TPPについて考えるときの基本とは | 辻雅之のだいたい日刊オピニオン
TPP(環太平洋経済パートナーシップ)参加問題。これに参加すれば関税の撤廃を迫られます。それによって製造業は恩恵を受ける一方、農業などは壊滅的な打撃を受けるとされていますが、どうなのでしょうか。

・製造業の場合

関税が撤廃されれば、日本で作られた工業製品などがアメリカなどに輸出しやすくなるので、円高やアジア諸国の追い上げに苦しむ日本の製造業にとっては大きな恩恵をもたらす可能性があります。

ただし、輸出が増えて貿易収支の黒字が増加すれば、海外から獲得したドルなどが外国為替市場で売られ、ドル安・円高になるのが一般的な傾向です。結局円高が進み、もたらされた恩恵も目減りしてしまうでしょう。

もちろん、恩恵をうけている間に日本が産業構造を高度化し、成長産業に資本も労働力もシフトできれば、その恩恵を最大限に活用することができます。

問題は、その恩恵がどれだけなのか、どれくらい時間を稼げるのか、そしてどのように資本や労働力を成長産業にシフトできるのか、そもそも成長産業とは何なのか、これらを正確に捉えることができるか、という点にあるでしょう。

・農業の場合

関税の撤廃によって、日本に安い農産物がどんどん輸入されてしまい、米も含めて、日本の農業生産は壊滅的な状態になってしまう可能性があります。

しかし、それによって農地を放棄し、農家をやめる人が増えれば、放棄された農地を集約し、企業的に効率のよい、つまり生産性の高い農業が営めるようになる、これは市場原理から言えることです。

日本農業の生産性の低さは、農地の狭さによる効率性の低さ(土地生産性の低さ)にあると言われています。食料自給率160%を誇るフランスまではいかなくても、労働人口の1%で国民所得の4%ほどを生産しているイギリスのようになることは、両国がともに人件費の高い先進国であることを考えれば、不可能とはいえません。

問題は、やはり関税撤廃から農地集約までの政策がきちんと整備されるかにあります。どれくらいの農家が離農し(そして、この人たちのセーフティネットがどれくらい必要か)、どれくらいの土地が集約できるのか(住宅地や商業地などに安易に転用される危険性はないか)、しっかり判断されなければ、多くの農地が「経済的効率の悪さ」から、荒れるに任せるだけになってしまうでしょう。それは国富の毀損と同じことです。

また、イギリスやフランスは山地もなだらかで農地集約はしやすいのですが、日本は国土の3分の2が山地という状況ですから、市場原理に委ねるだけでは農地集約はそれほどたやすくはないでしょう。

TPPについての問題点は他にも山のようにあるのですが、とりあえずのところとして、「TPPで製造業救済」「TPPで農業壊滅」だけでTPP問題について考えないようにしておきたいところです。多角的な視点がここでも重要です。