この先の行く末~お客が男になった時~ -6ページ目

真面目

馴染みのバーで、気心知れたスタッフと世間話に花を咲かせていると、一人の女性がやって来た。




『元気だった!?』




その女性は、私を認めるなり人懐っこい笑顔で、私の側にやって来た。




満面の笑みと仕草で、久しぶりの再開を喜んだあと、私の隣に腰を下ろす。




互いに、アルコールが程良く体を巡った頃、彼女は私に言った。




『彼との事さ、真面目に考えてるの?』



唐突な彼女の投げかけに、私が答えられずにいると彼女は続けた。




『ズルいよね。イイとこ取りって感じ』




そこで、私は言葉少なに答えた。




『真面目に…。は、考えてないかな。』




私が妻子ある男性と付き合いのある事を知る彼女は、軽蔑の眼差しを向け、続ける。




『法を犯してるって、自覚はあるんだよね?』





畳みかける彼女。




今までにない、彼女の様子に戸惑いながら私は返した。



『じゃあ、真面目って何?男と女が恋に落ちるって、そもそもふしだらで自堕落な事じゃん。真面目からなんて、程遠い事じゃない』




アナタの言っている意味が分からない。とでも言うように。




かつて、今の私と同じ立場で男に恋した事のある彼女。





仲良くなり、私は彼女のそんな辛い恋の過去を知った。



『同じ鉄は踏んで欲しくない』と言う、そんな彼女なりの友愛の言葉であったのだろうか?




そう思い直してみるも、彼女の問い掛けはあてどもない方向へ。




『なんだ。結局体だけなんじゃない』



吐き捨てるように彼女は言う。




その通り。




だって、それがなければ何も始まらない。




自分の体と五感を駆使し、相手を知っていく。




こんなに楽しい事が他にあるだろうか。




でも、多分あなたには分からない。




勿体ないな…。




でも、仕方ないかもしれない。




男の肩書きにしか欲情しない彼女を見て思った。

誘い文句

その人との楽しい時間はあっという間で、気付けばもう私の家の前。




だが、何故か私とその人は押し問答をしていた。




『だから、無理!』



何度も繰り返す私に、その人が言う。




『分かった。じゃぁ、どっちか選んで…』




『行くか』
『行こうか』




楽しげに言うその人に、思わず私も声を立てて笑ってしまう。




こんな誘い文句、初めてだ。



でも、今日は行かないよ。



あなたと、ホテルへは…。

繋いだ手

『なんだ~。やっぱ、そういう事だったんすか!?』



先程まで一緒に飲んでいた、スタッフが言う。




私の手が、その人に繋がれていたからだ。



二件目のお店も閉店となり『解散』



外へ出て、それぞれの家路へと向かう際、丁度二手に分かれた。



スタッフ二名。
私と、その人…。



さぁ帰ろう。という時、その人は私の手を握ってきた。



まるで、いつもそうしているみたいに…。



その行為は、同僚に挨拶するかのように、自然でさりげなかった。




でも、その人はスタッフの揶揄には答えず、別れの言葉を口にしただけでその場を後にする。



私の手を繋いだまま。