本との気持ち68
「もし高校野球の女子マネージャーが
ドラッカーの『マネジメント』を読んだら」岩崎夏海
(ダイヤモンド社・1680円)
「経営は顧客管理である」というのがピーター・ドラッカーの理論の大きなテーマだ。では、これを野球というスポーツに置き換えると顧客とは誰のことだろうかという疑問が湧く。
高校野球部マネージャーの川島みなみというヒロインは、たまたまドラッカーの『マネジメント』という本を手にして、顧客とは野球を愛するすべての人であり、マネジメントとは人に感動を与えるにはどうすれば良いかを常に考えること、と理解する。その本から甲子園を目指すヒントをたくさん得ながら練習や戦い方を見い出してゆくストーリーだ。みなみのチームは何度も予選でコールド負けをしていた公立の進学校のチームで、強くなるために現状打破のマーケティングと「ノーバント・ノーボール作戦」などイノベーションを次々と実践。チーム同士の友情の行き違いや小さな事件をいくつも乗り越え、ゲームのクライマックスへと汗と涙の物語が展開する。贅沢を言わなければ多少紋切り型は否めないものの、ラストはライトノベルにはない感動のドラマが待っている。
著者がAKB48をプロデュースしただけあってサービス精神に富み、全体として登場人物たちは皆明るく仲良しの好感の持てるタイプ達だ。概ね毒のないストーリー展開で心地よく読み進むことができる。体育会系の成長物語だが、濃厚なソースのステーキよりも山盛りの爽やかなイタリアン・サラダを食した読後感がある。続編が出れば、またヒロインみなみに会ってみたい。
もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら/岩崎 夏海

¥1,680
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ドラッカーの『マネジメント』を読んだら」岩崎夏海
(ダイヤモンド社・1680円)
「経営は顧客管理である」というのがピーター・ドラッカーの理論の大きなテーマだ。では、これを野球というスポーツに置き換えると顧客とは誰のことだろうかという疑問が湧く。
高校野球部マネージャーの川島みなみというヒロインは、たまたまドラッカーの『マネジメント』という本を手にして、顧客とは野球を愛するすべての人であり、マネジメントとは人に感動を与えるにはどうすれば良いかを常に考えること、と理解する。その本から甲子園を目指すヒントをたくさん得ながら練習や戦い方を見い出してゆくストーリーだ。みなみのチームは何度も予選でコールド負けをしていた公立の進学校のチームで、強くなるために現状打破のマーケティングと「ノーバント・ノーボール作戦」などイノベーションを次々と実践。チーム同士の友情の行き違いや小さな事件をいくつも乗り越え、ゲームのクライマックスへと汗と涙の物語が展開する。贅沢を言わなければ多少紋切り型は否めないものの、ラストはライトノベルにはない感動のドラマが待っている。
著者がAKB48をプロデュースしただけあってサービス精神に富み、全体として登場人物たちは皆明るく仲良しの好感の持てるタイプ達だ。概ね毒のないストーリー展開で心地よく読み進むことができる。体育会系の成長物語だが、濃厚なソースのステーキよりも山盛りの爽やかなイタリアン・サラダを食した読後感がある。続編が出れば、またヒロインみなみに会ってみたい。
もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら/岩崎 夏海

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本との気持ち67
「佳代のキッチン」原 宏一
(祥伝社・1,680円)
もっと他にしなければならないことがあるはずのに、この本をよんでいると、それが無駄には思えない実に心地よい不思議な時間帯に思えてくる小説だった。それは分かりやすいストーリー運びと簡明な文体にあるように思う。材料だけ持ってくれば注文通り料理してくれる厨房屋という仕事を軽ワゴン車で東京の新井薬師から北海道まで東奔西走しながら、幼い頃に消えた両親の行方を追っていくという7つの短編からなる連作小説である。30代に入った活発なヒロインと新聞記者の弟との姉弟愛や、お客は勿論、行き先でのおおむね親切な人々との出来事がストーリーとして展開されている。
しかし、消えた両親の理由が理想郷をめざすコミューンだというところが古めかしく思えた。学生運動のセクト争いで今も狙われているとか、何かの事件で世間の目を憚らなければならなくなり土地を出て行ったとかでは、どうだろうか。また、横須賀で会ったジェイクという米兵の存在が2章で1度きりしか出てこなかったことも両親探しが大骨だっただけにその後のストーリーに生かせなかっただろうかなど、多少の不満が残った。
とは言っても、第一章の毎日キャベツを手にやってくる子供の話はジーンとさせるラストで、2章以下を一気に読ませるよくできたストーリーだったし、お客の注文の料理のレシピも楽しめるというグルメ小説の一面もあるところがよかった。書いたのが男性作家とは思えない女性になり切ったような文章は見事としか言いようがない。清々しい読後感が味わえる一冊だろう。
佳代のキッチン/原 宏一

¥1,680
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(祥伝社・1,680円)
もっと他にしなければならないことがあるはずのに、この本をよんでいると、それが無駄には思えない実に心地よい不思議な時間帯に思えてくる小説だった。それは分かりやすいストーリー運びと簡明な文体にあるように思う。材料だけ持ってくれば注文通り料理してくれる厨房屋という仕事を軽ワゴン車で東京の新井薬師から北海道まで東奔西走しながら、幼い頃に消えた両親の行方を追っていくという7つの短編からなる連作小説である。30代に入った活発なヒロインと新聞記者の弟との姉弟愛や、お客は勿論、行き先でのおおむね親切な人々との出来事がストーリーとして展開されている。
しかし、消えた両親の理由が理想郷をめざすコミューンだというところが古めかしく思えた。学生運動のセクト争いで今も狙われているとか、何かの事件で世間の目を憚らなければならなくなり土地を出て行ったとかでは、どうだろうか。また、横須賀で会ったジェイクという米兵の存在が2章で1度きりしか出てこなかったことも両親探しが大骨だっただけにその後のストーリーに生かせなかっただろうかなど、多少の不満が残った。
とは言っても、第一章の毎日キャベツを手にやってくる子供の話はジーンとさせるラストで、2章以下を一気に読ませるよくできたストーリーだったし、お客の注文の料理のレシピも楽しめるというグルメ小説の一面もあるところがよかった。書いたのが男性作家とは思えない女性になり切ったような文章は見事としか言いようがない。清々しい読後感が味わえる一冊だろう。
佳代のキッチン/原 宏一

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本との気持ち66
「歴史からの発想 停滞と拘束からいかに脱するか」堺屋太一
(日経ビジネス文庫・600円)
タイトルの副題を目指すには「戦国時代」に焦点を当てて考えようというのが筆者の姿勢だ。そこで戦国時代の始まりを告げた事件、応仁の乱から話は始まる。「下克上」による新興土着勢力が幅を利かせ軍事化するとともに豪族化し、彼らは武力と経済力を溜め込んでいく。今日の大企業のエリートではなく、代々親の代から引き継いだ零細企業を大きく発展させたオーナー達のような者だが、時代はやがて自由競争社会のごとく群雄割拠し戦乱にまみれてゆくことになる。イタリア・ルネサンスを始め、中国の農業技術や蒙古のチンギスハンによる戦略など遠大な歴史の動向に目を据え、「戦国時代」はどう誕生し、何を未来に残したか、その意味を考察している。
さて、武将信長、秀吉、家康らの戦術には堅い信念のもと敵の動向を読み取り、いたずらに動じない強さがあった。彼らは戦がそのまま一大プロジェクトであり、兵をどう活かすかが勝敗を決める大きなカギと心得ていた。情報を収集し担当割りをしっかりと作り、そこに確かな部下の忠誠心を見て取る。その心眼が問われるのがトップでなければならない。それが「勝てる組織」であると。そして、中枢の明智光秀や石田三成などナンバー2の存在には権限はあっても権威を与えてはならない。権威はあくまでトップにある。その分け隔てを誤算なく指揮しなければならない。しかし時代は意地悪なものである。集団の中には錯覚する者が現れてくる。それがトップの誤算につながり、ナンバー2の悲劇を招く。
しかし、経済や文化はそんな影できらびやかに花開いた。楽市楽座は歴史上初めての市場経済だったし、外来文化には大いに貪欲であった。鉄砲を使った近代戦が始まったのもこの時代からであった。
今のこの日本を見れば、政権争いとバブル崩壊後の経済状況にあって、人は一応の幸福感を味わってはいる。しかし、先が見えない。それでも同じ繰り返しに終始し、凌いでいる。グローバリズムは人智を越えてゆくだろう。おのずと不安はつのり、世界に哲学は生まれにくくなっている。さまよえる時代へと堕ちていくのだろうか。現代を古典にできない時代の中に我々はいるのだろうか。細かい文脈よりも、いかに今をどうするかを考えさせられる思考の命脈を疼かせる一冊であった。
歴史からの発想―停滞と拘束からいかに脱するか (日経ビジネス人文庫)/堺屋 太一

¥600
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(日経ビジネス文庫・600円)
タイトルの副題を目指すには「戦国時代」に焦点を当てて考えようというのが筆者の姿勢だ。そこで戦国時代の始まりを告げた事件、応仁の乱から話は始まる。「下克上」による新興土着勢力が幅を利かせ軍事化するとともに豪族化し、彼らは武力と経済力を溜め込んでいく。今日の大企業のエリートではなく、代々親の代から引き継いだ零細企業を大きく発展させたオーナー達のような者だが、時代はやがて自由競争社会のごとく群雄割拠し戦乱にまみれてゆくことになる。イタリア・ルネサンスを始め、中国の農業技術や蒙古のチンギスハンによる戦略など遠大な歴史の動向に目を据え、「戦国時代」はどう誕生し、何を未来に残したか、その意味を考察している。
さて、武将信長、秀吉、家康らの戦術には堅い信念のもと敵の動向を読み取り、いたずらに動じない強さがあった。彼らは戦がそのまま一大プロジェクトであり、兵をどう活かすかが勝敗を決める大きなカギと心得ていた。情報を収集し担当割りをしっかりと作り、そこに確かな部下の忠誠心を見て取る。その心眼が問われるのがトップでなければならない。それが「勝てる組織」であると。そして、中枢の明智光秀や石田三成などナンバー2の存在には権限はあっても権威を与えてはならない。権威はあくまでトップにある。その分け隔てを誤算なく指揮しなければならない。しかし時代は意地悪なものである。集団の中には錯覚する者が現れてくる。それがトップの誤算につながり、ナンバー2の悲劇を招く。
しかし、経済や文化はそんな影できらびやかに花開いた。楽市楽座は歴史上初めての市場経済だったし、外来文化には大いに貪欲であった。鉄砲を使った近代戦が始まったのもこの時代からであった。
今のこの日本を見れば、政権争いとバブル崩壊後の経済状況にあって、人は一応の幸福感を味わってはいる。しかし、先が見えない。それでも同じ繰り返しに終始し、凌いでいる。グローバリズムは人智を越えてゆくだろう。おのずと不安はつのり、世界に哲学は生まれにくくなっている。さまよえる時代へと堕ちていくのだろうか。現代を古典にできない時代の中に我々はいるのだろうか。細かい文脈よりも、いかに今をどうするかを考えさせられる思考の命脈を疼かせる一冊であった。
歴史からの発想―停滞と拘束からいかに脱するか (日経ビジネス人文庫)/堺屋 太一

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