辻雅之のだいたい日刊オピニオン -2ページ目
イギリスの政治歴史学者、パーキンソンが唱えた「パーキンソンの法則」というものがあります。仕事は時間を満たすまで膨張し、支出は収入に達するまで膨張するというもの。

つまり、放っておくと国家や政府、行政活動、予算、その他の組織は、どんどん肥大化していくものだ、ということです。

戦後日本の行政の肥大化こそまさにパーキンソンの法則そのもの、といったりもします。実際にそのものかどうかはわかりませんが、役割を果たした組織がその後も権限と予算を保持し続けた歴史があるのは否定できません。

たとえばいわゆる「ガソリン税」の「暫定税率」は、もともと石油危機後の5年間だけのものでした。しかし結局今にいたるまで(短期間の中断はあったものの)続いています。収入を、特に租税という形で増やしやすいもので増やすと、役割が終わっても、様々な利害関係が成立してしまい、なかなか廃止できなくなるのです。

復興のために必要な資金を「震災復興税」で賄う、というのは、ある程度必要かもしれません。しかしそれは、ライフラインや教育、医療インフラなど限定的なものにすべきでしょう。

産業の復興は国債を利用して行うべきです。税金での復興はかえって不効率です。国債で調達した復興資金資金の投下は、回収されなければなりません。その緊張感が復興を早めます。それは現に、日本を含めた第二次大戦での戦災国復興などで証明されている話です(例えば東海道新幹線の建設資金には世界銀行からの融資資金が含まれています)。

決して震災復興税を否定しているわけではありませんが、公費による復興と、金融(=国債)による復興を区別して実行することは極めて重要です。これを間違えると、東北は過度に公的部門に依存した地域になってしまう可能性があると、私は考えてます。
統一地方選の前半戦が終了。昨年の参院選と同じく、民主党の大敗に終わりました。

ただ、政令市議選では、NHKによると民主20議席減、自民4議席減、公明・共産・社民も議席減となっており、みんなの党と維新の会などの地域政党が躍進、という形なので、民主の一人負け、ということではなさそうです。

問題なのは道府県議選です。

私が執筆している段階でまだ未確定議席があるので概数だけを書いておきますが、ここでも民主40議席ほど減、自民も70議席ほど減となっており、傾向としては政令市と変わりません。

しかし、問題は候補者数です。自民の候補者数が1244人だったのに対し、民主党はわずかに571議席。民主党の地方議会での弱さは言われてきたことですが、それにしても衆議院で300議席を持つ政党としてはお粗末すぎます。無投票当選もほとんどが自民党候補者でした。

さらに知事選でも、民主党がまともに独自候補を擁立できたのは12都道県のうち北海道と三重県のみ。東京都では渡邉氏を民主党都連が支持しましたが、党をあげての支援ができなかった意味で、独自候補擁立とはいえないでしょう。

北海道・三重県・東京都以外は「与野党相乗り」とも報道されましたが、民主党が推薦した候補は一人もおらず、相乗りというよりはまったく不戦敗、終始蚊帳の外という感じになってしまいました。

なぜこうなってしまうのか。もちろん民主党政権への不信が強いからでしょう。不信感が強いから、表だけでなく、候補者すら集まらない。

しかし、自民党など既存政党も議席を減らしているなかでのこの結果ですから、民主党は「不支持率以上に負けた」ということも言えるでしょう。「風」頼りの民主党の弱さが露呈してしまった形です。

なぜこうなるのか、それは民主党組織が脆弱性にある、ということが言えるでしょう。なぜそうなるのか、いろんな理由があるのですが、これはもう民主党の体質から変えなければどうにもならないのでしょう。

組織が脆弱であると言う前に、組織を作ろうとしないのが民主党の風土のようです。いいことを言えば組織づくりなんてしなくても「無党派層」がついてきてくれると、今でも思い込んでいるような風土です。

しかし民主党にとって重要なのは、むしろ民主党に目を向けてくれた「無党派層」と呼ばれる人たちを、いかに民主党に取り込んでいくかという活動だったと思います。その方策はだいぶ前から提言してきたのでもうここでは繰り返しません。

なんとなく気分で支持してくれた人を、民主党の強固なファンにする。そうすれば苦境の時にも民主党は支えられてきたでしょうし、そういった人たちの声を政治に反映し、よりよい政権運営ができたはずです。そしてファンの中から、優秀な人材が、次代の民主党の人材として、われ先にと候補者に名乗りでてくれていたと思うのですが(そしてその人たちをみんなが支える)、そういう努力を民主党はしてこなかったわけです。

今後、民主党にそれができるか……もっとも、「無党派層」と言われる人たちが民主党から離れてしまっているなかでは、それすらできないというのが現状でしょうか。


東日本大震災のような非常事態に際して、例えば内閣総理大臣のような立場の人は、何をすべきなのでしょうか。それをいろいろと考えていました。

しかし、結局の答えは、震災の直後からあまり変わっていません。まずは「組織を作る」ということから始められるべきだ、ということです。

まずはリーダー自らに助言を与える「スタッフ組織」を作るべきでしょう。リーダーは自らの能力を過信してはなりません。情報を整理し、決断の材料を作る優秀な人たちに耳を傾けなければなりません。

この組織から生まれる様々な助言によって、さらに必要な組織が作られていくでしょう。リーダーは新たに作られた組織に目的をしっかりと伝え、その組織に授権すべき権限は授権し、組織から上がってきた情報を把握し、自らの決断が必要であれば迅速にそれをしていくことにならなければなりません。

組織を作るというが既存の組織があるではないか、と思われるかもしれません。

しかしそれは既存のフォーマルな組織です。指揮命令系統はこの既存組織のものを利用することになるでしょうが、課題の解決には限界があります。その課題解決のために、新たにインフォーマルな組織が必要になるのです。「組織を作る」という表現が分かりにくければ「人を集める」と言い換えてもいいでしょう。

行政学や経営学で扱う「組織論」というのは、組織こうあるべき、という学問ではありません。「組織こう作り、こう維持すべき」という学問です。リーダーは常に何かの時にはどのように組織を作るか、つまり「どのようなときに、どうやって、どのような人を集めるか」、ということを考えておかなければなりません。

リーダー一人で超人的なことはできないのです。非常時にリーダーが孤独になってはならないのです。リーダーがリーダーシップを発揮できる組織を作らない限りは、たとえどんなに高い能力をもったリーダーであっても、非常時にあっては何も出来ないのです。リーダーは自らの有限性を常日頃から自覚すべきなのです。
今までの「わかりやすい行政の基礎知識」はここから

漫画を読んでいたら「今日中に発送しなければならない郵便物の宛名シールをやたらと丁寧に貼ろうとして注意される人」がでてきました。前にお話ししたことに通じると思います。今日中に発送しなければ発送の意味自体ゼロになるのであれば、シール貼りの丁寧さは捨てるべきでしょう。

行政では、しばしば「すべてを完璧にしようとして失敗する」ということが見られます。例えば農産物輸入自由化を進めつつ小規模農家を保護しようとしてかえって小規模農家の競争力を低下させてしまったりであるとか、大きな幹線道路を作り交通量を増やしながら、交通の便がいいから税収増加につなげようと大規模な団地を造成、通学児童を増やして危険を増やしてしまうであるとかということです。

行政は幅広い利害関係のなかで、しかも政治と密接に関わり合いを持たなければならないので、選挙で選ばれた首長や議会の議員、様々な圧力団体、住民団体などの要求を受けます。そのため、「あれもこれもできます」的な政策を行政が示しがちです。

「あれもこれも」よくしてしまおうというのは、最適化意思決定です。全てについてパーフェクトな答えを導き出そうというものです。しかしこれが現実離れしていることはいうまでもありません。

最適化意思決定に基づいて、自分にとって定年まで有意義に働ける企業を、就職活動中の大学生が見つけることはできるでしょうか。それは無理です。40年も先のことまで見通して「この企業が最適」と判断できる人は一人もいません。どんな賢い人であっても、未来とか、情報のないこととか、不確定要素があまりに多すぎるものについてパーフェクトな判断はできないのです。

そのため、多くの就職活動中の大学生は、就職活動の結果2、3の企業から内定をもらい(今はこれも難しいようですが)そのうちどれかを選ぶ必要性に迫られて、そのうち「最善」のものを選ぶことしかできないでしょう。「あれかこれか」から選択するわけです。

「あれもこれも」ではなく、「あれかこれか」と有限な選択肢の中から選ぶことは「満足化意思決定」です。人間は「限定された合理性」(サイモン)しか持ち得ないということを前提にして、現在の状況の中でベストの選択をするというわけです。

ただ個人の意思決定ならともかく、行政の意思決定には様々な利害関係者がいます。彼らに対し行政は「こういう現状なので、こういう選択肢しかない」ということを伝えなければなりません。その「現状」をどのように認識し、どのような解決法を提示すべきなのか、次の機会ではその辺についてのお話をしていきたいと思います。

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エジプトだけでなく、ヨルダンでも起こっている革命の動き。この動きをアメリカは積極的には支持しようとはしていません。それはなぜでしょうか。アメリカは中東で反米・反イスラエル政権ができることを警戒しているのです。

ムバラク政権はイスラエルにとっての「安定装置」

1973年に勃発した第四次中東戦争は、第一次石油危機を招き、日本の高度成長が崩壊して戦後初のマイナス成長をもたらすなど、先進国に深刻な打撃を与えました。

これによって、アメリカ・イスラエルはアラブ諸国との和平への道を模索せざるを得なくなり、カーター米大統領(当時)の仲介のもと、イスラエル・エジプト平和条約が締結、エジプトはアラブ諸国としては初めてイスラエルを承認しました(1979年)。

しかしこれは他のアラブ諸国だけでなくエジプト国民からも強い反発を買い、エジプトのサダト大統領は暗殺されます(1981年)。しかし副大統領だったムバラク現大統領がすぐに大統領に就任、エジプトの混乱は避けられました。

エジプトの混乱は、イスラエル・アメリカの中東和平戦略を根本から揺るがしかねません。エジプトに新政権が生まれ、反米・反イスラエル政策をとり平和条約を破棄するようなことになれば、隣国イスラエルの安全保障は大きな脅威にさらされるからです。

アメリカ・イスラエルは、ムバラク大統領が1981年から現在まで(その独裁的な政治によって)中東和平の維持に貢献してきたことをよくわかっています。彼らがムバラク政権の退場を強く求めることができないのはそのためです。

ヨルダンでくすぶる王家への反感

イスラエルの東の隣国であるヨルダンも1994年、エジプトと同様、イスラエルと平和条約を締結しています。

「ヨルダン川西岸地区」はもともとヨルダンの領土でしたが、第三次中東戦争のときにイスラエルが占領、現在に至っています。イスラエルは今なおここに入植地を広げ続けており、以前から住んでいるパレスチナ人との間での深刻な対立は収まっていません。

しかしヨルダンは1988年にヨルダン川西岸地区を放棄したうえで94年にイスラエルと和平、いわばヨルダン川西岸地区を切り捨てたような形にしています。それができたのは長年国王の座にあったフセイン一世の権威によるところが多いと思われますが、彼は1999年に死去、現在は子のアブドゥッラー国王が国を継承しています。

ヨルダン王家は人々の信望厚い王家と言われてきました。特にアブドゥッラー国王の王妃ラーニア王妃は(その美貌と共に)進歩的な慈善活動家としても知られています。

しかし一方で、パレスチナを見捨てて自国というより王室の安全を図っている王家と考えている人も少なくはないようです(報道は少ないですが)。また西欧化政策を批判する保守派やイスラム主義者もいるようです。

特にヨルダンは第一次中東戦争のころからパレスチナ難民の流入が多く、人口の半数はパレスチナ人。同じアラブ系なのに、ヨルダン人のためにイスラエルにつき祖国を見捨てる(ように映る)王家に批判的な人々は、実は相当多かったのです。そこに、チュニジアで起こったアラブ革命が火をつけ、反政府デモに繋がっているのです。

ちなみにフセイン一世時代の1970年、ヨルダンで軍事内閣が成立し、ヨルダン領内からイスラエルへの攻撃を行うパレスチナ人組織を駆逐する作戦(「黒い九月」)が勃発しています。そのころからパレスチナ人の王家への感情はいいものではありません。

経済不安も一因か、産油国に革命は波及しないか

エジプトだけではなく、ヨルダンでもイスラエルやアメリカとの協調を進める王家が倒れたり、王家の力が弱まり反米的な政権ができると、アメリカやイスラエルの安全保障に深刻な影響を与えることになるでしょう。

石油の産出がほとんどないエジプト・ヨルダン両国は、世界同時不況の影響もあり、経済状況はよくありません。

早くから近代化政策を進めてきたはずのエジプトの一人当たりGDPはおよそ2000ドル。中国が3000ドルですから、あっという間に抜かれてしまっています。それくらい経済は停滞しており、失業率も高率です。ヨルダンの失業率も10%台。また両国とも年間10%以上のインフレに悩まされています。

同様に経済状況が悪く独裁体制が続くチュニジア(チュニジアは政権崩壊)、イエメン、スーダン同様、経済的事情の深刻さが政府・王家などへの大きな不満がエジプト・ヨルダン両国の現状を招いたといえるでしょう。

ですから、この動きがサウジやUAEなど産油国にも広がるかどうかは微妙でしょう。また、もしこれらの国で政権が崩壊したとして、国民がさらなる経済の不安定さをもたらすかもしれないイスラム主義勢力の政権を選択するかどうかも、また微妙なところです。

とはいえ、アラブ民族の国を越えた連帯性はよく知られています。アメリカはアラブのナショナリズムを刺激しないで、いかに中東を安定させるかという、難しい問題を抱えることになってしまいました。

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