾道を持って、装甲板に対しては偉大なる侵徹力を有し、その形態及び重量共に小さく、砲塔内に装備する関係上後座を短縮し、しかも弾丸の初速は出来るだけ高速で、かつ射撃速度が大であることを必要とする。戦車用の火砲の照準距離は野戦用《野砲用?》のものに比べて多少短くてもよい。すなわち

 a) 口径       b) 初速度

 c) 砲口のエネルギー(砲弾の運動量)

 d)  横断面荷重    e) 射撃速度と射撃の命中度

 口径を増大する事は大砲の威力(侵徹能力)を増大するという考えからいって望ましい事である。侵徹能力は口径の自乗に略比例《概ね比例》して増加するが、同時に口径を増大すると弾丸ならびに装置全体の重量が増大する事になる。戦車用火砲の初速度は野砲の初速度よりも速い。火砲の砲腔エネルギーは初速度の自乗に比例するものであるから、初速度の増大は望ましい事である。移動する目標を射撃するに当たっては初速度の大きなことが特に重要である。初速度が大であれば弾丸の飛翔時間が短縮され、射撃の命中度を増すからである。現代の戦車用火砲は次に示す様な初速度を持っている。すなわち

 20mm・・・・・・800~1000m/s

 37mm・・・・・・600~800m/s

 75mm・・・・・・750~800m/s

口径の増加と同時に初速を増す事は、構造上かなり困難となる。

侵徹能力は砲口におけるエネルギーに比例するものである。弾丸の発射の瞬間における運動量が大きければ大きい程、障害物に命中した瞬間における運動量も大きい。それゆえに戦車用火砲の砲口におけるエネルギーは、出来るだけ大きくなければならない。現代の戦車用火砲ではそのエネルギーはE=0.5mv²という式で計算すると次の範囲内にある。

 37mm口径・・・・・・・・12~23t-m

 45~57mm口径・・・・18~30t-m

 75mm口径・・・・・・・・65~115t-m

戦車用火砲の合理的な標準は、砲口におけるエネルギーの火砲の重量に対する比と、当火砲が据付けられる砲塔そのものの重量に対する比である。現代における各種口径の火砲におけるこれらの比の値は次のとおりである。すなわち砲口におけるエネルギーの火砲質量に対する比は200~300kg・m/kg   の範囲内にあり、また砲口におけるエネルギーの砲塔そのものの重量に対する比は25~40 kg・m/kgの範囲内にある。

横断面荷重すなわち砲弾重量の横断面に対する比は、戦車用火砲にとっても出来るだけ大きくなければならない。これは飛行中における弾丸の速度の低下は横断面荷重に逆比例するもので、この事は次式で明らかである。

 現在の戦車用火砲の射撃速度は野砲より著しく大きい。すなわち20mm口径の全自動式火砲にあっては1分間100~120発を発射し、口径37mmの半自動式火砲は1分間に概ね20発を、また戦車用標準火砲である45~70mm砲は1分間に10~12発(20発まで)を発射する事が出来る。

 射撃速度を過度に高める事は弾薬を無駄に消費する事になる。

装備火器の機関銃にあっても、その射撃速度を著しく増大し、平均1分間に500~1000発を発射する事が必要で、これにより標的を捕らえた瞬間を出来るだけ有効に利用する様に間断なく射撃をしなければならない。

走行装置(戦車工学~理論と設計の基礎~)

1・1・6 走行装置

 

 戦車は単に無限軌道を有するものと無限軌道と車輪とを共有するものとがある。

 無限軌道装置は履帯、起動輪と誘導(遊動)輪、履帯緊張装置、ばね装置の付いた下方転輪すなわち懸架装置及び補助転輪よりなる。

 

 無限軌道装置の本質的長所は、あらゆる地形を運行し得る事、不整地運行の際に抵抗が少ない事、および粘着力が大きい事等で、その短所は効率が低い事、寿命が短い事、重量が大である事、走行中騒音を発すること及び旋回が困難である事等である。

  懸架装置の特性いかんは戦闘上重大な問題であって、全て現代の高速戦車は弾力性のある懸架装置を備えている。

 車体の動揺と弾力性の程度は戦車より射撃する場合の正確さに影響するものである。

 種々の地形を運行する際の車体の動揺は極めて多種多様であるが、これらの動揺は縦横軸に対する角動揺《ピッチング、ローリング》と、垂直動揺《バウンディング》の2つに分けることが出来る。

 射撃の命中率に最も悪い影響を与えるものは縦方向の角動揺《ピッチング》である。というのは、この場合、目標は照準線より外れてしまうからである。直線的な動揺は命中率には大して影響を及ぼさない。

 戦車の主要火器を収める砲塔の位置は、射手が最も好都合の条件におかれる様に車体動揺の分析を基礎として設計決定すべきである。一般には戦車の中央部がこの条件に当てはまるところである。

 操縦手は前方に座らなければならないから、戦車内においての各部の配置は非常に制限され、これを考慮してあらかじめ定めねばならない。発動機は多くの場合後方に配置される(ある種の軽戦車では後方の袖部に配置されたのもある)。重心を中央部に維持するために、伝動装置は前方に配置される。登り勾配または傾斜した時の安定を保つために、重心はなるべく低くなければならない。横方向に対しては重心は戦車の左右対称面の中央に位置させるべきである。

 射撃に対する悪影響を減少させる見地から動揺の振幅はなるべく小さく、かつ周期が大きく、持続性をなくする事、すなわち速やかに動揺を減衰せしめる事が望ましい。

 これらの要求から緩衝装置を使用する必要が起こって来る。

不安定な走行もあるいは軽快な走行も、一にばね下重量により左右されるものである。

現代の戦車の走行装置の重量は戦車の総重量の20~30%を、また自動車では10~15%を占めている。装軌車両の走行装置においてばね下重量は、走行装置全体の重量の30~50%に当たる。この事は装軌車両の走行装置が未だ完全でない事を示すものである。

  

 戦車の懸架装置は作動方式よりして機械式と水圧式または空気式があり、構造よりして釣合梁式、直立蔓巻ばね式、あるいは混合式懸架装置が用いられる(後述の走行装置の章の懸架装置の項参照)。

機械式懸架装置は最も確実で製作ならびに組立が最も簡単であるが、重くかつ弾性に乏しい。水圧式及び空気式の懸架装置は一層弾力性に富み、不整地を走行する場合も戦車の重量を良好かつ容易に配置し、機械式懸架装置と比較して若干軽いが比較的破損しやすく、作動に確実性が乏しいから頑丈にする必要があり、いきおい特殊の装置を取り付ける必要がある。これらの作用は温度により左右され、故障あるいは破損を発見する事は時としては非常に困難である。

釣合梁式は槓桿《梃子(てこ)と同意語、一方の端を構造体に固定した梁(はり)や肱木(ひじき)》組み合わせであるから他の方式に比べて凹凸をよく吸収する。近頃は混合式懸架装置が非常に普及されている。また最近は懸架装置の主要部を車体内に取り付ける傾向がある。無限軌道の前後の傾斜部の傾斜角はなるべく小さくする事が必要であるが、同時に障害物を克服する可能性を考慮して、前部の登り傾斜角は36°~42°とし、後部の角は17°~23°とする。

不整地や切株の突出している原野を走破する場合、これらの凹凸はその配置からいって2つの履帯の間を通過せねばならぬから、地面と戦車の底部との間に一定の間隙すなわち一定の距離を保つようにする。この間隙の寸法は戦車の型式によって異なってくる。

 小型戦車の間隙 250~300mm

  軽戦車の間隙  350~400mm

  中戦車の間隙  450~500mm

  重戦車の間隙  500~600mm

※小型戦車は訳者注で原文直訳では「超軽戦車」となるが、小型戦車と意訳している。 

※間隙は地上高の事である。

 

 無限軌道の起動輪と誘導輪とはその半径の2/3以上は車体の端から出しておくべきである。これは戦車が垂直障害や、急激な登り傾斜等に遭遇した場合、車体が障害物に引っかからぬ様にするためである。

 戦車の使用中に目方の変化する様な荷重(燃料及び弾薬類)を積載するには、戦車の重心に対して出来るだけ対称となる様に配置し、これらを使用して行った場合に重心の位置が変わらない様にする。

諸装置の配置を設計するに当たっては、戦車の重心の位置において考慮するほか、乗員の作業を便利にする事もあらかじめよく考慮しておかなければならない。