コラムなタイム -28ページ目

本との気持ち65

蜂谷初男「決定版 日本酒がわかる本」
(ちくま文庫・840円)

 還暦を過ぎ医者の世話になる回数が増えた。その分、外で飲む機会はめっきりと減った。というのも毎月の薬代に小遣いが消えるからである。したがって家で安い普通酒を飲んでいる。燗にしたり冷やにしたり、その日の体調と妻の出す料理でそれは決まる。おかげさまで本物の酒の味が少しは分かるような気がし始めてきた。吟醸酒やら純米酒やら、外では財布も気にせず身の程知らずに店に勧められるまま多くの種類の日本酒をたんまりと飲んできた。それがこのていである。しかし、この程ようやく日本酒についての蘊蓄を勉強する本とめぐり会った。それが「日本酒がわかる本」という文庫本である。
 著者は雑誌編集などクリエイティブな世界で働いた人で、ヨットなどかなりアクティブな趣味の持ち主であるようだ。「酒場放浪記」の吉田類さんが山登りが趣味であるように、ご両人とも体には自信がおありのようで、歳もさして違わない僕からすれば羨ましい限りである。
 さて本のことを話せば、著者独特な辛口の語り口調で日本酒について基本を押さえながらわかりやすく、しかも丁寧に語っている。日本酒は原料の酒米を研いで蒸すことから始まる。その蒸米のデンプンを糖分に変えるために麹が必要で、そこに酵母を加えることによって酒母ができ発酵が起こり醪となり、圧搾や火入れを経て出来上がる。その過程で様々な作業や種類の違いでいろんなお酒の種類が生まれる。とくに麹や酵母造りは発展し、日本酒ブームの誕生に大いに貢献している。また全国の酒米や蔵元の銘酒なども表にして見やすく紹介。前の章で解説したことも必要に応じてまとめ的に書かれており、読んでいて細かい難しい解説を助けていて読みやすい。今日的な吟醸酒一点張りの傾向や酒屋、居酒屋などの売り手にも厳しく対応しながら、本物の日本酒とは何かをどの章でも振り返る姿勢には「決定版」と名付けただけある著者一流のものが感じられる。日本酒の難しい解説を随筆を読むように楽しめるのが、この本の価値を高いものにしている。330ページに及ぶ文庫の手応えもまたそれを感じさせてくれる。この文庫を片手に拾い読みしながらちびりちびりと飲るのも悪くない。蘊蓄を独り言のようにつぶやきながらなのだが……。

決定版 日本酒がわかる本 (ちくま文庫)/蝶谷 初男

¥840
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PressMemo-03

山形新聞2011/02/23夕刊
コラム・気炎「『超』整理法」を読んで

 野口悠紀雄著のベストセラーを引き金に新聞の切り抜きをどう整理したらよいかという話だが、昨今は資料のつもりで残したところで処分されるのがオチ。結局は残すに値しないニュース記事ばかりだからだ。政局しかり、相撲界に至っては一段落したと思ったらこの始末では資料のつもりが何の役にも立たない。歓迎できない記事が目立ってきてならない、というわけだ。
 野口氏は「人の記憶は時間軸に強い」と言っている。僕もファイル名を6桁の数字を頭に付けている。たとえば110223は2011年2月23日というぐあいに。また切り抜きは資料というよりも読む習慣としての手段にしている。だからしばらくして切り抜きがたまったらまとめて捨てている。いろんな書き込みもあるが、その資料的価値を体験的に自覚しておくために一時的に切り抜いて貯めておく。それを習慣化することで新聞記事を目的的に読む自分ができる。どうしてもまた読みたいとなればインターネット検索がある。

PressMemo-02

毎日新聞2011/02/22
高階秀爾「目は語る アート逍遥」要旨

 六本木新国立美術館で開催中の「シュルレアリスム展」を起点に20世紀美術を大きく塗り替えたシュルレアリスムについて論じている。シュルレアリスム直前のフォービスムやキュビスムは色彩、形態、構成などの造形技巧的な表現を追求していた。しかし、シュルレアリスムの運動は人間の心の奥に潜む内的心理を表出することによって、新しい人間像を追求、芸術を通して社会変革を目指した運動であった。ダダのデュシャンは既成概念を打ち破る表現者であったし、エルンストは無意識の世界に自らの表現手法を見出だしていった。そうしたシュルレアリストにジャコメッティもピカソも接近、ゴーキーやポロックなどが誕生した。まさしく現代美術の流れは「めくるめくような」時代の変容そのものであったと言えるだろう。