CPTとは何か

 

CPT(Cognitive Processing Therapy:認知処理療法)は、パトリシア・レジック(Patricia Resick)らによって開発された認知行動療法です。もともと性的暴力被害者のPTSD治療として開発され、現在では退役軍人・自然災害・その他の様々なトラウマへの適用が研究されています。

米国退役軍人省(VA)が推奨する主要なトラウマ療法の一つであり、PEと並んで軍・退役軍人領域での普及が進んでいます。

 

CPTの基本的な考え方

CPTの理論的基盤は社会認知理論と情動処理理論の統合です。PTSDが慢性化するのは、トラウマによって生じた「スタックポイント(stuck points)」——すなわち、自分・他者・世界に関する過度に否定的な思い込み——が処理を妨げているからだと考えます。

「あのとき私が〇〇していなければ」「人間は信頼できない」「世界はどこも安全ではない」——こうしたスタックポイントを特定し、証拠に基づいて検討し直すことが治療の核心です。

 

CPTのセッション構成

通常12セッション(週1〜2回)で構成されます。主要な要素は以下のとおりです。

トラウマ陳述書の作成(初期):トラウマ体験が自分の人生・信念にどう影響したかを書き出します。なお近年は、この陳述書を省略した「CPT-C(Cognitive Only)」版も標準的に用いられます。

スタックポイントの同定と検討:自動思考記録表(ABC シート)を用いて、思い込みを特定し、証拠を吟味し、よりバランスのとれた認知に書き換えていきます。

5つのテーマの整理:安全・信頼・力とコントロール・尊重・親密さという5つのテーマについて、トラウマ前後の信念の変化を整理します。

 

EMDRとCPTの比較

  EMDR CPT
理論基盤 適応的情報処理(AIP) 社会認知理論・情動処理理論
主なアプローチ 記憶処理(両側性刺激) 認知再構成
言語化・記述 少ない 多い(ワークシート中心)
宿題 少ない 多い(毎回ワークシートあり)
セッション数 比較的少ない 12セッション固定が多い
向いているケース 言語化困難、身体症状強い 認知の歪みが明確、内省志向

 

臨床家として感じること

CPTは「考え方のパターンを変える」というアプローチが非常に明確で、構造化されているため、ある種のクライエントには非常に馴染みやすい療法です。特に、「なぜ自分はこう感じるのか理解したい」という内省志向の強い方、思考と感情を言語化することが比較的得意な方に力を発揮しやすい印象があります。

一方で、毎回のワークシートへの取り組みが負担になるケース、そもそも認知的アプローチよりも身体・感覚ベースのアプローチが合うケース、また複雑なトラウマ歴を持つケースでは、EMDRの方がより柔軟に対応できることがあります。

「認知から変える」のがCPT、「記憶の処理から変える」のがEMDR——この違いは、クライエントが自分の回復にどうアプローチしたいかという希望とも深く関係します。

 

次回予告

3回にわたってEMDR・PE・CPTを見てきました。次回はいよいよ「どの療法を選ぶか」というテーマを、クライエントの視点と臨床家の視点から考えていきます。

 

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PEとは何か

 

PE(Prolonged Exposure Therapy:持続エクスポージャー療法)は、エドナ・フォア(Edna Foa)らによって開発された、認知行動療法の流れを汲むトラウマ治療法です。1990年代から大規模な研究が積み重ねられ、現在ではEMDRと並んでPTSDの最もエビデンスの高い治療法の一つとして位置づけられています。

 

PEの基本的な考え方

PEの理論的基盤は**情動処理理論(Emotional Processing Theory)**です。トラウマ後にPTSDが慢性化するのは、恐怖記憶が「未処理」のまま残り、その恐怖ネットワークが誤った信念(「世界は危険だ」「自分は無力だ」)と結びついているからだと考えます。

この恐怖ネットワークに意図的に接触し(曝露)、回避せずに十分な時間向き合うことで、自然な消去学習が起き、苦痛が低減していく——これがPEの核心です。

 

PEのセッション構成

PEは通常、週1〜2回、全8〜15セッション程度で構成されます。主な要素は以下の二つです。

現実エクスポージャー:トラウマ後に避けるようになった場所・状況・人物などに段階的に実際に近づいていく練習です。回避行動を減らすことで、「そこは本当に危険ではない」という現実の学習を促します。

イマジナル・エクスポージャー:目を閉じてトラウマ体験を現在形(「今、〇〇されています」)で詳細に語り、録音します。その音声を宿題として繰り返し聴くことで、記憶への慣れと処理が進みます。

 

EMDRとPEの比較

  EMDR PE
理論基盤 適応的情報処理(AIP) 情動処理理論(EPT)
言語化の必要性 低い(詳述不要) 高い(詳細な語りが中心)
宿題 少ない 多い(録音聴取・現実曝露)
セッション数 比較的少ない 8〜15回程度
苦痛の体験 比較的緩やか 一時的に強まることがある
適用の広さ 拡大中
PTSDを中心に確立
 

 

臨床家として感じること

PEの「詳細に語る」というプロセスは、十分に準備が整ったクライエントには強力な治療効果をもたらします。一方で、トラウマを言語化すること自体が困難なケース、解離傾向が強いケース、まだ安定化が不十分なケースでは慎重な判断が必要です。

EMDRが「言葉にしなくていい」という入口の広さを持つのに対し、PEは「言葉にすることそのものが治療の核」という構造です。どちらが優れているというより、クライエントの状態・準備性・希望に合わせて選ぶ視点が重要だと、臨床の場で繰り返し感じます。

 

次回予告

次回はCPT(認知処理療法)を取り上げます。PEとはまた異なる角度からトラウマにアプローチするこの療法と、EMDRとの比較を見ていきます。

 

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「効く」と言えるためには何が必要でしょうか

 

心理療法の効果を科学的に示すためには、無作為化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)の積み重ねが必要です。EMDRはこの点で、心理療法の中でも特に多くの検証を受けてきた治療法の一つです。

 

主要機関による推奨

現在、以下の国際的な機関がEMDRをPTSDの推奨治療法として明記しています。

  • WHO(世界保健機関):2013年のPTSD治療ガイドラインでEMDRを推奨
  • APA(アメリカ心理学会):エビデンスに基づく治療法として認定
  • ISTSS(国際トラウマティックストレス学会):強いエビデンスを持つ治療法として位置づけ
  • 英国NICE(国立医療技術評価機構):PTSDの第一選択治療の一つとして推奨
  • 日本トラウマティックストレス学会:国内でも普及・研究が進む

研究で示されていること

RCTの結果を統合したメタ分析では、EMDRはPTSDの症状(侵入症状・回避・過覚醒・認知の歪み)を有意に改善することが繰り返し示されています。

 

特に重要なのは治療効率の高さです。PEなど他のトラウマ療法と比較した研究では、EMDRはより少ないセッション数で同等以上の効果を示すという報告が複数あります(Ironson et al., 2002など)。これはクライエントにとっても、臨床現場にとっても実践的に重要な意味を持ちます。

 

どの対象に効果が示されているか

もともとPTSD治療として開発されたEMDRですが、現在では適用範囲が広がっています。

  • 単回性トラウマ(事故、災害、暴力被害など)
  • 複雑性PTSD・複数のトラウマ体験を持つケース
  • 解離症状を伴うケース(慎重な適用が必要ですが)
  • パニック障害、特定の恐怖症
  • 慢性疼痛、身体症状への応用研究
  • 子どもへの適用(TF-CBTとともに推奨される場合も)

限界と課題も正直に

一方で、研究上の課題も残っています。

心理療法の研究では「盲検化(ブラインド)」が難しいという構造的問題があります。薬物研究のように、クライエントも治療者も「何を受けているか」を知らない状態でのRCTは実施困難です。また、研究者とEMDRトレーニング機関の利益相反の問題を指摘する声もあります。

さらに前回述べたように、作用機序がまだ完全には解明されていない点も、科学的な意味での「説明力」という課題として残ります。

 

それでもEMDRが選ばれる理由

こうした限界を踏まえてもなお、EMDRが世界中の臨床現場で選ばれ続けているのは、実際に変化を体験するクライエントが多いからです。「言葉にしなくていい」(EMDRではトラウマにまつわる事象を事細かに言語化する必要がない)「身体ごと変わっていく感じがした」(認知・感情だけでなく身体にも働きかける。当然脳のレベルでも)——そうした体験の語りは、エビデンスとは別の、しかし無視できない臨床的事実です。

 

次回からは、EMDRと他のトラウマ療法との比較に入っていきます。まずはPE(持続エクスポージャー療法)を取り上げます。

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