コラムなタイム -48ページ目

スローライフ、シンプルライフ‼

友人のとてもいい話だったので、ブログります。
彼曰く、
「私の大きな変化は、煙草がやめられたことです。きっかけは妻にも言えないことでした。不倫ではありません。風俗の女の子にキスを拒否され、煙草をやめてくれたら、なんて言われてからです。もちろん、その後は彼女とディープに楽しめ、おかげで妻とも復活。煙草が我慢できないときは、ハッカ系のガムを噛んでいます。皆さんは遊び人ではないので、さぞ大変でしょうが。」
 何とか自分を変えたいと思ったら、新しいことを始めるよりも、何か一つやめることですね。私の場合、煙草でしたが、もう一つ、三食を一食減らして遅い昼飯にして一日二食にしました。おかげで、メタボリックな体型が少しは改善できました。毎日だった晩酌もしなくなりましたね。そもそも一日三食というのは贅沢だということにも気がつきました。
 夜のウオーキングなど、ご夫婦でよく住宅街を歩いている二人連れを見かけますが、どうも私は嫌ですね。照れ臭いなんて、そんなシャイな男でもないのですが、どうも夫婦げんかのもとになることがあるんですね。妻はちょっと違ったことを始めると、思い出したように通帳のこととか、子供のこととか、ちょっとした家の中のこととかを言い出して、それが大体こちらが原因になっているようなことを歩きながら話し始めたりするんですね。まいっちゃいますよ。それでもう妻とのウオーキングはやめ、昼間一人で広い公園まで車で行ってウオーキングをしています。妻ですか、パートの行き帰りを歩きはじめたみたいですよ。それと仲間としていた山登りも一人ですることにしました。歳になって、もうマイペースが何よりの心身ともによいことに気がつきました。これこそ、私のスローライフ、シンプルライフだと思っています。」
 という友人の彼の話でしたが、感心しました。ちょっとした気持ちの入れ替えっていうか、始めるより一つ止める勇気が必要なんですね。ほんの話でしたが、いかがでしたか。

ショート・ショート「未練な夜遊び、ある酒場で。」

「お客さん、初めてかしら」
「いや。君は初めてだね。ママに聞いてごらん」
「すいません。まだ1か月だったんです」
「あら、道草さん、ずいぶんお久しぶりね」
「ああ、悪かったね。心配したかい」
「とっても。もう生きていられないかな、なんて」
「嘘つけ、常務からてんで元気だって聞いたぜ」
「まあ、常務さんったら」
「ところで、この子、紹介してよ」
「だめよ、実はまだハタチになったばかりなんだから」
「声をほそめる位だから、ほんとはいくつ」
「道草さんのタイプだから、危ないななんて思ったんだけれど、ちょっときれいな子だし、逃す手はないなと思って」
「それで採用したってわけ。なるほど僕のために」
「バカみたいよ、道草さん。本気にするなんて」
「いいじゃないか、酔ってんだから」
「なおさら危ない危ない」
「新しいボトル入れるよ」
「それ、私に謝ってるの。それとも初めてのKちゃんのため」
「ケイちゃんって言うの!」
「ケイはアルファベットのKです。よろしくお願いします」
「アルファベットでもなんでもいい、僕はKに縁起がいいんだ」
「この人、口がうまいから気を付けなさいKちゃん」
「あのお、学校の先生なのかなと思って」
「この人、ただのサラリーマンっ」
「ただのって、ママ。俺がどんな仕事してるか知ってんだろうが」
「怒るとね、この人、僕が俺になるのよ」
「はい、いいこと聞きました。でも、ほんとは優しんですよね」
「もちろんだよ、僕は」
「いいのよ、そんなお世辞、言わなくてKちゃん」
「いえ、お世辞ではありません」
「あら、この子ったら、ちょっとっ」
「ママ、いいじゃないか」
「よくなんかないわ。Kちゃん、駄目よ、甘いとこ見せちゃあ。…あらっ、支店長のヤマちゃんが来たわ、Kちゃん、ここたのんだわよ」
「きれいな目、してるねえ、Kちゃん」
「ありがとうございます。お注ぎします」
「こちらこそ、よろしく」
「ママ、忙しくしてますから、ゆっくりしていってください」
「うん、今夜は旨い酒になりそうだな」
「楽しんでください」
「Kちゃんはとてもいい子だ」
「ありがとうございます。いつもママがご指名なんですか」
「どういう訳か、ママがそばに来るんだよ。常務が指名するのさ」
「では、いつもはその常務さんとご一緒なんですか」
「そう、さっき家からの急用で帰ったばかり。取り残されたって訳だけど、よかったな君に会えて」
「そうですね」
「Kちゃんも飲みなさい」
「はい、いただきます」
「若いって、ほんとにいいねぇ」
「そんなに見つめないでくださいっ。恥ずかしいです」
「恋はしてるのか」
「いえ、もうずっと」
「どうして、もったいない」
「何がですか」
「その美しさだよ。美しさと恋は比例しなくちゃ」
「反比例してるんです私」
「それはよくない。体によくないぞ」
「えっ、どうしてですか」
「それはねぇ、Kちゃん…」
「あらっ、道草さんの手って、あったかい」
「体が冷えてるんだよ、やっぱり誰もいないんだ」
「はい、誰も。比例したいな」
「そう、もうすぐ春が来る。恋は季節とも比例するんだ」
「盛りみたい」
「おいおい、すごいこと言うねぇ、Kちゃん。気に入った」
「それでは、こんどから指名してください。お願いします」
「君は頭がいい。僕の言ったことに反対しないで、きちんと自分を売り込んでくる」
「そんなぁ、私、今夜からホステスですから、宜しくお願いしま~すっ」
「してやられたな、君には」
「でも、ここって高いんじゃございません」
「そう、高いみたい。いままで幾らだったかなんて知らないしねぇ。まさか常務の付けで一人で来るわけにもいかないなぁ」
「うまい方法、ないかしらね」
「そうだなぁ」
「ご出世されればいいんですよ、今度は部長でしょ」
「あぁ、来年かな。今のプロジェクトが成功すればねぇ」
「生き残れるかどうかの瀬戸際ってとこですか」
「うん、まぁね」
「勝算はあるんですか」
「まぁね、でなけりゃぁ、やらないよ」
「だったら、大丈夫です。あと半年待って、それまでは常務さんといらっしゃれば」
「なるほど。よしっ、頑張るぞ。Kちゃん、ありがとう、改めて乾杯だ」
「はい、乾杯」
「あらあら、盛り上がってるじゃないですか。お邪魔じゃないかしら」
「ママ、いらっしゃい。kちゃんとの話はもう決まったんだ」
「あらっ、まぁ何がどう決まったのかしら」
「はい、二人の秘密です」
「よーっ、いいぞ、kちゃん。その通りだ」
「あら、Kちゃん、さっき言ったばかりじゃないの、この人の下心、真っ黒なんだから」
「ママ、それはひどいよ、真っ白だぜ」
「そうかしら。それではグレーってことにしておきましょ」
「いえママ、お客さん、グラデーションのちょうど真ん中かもしれませんよ」
「Kちゃん、うまいことを言う。ますます気に入った」
(以上、いつか続く)

ショート・ショート「夢見るアパート」

「夢をもてなくなったら、おしまいよ」
 行きつけのスナックのママに、そんなことを言われた。
「じゃあ、ママはまだ夢があるのかい」
「まだなんて失礼ね。私の夢はひ・み・つ」
 チ・チ・チと、ママは語尾をすぼめるような口ぶりで応えた。
〈俺の夢かぁ……〉
 グラスを傾けながらかしげた。
 たくさんあるはずだった。歴史小説を片っ端から読む。英会話を覚える。ゴルフをもう一度やり直す。料理を覚える。畑をやる。そして何よりも妻と世界遺産の旅に出る。そうやって、妻と残りの人生の生活を楽しむ。そんなはずだった。
 ところが、一緒に定年退職する連中と話すと、誰も皆たいした違いがないのには、一同座がしらけるほどだった。別れ際もさっぱりしたもんだった。あの集まりはいったい何だったのだろう。
「退職したら、この店にも来られなくなるんだろうなぁ」
「そうねぇ、お宅より会社の方がずっと近いしね。いいのよ、無理しなくても。奥様との生活をお楽しみになるんじゃなかったのかしら」
「あぁ、老後のな」
「そんな投げやりな言い方、お体によくありませんよ」
「なんだい、その言い方。年寄りの爺さん呼ばわりじゃないか」
「あらまぁ、自分から言っといて。でも元気が出てきたみたいね。もう少しお飲みになったら」
 ママはそう言ってまだ残りのあるグラスを取り上げ、慣れた手つきで水割りを作り直した。
 そんなふうな時の彼女はまるで未知の化学反応を見つめるような澄んだ眼をした。ちょっと魂を抜かれそうなくらい絵にしておきたくなるようなきれいな仕草だ。でも、それもこれも今夜限りかもしれない。
 新しい水割りができた。手にすると、グラスの中で氷のかけらがコキンと一つ音をたてた。思いあたる節が心にのぼった。
 それは同僚と別れた帰り道に思いついた。誰にも明かさないできたとっておきの夢だ。
それはこうだ。

 まず家を出る。そう、家出だ。
 うむ、少々大袈裟かぁ。正直言えば、まぁ別居だろう。
 娘らはとっくに嫁いでいった。そろそろ家のローンも終わる。女房も昼夜のカルチャー教室で忙しくしている。そこで、退職後は独りアパート暮らしをする。あの若かりし学生時代に戻るのだ。
 本をぜんぶ持って出て行こう。車やパソコンやケータイは手放して自由の身になろう。 不便だろうが、不便こそホンモノの自由なのではないだろうか。晴耕雨読、永年の夢が叶うというものだ。
 それにしても、こうして時には歓楽街に繰り出したりしてはいるが、ほとんど家と会社の往復の変わり映えのしない毎日だった。会社に縛られ、女房に虐げられ、そんな呪縛からもう解き放たれようではないか。そして「町の仙人」なんて町内で噂されたりして、けっこう楽しいかもしれない。

 さて、アパートはどうしよう。
 そうだ、家の近所にしておけば、きっと女房も賛成してくれるだろう。こんど生まれてきたらまた一緒になろうと言っても昔のような返事は返ってこないけれど、時には女房だってアパートを訪ねてきてくれるさ。この辺で彼女と新しい関係を築くのも悪くないだろう。結婚して三十五年。赤い糸が透明になりかけて、ちょっと結び目も緩くなってはいるものの、それは歳を重ねたお互い様。
 一歩外へ出れば、近所の風景も案外と新鮮で違って見えてきたりするのかもしれない。いつかはきっとと思っていた将来はとうに過ぎて去っても、まだ見ぬ未来が町には転がっているに違いない。ゴミ置き場だって今とは違うのだろう。

 そんなことを思いつつグラスを傾けていたら、ボトルの底もあやしくなってきていた。
それに気づいたママの弾んだ声がした。
「ねぇ、新しいの入れても、いいでしょ」
 たちまち妄想が途切れて、正気に戻った。 
 しかし決意はかたい。ボトルよりも新しい自分の誕生だ。今夜はパーティーだぁ。
「いちばん高いやつにしといてくれ」
 不似合いな羽振りのよさに大きな目を輝かせてママが、こう言った。
「これ、夢もいちばん濃いボトルなのよ。がんばりましょ」
 今夜は眠れるのだろうか。得体の知れない自信が湧いてきた。
(おわり)