大阪は今のままでは衰退する
堺市長選で「大阪都構想」に反対する現職候補が勝利したことで、都構想実現が今後難しくなることが予想されています。大阪市は、全国で一番「昼間と夜の人口差が大きい」政令市といわれており、この差は東京23区より大きいという統計もあります。つまり、たくさんの人が市外から通勤・通学していて、その数は70~90万人と考えられています。
つまり、これだけの人たちが大阪市に毎日長時間生活しながら、大阪市ではなく自らの居住する市に税を納めているわけです。大阪市の財政難の大きな原因の一つは、ここにあります。
しかも、東京23区に比べ大企業からの税収が少なく、かつ、おそらく日本で一番大きなインナーシティ問題(貧困層が多く市街地の都市環境が悪化する問題)を抱えています(生活保護受給者が日本一であることはよく知られています)。税収は乏しく、必要経費はやたらと多いのです。
大阪市は、本当言うと堺市だけでなく(堺市からも最低5万人以上の大阪市通勤・通学者がいる)、その他の周辺都市も含めて財政を統合し、しっかりした行政サービスを提供しなければいけないのです。それができないのであれば、あの破綻したデトロイトのようになるといっても大げさではありません。デトロイトは財政悪化と行政サービス悪化のスパイラルに陥って破綻したのです。
きちんと説明できなければ何にもならない
とはいえ、都構想をぶちあげた当の橋下さんが、このへんをしっかり説明できていないのですから、この選挙結果はある意味いたしかたないのかなとも思います。選挙戦略を間違えたとか、マスコミがとか、橋下さんはおっしゃっているようですが、そもそも都構想なんて相当前から言っていることで、この期に及んでそのメリットが堺市民に浸透していなかったこと自体を橋下さんは反省すべきでしょう。
厳しい質問で知られたかつてのホワイトハウス名物記者、ヘレン・トーマスさんが亡くなったとき、オバマ大統領は「指導者の説明責任を厳しく問うことによって、民主主義は最もよく機能するとの強い信念をトーマスさんは持っていた」ということを述べたといいます。
どんないい政策も、説明して納得されなければ意味がありません(当のオバマ大統領も今これで悩んでいます)。民主党政権も、マニフェストで掲げた政策について、その説明をおざなりにして強行しようとしました。おかげで、いい政策がみんなダメになってしまいました。
民主政治においては「人々を説得させる説明責任能力」が政策の当否を左右します。それを「ふわっとした民意が離れた」で済ませていいものかと思います。
政策立案者の多様性が説明責任能力を高める
ちなみに、昨年の衆院選に向けて大々的に開催された維新の政策討論会で、現在は安倍政権のもとで安保政策の懇談会座長などを務めている政治学者の北岡伸一氏は、「この会議の欠点は女性がいないこと」と述べました。今でも、維新の政策はもっぱら「男性らしい男性」たちによって作られているのが現状だろうと思います。自民党から比べても政策立案者内部に多様性が乏しい。橋下さんには批判的でも都構想については肯定的な学者さんたちはたくさんいるのに、そういう人たちの能力を取り込んでいる様子がないところをみても、維新の「多様性の少なさ」はみてとれます。
より多様な民意に説明責任を果たすためには、まず政策立案当事者の内部の多様性が高いことが条件であるはずでしょう。女性の、高齢者の、若者の、さまざまな職種の人々の心をつかむためには。
自民党はだいぶ多様性が高まったと思います(まだまだ不満ですが)。民主党は多様性が高いようで、実はそうでなかったので、ああなってしまったともいえます。橋下さんには本質的な反省をしていただかないと、大阪を軸とする西日本に住んでいる私も不安な限りです。