仁絵の考査は他の3人から少し遅れて始まった。
霧山のボランティア先と調整をとる必要があったとかで、

具体的な行き先や内容等を聞かされたのは3人が考査クリアを決めた後だった。

「2週間ほど同じ保育園に通うスケジュールが元々入っていたので、そこにお願いしました。

慣れてから実践できる環境の方がやりやすいかと思いまして。」

水・金・土の週3日を2週間。最初の1週間は子どもたちと遊ぶことメインで読み聞かせは霧山のやるのを見て、

翌週は読み聞かせもやるように、とのことだった。
具体的にわりとちゃんと組まれているスケジュールを見せられ、きっちりしてるな、というのが最初の感想。そして次は。

「保育園ねぇ…」

不安さが声ににじみ出たのか、霧山が吹き出した。

「くすっ…子どもは苦手ですか?」

 

霧山の問いかけに、仁絵はわかりきったことを聞くなと顔をしかめた。

「得意も苦手もチビなんてほとんど関わったことねーし…

この見てくれで子どもが寄りつくわけねーじゃん。」

「おや、意外と子どもというのは見た目は気にせず中身重視の生き物ですよ。
5歳の子に『金髪=不良=怖い』なんて方程式ほぼほぼありませんから。

それは成長と共に偏見という弊害を身につけてからのものです。」

その点、ここの園の先生方は理解があって貴方の見た目は気にされませんでしたよ、とサラッとフォローしてくれるのが憎たらしい。
そもそも霧山がボランティア先に選ぶような所だ。霧山と価値観が合う施設なのだろう。

「配慮いただきどーも…」

「ただまぁ、仏頂面は少しマイナスポイントですよ。

無理にとは言いませんが、出来るだけにこやかな表情を心がけてくださいね。」

それは金髪誤魔化すより難易度高いな…と、仁絵は顔を引きつらせるのだった。
 

 

 

 

 

1週目。結論から言えば、仁絵の心配は杞憂…どころか、全く別の悩み事が発生することになった。

「仁絵にーちゃん! ご本の時間になるまでサッカーしよー!!」
「あおい君たちずるーい 仁絵おにーちゃんはあかねたちとお絵かきするのっ」
「あかねちゃんとかゆかりちゃんとかおととい最初にずーっと一緒に遊んでたじゃんっ」
「こうた君たちご本の時間の後ずーっと体操一緒にしてもらってたでしょー」

「何でもいいから順番決めてくれ…」
 

 

 

初日。

 

それなりに緊張していた仁絵を待っていたのは盛大な園児たちからのラブコールだった。
長い髪を邪魔にならないように束ねた出で立ちが女の子たちの興味を誘ったのか、自己紹介してすぐに取り囲まれて質問攻めだった。
女の子みたい!かわいい!きれい!と思いっきり地雷を踏み抜かれたが、

からかい混じりではなく純粋な好奇心からの言葉だと分かるからか許せてしまった(それは本当に良かったと自分でも思った)。
 

その後の読み聞かせの時間では、仁絵の膝の上を巡ってじゃんけんバトルが勃発し、

喧嘩になりかけて仕方なく女子と男子の勝ち残り1人ずつをあぐらをかいた右足と左足両側に乗せるはめになったし、
終わったらそのまま体操室に連れて行かれ、

側転が上手く出来ないという男の子に見本を見せろとせがまれやってあげてしまったのが運の尽き。
逆立ちできる? バク転できる? とせがまれ、絶対に真似しないという条件の下バク転をやらされてしまった。

そして1日空いた今日もさっそく仁絵の取り合い。
 

そう、仁絵はとても子どもウケが良かったのだ。
自分でも理由が分からない。霧山のアドバイス「にこやかに」、は全く実践していないし、

むしろこちらから意識して絡みに行ったりなど一ミリもしていない。
全部向こうから寄ってくるのだ。
泣いて怖がられる覚悟で臨んでいたからむしろ良かったのだが、全く心当たりがなくて初日終わり首をひねっていたら、
霧山に「言ったでしょう、意外と子どもたちは中身を見ているんですよ」と笑われた。

「中身ったって…中身にも子どもウケいい要素微塵もねぇけど…」

結局理由は分からずじまい。
仁絵は疑問を抱えたまま2日目に臨んでいた。
 

 

 

これだけ人気者なら、今日からでもいいでしょう、と無茶振りされ、読み聞かせも今日からやることになっていた。
霧山が1冊、仁絵が1冊。
実は初日に霧山が読み聞かせているところを見て、予想外の上手さに(正直なところドS眼鏡冷血漢と思っていたので)驚きを隠せなかった。
自分はあんな風には出来ない、と言えば、貴方なら一生懸命読めば大丈夫ですよ、とあっさりしたアドバイスしかくれなかった。
それを聞いて、何を根拠に、とブツブツ文句を言いながらボランティアに出掛ける前にちゃんと選んだ本の報告と下読みを真面目にやる姿を

霧山が微笑んで見守っていたことに仁絵は気付いていなかった。
 

 

 

「…それでもかぶは抜けません。」

「いつになったら抜けるのー」
「俺知ってるよ、このあとねぇ、猫が来てぇ」

霧山の時は椅子に座った霧山を囲むように座っておとなしく、でも目を輝かせながら聞いていた子どもたちだったが、
仁絵の番になった途端立ち上がり、仁絵を取り囲んで我先にと仁絵の近くを陣取った。
一言一言にリアクションがあり、黙って聞かれるよりはいいが想定とは大分違う。

「おい、あおい、オチを言うな、これから読むから。」

「あおい君怒られてるーっ」
「もー、仁絵にーちゃんが早く続き読まないからぁ」

「はいはい、わかったわかった。」

結局、10ページちょっとしかない絵本1冊の読み聞かせなのに目安時間の倍近くを使って読み終えた仁絵は
体操やサッカーや鬼ごっこよりよっぽど一仕事終えた気分でその日園を後にした。



「何だかんだ、上手くいっていたじゃないですか。」

帰り道、霧山にそう労われ、あんなんでいいのか?と仁絵は純粋に疑問を口にする。

「絡まれながら読んでただけだろ。あれは読み聞かせとは言わねぇよ。」

「そうですか? 私よりよっぽど距離が近くて、いい読み聞かせだと思いましたけどね。
貴方、自分が思っているより子どもと接するの上手ですよ。ボランティア先を保育園にして正解でした。」

そんなものだろうか。仁絵はいまいち納得できず、腑に落ちない表情を隠せない。

「…上手い下手は自分で客観的に見るのはなかなか難しいと思いますが。
楽しいですか、つまらないですか?」

主観として、と問われ、仁絵はそれにはすぐに答えられた。

「それはまぁ、面白いよ。突拍子もねぇことしてくるし、あんたの言うように偏見なく俺みたいなのに寄ってくるし。」

「…そうですか。」

霧山は微笑んでただただ頷いていた。

「それにしても、意外でした。『大きなかぶ』なんて、貴方があんな世界名作の絵本を選ぶとは。」

「あんまり自分から選んで読むような絵本じゃないだろ、ああいうのって。
あんたがわりと新しめの読み聞かせ定番絵本って感じの選んでたし、

ちらっと聞いてみたら聞いたことないってのも結構いたからな。」

傾向被んないし、ああいうのは話知っといて悪いことないだろ、と至極まっとうな意見を述べる仁絵に霧山は感心する。

「素晴らしい。ちゃんと練られてますね。この調子なら追加考査の評価は満点あげないといけないでしょうか。」

「そんな気さらさらねぇくせに、よく言うよ。」

「おや、そんなことありませんよ。」

照れ隠しをしながらも、仁絵自身も思ったよりは厄介な考査にならなくてよかった、と胸をなで下ろしていた。
これなら、何とか残りもこなせそうだ。安堵して、明日の作戦を練りながら帰路についた。
 

 

 

 

 

順調に日々ボランティア業務をこなして最終日前の夕方。
 

先ほど読み聞かせの時間が終わり、一休憩と今日のレポートの作成のために、

仁絵は自由に使っていい、と言われている応接室に引っ込んでいた。
今日は『ブレーメンの音楽隊』を選んだ。

登場キャラクターが多いのに「全部同じ声ー」と突っ込まれ、出来ないなりに声色を使い分けさせられた。
笑いを噛み殺す霧山の顔が忘れられない。

「ん、ペンがない…読み聞かせルーム置いてきたか。」

いざレポートを書こうとしたところ、エプロンの胸ポケットにさしているペンが消えていることに気付き、仁絵は読み聞かせルームに戻った。
大した物でもないし、代わりのペンも持ってはいるが、私物がどこかにいったままなのは何となく心地が悪い。

「ペン使ったりしたか…?」

仁絵がぼんやりそんなことを考えながら読み聞かせルームに戻ると、そこには1人先客がいた。
読み聞かせの時間が終わると、大体子どもたちは読書とは別の遊びをしたがるので読み聞かせルームに残っているのは珍しい。
その程度の考えで、仁絵は小さい後ろ姿に声をかけた。

「あおい。何か読んでんの?」

「えっ、ひとえにーちゃっ…な、なんでもない!!」

答えになっていない。あからさまに挙動不審で嫌な予感しかしない。
そして見えてしまったのだ。あおいが手にしているものが何か。

「あおい。それ俺のペンじゃん。」

「お、落ちてたよっ」

「ふーん。」

嘘だろう。分かりやすく目が泳いでいる。
そういえば、今日あおいは仁絵の読み聞かせの間、左膝に乗って抱きついて聞いていた。
大方、その時胸ポケットから抜き取ったのだろうが敢えて追求はしなかった。

「まぁ、なら拾ってくれてありがとな。で、そのペンで何して…って。」

予想はしていたが、なかなかに酷い。
ページいっぱいの絵の上に走るペンで書かれた無数の線。
文字の上からも、塗りつぶすように幾重にも重ねてぐるぐる書きされている。

さらに余白にはたどたどしいひらがなで「ばか」なんても書かれている。
そして極めつけの問題はその絵本だった。

「それ…明日霧山が読むって言ってたやつじゃん。」

霧山は次は何の本を読むか、予告している。
表紙を見せてあらすじを少しだけ話し、どんな本か想像させるのだと言っていた。
あおいが落書きしたその本は、霧山が明日読むと予告していた本だった。

「だって…霧山せんせー怒った…」

実は、今日読み聞かせの時間が始まる前にあおいは霧山に少し叱られていた。
時間になっても静かにせず、友達同士ではしゃいでプレイルームから持ち込んだミニカーで遊んでいたところを注意され、ミニカーを没収された。
叱られる、といっても軽く窘める程度のかわいいものだ。

あれを怒ったと言われ逆恨みされる霧山には流石に少し同情してしまう。

「で、腹いせってわけか。怖いもの知らずだねぇ。」

霧山が選んだ絵本は結構昔からある名作絵本で、仁絵も内容は知っているから分かる。
派手に落書きしているこのページは、この絵本の最も良いところ、クライマックスシーンだ。
子どもなりに考えて嫌がらせをしている辺り感心してしまう。

「霧山せんせーに言うのっ」

敵を見るような目で睨んでくるあおいに、仁絵はため息をついた。

「…俺に告げ口の趣味はねぇよ。」

「ほんとっ!?」

「その代わり、バレた時の覚悟はしとけよ。じゃ、ペンは返せ。」

「あーっ」

「あー、じゃねーよ。もう十分書いただろ。」

あおいの手からペンを取り上げると、仁絵はそのまま読み聞かせルームを出た。
この行為が後に2人の運命を左右することになったのだが、そんなことは知る由もなく…。
 

さて皆様こんばんはビックリマーク

毎度お久しぶりの白瀬ですニコ

 

36話③の後書きですDASH!

夜須斗キー、光矢カー。

これが…これが…ほんっっっっとうに難産でした!!

もうほんとに難産…っ(大事な言い訳なので二度言う←パンチ!

 

どれほどかと言えば、5回は全消しした。スパシーン。

最後まで書いて結局何はてなマークとなること数知れず。

原因は分かってます。夜須斗のデレ!!

夜須斗のデレがこんなに難しいとは思わなかった!!

仁絵はあんなにすぐにデレるのに!!

 

今回スパとしては割と小説界隈では王道の

理由は寝坊・お仕置きのお願い・数のカウントとごめんなさい、という

ド定番な内容なんですが、キー夜須斗というのがこの内容に合ってないあせる

しかも相手が雲居だからもう…あせる

夜須斗の感情の変化が上手く文に出来なくて、アップしたものを読んでももどかしい…。。

もっといろんな葛藤とか、感情の波とかあった上での最終的なあのデレなのですが、

ごめんよ、夜須斗、今の私にはこれが限界だ…ショック

でも雲居の飴が少し書けて良かったです(笑)

雲居あんまり純粋に優しいところ書けてなかった気がするので。。

 

さぁ、ようやく最後の組み合わせ、霧山/仁絵。

こちらは実は正直スパシーンよりもストーリーが大事でして。。

スパは結構サラッとしちゃうかもしれないですが、

でも中学編トリのスパですからねビックリマーク それなりのスパにはしますよビックリマーク(それなりのスパとは笑)

そして中学編締めに続きます。年内に終われたらいいけど…どうかなぁ…

 

 

 

 

話は変わって近況ですが、

SixTONESのライブDVDを見つつ、無限列車に号泣するという

分かりやすくミーハーなオタク生活を送っていますにやり

 

で、突然ですがTwitterでオタク内容専用アカウント作ろうかなと思ってます。

無闇にアカウント増やすのは管理も大変だし好きではないので

昔一回考えて流してしまっていたのですが、その結果

今はプライベート(いわゆる本アカ)とスパアカウントしかないので、

ミーハーなオタク生活を気ままに晒せる場がないのです。

プライベートではミュージカルオタクな部分しかバレていないので…。

ジャニーズはまったっぽいのはバレつつありますが。

 

ブログに書いていいよ、スパアカで言っちゃいましょう!と言ってくださる方もいらっしゃいますが、

スパアカはあくまでフォロワーさんはスパ小説書きである白瀬つばめをフォローしてくださっているのであって、

しかも鍵垢でスパと全く関係ない内容ばかり流れてきても

「オタの話ばっかしてないで続き書いてよ、せめてスパの話してよ」と思う方もいらっしゃるかもしれません。

で、ブログですが、こちらは検索で引っかかってしまうリスクがやっぱりあります。

まぁ少し書いたくらいじゃ大丈夫だとは思うのですが、

こんな界隈全く知らない、という人に望まないものを見せてしまうことになるのは心苦しいのであせる

となるとやっぱり、アカ分けしようかなぁという結論です。

ありがたいことに現在のフォロワーさんでオタ趣味にのってくださる方もいらっしゃるので

スパアカには新しいアカ作ったら詳細のせようと思います。逆はしません(笑)。

今VDT症候群落ち着いてきているので、いい機会だと思って。

これでまたモニターに向かう時間増えて再発しないように気をつけはしますが。

そんな近況でした。。

 

音譜今日のBGM音譜:白日(King Gnu)、Hysteria(SixTONES)、Go Go(BTS)

雑食にもほどがあるラインナップ(笑)。

K-POPは全く分からないのですが

BTSはちょっと前に少し聞いていて(高校時代からの友達にいろいろあって勧められて)

結局ファンレベルには至りませんでしたが、

Dynamiteの爆発的ヒットを機に昔のを聴き直すという。。

Go Goは曲調とダンスが面白いです。耳残りがすごくて当時も一番聴いてました。

日本語バージョンもありますが私は原語で聴いてます音譜

「夜須斗ぉ…はよせんと始まる前に日が暮れるで。」

「っ…」

保健室に連行された夜須斗に待っていたのは、想像以上の試練だった。
雲居はベッドに腰掛けるなりこう言い放ったのだ。

「履いてるもん全部下ろして膝に自分で乗って『お仕置きお願いします』って言い。」

「なぁっ…!?」

 

あまりのことに絶句している夜須斗を、雲居は真正面から断罪する。

「素直な態度を取る、ってことを叩き込まなあかんって痛感したからなぁ。」

 

「無理に決まってっ…」

 

「ほんならそのまま突っ立ってろや。」

「プライドをへし折る」と断言されたからにはろくでもないことをさせられるとは覚悟していたが、それにしたって…だ。
よりにもよって雲居相手にやれというのが酷すぎる。
指示を受けてから十数分。夜須斗は全く手も足も動かず膠着状態が続いていた。
夜須斗が黙って立っていると、

雲居ははぁ、と1つ息をついて立ち上がり、デスクから分厚いファイルを手に取ってまたベッドに腰掛けた。

「言うとくけど、出来へんならお仕置き始まらんし、

お仕置き受けへんかったら明日の考査受けれる権利はないからな。タイムリミットは…3時までにしとこか。」

それだけ言うと、ファイルを開き書類を読み始めてしまった。
もうこれ以上言うことはない、と暗に突き放され、夜須斗はいよいよ困ってしまった。
いつもは短気なくせに、こんな時だけ頑固で気が長い…と夜須斗は心の中で悪態をつく。
いっそ痺れを切らして無理矢理膝に乗せてくれたらどんなに楽か。
チラリと壁にかかった時計に目をやれば、時刻は午後2時になろうとしている。
ここから1時間…粘ったところで、今日の雲居は折れてくれそうにはない。
これが本当に最後のチャンスだろう。頭では分かっていても、

足は床に釘付けされたように動かないし、手は体に張り付いてしまったように離れない。

「あぁ、もう…。」

無情に時間が進んでいく。

休日の学校、しかも校舎の隅にある保健室にはほとんど物音はなくて、無言の空気がただただ流れるだけ。
時刻は午後2時30分。何もせずに30分も経ってしまった。

「夜須斗。」

その時、突然雲居が全く手元の書類から顔を上げずに呟くように言った。

「また逃げるん?」

「っ!!」

さっきはあんなに怒鳴ってきたくせに、今度は穏やかに突き刺さる言葉を容赦なく投げてくる。
風丘はもちろんだが、普段は熱血漢キャラの雲居も、隙の見えなさと全て見透かされているような瞬間はやっぱりあって、
普段あまり見せない顔だからこそたまに、本当にたまに垣間見えるそれはむしろ風丘よりも怖いかもしれない。
今朝から何度逃げたか。今まで何度逃げてきたか。
具体的には知らなくても、

今まで夜須斗がいろんなことから冷ややかに目を背け逃げてきたことを知っているかのような問いかけに聞こえて、耳が痛い。

「…ぅ…」

緩く息を吐き出し、意を決して手をベルトにかけた。
手が震えて、ベルトを緩める、毎日のようにやっている動作それだけでかなりもたついた。
あとは下ろすだけ、の状態にして、ゆっくり雲居の元に歩を進める。
雲居の前に立つと、雲居は顔を上げて手にしていたファイルを背後に投げて膝を空けた。
夜須斗はふぅー、と息を吐くと、目を瞑り、履いているものを下着毎ずらして雲居の膝に乗った。
ここまでだって普段の夜須斗からすれば最上級の出来だ。

だがまだ終わりではない。ゆっくりと口を開く。
果たして声が出るのか。いっそ出なくなってればいいのに、なんて間抜けな考えまでもが脳裏に浮かんだが、

果たしてそれはしっかり音になっていた。

「お…しおき…おねがい…します…」

しかし音にはなっていたもののあまりにもか細い声すぎて、

自分でも言っている内容はさておいてなんだその女々しい声はと冷静にうんざりした。
聞こえない、言い直せ、と言われるだろうとビクビクしていたら、思いも寄らぬ展開が起きた。

「っ…!?」

雲居が優しい手つきで頭を撫でてきたのだ。
何も言わなかったが、まるでよく出来た、と褒めるように。
何だそれは。そんなこと普段全くしないくせに。

夜須斗がプチパニックを起こしていると、そんなことはお構いなしに唐突にお仕置きが始まった。

バチィィィンッ

「うぐっ…」

痛い。相変わらずの馬鹿力。きっと手形がついたであろう強烈な1発を皮切りに、容赦ない平手の雨が降ってきた。

バチィンッ バチィンッ バシィンッ バチィンッ バチィィンッ

「っあっ! ぁっ…う゛ぁっ…ってぇっ」

バチィンッ バチィンッ バシィンッ バチィンッ バチィィンッ

「いった! う゛っ…うぁぁっ…!!」

流石にここまできたら逃げようなんて気はさらさらないが、それにしたっていつも思うが痛すぎる。

平手の威力が風丘の1.5倍はある気がする。
そして少しでも足をばたつかせようものなら。

バチィンッバチィンッバチィンッ

「ってぇぇ!」

右・左・真ん中と、お尻の下の方を狙った連打に泣かされた。
説教はなく、淡々と叩かれる。

何かすれば終わる、という雰囲気でもないと感じ取った夜須斗は悲鳴をあげつつただひたすら耐えていた。

…………。

 

「…さて。」

お尻全体が赤く染まって、夜須斗の目尻から涙が止めどなくこぼれ落ちるようになった頃。
唐突に平手が止まり、今まで無言だった雲居が口を開いた。

「寝坊と逃亡のお仕置きはこんなもんやろ。きっちり100やで。」

「っ…ふぅっ…うぅっ…」

もうそんなに叩かれたのか、と嗚咽をかみ殺すために肩で息をしながらぼんやりとそんなことを考えていると、不意に雲居から問われた。

「夜須斗。ここ来てからお仕置き始められるまでどれぐらいかかった?」

「っふ…さん…じゅっぷん…」

時計を見たから覚えている。夜須斗が答えると、雲居はせやな、と相づちを打つ。

「ほんまは言われたらすぐ出来るようにならなあかんで。

プライドは必要なもんやけど、無駄なプライドは自分の首絞める。」

「う…」

「俺が、出来ひんならそれまでやって、その場で締め切ってたらどないするつもりやったん?
今だって、こんなに時間かかったんやったらやっぱりアカンって切り捨てることも出来るねんで。」

意地悪な質問だ。そんなことするつもりないくせに。

でも正論なのも事実。そもそもそうはならないだろう、なんて思ってしまうのは甘えだ。

雲居だからこんなにチャンスをくれているのであって、普通だったらもうとっくにアウトだったのは自分でもよく分かっている。
夜須斗が何も言えずにいると、

ま、夜須斗を知っとる俺からすると、夜須斗にしてはえらい頑張ったと思うけどな、と突然の飴を投下してきた。

「今回は素直にならんと逃げ続けたお仕置きでもあるからな。
最後に言葉飲み込まんと素直に口に出す練習しとこか。」

「え…」

飴を投下された直後故、なんだかとてつもなく嫌な予感がする。

大体にして自分に対する飴と鞭の割合1対9くらいの男なのだと夜須斗は常日頃から思っている。
夜須斗が伏せていた顔を上げると、雲居が足を組み、ぐっとお尻が持ち上がった。

「行動できるまでにかかった時間大体30分やから仕上げ30発。
1発ごとに数えてそのあと『ごめんなさい』や。ええな?」

「そんなのっ…」

 

どこまでメンタル虐めてくる気だ。濡れた瞳で雲居を見やるが、全く態勢に変化はなかった。

「出来ひんかったらノーカンになるまでやで。はよ終わらせたかったら頑張りや。」

バッチィィィンッ

「あ゛あぁっ!? ちょっ…」

「ほら、とっとと始めろや。」

バッチィィィンッ

「無理っ…こんなっ…」

ここへ来て平手の威力を上げてきた。足も組まれているというのに。
夜須斗の絞り出すような声を、雲居は一蹴した。

「無理なら終わらんなぁ。」

バチィィンッ バチィィンッ バチィィンッ

「っぐっ…ふぅっ……っとにまっ…」

バッチィィィンッ

「っぁぁっ…いっ…いちっ…」

ようやくカウントを言うと、続いていた連打が止んだ。

「数だけやとカウントせぇへんで。」

言わないで、ノーカンにしてまた平手を落とすことも出来るところを、一旦止めてわざわざ言ってくれる。
無情な、でも甘やかしている忠告であるのだが、分かってはいるのだがそれどころではない。

「ぅぅ…ぁっ…」

 

音が出てこない。喉が拒否反応を起こしてるのではないかと錯覚するくらい上手くしゃべれない。

何とか平手が落ちてくる前に言わないと。必死で息を整えて、口を開く。

 

「ごっ…ごめん…なさい…」

振り絞った謝罪。だがまだ1回だ。あと29回こなさないとならないなんて、なんて地獄だろうか。

大体、メンタルもきているが痛みだって相当だ。

ここでノーカンで何度も叩かれたらもう羞恥よりも先に痛みに耐えられなくなる。
だったらもう…

バチィンッ バチィンッ バチィンッ バチィンッ

「っあっ…2、ご…ごめんなさいっ…う゛っ…3、ごめんっ…なさいっ 
ぅぇっ…4、ごめんなさっ くぅっ…5、ごめん、なさいっ…」

1度言ってしまったのだから、もう何回言おうが同じだ、と言い聞かせ、
夜須斗はカウントと謝罪を口にした。

…バチィンッ バチィンッ バチィンッ…

「もっ…15っ…ごめんなさいぃっ…ふぇっ…16ぅっ…ごめんなさっ…うぁっっ…17ぁっ、ごめんなさいっ…」

最初は台詞のように口にしていた謝罪の言葉が、何度も繰り返す内、夜須斗の中で感情の乗った言葉に変化していく。
連絡しなくてごめんなさい、逃げてごめんなさい、意地張ってごめんなさい…
悔しいが、心の中からそんな気持ちが湧き上がってきて、気付けば泣きながら「ごめんなさい」と言っていた。

バッチィィィィンッ

「30っっっ ごめんなさっ…ごめんなさいっ…」

「よっしゃ! ちゃんと出来るやんっ」

最後のカウントと「ごめんなさい」を言った時。
夜須斗は抱き起こされて、さっきまでとは打って変わった眩しいくらいの笑顔の雲居と目が合った。
そして、そのまま抱きしめられ、頭を撫でられた。

「!? ちょっ…何してっ…」

「ええやんか。どうせ変態呼ばわりされとるんやから同じやろ。」

「何それっ…」

雲居は優しく頭を撫で続けながら、普段からは考えられないくらいの優しい声音で言った。

「今回はほんま頑張ったなぁ。こんなちゃんと出来るとは思わんかったわ。ほんま偉いで。」

こそばゆくて恥ずかしい。なんたって雲居は普段飴と鞭の割合1対9の男だ。
ただでさえ羞恥と泣いたのとで既に赤い耳と頬が限界まで赤くなるのを感じ、

誤魔化すように顔を覗き込んでくる雲居から顔を背ける。

「尻叩かれて褒められても嬉しくないっ…」

「ええやん。これで内部進学も決まったんやし。」

雲居はどこ吹く風でまた頭を撫でてくる。
不思議なもので嫌な気はしないから、夜須斗はその手は払いのけなかったが、出てくるのはやっぱりいつもの捻くれた言葉。

「まだ考査そのものはやってないじゃん。」

「アホ。ただの掃除やで。そんなん落ちる奴どうかしてるやろ。

安心せぇ。明日は朝からちゃんと家に迎えに行ったるわ。もう勝確の考査やで。素直に喜び。」

「そんなの…」

普段ならウザい、そんなことしなくてもいい、やめろ、と言うところだ。
今もそれが頭に浮かんだが、珍しく今日は別の言葉も頭に浮かんだ。
あー、うー、と逡巡して、選び取ったのは後者のこの言葉。

「…ありがと。いろいろ。」

呟いた感謝の言葉はしっかり雲居の耳に届いたのか、優しく微笑んでまた抱きしめられた。
あぁ、これは明日以降もうしばらく飴はないな、そんな可愛げのない思考は相変わらずながら、

夜須斗はされるがまま、雲居の肩に顔を埋め、まだ流れる涙は白衣に染みこんでいった。
 

「うわ、終わった…」

時刻は朝9時3分。

自室のベッドの上で開いた携帯の画面に表示された時計を見て、夜須斗は天を仰いだ。
 

 

 

今日は夜須斗の内部進学のための追加課題、保健室の大掃除の実施日。
集合時間は朝9時。つまりは既に遅刻決定。

「始まる前から終わってるし…」

別に夜須斗だってさすがにこんな大事な日、最初から寝坊するつもりだったわけじゃない。
イヤイヤながらもある程度は真面目にこなして、合格点をもらうつもりだった。
だったのだが…。

「あいつのせいじゃん…。」

ただ、昨夜、今日監督役を務める雲居から

「明日は絶対遅刻したからアカンで」

「考査に遅れたら終わりやからな」

「アラームかけたか? あるんやったら目覚ましもダブルでかけろや」

「寝坊せんように今日は早目に寝とけ」
と、しつこいくらいに送られてくる過保護なメッセージに、

そんなに信用されてないのか、と少しカチンときてしまって。
くだらない反抗心とプライドから、

わざと濃いめのブラックコーヒーを飲んで深夜に放送されている面白くもないB級映画をボーッと見て、
それから携帯の電源を落として眠りについた。

「って…俺のせいか。」

思い返せばあまりにも子供っぽすぎる反抗の仕方に、

自虐的な笑みをこぼしながら、夜須斗はのそりとベッドから起き上がった。
ハッと目が覚めて電源を入れた携帯画面に表示されたのが冒頭の時刻。

そして次いで目に入ったのが既に3件も入っている着信履歴。

「ヤッバ…」

そうこうしている内にまた携帯に着信が入る。
出られるわけがない。出れば開口一番怒鳴りつけられ延々と説教されるだろうし、
その後素直に学校に行こうものなら最後、地獄を見ることは火を見るよりも明らかだ。

…だが、行かなければ内部進学の未来はなくなる。

「…もういいか。」

こういう時、自分の性格は残念だと自分で思う。プライドが高い上に、執着できないのだ。いろいろなことに。
学業だって、部活だって、出来るようになりたい、上手くなりたいという情熱は全くといって湧かなかった。
勉強は人より出来たけれど、それだってそれを欲して努力した結果では全くない。

出来なければ面倒ごとが増えるだけ。勉強が出来れば教師に口うるさく言われる場面が減るから、

頑張らない範囲で「勉強出来る奴」のラインをキープしていただけだ。

だからこそ「意欲/関心」が常に最低ランク。だって意欲も関心もまるでないのだから当たり前だ。
部活だって中学は強制入部だから入らされただけで、

ある程度参加してるのはサボりすぎれば風丘に文字通り痛い目に遭わされるから。
 

そうしていい加減に生活してきたツケがこれだ。

客観的に見れば今日ほど肝心な日はないだろう、というところですらいい加減さが露呈して、
しかも何とか取り返そうと頑張る気も起きない。

必死になっている自分の図を想像するとたまらなくプライドが刺激されてしまう。
発端が浅はかな反抗心だったのがまた情けない。

「…面倒くさい。」

雲居は夜須斗の家を知っている。このまま着信を無視し続ければ絶対に乗り込んでくる。
それこそ更に面倒くさい。この状況下で、あいつと二人きりになりたくない。
夜須斗は手早く身支度を済ませると、財布と携帯等最低限の荷物を持って家を出た。
両親は仕事、祖父は仲間と手合わせする、と朝っぱらから少し遠くの道場に出掛けている。
何処に行くか誰にも聞かれないし、雲居が押しかけてもとりあえず家に誰もいない状況になるのは好都合だった。



「諸々なんて説明するかな…」

ボーッと歩きながら、夜須斗は頭を悩ませていた。
そもそも内部進学についての現状を夜須斗は家族の誰にも言っていない。
惣一たちだって、さすがに土曜日一日学校に行って保健室の掃除をするだけの課題をクリアできないだなんて思っていないだろう。

「合わせる顔ねぇな…」

星ヶ原高は、内部進学できなかった者に外部受験生に混じって受験する資格は与えられない。

それは、内部進学考査を通過できなかった時点で入学できる資質はないと見なされるからだ、と
これはどちらかというと努力しなければならない惣一とつばめに発破をかける意味で風丘が放った一言だが、

それに今追い詰められている。

「あぁ…もう…」

内部進学自体に執着はない。別に、普通に外部受験すれば1つや2つ適当な高校に受かるくらいはなんとかなるだろう。
ただ1つ執着があるとすれば、「今いる仲間と同じ学校に行く」、ということだ。
惣一、つばめ、洲矢、仁絵はもちろん、何だかんだ上手くやってきたクラスメイト、

そして今まで自分が見てきた中で初めてちょっと面白い教師だと思った風丘。
普通の中学だったら卒業で手放さなければならないそれらが、星ヶ原中高ならあと3年手元に残せる。その環境だけは。

「惜しいよなぁ…」

でもそれを素直に誰かに言うのはつまらないプライドが邪魔をして。
夜須斗の呟きは誰に聞かれることもなく空気に溶けて消えていった。



結局小一時間ふらふら彷徨った末、夜須斗は学校にたどり着いていた。
道中雲居に出くわさなかったのは奇跡に近い。
しかしそのまま保健室に行く気にはなれず、

夜須斗は土曜日でただでさえ人気のない裏庭の芝生の上、更に人目につかない茂みの陰に寝転んだ。

「どうするつもりなんだか、俺は…。」

学校に来たはいいが、自分がどうしたかったのか、自分でもよく分からない。
雲居に許してくれ、チャンスをくれ、と泣きつくのか?

…そんなことがプライドもなく出来るなら朝の時点で遅刻確定していても登校していた。
じゃあ綺麗さっぱり諦めて、切り替えて外部受験しますと宣言するのか?

…そのつもりならわざわざ学校に来ないで、今も一定に鳴り続ける携帯をとればいい話だ。

「…」

♪♪♪~~~♪♪~~~♪

取ればいいだろう。取れば終わる。朝から一人で勝手に繰り広げたこの茶番劇。くだらない葛藤。…諸々全てが、終わる。

取って一言言うだけだ。取れば…
見つめる画面には朝から何度となく着信履歴で見た名前。
着信メロディは好きな音楽のはずなのに耳障りで家を出る前に切ってしまったから耳に入るのは断続的なバイブ音だけ。
無視するならバイブも切ればいいものを、自分の行動が中途半端でそれすら未練がましくて自分で自分がよく分からない。
そうこうしている内にバイブ音が止んだ。手に伝わる震えがなくなって、何となく空しさに襲われる。

「なーにやってんだか…」

先ほどからの幾度とない呟きと同じく空気に溶ける…はずだったが、今回は違った。

「ほんまに何やってんねん。」

「…っ!」

耳に入ったその声に、夜須斗は咄嗟に身を起こして逃げを打とうとした。逃げてどうするつもりだったかなんて分からない。
だがこの状況でおとなしくこの人物と正対できるほど夜須斗とて肝が据わってない。

こういうときのこいつは苦手だ。とにかく距離を取りたかった。身も、心も。
しかし、結果としてそれは叶わなかった。

「つっ…」

「何逃げようとしてるん? おんどれ朝からどういうつもりや。」

気づけば芝生の上に逆戻りしていた。雲居に押し倒され、上からのしかかられている。なんだこの状況は。
体勢を俯瞰的に見れば酷く滑稽で、なのに目の前の雲居からは痛いくらいの怒気が伝わってきて、

そのアンバランスさに非常に居心地が悪かった。

「…ちょっと。何やってんの、変態。どいてよ。俺にこっちのシュミないんだけど。」

「そんなこと聞いてへんやろ。質問に答え。」

「これが生徒に質問する体勢?」

「答えたらとりあえずはどいたる。」

「…」

「はよ答え言うとるやろ!! 何でこんなことになっとんねん!」

口を噤む夜須斗に、雲居が真っ直ぐに怒鳴ってきた。
あぁ、だからこいつは苦手だと思う。

プライドだけは無駄に高くて、のらりくらりと執着ないフリをして生活してきた自分にとっては、

その格好を保ったまま相対するのがキツいのだ。引っ張られてしまいそうで。

「別に…っただ寝坊しただけっ…」

顔を背けて吐き捨てる。あまりにも顔をそらしすぎて芝生が口に入って気持ち悪いが、雲居の瞳を見るよりはいい。
が、それすら雲居は許してくれなかった。はぁ、とため息をついたかと思えば、顎を無理矢理掴まれ、正面を向かされる。

「せやったら『寝坊しましたごめんなさい』言うておとなしく叱られに来ればよかった話やろ!」

「…あんたが考査に遅れたら終わりって言ったんじゃん。
終わってんのにわざわざ叱られるためだけに行くなんてバカみたいでしょ。」

「…それで着信もメールも全無視、家から逃亡か? 人がどれだけ心配した思てんねん!」

「頼んでないよそんなこと。あんたただの監督役だし。昨日のメールといい、押しつけがましいんだけど。」

視線がふらふら彷徨う。目を合わせたくない。雲居の真っ直ぐな目が痛い。

「夜須斗ぉ……さっきから何無理して憎まれ口叩いてるん。」

雲居が呆れたような、低い声音で言い放つ。

無理して、というのがまた何か心をざわつかせて、

顔は動かせないけれど、それでもいてもたってもいられなくて、夜須斗は視線だけをどうにかそらそうとした。

「っ…何それ意味わかんない。」

「…質問変えるで。」

「早くどいて。さっきの質問答えたじゃん。」

「質問1つとは言うてへんやろ。」

 

いけしゃあしゃあと言い放つ雲居に、夜須斗は心の中で舌打ちする。

「…変態な上に横暴かよ。」

「お前、惣一たちと同じ学校行きたないん? はーくん担任のクラスになりたないん?」

「っ…」

核心を突く質問。
そんなド直球に聞かれて、俺が素直に答えられると思っているのか。

だったらこいつは俺のことを何も分かっていない。
胸を無遠慮に抉られた気がした。

瞬間、むかついて、むかついて、渾身の力を込めて夜須斗はのしかかっている雲居を突き飛ばした。

「行きたいなりたいって言えば叶えてくれるわけ!? もう手遅れだろ!!!」

突き飛ばされた雲居は、はぁーと何度目か分からないため息をついて、やっとか、と呟いた。

「最初からそれくらい言えや。変に達観した態度とるから俺に怒鳴られるんやで。」

「それはあんたが短気なだけ…ってか何。今更…」

「今日は急患が入って考査は明日に延期や。」

「…は?」

「教頭と学年主任にはそう報告して、保健室の使用許可追加で明日ももらっといたわ。

朝来ぇへんかった時点でどうせお前のことやからプライド邪魔してすぐには尻尾掴ませへんやろ思ったしな。」

「何余計なお世話…」

「内部進学したいんやろ? 俺の機転に感謝せぇ。」

「そんなこと一言も…っ っていうか誰に感謝しろだって?」

一見普段の雲居の調子に戻ってきたようで、夜須斗も普段の調子で今度は心の底から憎まれ口を叩いた。
眉間に皺を寄せて睨んでやったら、雲居はおーおー、今のうちにせいぜいそんな顔しとけ、と余裕をかましてくる。

「…さ、急患の治療するで。」

 

唐突な言葉に、夜須斗が目を見開く。それは嘘も方便というやつではなかったのか。

「は…何それ、急患ってマジなの?」

 

夜須斗が聞き返すと、雲居はいたって真面目に言い切った。

「おぉ、マジやで。自分の願望一ミリも素直に言えない困った症状が出とる。
自分で自分を破滅に追い込むエベレスト級の高さのプライドへし折る治療を今すぐせんとなぁ。」

あぁ、ここでこそ逃げを打つべきだった、と夜須斗はいつの間にか雲居にがっしり掴まれた己の右腕を見つめて唇を噛んだ。

皆様お元気でお過ごしでしょうか? 白瀬ですニコ

 

さてさて、相も変わらずいろいろ予定は崩れてしまいましたが、

何とかメガネ教師 つばめ編、アップできました音譜

懐かしの「お膝で勉強」スタイル。受験生時代、海保がやられたアレ。

というわけで海保もちょろっと登場。

ちなみに海保はあんまり自分のスパ経験を恥ずかしがってはいないので

普通に話します(笑)。

いつまでも子供っぽい…というか叱られる側の目線でいられる子です。

風丘とつばめのスパシーンは安定(?)笑、ですね。

いや、でも膝の上で暗唱テストはほんと嫌ですよね…汗

書いておきながら、つばめも作中で言ってますが言えるものも言えなくなりそうぐすん

 

ところで受験生時代のあのお話、メディスパ様にアップした当時、

反響をものすごくいただいたのを鮮明に覚えてます。公開コメントも非公開感想も

当時比…いや、今に至る中でもトップ5に入るお話。

今回再登場させるにあたって参考にするため前データを引っ張り出して、

ついでに書き始めたのいつだ?と調べたら9年前でした← リアル受験生時代…。アセアセ

当時の私の願望も入ってたからリアルに書けて好評だったのでしょうか(笑)あせる

すごくたくさん感想をいただいたのでしばらくやる気とプレッシャーで

次作、いろいろ手つけて同時進行で書きながら悩みまくったのもいい思い出。

 

今は感想に対するレスポンスが気まぐれすぎて本当に申し訳ないです。。。

頂いたものは嬉しくて何度も読み返して、何かのきっかけで消えると怖いので

コピペして取っておくのは今も昔も変わりません。

ちょっとした感想でも不満でも、頂けたらとっても嬉しいですし参考にさせていただくので

よろしければ!…あ、もちろん読んでいただけるだけで既に100%幸せなのですがアップ

 

次回は夜須斗編。テーマは「ベタなスパ」。

実は超久しぶりな夜須斗キー。

…ということで、賢い夜須斗ですがあえてベッタベタな理由でお仕置きされてもらいました。

久々すぎてスパシーン超手こずってるのですが頑張ります。。

 

私生活はコロナにかき乱されてほぼほぼ平日は仕事しかしてないですが、

私がジャニーズにはまったことを知った妹が平日ボロボロの私を励ますためか(?)、

帰り道の書店で発売される度にアイドル誌を買ってきてくれるようになりました。

最初は私が頼んだものだけを買ってきてくれてたのが、

最近自主的にくれるようになったので部屋が雑誌ですごいことになってます(笑)

アイドル誌って今まで読んだことなかったんですが、

今まで私がよく読んでた若手俳優がよく載ってる作品に即したインタビュー中心の舞台誌と違って

企画が凝ってたり、質問内容が独特だったりして読んでて新鮮でとても楽しいです音譜

週末少しずつしか読めないですが最近の息抜きですニコ

 

音譜今日のBGM音譜:断捨離彼氏(ZOC)、ヒアルロンリーガール(ZOC)、ノーマター・マター(KAT-TUN)

↑質問箱に普段聴く音楽、といった系統の質問をいくつか頂いていたのですが

雑食過ぎるので普通のブログを書いてる時に流した音楽を書くことに(続くか分かりませんがあせる)。

ZOCは以前友達がカラオケで『断捨離彼氏』を歌ってて耳に残ってダウンロードしました。

結構パンチ効いてます(笑)。『ヒアルロンリーガール』は最新曲かな。

PVが独特で面白いので貼っておきます。

あとまぁ、KAT-TUNはもう恒常的に聴いてます(笑)。『ノーマター・マター』はデビュー前からの曲。

KAT-TUNにしては明るくポップな曲調です♪