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戦車の分類2(戦車工学~理論と設計の基礎~)

戦車の分類(戦車工学~理論と設計の基礎~)

 

続きだ。

 

小型戦車: この形式の代表的のものとしてはカーデンロイド豆戦車がある。この戦車は全世界中に普及されている。しかしこの戦車は、各国それぞれ自国の自動車工業の水準に応じて製作されていて、それぞれ独自の特徴を持っている。重量は3t以下、武装は2連装機関銃1ないし2、乗員は2名、装甲板は厚さ6~8mm、発動機の出力は20~60㏋である。

※ソ連では「超軽戦車」というカテゴリーがあるようで、本書では「小型戦車/豆戦車」としている。

 

軽戦車: この形式の代表的なものは古いビッカースE型6t軽戦車である。武装は機関銃2門または37mm砲1門と機関銃1門、乗員は3名、装甲板の厚さは6~13mmである。

 

 さらに現代戦車としてはアメリカ製7.5t装軌式T-2型戦車がある。発動機の出力は260㏋で航空用星形であり、武装は機関銃3門、その中の1門は口径12.7mmである。雑誌の報ずるところによればロックアイランド造兵廠からワシントンまでの1440㎞を平均速度48㎞/h、最大速度80km/hをもって3日半で走破し、型打鋼製履板(プレス/鍛造鋼製履板)使用限度は8000kmある事が分かったという事である。

 新型としてはイギリスのIV型戦車がある。その重量は約10t(イギリスの分類によれば中戦車に属する)、武装は砲2門と機関銃2門、装甲板の厚さは11~22mm、最大速度は45km/hである。

 その他の国々にも新型がある。例えばドイツにはクルップ戦車がある。これは重量5t、発動機は75㏋(空冷式)、装甲板の厚さ12mm以下、速度は50km/h、乗員は2名、武装は機関銃2門である。

※御覧のようにクルップ軽戦車とは1号戦車A型だ。

 

中戦車: この形式の代表的なものとしてはビッカース16t戦車(実際の重量は18tある)がある。最大速度は45~50km/h、装甲板の厚さは25.5mm以下で、武装は火砲1門、機関銃5門である。

※ビッカース16t戦車の実際の重量が18tあるというのは、日本初の国産戦車である試製第一号戦車が16tを目標に開発したが18tとなってしまった史実に被る。面白いな。

 

 ドイツには18t及び22tの2種類の中戦車の計画があるが、これの武装は75mm火砲1門と機関銃5門である。

 ニッポンもまた94型中戦車を持っている。その重量は14tで、最大速度は約45km/h、発動機の出力は200㏋、武装は火砲1門と機関銃2門、装甲板の厚さは17mmに及ぶものである。

※ニッポン製94型中戦車は装甲厚の17mmを除けば、その諸元は97式中戦車の要求諸元といえる。不正確な図自体は89式中戦車である。

装甲板の厚さが「17mmにも及ぶ」と、まるで重装甲のように書いてあるが、原書通りなのか御国に忖度したのかは不明だ。97式中戦車の実際の装甲厚は重戦車(当時)に匹敵する30mmRHA相当の25mm浸炭装甲鋼板だ。

 

 アメリカにはクリスチーT-3-E2型装輪装軌式中戦車がある。重量は11t、装甲板の厚さ13~22mm、発動機の出力は600㏋である。

 

重戦車: この形式の代表的なものはビッカース・インデペンデント36t戦車がある。発動機の出力は550㏋、最大速度は32km/h、武装は47mm、火砲17門と機関銃5門、装甲板の厚さは20~25mmである。

※「火砲17門」は誤謬であろう。「47mm砲1門」と思われる。

 

重戦車はフランスにもある。2C型ならびにこれを近代化した3C型とD型とがある。その重量は平均72~92t、武装は口径155mmに及ぶ火砲3門と機関銃5~11門、乗員は15名以下、装甲板の厚さは50mmに達する(これらの諸元は上記3型式の平均値を示すものである)

 

超重戦車または超強力戦車: この種の戦車が出現せんとする兆候はすでに認められてはいるが、未だいずれの国にも存在していない。これについては、その計画に対し伝えられている情報によれば、すでにフランスにも又イタリヤにもその計画があるという事であり、フランスの92tD型戦車がすでに実在している。

 

水陸両用戦車: 水陸両用戦車の最も代表的なものはビッカース社製の1931年型カーデンロイド豆戦車である。この戦車は最大速度約45km/h、水上では10km/h、乗員は2名、武装は砲塔内に機関銃1門、装甲板の厚さは4~8mmである。

 

フランス、ニッポンおよびその他の国々も水陸両用戦車を持っている。

水陸両用戦車の特異点は武装と装甲が薄弱なことである。一般にこの戦車は十分な浮力を得るために著しく軽く作ってあるのである。したがってそこに大きな欠陥があるのである。

戦車の分類(戦車工学~理論と設計の基礎~)

1・1・2 分 類

 今日まで、軍部内部においてもなお厳格な面も一般に認められている様な戦車の分類法は定まっていない。今日の戦車の分類は戦術上の特徴か、あるいは技術上の特徴により分類されている。あるいは最も多く採用されている方法ではこれら2つの特徴を混ぜてその中のいずれかを主におき、他を従とした様な分類をしている。戦車の戦術的分類には戦闘上の用途により偵察用、駆逐用、突撃用―突破戦車、随伴戦車、機動用または長距離用等がある。現在の戦車工学におけるこのような区分は技術上の特徴が明らかにされないばかりでなく、その戦車の様式に対する観念は更に得られないことは明らかである。

 現代の戦車は、その重量が1.5t~25tの範囲内にあるものは、何よりもまず第1に快速戦車であり、時にこれ以上の重量のものでもこの性質を持っている。この範囲の中でも軽量戦車は装軌状態で最高速度が平均45~50㎞/hで、重量戦車は最高速度が35~40㎞/hである。この事は地形によっては両者の運動中の平均速度は略同一(ほぼ同じ)であり、はなはだしい不整地を運動する場合には重い戦車の方がむしろ早くなるという事である。

 したがって現代の戦車は型式的用途は何であっても、その速度によって偵察用、駆逐用、近距離ならびに遠距離用の随伴戦車または突撃援護用戦車としてあらゆる戦闘状態に利用できるのである。

 戦車の重量は戦車の特性を表すものである。

 もし戦車の全重量が7tあるとすると、その戦車は大体において次のような戦術的-技術的特性を有する事を容易に想像することが出来る。すなわち最大速度は40~50km/h、装甲板の厚さ6ないし12mm(全面は最大15mm)武装は機関銃のみ2門か、あるいは機関銃1門と20mm以下の大口径自動銃1門、及び乗員2名で、さらにこのような戦車の発動機の馬力は120~150㏋、もしくはそれ以上でなくてはならない。

 重量による分類は次の様に区分できる。すなわち

 1) 小型戦車(豆戦車) 1.5t~3t

 2) 軽 戦 車      5~10t

 3) 中 戦 車      15~25t

 4) 重 戦 車     30~100t

5)   超重戦車(超強力戦車) 100t以上

6) 上記分類には夫々(それぞれ)次のような特殊戦車がある。―工兵用、連絡用、化学戦用、砲兵用、輜重用(補給部隊用)、衛生用等。

 水陸両用戦車、装輪装軌戦車等はそれぞれ別々の分類に入れずに、ただ基本型に対する独特な記載するにとどめ、例えば軽、装輪装軌、水陸両用戦車のごとく呼ばれる。

 

戦車工学~理論と設計の基礎~(続)

 

 

上記の続き

 

 戦車が遂行しなければならない多種多様な戦術的問題と、またあらゆる経済的技術的及び軍事的適合性とを考え合わせると、種々な軍事上の諸問題を解決することが出来る万能戦車を持ちたいという欲望が出てくる。

 戦車が万能性を表すためには次の様な諸事項が必要である。すなわち、自動的に換えられる装輪装軌式装置を有する事、装軌の際でもまた装輪の際でも戦車の直進と旋回といずれにも使える万能変速機を備える事、なおその変速機は自動的なものである事、また何処にでも行ける事、すなわち、水上を浮遊航行する事も水中を潜行する事も、また諸種の障害物をも通過し得る事、山地や砂地や泥濘でも行動し得る事、装甲板は徹甲弾を受けても損傷しない事、各種の毒ガスの撒毒地帯を行動し得る事、戦車の内部と外部とを連絡する完全な装置と器具を備える事(このためには二重連絡装置を必要とする)、種々な行動条件(場所、気候、時間、煙幕、水中潜航等)の下において観測及び操縦を確保し得る優秀な器材を備える事、敵の装甲車及び空軍との戦闘を有利に導くような武器を有する事である。装甲された車体の構造は少しの改造によって次の様な種々の目的に応じて利用し得る様にしておかねばならない。すなわち、参謀用または指揮官用、貨物運搬用、衛生勤務用、工兵用、化学戦用、連絡勤務用等の種々な用途がこれである。伝動装置及び一般の機構はただ特殊の機械装置を施すだけですぐに無線操縦戦車に転化して使用し得るものでなくてはならない。

 この様な技術的万能戦車が実現すれば戦術の点においても万能性を確保することが出来るであろう。すなわち、全く同一形式の戦車をもって種々な軍事的任務の遂行に利用できることになる。

しかしながら、戦闘方式は上記のごとく万能的な特異性を持っているにもかかわらず、現在の技術はその発達途上にあり、軍にある程度専門化され、また比較的複雑な方式の戦車で軍事的要求を満足させているにすぎない。

 

続きである。

 

原書は1937年版であり、おおむね1935年までの戦車技術をもとに記述されている。「今日(こんにち)、現代、現在」などの記述は1935年付近のことであり、「大戦」は「第1次世界大戦」のことである。

 

ドイツが戦車の技術供与をし、ソ連が訓練場所を提供していた時代の話であり、日本も含め知識は共用していたのに国情であれだけ異なる戦車が登場したことを思うと感慨深いものである。

 

ソ連の資料だけにあってクリスティー戦車をパクったBT戦車の「装輪装軌式」が登場する。このBT戦車は1936年からのスペイン内乱でのスペイン軍、1939年からのノモンハン事変における日本軍との実戦を経験したことによる知見からあのT-34戦車が生まれるわけである。

 

ちなみに、本書(翻訳版)の発行は皇紀2003年3月8日となっている。

つまり、1943年であり、すでにヨーロッパでは本書に記載されている戦車とは異なる高性能戦車が走り回っているのである。

残念ながら太平洋では本書に掲載されているままの「ニッポンの戦車」がそのまま戦っているのである。 

 

1・1・2 分 類 に続く