◆(解説)官邸主導 対話へ圧力

小泉政権の対北朝鮮政策は「対話を重視する首相と、圧力を重んじる安倍官房長官の2人がいてバランスを取ってきた」(政府関係者)とされる。だが、安倍氏は昨年10月の長官就任以降、人権担当大使の新設、北朝鮮関係施設に対する固定資産税の減免措置見直しなど、着々と「圧力」を強める布石を打ってきた。今回の発表措置もその一環と見られる。asahi.com :朝日新聞今日の朝刊-総合面
鑑定手続きを主導してきた安倍氏は11日の記者会見で発表時期について「(6者協議の各国代表が集まった時期と)たまたま同じタイミングになった」としながらも「日本側の強い意志を伝えることができた」と政治的な意義を強調した。複数の政府関係者は、安倍氏の意図について「正面から圧力をかけてこそ、北朝鮮は対話に応じると考えている」と解説する。
狙い澄ましたようなタイミングで鑑定結果を発表したのも、日韓世論の反発をテコに北朝鮮側に拉致問題の真相究明を求め、日朝対話の糸口にしたいという計算がある。
しかし、北朝鮮が応じるかどうかは不透明だ。宋日昊(ソンイルホ)外務省大使は2月、北京で開かれた日朝包括並行協議の際、日本代表団に「すれ違う点が多いことが改めてわかった。実質合意ができるまで会うべきではない」と主張。「静かに米朝協議の行方を見守ったらどうだ」とも語ったという。北朝鮮側に不利な鑑定結果となり、日本外務省からは「北朝鮮の態度が硬化し、誠意ある対応がますます望めなくなる」との声も漏れる。
日朝国交正常化を目指し、日朝平壌宣言に署名した小泉首相は今年9月末の首相退陣を明言している。北朝鮮も安倍政権誕生の場合に備えて対応しようとする動きが見られる。だが、安倍氏が打ち出す圧力路線に対して北朝鮮が「誠意ある対応」を取る気配は今のところ見られない。(牧野愛博)
突破口「待っていた」 めぐみさん夫鑑定

横田めぐみさん(不明当時13)の夫が韓国人拉致被害者の金英南(キムヨンナム)さん(同16)である可能性が、日本政府のDNA鑑定で高まった。結果を聞いた家族は「拉致問題解決の突破口になる」と、事実の解明に期待を寄せた。今回の結果が北朝鮮との交渉にどう影響するのか。被害者の帰還は。日韓の家族たちは、思いを募らせる。asahi.com :朝日新聞今日の朝刊-社会面
●「日韓連携、強まるはず」 横田夫妻、金さんの母気遣う
横田めぐみさんの父滋さん(73)と母早紀江さん(70)夫妻らは11日、内閣府で外務省の梅田邦夫参事官らと面会し、めぐみさんの夫が韓国人拉致被害者の金英南さんの可能性が高いとするDNA鑑定の結果について説明を受けた。
約1時間の面会後、100人ほどの報道陣が夫妻を囲んだ。
「長い間待っていた。まっすぐに受け止める」「従来、韓国は拉致問題には無関心だったが、今後は日本と韓国の連携がより強くなることは間違いない」。そう夫妻は話し、韓国政府のより踏み込んだ対応への期待を口にした。
さらに、滋さんは韓国の北朝鮮拉致被害者の家族組織「拉北者家族会」について、「双方が協力して拉致被害者の救援運動が起きるよう働き掛けたい。解決の突破口になれば」と述べた。
夫妻の強い要望を背景に実現した鑑定の結果に、早紀江さんも「聞くべきことが聞けてよかった」と話し、ほっとした表情を浮かべた。
滋さんは、めぐみさんについて、「北朝鮮の人と結婚した場合よりも帰国の可能性が高くなった。一日も早く元気な姿を見せてくれることを願っている」と話した。めぐみさんの長女キム・ヘギョンさん(18)についても質問が及んだ。滋さんは「会える日が近いことを望んでいる」と顔をほころばせながらも、「全体の解決のためにプラスになるか、よく考えてから行動すべきだと思う」と答えた。
金さんも、めぐみさんと同じく、10代半ばで拉致されたとされる。
金さんの母親に対して早紀江さんは気遣いを見せ、「大変な苦悩だと思うが、同じ思いをする者がここにいる。希望を捨てないでほしい」。さらに、「少年が拉致されたことがはっきりした。韓国(政府)も、同じ思いで提携して一緒に動いてもらえれば」と述べた。
一方、夫妻は日本政府に対して、「新しい情報がつかめたら利用して、北朝鮮が今まで否定してたことを突き崩して、強力に交渉してほしい」とクギを刺した。
◆「夫」名乗る男性、謎深く
横田めぐみさんの夫が、韓国人拉致被害者金英南さんの可能性が高いという、DNA鑑定の結果が出た。では、その人は「めぐみさんの夫」として日本政府代表団と面会した「キム・チョルジュン」と名乗る男性と同一人物なのか。謎は残る。
日本代表団が彼に初めて会ったのは、04年11月の日朝実務者協議だった。しかし、「チョルジュン」氏と、一緒に部屋に入ってきたヘギョンさんとの間に親子らしい会話はほとんどなかった。途中でヘギョンさんに「出てください」と求めるなど、よそよそしい雰囲気だった。日本側は鑑定のため毛髪などの提供や写真撮影を求めたが、「特殊機関の人間なので応じられない」と拒否した。政府関係者は「本当に父親なのか」と、いぶかった。
「チョルジュン」氏は、2回目の面会の際、骨つぼを日本側に渡した。しかし、DNA鑑定の結果、日本側はこの遺骨はめぐみさんとは「別人」と断定した。
めぐみさんは拉致されたあとの数年間、後に夫となる男性工作員への日本語教育を担当させられていたという。蓮池さんらによると、男性は「キム・ヨンス」と名乗っていたという。
「キム・チョルジュン」「キム・ヨンス」というこれまでに浮上した名前。そして、夫の可能性が高い「金英南」さん。これらの疑問に答える説明が、北朝鮮側に求められる。(北野隆一)
◆家族会が集会 北朝鮮に憤り
「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」は11日午後、東京・JR渋谷駅前で集会を開いた。
増元照明・事務局長は「北朝鮮はめぐみさんの夫が北朝鮮の人間であり、工作員と言っていたが、今回のDNA鑑定でうそがはっきりしました」と憤りの声を上げた。
◆「切に解決願う」 蓮池薫さん
拉致被害者の蓮池薫さんは11日、「この新たな結果が、拉致問題の進展と一日も早い解決につながっていくことを切に願っています」とのコメントを発表した。
拉致被害者救出に向け戦い続ける横田さん夫妻(下)
日本政府を動かした拉致被害者家族連絡会朝鮮日報 Chosunilbo (Japanese Edition)
安明進(アン・ミョンジン)氏にめぐみさんの消息を聞いた横田さん夫妻は「できるだけ早く娘を救い出す」と決心した。1997年3月‘北朝鮮による拉致被害者家族連絡会’が発足、滋さんが会長に就任した。夫妻はマイクを握って全国を回りながら署名運動をする、拉致問題の象徴的な存在になり、短期間に50 万人の署名が集まった。時間が経つにつれ、めぐみさんが、大韓航空機爆破犯の金賢姫(キム・ヒョンヒ)元死刑囚に日本語を教えたといわれる田口八重子さんとしばらく一緒に生活していた、という証言が次々と飛び出し、めぐみさんは日朝関係のキーワードになっていった。無関心だった日本政府も動き始めた。
小泉首相が訪朝した2002年9月17日、娘の死を告げられた。
「いつか人は死にます。めぐみは本当に強烈な足跡を残すのではないかと思っています。みなさんとともに一生懸命戦っていきます」
記者会見の場で早紀江さんは「負けてはいけない」という思いから涙をこらえた。夫妻は娘の失踪後3回引っ越したが、ほどけない荷が1つある。ペンでめぐみさんの「め」という文字が書かれた箱だ。そこには娘のパジャマや教科書、好きだった漫画『ベルサイユの薔薇』などが詰まっている。早紀江さんは「娘が帰ってきたらこんなに大切に保管してきたんだと見せてやりたい」と語った。
最近、早紀江さんは知人の誘いで聖書を読むようになり、再び自分を取り戻した。ヨブ記にある「主は与れ、主は奪う」(全ては神の意思によって行われているという意味)という聖句が心にしみたという。「大事に育ててきた子供をたった1人のために拉致するということは、国を離れて人間としてあってはならないと言いたいのです。私の娘を奪ったその人は本当に憎いが、北朝鮮の一般の人々は純粋だと思うので救いたいです」。早紀江さんは毎週日曜日に教会で娘と北朝鮮住民のために祈っている。
東京=鄭権鉉(チョン・グォンヒョン)特派員
朝鮮日報