さて皆様こんばんはビックリマーク

毎度お久しぶりの白瀬ですニコ

 

36話③の後書きですDASH!

夜須斗キー、光矢カー。

これが…これが…ほんっっっっとうに難産でした!!

もうほんとに難産…っ(大事な言い訳なので二度言う←パンチ!

 

どれほどかと言えば、5回は全消しした。スパシーン。

最後まで書いて結局何はてなマークとなること数知れず。

原因は分かってます。夜須斗のデレ!!

夜須斗のデレがこんなに難しいとは思わなかった!!

仁絵はあんなにすぐにデレるのに!!

 

今回スパとしては割と小説界隈では王道の

理由は寝坊・お仕置きのお願い・数のカウントとごめんなさい、という

ド定番な内容なんですが、キー夜須斗というのがこの内容に合ってないあせる

しかも相手が雲居だからもう…あせる

夜須斗の感情の変化が上手く文に出来なくて、アップしたものを読んでももどかしい…。。

もっといろんな葛藤とか、感情の波とかあった上での最終的なあのデレなのですが、

ごめんよ、夜須斗、今の私にはこれが限界だ…ショック

でも雲居の飴が少し書けて良かったです(笑)

雲居あんまり純粋に優しいところ書けてなかった気がするので。。

 

さぁ、ようやく最後の組み合わせ、霧山/仁絵。

こちらは実は正直スパシーンよりもストーリーが大事でして。。

スパは結構サラッとしちゃうかもしれないですが、

でも中学編トリのスパですからねビックリマーク それなりのスパにはしますよビックリマーク(それなりのスパとは笑)

そして中学編締めに続きます。年内に終われたらいいけど…どうかなぁ…

 

 

 

 

話は変わって近況ですが、

SixTONESのライブDVDを見つつ、無限列車に号泣するという

分かりやすくミーハーなオタク生活を送っていますにやり

 

で、突然ですがTwitterでオタク内容専用アカウント作ろうかなと思ってます。

無闇にアカウント増やすのは管理も大変だし好きではないので

昔一回考えて流してしまっていたのですが、その結果

今はプライベート(いわゆる本アカ)とスパアカウントしかないので、

ミーハーなオタク生活を気ままに晒せる場がないのです。

プライベートではミュージカルオタクな部分しかバレていないので…。

ジャニーズはまったっぽいのはバレつつありますが。

 

ブログに書いていいよ、スパアカで言っちゃいましょう!と言ってくださる方もいらっしゃいますが、

スパアカはあくまでフォロワーさんはスパ小説書きである白瀬つばめをフォローしてくださっているのであって、

しかも鍵垢でスパと全く関係ない内容ばかり流れてきても

「オタの話ばっかしてないで続き書いてよ、せめてスパの話してよ」と思う方もいらっしゃるかもしれません。

で、ブログですが、こちらは検索で引っかかってしまうリスクがやっぱりあります。

まぁ少し書いたくらいじゃ大丈夫だとは思うのですが、

こんな界隈全く知らない、という人に望まないものを見せてしまうことになるのは心苦しいのであせる

となるとやっぱり、アカ分けしようかなぁという結論です。

ありがたいことに現在のフォロワーさんでオタ趣味にのってくださる方もいらっしゃるので

スパアカには新しいアカ作ったら詳細のせようと思います。逆はしません(笑)。

今VDT症候群落ち着いてきているので、いい機会だと思って。

これでまたモニターに向かう時間増えて再発しないように気をつけはしますが。

そんな近況でした。。

 

音譜今日のBGM音譜:白日(King Gnu)、Hysteria(SixTONES)、Go Go(BTS)

雑食にもほどがあるラインナップ(笑)。

K-POPは全く分からないのですが

BTSはちょっと前に少し聞いていて(高校時代からの友達にいろいろあって勧められて)

結局ファンレベルには至りませんでしたが、

Dynamiteの爆発的ヒットを機に昔のを聴き直すという。。

Go Goは曲調とダンスが面白いです。耳残りがすごくて当時も一番聴いてました。

日本語バージョンもありますが私は原語で聴いてます音譜

「夜須斗ぉ…はよせんと始まる前に日が暮れるで。」

「っ…」

保健室に連行された夜須斗に待っていたのは、想像以上の試練だった。
雲居はベッドに腰掛けるなりこう言い放ったのだ。

「履いてるもん全部下ろして膝に自分で乗って『お仕置きお願いします』って言い。」

「なぁっ…!?」

 

あまりのことに絶句している夜須斗を、雲居は真正面から断罪する。

「素直な態度を取る、ってことを叩き込まなあかんって痛感したからなぁ。」

 

「無理に決まってっ…」

 

「ほんならそのまま突っ立ってろや。」

「プライドをへし折る」と断言されたからにはろくでもないことをさせられるとは覚悟していたが、それにしたって…だ。
よりにもよって雲居相手にやれというのが酷すぎる。
指示を受けてから十数分。夜須斗は全く手も足も動かず膠着状態が続いていた。
夜須斗が黙って立っていると、

雲居ははぁ、と1つ息をついて立ち上がり、デスクから分厚いファイルを手に取ってまたベッドに腰掛けた。

「言うとくけど、出来へんならお仕置き始まらんし、

お仕置き受けへんかったら明日の考査受けれる権利はないからな。タイムリミットは…3時までにしとこか。」

それだけ言うと、ファイルを開き書類を読み始めてしまった。
もうこれ以上言うことはない、と暗に突き放され、夜須斗はいよいよ困ってしまった。
いつもは短気なくせに、こんな時だけ頑固で気が長い…と夜須斗は心の中で悪態をつく。
いっそ痺れを切らして無理矢理膝に乗せてくれたらどんなに楽か。
チラリと壁にかかった時計に目をやれば、時刻は午後2時になろうとしている。
ここから1時間…粘ったところで、今日の雲居は折れてくれそうにはない。
これが本当に最後のチャンスだろう。頭では分かっていても、

足は床に釘付けされたように動かないし、手は体に張り付いてしまったように離れない。

「あぁ、もう…。」

無情に時間が進んでいく。

休日の学校、しかも校舎の隅にある保健室にはほとんど物音はなくて、無言の空気がただただ流れるだけ。
時刻は午後2時30分。何もせずに30分も経ってしまった。

「夜須斗。」

その時、突然雲居が全く手元の書類から顔を上げずに呟くように言った。

「また逃げるん?」

「っ!!」

さっきはあんなに怒鳴ってきたくせに、今度は穏やかに突き刺さる言葉を容赦なく投げてくる。
風丘はもちろんだが、普段は熱血漢キャラの雲居も、隙の見えなさと全て見透かされているような瞬間はやっぱりあって、
普段あまり見せない顔だからこそたまに、本当にたまに垣間見えるそれはむしろ風丘よりも怖いかもしれない。
今朝から何度逃げたか。今まで何度逃げてきたか。
具体的には知らなくても、

今まで夜須斗がいろんなことから冷ややかに目を背け逃げてきたことを知っているかのような問いかけに聞こえて、耳が痛い。

「…ぅ…」

緩く息を吐き出し、意を決して手をベルトにかけた。
手が震えて、ベルトを緩める、毎日のようにやっている動作それだけでかなりもたついた。
あとは下ろすだけ、の状態にして、ゆっくり雲居の元に歩を進める。
雲居の前に立つと、雲居は顔を上げて手にしていたファイルを背後に投げて膝を空けた。
夜須斗はふぅー、と息を吐くと、目を瞑り、履いているものを下着毎ずらして雲居の膝に乗った。
ここまでだって普段の夜須斗からすれば最上級の出来だ。

だがまだ終わりではない。ゆっくりと口を開く。
果たして声が出るのか。いっそ出なくなってればいいのに、なんて間抜けな考えまでもが脳裏に浮かんだが、

果たしてそれはしっかり音になっていた。

「お…しおき…おねがい…します…」

しかし音にはなっていたもののあまりにもか細い声すぎて、

自分でも言っている内容はさておいてなんだその女々しい声はと冷静にうんざりした。
聞こえない、言い直せ、と言われるだろうとビクビクしていたら、思いも寄らぬ展開が起きた。

「っ…!?」

雲居が優しい手つきで頭を撫でてきたのだ。
何も言わなかったが、まるでよく出来た、と褒めるように。
何だそれは。そんなこと普段全くしないくせに。

夜須斗がプチパニックを起こしていると、そんなことはお構いなしに唐突にお仕置きが始まった。

バチィィィンッ

「うぐっ…」

痛い。相変わらずの馬鹿力。きっと手形がついたであろう強烈な1発を皮切りに、容赦ない平手の雨が降ってきた。

バチィンッ バチィンッ バシィンッ バチィンッ バチィィンッ

「っあっ! ぁっ…う゛ぁっ…ってぇっ」

バチィンッ バチィンッ バシィンッ バチィンッ バチィィンッ

「いった! う゛っ…うぁぁっ…!!」

流石にここまできたら逃げようなんて気はさらさらないが、それにしたっていつも思うが痛すぎる。

平手の威力が風丘の1.5倍はある気がする。
そして少しでも足をばたつかせようものなら。

バチィンッバチィンッバチィンッ

「ってぇぇ!」

右・左・真ん中と、お尻の下の方を狙った連打に泣かされた。
説教はなく、淡々と叩かれる。

何かすれば終わる、という雰囲気でもないと感じ取った夜須斗は悲鳴をあげつつただひたすら耐えていた。

…………。

 

「…さて。」

お尻全体が赤く染まって、夜須斗の目尻から涙が止めどなくこぼれ落ちるようになった頃。
唐突に平手が止まり、今まで無言だった雲居が口を開いた。

「寝坊と逃亡のお仕置きはこんなもんやろ。きっちり100やで。」

「っ…ふぅっ…うぅっ…」

もうそんなに叩かれたのか、と嗚咽をかみ殺すために肩で息をしながらぼんやりとそんなことを考えていると、不意に雲居から問われた。

「夜須斗。ここ来てからお仕置き始められるまでどれぐらいかかった?」

「っふ…さん…じゅっぷん…」

時計を見たから覚えている。夜須斗が答えると、雲居はせやな、と相づちを打つ。

「ほんまは言われたらすぐ出来るようにならなあかんで。

プライドは必要なもんやけど、無駄なプライドは自分の首絞める。」

「う…」

「俺が、出来ひんならそれまでやって、その場で締め切ってたらどないするつもりやったん?
今だって、こんなに時間かかったんやったらやっぱりアカンって切り捨てることも出来るねんで。」

意地悪な質問だ。そんなことするつもりないくせに。

でも正論なのも事実。そもそもそうはならないだろう、なんて思ってしまうのは甘えだ。

雲居だからこんなにチャンスをくれているのであって、普通だったらもうとっくにアウトだったのは自分でもよく分かっている。
夜須斗が何も言えずにいると、

ま、夜須斗を知っとる俺からすると、夜須斗にしてはえらい頑張ったと思うけどな、と突然の飴を投下してきた。

「今回は素直にならんと逃げ続けたお仕置きでもあるからな。
最後に言葉飲み込まんと素直に口に出す練習しとこか。」

「え…」

飴を投下された直後故、なんだかとてつもなく嫌な予感がする。

大体にして自分に対する飴と鞭の割合1対9くらいの男なのだと夜須斗は常日頃から思っている。
夜須斗が伏せていた顔を上げると、雲居が足を組み、ぐっとお尻が持ち上がった。

「行動できるまでにかかった時間大体30分やから仕上げ30発。
1発ごとに数えてそのあと『ごめんなさい』や。ええな?」

「そんなのっ…」

 

どこまでメンタル虐めてくる気だ。濡れた瞳で雲居を見やるが、全く態勢に変化はなかった。

「出来ひんかったらノーカンになるまでやで。はよ終わらせたかったら頑張りや。」

バッチィィィンッ

「あ゛あぁっ!? ちょっ…」

「ほら、とっとと始めろや。」

バッチィィィンッ

「無理っ…こんなっ…」

ここへ来て平手の威力を上げてきた。足も組まれているというのに。
夜須斗の絞り出すような声を、雲居は一蹴した。

「無理なら終わらんなぁ。」

バチィィンッ バチィィンッ バチィィンッ

「っぐっ…ふぅっ……っとにまっ…」

バッチィィィンッ

「っぁぁっ…いっ…いちっ…」

ようやくカウントを言うと、続いていた連打が止んだ。

「数だけやとカウントせぇへんで。」

言わないで、ノーカンにしてまた平手を落とすことも出来るところを、一旦止めてわざわざ言ってくれる。
無情な、でも甘やかしている忠告であるのだが、分かってはいるのだがそれどころではない。

「ぅぅ…ぁっ…」

 

音が出てこない。喉が拒否反応を起こしてるのではないかと錯覚するくらい上手くしゃべれない。

何とか平手が落ちてくる前に言わないと。必死で息を整えて、口を開く。

 

「ごっ…ごめん…なさい…」

振り絞った謝罪。だがまだ1回だ。あと29回こなさないとならないなんて、なんて地獄だろうか。

大体、メンタルもきているが痛みだって相当だ。

ここでノーカンで何度も叩かれたらもう羞恥よりも先に痛みに耐えられなくなる。
だったらもう…

バチィンッ バチィンッ バチィンッ バチィンッ

「っあっ…2、ご…ごめんなさいっ…う゛っ…3、ごめんっ…なさいっ 
ぅぇっ…4、ごめんなさっ くぅっ…5、ごめん、なさいっ…」

1度言ってしまったのだから、もう何回言おうが同じだ、と言い聞かせ、
夜須斗はカウントと謝罪を口にした。

…バチィンッ バチィンッ バチィンッ…

「もっ…15っ…ごめんなさいぃっ…ふぇっ…16ぅっ…ごめんなさっ…うぁっっ…17ぁっ、ごめんなさいっ…」

最初は台詞のように口にしていた謝罪の言葉が、何度も繰り返す内、夜須斗の中で感情の乗った言葉に変化していく。
連絡しなくてごめんなさい、逃げてごめんなさい、意地張ってごめんなさい…
悔しいが、心の中からそんな気持ちが湧き上がってきて、気付けば泣きながら「ごめんなさい」と言っていた。

バッチィィィィンッ

「30っっっ ごめんなさっ…ごめんなさいっ…」

「よっしゃ! ちゃんと出来るやんっ」

最後のカウントと「ごめんなさい」を言った時。
夜須斗は抱き起こされて、さっきまでとは打って変わった眩しいくらいの笑顔の雲居と目が合った。
そして、そのまま抱きしめられ、頭を撫でられた。

「!? ちょっ…何してっ…」

「ええやんか。どうせ変態呼ばわりされとるんやから同じやろ。」

「何それっ…」

雲居は優しく頭を撫で続けながら、普段からは考えられないくらいの優しい声音で言った。

「今回はほんま頑張ったなぁ。こんなちゃんと出来るとは思わんかったわ。ほんま偉いで。」

こそばゆくて恥ずかしい。なんたって雲居は普段飴と鞭の割合1対9の男だ。
ただでさえ羞恥と泣いたのとで既に赤い耳と頬が限界まで赤くなるのを感じ、

誤魔化すように顔を覗き込んでくる雲居から顔を背ける。

「尻叩かれて褒められても嬉しくないっ…」

「ええやん。これで内部進学も決まったんやし。」

雲居はどこ吹く風でまた頭を撫でてくる。
不思議なもので嫌な気はしないから、夜須斗はその手は払いのけなかったが、出てくるのはやっぱりいつもの捻くれた言葉。

「まだ考査そのものはやってないじゃん。」

「アホ。ただの掃除やで。そんなん落ちる奴どうかしてるやろ。

安心せぇ。明日は朝からちゃんと家に迎えに行ったるわ。もう勝確の考査やで。素直に喜び。」

「そんなの…」

普段ならウザい、そんなことしなくてもいい、やめろ、と言うところだ。
今もそれが頭に浮かんだが、珍しく今日は別の言葉も頭に浮かんだ。
あー、うー、と逡巡して、選び取ったのは後者のこの言葉。

「…ありがと。いろいろ。」

呟いた感謝の言葉はしっかり雲居の耳に届いたのか、優しく微笑んでまた抱きしめられた。
あぁ、これは明日以降もうしばらく飴はないな、そんな可愛げのない思考は相変わらずながら、

夜須斗はされるがまま、雲居の肩に顔を埋め、まだ流れる涙は白衣に染みこんでいった。
 

「うわ、終わった…」

時刻は朝9時3分。

自室のベッドの上で開いた携帯の画面に表示された時計を見て、夜須斗は天を仰いだ。
 

 

 

今日は夜須斗の内部進学のための追加課題、保健室の大掃除の実施日。
集合時間は朝9時。つまりは既に遅刻決定。

「始まる前から終わってるし…」

別に夜須斗だってさすがにこんな大事な日、最初から寝坊するつもりだったわけじゃない。
イヤイヤながらもある程度は真面目にこなして、合格点をもらうつもりだった。
だったのだが…。

「あいつのせいじゃん…。」

ただ、昨夜、今日監督役を務める雲居から

「明日は絶対遅刻したからアカンで」

「考査に遅れたら終わりやからな」

「アラームかけたか? あるんやったら目覚ましもダブルでかけろや」

「寝坊せんように今日は早目に寝とけ」
と、しつこいくらいに送られてくる過保護なメッセージに、

そんなに信用されてないのか、と少しカチンときてしまって。
くだらない反抗心とプライドから、

わざと濃いめのブラックコーヒーを飲んで深夜に放送されている面白くもないB級映画をボーッと見て、
それから携帯の電源を落として眠りについた。

「って…俺のせいか。」

思い返せばあまりにも子供っぽすぎる反抗の仕方に、

自虐的な笑みをこぼしながら、夜須斗はのそりとベッドから起き上がった。
ハッと目が覚めて電源を入れた携帯画面に表示されたのが冒頭の時刻。

そして次いで目に入ったのが既に3件も入っている着信履歴。

「ヤッバ…」

そうこうしている内にまた携帯に着信が入る。
出られるわけがない。出れば開口一番怒鳴りつけられ延々と説教されるだろうし、
その後素直に学校に行こうものなら最後、地獄を見ることは火を見るよりも明らかだ。

…だが、行かなければ内部進学の未来はなくなる。

「…もういいか。」

こういう時、自分の性格は残念だと自分で思う。プライドが高い上に、執着できないのだ。いろいろなことに。
学業だって、部活だって、出来るようになりたい、上手くなりたいという情熱は全くといって湧かなかった。
勉強は人より出来たけれど、それだってそれを欲して努力した結果では全くない。

出来なければ面倒ごとが増えるだけ。勉強が出来れば教師に口うるさく言われる場面が減るから、

頑張らない範囲で「勉強出来る奴」のラインをキープしていただけだ。

だからこそ「意欲/関心」が常に最低ランク。だって意欲も関心もまるでないのだから当たり前だ。
部活だって中学は強制入部だから入らされただけで、

ある程度参加してるのはサボりすぎれば風丘に文字通り痛い目に遭わされるから。
 

そうしていい加減に生活してきたツケがこれだ。

客観的に見れば今日ほど肝心な日はないだろう、というところですらいい加減さが露呈して、
しかも何とか取り返そうと頑張る気も起きない。

必死になっている自分の図を想像するとたまらなくプライドが刺激されてしまう。
発端が浅はかな反抗心だったのがまた情けない。

「…面倒くさい。」

雲居は夜須斗の家を知っている。このまま着信を無視し続ければ絶対に乗り込んでくる。
それこそ更に面倒くさい。この状況下で、あいつと二人きりになりたくない。
夜須斗は手早く身支度を済ませると、財布と携帯等最低限の荷物を持って家を出た。
両親は仕事、祖父は仲間と手合わせする、と朝っぱらから少し遠くの道場に出掛けている。
何処に行くか誰にも聞かれないし、雲居が押しかけてもとりあえず家に誰もいない状況になるのは好都合だった。



「諸々なんて説明するかな…」

ボーッと歩きながら、夜須斗は頭を悩ませていた。
そもそも内部進学についての現状を夜須斗は家族の誰にも言っていない。
惣一たちだって、さすがに土曜日一日学校に行って保健室の掃除をするだけの課題をクリアできないだなんて思っていないだろう。

「合わせる顔ねぇな…」

星ヶ原高は、内部進学できなかった者に外部受験生に混じって受験する資格は与えられない。

それは、内部進学考査を通過できなかった時点で入学できる資質はないと見なされるからだ、と
これはどちらかというと努力しなければならない惣一とつばめに発破をかける意味で風丘が放った一言だが、

それに今追い詰められている。

「あぁ…もう…」

内部進学自体に執着はない。別に、普通に外部受験すれば1つや2つ適当な高校に受かるくらいはなんとかなるだろう。
ただ1つ執着があるとすれば、「今いる仲間と同じ学校に行く」、ということだ。
惣一、つばめ、洲矢、仁絵はもちろん、何だかんだ上手くやってきたクラスメイト、

そして今まで自分が見てきた中で初めてちょっと面白い教師だと思った風丘。
普通の中学だったら卒業で手放さなければならないそれらが、星ヶ原中高ならあと3年手元に残せる。その環境だけは。

「惜しいよなぁ…」

でもそれを素直に誰かに言うのはつまらないプライドが邪魔をして。
夜須斗の呟きは誰に聞かれることもなく空気に溶けて消えていった。



結局小一時間ふらふら彷徨った末、夜須斗は学校にたどり着いていた。
道中雲居に出くわさなかったのは奇跡に近い。
しかしそのまま保健室に行く気にはなれず、

夜須斗は土曜日でただでさえ人気のない裏庭の芝生の上、更に人目につかない茂みの陰に寝転んだ。

「どうするつもりなんだか、俺は…。」

学校に来たはいいが、自分がどうしたかったのか、自分でもよく分からない。
雲居に許してくれ、チャンスをくれ、と泣きつくのか?

…そんなことがプライドもなく出来るなら朝の時点で遅刻確定していても登校していた。
じゃあ綺麗さっぱり諦めて、切り替えて外部受験しますと宣言するのか?

…そのつもりならわざわざ学校に来ないで、今も一定に鳴り続ける携帯をとればいい話だ。

「…」

♪♪♪~~~♪♪~~~♪

取ればいいだろう。取れば終わる。朝から一人で勝手に繰り広げたこの茶番劇。くだらない葛藤。…諸々全てが、終わる。

取って一言言うだけだ。取れば…
見つめる画面には朝から何度となく着信履歴で見た名前。
着信メロディは好きな音楽のはずなのに耳障りで家を出る前に切ってしまったから耳に入るのは断続的なバイブ音だけ。
無視するならバイブも切ればいいものを、自分の行動が中途半端でそれすら未練がましくて自分で自分がよく分からない。
そうこうしている内にバイブ音が止んだ。手に伝わる震えがなくなって、何となく空しさに襲われる。

「なーにやってんだか…」

先ほどからの幾度とない呟きと同じく空気に溶ける…はずだったが、今回は違った。

「ほんまに何やってんねん。」

「…っ!」

耳に入ったその声に、夜須斗は咄嗟に身を起こして逃げを打とうとした。逃げてどうするつもりだったかなんて分からない。
だがこの状況でおとなしくこの人物と正対できるほど夜須斗とて肝が据わってない。

こういうときのこいつは苦手だ。とにかく距離を取りたかった。身も、心も。
しかし、結果としてそれは叶わなかった。

「つっ…」

「何逃げようとしてるん? おんどれ朝からどういうつもりや。」

気づけば芝生の上に逆戻りしていた。雲居に押し倒され、上からのしかかられている。なんだこの状況は。
体勢を俯瞰的に見れば酷く滑稽で、なのに目の前の雲居からは痛いくらいの怒気が伝わってきて、

そのアンバランスさに非常に居心地が悪かった。

「…ちょっと。何やってんの、変態。どいてよ。俺にこっちのシュミないんだけど。」

「そんなこと聞いてへんやろ。質問に答え。」

「これが生徒に質問する体勢?」

「答えたらとりあえずはどいたる。」

「…」

「はよ答え言うとるやろ!! 何でこんなことになっとんねん!」

口を噤む夜須斗に、雲居が真っ直ぐに怒鳴ってきた。
あぁ、だからこいつは苦手だと思う。

プライドだけは無駄に高くて、のらりくらりと執着ないフリをして生活してきた自分にとっては、

その格好を保ったまま相対するのがキツいのだ。引っ張られてしまいそうで。

「別に…っただ寝坊しただけっ…」

顔を背けて吐き捨てる。あまりにも顔をそらしすぎて芝生が口に入って気持ち悪いが、雲居の瞳を見るよりはいい。
が、それすら雲居は許してくれなかった。はぁ、とため息をついたかと思えば、顎を無理矢理掴まれ、正面を向かされる。

「せやったら『寝坊しましたごめんなさい』言うておとなしく叱られに来ればよかった話やろ!」

「…あんたが考査に遅れたら終わりって言ったんじゃん。
終わってんのにわざわざ叱られるためだけに行くなんてバカみたいでしょ。」

「…それで着信もメールも全無視、家から逃亡か? 人がどれだけ心配した思てんねん!」

「頼んでないよそんなこと。あんたただの監督役だし。昨日のメールといい、押しつけがましいんだけど。」

視線がふらふら彷徨う。目を合わせたくない。雲居の真っ直ぐな目が痛い。

「夜須斗ぉ……さっきから何無理して憎まれ口叩いてるん。」

雲居が呆れたような、低い声音で言い放つ。

無理して、というのがまた何か心をざわつかせて、

顔は動かせないけれど、それでもいてもたってもいられなくて、夜須斗は視線だけをどうにかそらそうとした。

「っ…何それ意味わかんない。」

「…質問変えるで。」

「早くどいて。さっきの質問答えたじゃん。」

「質問1つとは言うてへんやろ。」

 

いけしゃあしゃあと言い放つ雲居に、夜須斗は心の中で舌打ちする。

「…変態な上に横暴かよ。」

「お前、惣一たちと同じ学校行きたないん? はーくん担任のクラスになりたないん?」

「っ…」

核心を突く質問。
そんなド直球に聞かれて、俺が素直に答えられると思っているのか。

だったらこいつは俺のことを何も分かっていない。
胸を無遠慮に抉られた気がした。

瞬間、むかついて、むかついて、渾身の力を込めて夜須斗はのしかかっている雲居を突き飛ばした。

「行きたいなりたいって言えば叶えてくれるわけ!? もう手遅れだろ!!!」

突き飛ばされた雲居は、はぁーと何度目か分からないため息をついて、やっとか、と呟いた。

「最初からそれくらい言えや。変に達観した態度とるから俺に怒鳴られるんやで。」

「それはあんたが短気なだけ…ってか何。今更…」

「今日は急患が入って考査は明日に延期や。」

「…は?」

「教頭と学年主任にはそう報告して、保健室の使用許可追加で明日ももらっといたわ。

朝来ぇへんかった時点でどうせお前のことやからプライド邪魔してすぐには尻尾掴ませへんやろ思ったしな。」

「何余計なお世話…」

「内部進学したいんやろ? 俺の機転に感謝せぇ。」

「そんなこと一言も…っ っていうか誰に感謝しろだって?」

一見普段の雲居の調子に戻ってきたようで、夜須斗も普段の調子で今度は心の底から憎まれ口を叩いた。
眉間に皺を寄せて睨んでやったら、雲居はおーおー、今のうちにせいぜいそんな顔しとけ、と余裕をかましてくる。

「…さ、急患の治療するで。」

 

唐突な言葉に、夜須斗が目を見開く。それは嘘も方便というやつではなかったのか。

「は…何それ、急患ってマジなの?」

 

夜須斗が聞き返すと、雲居はいたって真面目に言い切った。

「おぉ、マジやで。自分の願望一ミリも素直に言えない困った症状が出とる。
自分で自分を破滅に追い込むエベレスト級の高さのプライドへし折る治療を今すぐせんとなぁ。」

あぁ、ここでこそ逃げを打つべきだった、と夜須斗はいつの間にか雲居にがっしり掴まれた己の右腕を見つめて唇を噛んだ。

皆様お元気でお過ごしでしょうか? 白瀬ですニコ

 

さてさて、相も変わらずいろいろ予定は崩れてしまいましたが、

何とかメガネ教師 つばめ編、アップできました音譜

懐かしの「お膝で勉強」スタイル。受験生時代、海保がやられたアレ。

というわけで海保もちょろっと登場。

ちなみに海保はあんまり自分のスパ経験を恥ずかしがってはいないので

普通に話します(笑)。

いつまでも子供っぽい…というか叱られる側の目線でいられる子です。

風丘とつばめのスパシーンは安定(?)笑、ですね。

いや、でも膝の上で暗唱テストはほんと嫌ですよね…汗

書いておきながら、つばめも作中で言ってますが言えるものも言えなくなりそうぐすん

 

ところで受験生時代のあのお話、メディスパ様にアップした当時、

反響をものすごくいただいたのを鮮明に覚えてます。公開コメントも非公開感想も

当時比…いや、今に至る中でもトップ5に入るお話。

今回再登場させるにあたって参考にするため前データを引っ張り出して、

ついでに書き始めたのいつだ?と調べたら9年前でした← リアル受験生時代…。アセアセ

当時の私の願望も入ってたからリアルに書けて好評だったのでしょうか(笑)あせる

すごくたくさん感想をいただいたのでしばらくやる気とプレッシャーで

次作、いろいろ手つけて同時進行で書きながら悩みまくったのもいい思い出。

 

今は感想に対するレスポンスが気まぐれすぎて本当に申し訳ないです。。。

頂いたものは嬉しくて何度も読み返して、何かのきっかけで消えると怖いので

コピペして取っておくのは今も昔も変わりません。

ちょっとした感想でも不満でも、頂けたらとっても嬉しいですし参考にさせていただくので

よろしければ!…あ、もちろん読んでいただけるだけで既に100%幸せなのですがアップ

 

次回は夜須斗編。テーマは「ベタなスパ」。

実は超久しぶりな夜須斗キー。

…ということで、賢い夜須斗ですがあえてベッタベタな理由でお仕置きされてもらいました。

久々すぎてスパシーン超手こずってるのですが頑張ります。。

 

私生活はコロナにかき乱されてほぼほぼ平日は仕事しかしてないですが、

私がジャニーズにはまったことを知った妹が平日ボロボロの私を励ますためか(?)、

帰り道の書店で発売される度にアイドル誌を買ってきてくれるようになりました。

最初は私が頼んだものだけを買ってきてくれてたのが、

最近自主的にくれるようになったので部屋が雑誌ですごいことになってます(笑)

アイドル誌って今まで読んだことなかったんですが、

今まで私がよく読んでた若手俳優がよく載ってる作品に即したインタビュー中心の舞台誌と違って

企画が凝ってたり、質問内容が独特だったりして読んでて新鮮でとても楽しいです音譜

週末少しずつしか読めないですが最近の息抜きですニコ

 

音譜今日のBGM音譜:断捨離彼氏(ZOC)、ヒアルロンリーガール(ZOC)、ノーマター・マター(KAT-TUN)

↑質問箱に普段聴く音楽、といった系統の質問をいくつか頂いていたのですが

雑食過ぎるので普通のブログを書いてる時に流した音楽を書くことに(続くか分かりませんがあせる)。

ZOCは以前友達がカラオケで『断捨離彼氏』を歌ってて耳に残ってダウンロードしました。

結構パンチ効いてます(笑)。『ヒアルロンリーガール』は最新曲かな。

PVが独特で面白いので貼っておきます。

あとまぁ、KAT-TUNはもう恒常的に聴いてます(笑)。『ノーマター・マター』はデビュー前からの曲。

KAT-TUNにしては明るくポップな曲調です♪

 

 

 

 

 

 

惣一と同じく勉強組のつばめの初日。
 

課題はこれまで金橋が出してきた漢字テストと名文暗唱テストの内容総ざらい。
発表された際に20ページ程度の漢字プリントと

金橋曰く「名文」という百人一首やら小説の書き出しやら詩やらがびっしり印刷された10ページ程度のプリントの束を渡されていた。

最後の確認テスト7割でクリアは惣一と条件が同じだ。
 

風丘には「とりあえず漢字は5ページ目まで、暗唱は2ページ目までさらっておいで」と言われていた。
気になるのはその後付け加えられた

「今までの結果、金橋先生から聞いてるけど、結構ハイペースでさらってかないと間に合わないから荒療治でいくからね。

ちゃんとやってないと本当に泣くことになるから悪いけどそのつもりで来てね。」という恐ろしい言葉。
あの風丘がわざわざ「荒療治」と言ってくるなんて、どんなことになってしまうのか…。
さすがにおびえながらも、やっぱり漢字も暗記も苦手なつばめは、

少しはプリントに目を通しはしたものの、「ちゃんとやる」とはとても言えない程度の勉強で初日を迎えてしまった。
 

 

 

「失礼しまーす…」

「はい、どうぞー…ってほんとに嫌そうな顔だねぇ。」

「嫌に決まってるじゃん! 自分の特に嫌いなジャンルの勉強で、しかも風丘と二人っきりこの場所なんて!」

つばめは風丘が担当のため、部屋は必然的にいつもの「風丘の部屋」。嫌な思い出の詰まった場所だ。

「自業自得でしょ。はい、座って。」

この部屋では滅多に使われない一般教室仕様の机と椅子を示され、

つばめが渋々席に着くと、風丘はそこに両面刷りのプリントを1枚置いた。

「プリント5ページ目までの範囲で作った漢字テスト。全部で30問。制限時間は15分ね。」

「えー、いきなりテスト…」

「文句言わないの。はい、スタート。」

仕方なくシャーペンを握ったつばめだが、半分以上うろ覚えの漢字ばかりだ。

読みはなんとなく昨日通し読みした記憶と前後の言葉の雰囲気で埋められるが、書きはどうしようもない。

(「支離メツレツ」…? 「一意センシン」…? 「ゼンジン未到」…? もー、四字熟語ばっかり分かんないよ!)

ほぼ自棄になって適当な漢字を書き入れて、つばめはあっさり諦めた。
「もういいの?」との風丘の問いに、「うん、もう考えても分かんないもん」と馬鹿正直に答え、風丘はため息をついた。

「じゃあ採点するけど。つばめ君、昨日漢字の勉強どれくらいやった?」

「えー…じ…や、さん…じゅっ…ぷん…くらい…」

「ふーん?」

本当は10分にも満たない程度だったが、流石に風丘の視線が痛くて誤魔化した。
その間にも風丘はあっさり採点を終え、数十秒の沈黙の後、唐突に聞いてきた。

「高村光太郎の『道程』。言ってみてー」

「え?」

風丘の意図が理解できず聞き返してしまったつばめ。それにまた風丘はため息をついた。

「…ふぅ。プリントに何が載ってたかすら覚えてない、と。オッケー、おいで、太刀川。」

「え゛っ!? や、やだ!!!」

名字呼びにすかさず反応して、つばめは分かりやすく飛び退いた。その素早さに風丘は苦笑する。

「こっちの理解力は驚くほど早いね。だったら昨日の時点で想像力もう少し働かせるべきだったね。
俺がわざわざ『荒療治』なんて言うの、これしかないでしょう?」

と言って、風丘はあっさりつばめの腕を捕まえ、ソファに座った自分の膝に横たえた。

「やだやだやだ!! だったら最初からそう言えばいいじゃんーーーっ 聞いてない!!!」

「多少脅してある程度努力する姿勢が見えたら、

こんな本格的なお仕置きスタイルにするつもりはなかったんだけどねぇ。
漢字テストは30問中10問、しかも読みだけで書きは全滅。

30分なんて勉強してないでしょ。誤魔化してもバレバレ。

暗唱は範囲内の作品のタイトルすらピンときてない…。
これだけ分かりやすく『勉強してないです』って見せつけられちゃ厳しくせざるをえないね。」

「っ…そんなのずるいーーっ」

「何とでも言いなさい。これからの方針決めました。

とりあえずまず毎回最初に漢字テストをします。で、間違えた分だけ…」

そう言いつつ、風丘はつばめのズボンを下着毎下ろすと…

バシィィンッ

「いたぁぁぃっ」

「1問1発お尻ペンペン。」

バチィンッ バシィンッ バシィンッ バシィンッ

「うそっ…ああっ やぁっ…むりぃっ そんなのむりぃぃっ」

「無理じゃありません。」

バチィンッバチィンッバチィンッバチィンッバチィンッ

「いたいいたいいたいぃぃっ やぁぁっ」

バチィンッバチィンッバチィンッバチィンッバチィンッ

「まってぇっ いたぁぃっ ああっ すとっぷぅっ」

「待ちませんー。」

今回はお説教も何もないからか連打が多くてスピードが早い。
落ち着く前に痛みが降ってきて、つばめはいつもよりも痛く感じてすでに足をばたつかせていた。

バチィンッバチィンッバチィンッバチィンッ バシィィンッ

「いっっっ! ぁぁっ…やぁぁぁっ …っいったぁぁぃっ!!」

漢字テストの誤答分の精算が終わると、つばめはあっさり膝から下ろされた。
この辺りがいつものお仕置きとは違うところだ。
涙目でお尻をさすっているとつばめを見て、あーあー、と風丘は苦笑いだ。

「だから言ったでしょー、ちゃんとやってないと酷いって。」

「ひどいよっ…こんなのっ…」

「はいはい、さっさとお尻しまって、席戻って。」

恨み言を言うつばめを流して、

風丘はノートパソコンを何やらカタカタと操作し、あっという間に印刷したプリントを机に置いた。

「ほらー、時間ないから早く。」

まだソファでぐずっているつばめを立たせ、服を無理矢理戻してきた風丘に、つばめは文句を言う。

「ちょっ…お尻まだ痛いっっ」

しかし、次に風丘から告げられたのは信じられないことだった。

「何言ってるの。まだ漢字テスト終わってないんだよ? 休憩は全部満点取れてから。」

「え…えぇぇぇっ!?」

見れば、机の上には先ほど分からず適当に埋めた四字熟語をはじめとした書き取り問題の数々が印刷されているテスト。
読み問題はごっそり削除されているから、間違えた問題だけ残されているのだろう。

「これ、さっきの結果ね。今から15分後に間違えた問題だけ再テストするから、しっかり勉強するんだよー。」

「ま…まさか再テスト間違えたら…」

 

嫌な予感がする。つばめが恐る恐る尋ねると、その予感は見事的中した。

「次は間違えた分1問につき2発。再々テストは間違えた分1問につき3発。全部出来るまで続けるよ。

その後は暗唱を俺のお膝の上で言えるまで下ろさないからそのつもりでね?」

つばめはサァッと血の気が引くのを感じた。今、自分はとんでもない状況に立たされていることをようやく理解した。

「そ、そんなの死んじゃうっ…」

「俺も無理矢理勉強させるのは不本意だけど、

つばめ君みたいな勉強大っ嫌いな子が短時間で成果上げるには、
残念ながらこの方法が一番手っ取り早くて効果的だって立証されちゃってるんだよねぇ。」

「なにそれぇぇぇっ」

そんな余計な立証してくれた奴は誰だ!と心の中で誰とも分からぬそいつを恨みながら、
今は「お尻痛くなるの嫌なら勉強しなさい」という風丘の言に従うしかない。
つばめはもう涙目のまま持ってきたプリントとノートを取り出し、慌てて書き取りを始めた。
そのノートはプリントと共に支給されたものだが、まっさらで開いた形跡もなく、

漢字の勉強なのに一文字も書いていないで臨んだつばめのあまりの潔さに風丘は心の中で笑うのだった。



結局、その後も散々だった。

完全に一からの勉強で、漢字苦手なつばめが15分程度の勉強で書き取りばかりの20問の再テストに満点合格などするはずもなく、

満点をとれたのは再々々テストになってからだった。
その時点で叩かれた回数は50発を超えていて、かなり赤く色づいていたのにそこから暗唱が始まる。これがまた酷いもので。
とりあえず『道程』1つでいいからまず覚えなさい、と風丘に言われまた15分与えられた。
暗記タイムが終わると今度は有無を言わさず膝に乗せられ、ほんのり赤いお尻に風丘の平手がスタンバイ。

この状況でさぁ、言ってみろというわけで。

「こ、こんなの覚えてたってプレッシャーで間違える!!」

しかしつばめの抗議も一蹴される。

「本番金橋先生の前でいきなり言われたお題をすぐに言わなきゃいけないんだよ?
これくらいのプレッシャーでちょうどいいでしょ。」

「うぅぅ…」

更に、少しでも間違えれば軽くとはいえすぐに準備万端な平手が振り下ろされた。

「僕の前に道はない、僕の後ろに道は出来る、ああ、自然よ、…父よ、僕を…僕を…

バチィンッ

あぁぁっ!」

「『僕を一人立ちさせた広大な父よ』。」

「僕を…一人立ちさせた…広大な父よ…僕を、一人立ちさせた、広大な、父よ…」

「はい、じゃあ最初から。」

間違えたフレーズを何度か復唱したら、最初から。
これを何度も風丘の膝で繰り替えさせられ、ようやく通して言えたと思ったら3回連続で言えるまでダメ、と下ろしてもらえず。
何とか解放された頃にはつばめは脳も体もヘトヘトだった。

「はーい、お疲れさま。」

今日の分のノルマがようやく終わると、風丘はつばめをソファに寝かせ、冷やしタオルをお尻に置きながら頭を撫でてくれた。
もはや恥ずかしがってる余裕もなく、つばめはソファの座面に突っ伏した。

「明日は漢字8ページまで、暗唱は3ページまでね。前の日までの範囲に少しずつプラスしてくから。」

「地獄だよぉ…」

つばめの呟きを風丘は拾ってはくれず、ただ頭を撫で続けるだけだった。



翌日放課後。あと15分くらいで補習の時間。
流石にもう手つかずは怖かったのでそれなりの勉強をしたつばめは、
ただもう昨日の地獄のような時間がもうすぐやってくる、という現実から目を背けたくて、

そして昨日どれだけ酷い目にあったかを共有したくて、カウンセラー室に突撃した。
なんとなく、お互い話題にしたくないだろうこの補習に関することを惣一たちに愚痴るのは気が引けたのだ。

「海ちゃん聞いてよぉぉぉぉっ」

「おー、聞く聞く!! どうしたどうしたーっ」

つばめは波江が赴任してきてからカウンセラー室の常連だった。
風丘との事情もよく知っており、ノリ良く何でも親身に聞いてくれて

その軽そうな感じとは裏腹にバッチリカウンセラーな波江をつばめはとても慕っていた。
突然飛び込んできたつばめに驚くこともなく、波江はニコニコ笑顔でつばめに続きを促す。

「風丘が酷いのぉぉっ」

そうしてつばめが昨日の一連の出来事をマシンガンのように話していると、不意に波江が気になる相づちを打ってきた。

「あー。はーくんのそれ、心やられるよねぇ…」

「そうなんだよ! 特に暗唱の…とき…って。」

その相づちはまるで。

「海ちゃん経験あるの!?」

波江がなんとなく同じ感じで風丘たちに叱られていたであろうことは、この前の球技大会の一くだりのところやら
普段の波江の言動やらで感じてはいたものの、まさか…。
そして、波江は隠すでもなく、あっさり認めた。

「あー…大学受験の時、ちょっとかなりやばくて…アハハ。」

「かっ…」

それを聞けば、思い出すのは昨日のどこの誰とも分からぬ奴に抱いたあの感情。
それが今判明したのだ。ならば言うしかない。

「海ちゃんのせいだぁぁぁぁぁぁっ」

「うわぁぁっ!? ちょっとつばめ声でかっ(笑)」

「笑い事じゃないよぉぉっ 

海ちゃんがそんな無茶苦茶な勉強法で結果出しちゃうから風丘が僕にまでこんな横暴なやり方っ…
僕本番テストまでにお尻痛すぎて不登校になる!!」

元気良すぎる不登校宣言に波江が噴き出しそうになっていると、部屋の入り口から声がした。

「そりゃあ効果てきめんだったもんねぇ、海保?」

「ぎゃぁっ 風丘ぁっ」

「つばめ君ほんとに声大きいよ。廊下まで響いてた。」

クスクスと笑いながら、カウンセラー室のドアから顔を覗かせた風丘に、波江はまぁねぇ…と遠い目をする。

「びっくりするくらい成績上がったよねぇ…

ま、つばめは2週間だけでしょ?
俺なんて夏休みから受験終わるまでずっとだったけど今こうして元気だから。死なない死なない大丈夫っ」

「え…」

あれを夏休みから受験終わるまで…半年以上…?
それを言われてしまえば黙るしかなくて、つばめはうぅ…とうなる。

「はい、つばめ君時間だから一緒に行くよ。じゃないと遅刻のお尻ペンペンからしなきゃいけなくなっちゃう。」

「もー、何でもかんでもお尻叩かなくていいよぉぉぉっ」



結局やっぱりこの風丘独自(?)のスパルタ勉強法は絶大な効果で、

痛いお尻をさすりながら受けたつばめの本番テストは
これまでの結果からは想像もつかない脅威の正答率9割、暗唱テストに至っては満点というとんでもない結果となり、
悲しいかなつばめもまたこの勉強法の効果を立証する一員となってしまったのだった。