こんにちは。

 

先月のことになりますが、シアターコクーンが海外の才能と出会い、新たな視点で挑む演劇シリーズ」DISCOVER WORLD THEATREの第5弾『罪と罰』を友人と観たので、今日はその感想を書いておきます。

 

2015年、シアターコクーンプロデュース公演『地獄のオルフェウス』で日本での演出家デビューを飾り、2017年12月にはテネシー・ウィリアムズの傑作『欲望という名の電車』に挑み、大竹しのぶさんをはじめとするキャスト陣の熱演を導きだし、日本での評価を高めた?気鋭の英国人演出家、フィリップ・ブリーンの演出でした。

 

僕は2017年の『欲望という名の電車』を観ていますから、フィリップ・ブリーンの演出作品は2度目です。

 

戯曲はフィリップ・ブリーン自身が2016年にLAMDA(ロンドン・アカデミー・オブ・ミュージック・アンド・ドラマティック・アート)に書き下ろしたものをベースに、日本公演のために再構築したものだそうです。

 

それを翻訳されたのは、劇作家、脚本家、舞台演出家である木内宏昌さん。2014年(平成26年)に、『おそるべき親たち』『TRIBES/トライブス』を対象作として第7回小田島雄志・翻訳戯曲賞受賞された方です。

 

2016年(平成28年)に観た、チェーホフ作『かもめ』、熊林弘高さん演出、満島ひかりさん、坂口健太郎さん、田中圭さん、中嶋朋子さん、佐藤オリエさん、他出演の翻訳をされていましたね。

 

ロシアの小説家、思想家でもある、レフ・トルストイ、イワン・ツルゲーネフと並び、ロシアを代表する文豪フョードル・ドストエフスキーが1866年に発表した『罪と罰』が原作です。

 

哲学的な思索、社会に対する反動的な見地と政治思想、宗教感を織り交ぜながら、当時のロシアでの民衆の生活状況を描きつつ、殺人者の倒錯した精神に入り込んだ心理描写など読み応え満載の作品と言われています。

 

ドストエフスキー作品の多くは、革命的思想を宿したものが多かったため、1924年から1953年のスターリン体制下においてほとんどの作品が発禁処分を受けましたが、理論物理学者アインシュタインや精神分析学者フロイトなど、文学者以外の著名人からも高く評価されていて、日本でも黒澤明監督、漫画家の手塚治虫さん、小説家の村上春樹さんらが影響を受けているそうですね。

 

黒澤明監督は、ドストエフスキーの小説 『白痴』を原作とし、舞台を昭和20年代の札幌に置き換えて1951年(昭和26年)に映画化していますし、手塚治虫さんは、結末はドストエフスキーの原作小説とはまったく違うものになっていますが、1953年(昭和28年)に漫画化していますし、村上春樹さんは、これまでの人生で巡り会ったもっとも重要な本の一冊にドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』をあげてらっしゃいます。村上さんの書かれた小説『1Q84』は多分にドストエフスキーの影響を受けていると言われています。

 

僕も幼い頃から本好きでしたし、今までたくさんの本を読んできたという自負も少しはありますが、ドストエフスキーは手に取ることはありませんでした。

 

『罪と罰』というタイトルはとても印象的で、有名ですし、読んだ方がいいんだろうなぁ〜と思いつつ今になってしまいました(笑)。

 

でもロシア文学を敬遠していた訳ではないんですよ〜。

 

僕が初めてロシア文学に触れたのは、イワン・ツルゲーネフの『初恋』という作品でした。何故この本を読もうと思ったか? それは幼い頃に読んだ原作・梶原一騎さん、作画・ながやす巧さんによる漫画『愛と誠』に登場する、舞台となる花園実業という学園を支配する影の大番長・高原由紀がいつも読んでいる本が『初恋』だったからです!(笑)。

 

その本にはある秘密があったのですが、それは置いといて(笑)。

 

そうやって、子供の興味って広がっていくんですよね〜。

 

それから、僕は映画好きですから、高校生の頃、キング・ヴィダー監督、オードリー・ヘプバーン主演の『戦争と平和(1956年)』やジュリアン・デュヴィヴィエ監督、ヴィヴィアン・リー主演の『アンナ・カレーニナ』を観て、レフ・トルストイの原作も読みましたし、ロシア革命の混乱に翻弄される、主人公で医師のユーリー・ジバゴと恋人ラーラの運命を描いたボリス・パステルナーク原作、デヴィッド・リーン監督の『ドクトル・ジバゴ』は僕が愛してやまない映画の一つですし、ロシアの歴史と文化には今でもとても興味を持っていますから。

 

1965年から1967年にかけて公開された、監督・脚本・主演セルゲーイ・ボンダルチュークの『戦争と平和』もモスクワ国際映画祭最優秀作品賞をはじめ、第41回米国アカデミー賞外国語映画賞など、様々な映画賞を受賞している名作です。6時間半を超す超大作です!おすすめですよ。

 

池田理代子さんが書かれた、20世紀初頭のヨーロッパを背景に、第一次世界大戦やロシア革命といった史実を織り交ぜて、ドイツ・レーゲンスブルクの音楽学校で出会った3人の若者の運命を描いた長編漫画『オルフェウスの窓』や豪華絢爛なロマノフ王朝に潜む愛欲と権勢、策謀を描いた『女帝エカテリーナ』も未だに心に残っている作品ですし…。

 

以前、前世が見えるという方に「あなたの前世は…ストイックなロシアの宣教師です!」なんて言われた僕ですし(笑)、父の祖先は九州の出でロシア正教を信仰していましたし、実家にはイコン画もありましたから、ロシアとは何かしら因縁があるのでしょうかね〜。

 

まっどうでもいい話はこの辺で(笑)。

 

ロシア文学は長いとよく言われますよね。でも僕はそんな風には思っていませんでしたが、ドストエフスキーだけは手付かずでした。ちょっと後悔。

 

なので今回の観劇は真っさらの状態で観させていただきました。

 

『罪と罰』はこんな物語です。

帝政ロシアの首都、夏のサンクトペテルブルクが舞台です。学費滞納のため大学から除籍された貧乏青年ラスコーリニコフ(三浦春馬さん)は、それでも自分は一般人とは異なる「選ばれた非凡人」との意識を持っていました。

 

その立場なら「新たな世の中の成長」のためなら一般人の道徳に反してもいいとの考えから、悪名高い高利貸しの老婆アリョーナ(立石凉子さん)を殺害し、その金を社会のために役立てる計画を立てるのです。アリョーナから金を借り、その金を貧乏なため娘が娼婦になったと管を巻く酔っ払いのマルメラードフ(冨岡弘さん)に与えた翌日、かねてからの計画どおりアリョーナを斧で殺害し、さらに金を奪おうとします。しかし、その最中にアリョーナの妹が訪ねてきたので、勢いで妹も殺してしまうのです。

 

この日からラスコーリニコフは、罪の意識、幻覚、自白の衝動などに苦しむこととなります。翌朝、ラスコーリニコフの元に下宿の女中が、「警察に出頭せよ」との命令書を持ってきます。慄きながら出頭するとと借金の返済の督促でしたが、刑事達から昨夜の老婆殺しの話を聞いてラスコーリニコフは失神してしまいます。

 

様子が変だと思った友人のラズミーヒン(松田慎也さん)が、ラスコーリニコフを訪問してきたところに、母(立石凉子さん二役)から手紙で知らされていた妹ドゥーニャ(南沢奈央さん)の婚約者のルージン(瑞木健太郎さん)が現れます。成金のルージンを胡散臭く思ったラスコーリニコフは、これを追い出します。そんなとき、ラスコーリニコフは、マルメラードフが馬車に轢かれたところに出くわすのです。介抱の甲斐なく、マルメラードフは死んでしまいます。マルメラードフの家にお金を置いて下宿に戻ると、郷里から母と妹のドゥーニャが来ていました。ラスコーリニコフは、罪の意識のためにその場に倒れてしまいます。

 

母は、息子の無礼にルージンが怒っていることを心配していました。金持ちのルージンが一家の貧窮を救うと期待していたからです。予審判事のポルフィーリ(勝村政信さん)は、ラスコーリニコフが2ヶ月前雑誌に発表した論文の「選ばれた未来の支配者たる者は古い法を乗り越えることができる」というくだりは殺人の肯定であり、あなたはそれを実行したのではないかと探りを入れて来ます。

 

なんとかポルフィーリの追及をかわしたラスコーリニコフでしたが、下宿の前で見知らぬ男から「人殺し」と言われ立ちすくむのです。しかし「人殺し」という言葉は幻覚で、見知らぬ男はラスコーリニコフに用があっただけでした。

 

スヴィドリガイロフ(山路和弘さん)と名乗ったその男はドゥーニャが目当てで、ルージンとドゥーニャの結婚を一緒につぶそうと持ちかけてきます。ラスコーリニコフはこれを追い返しますが、図らずともルージンは自らの恩着せがましさがばれてしまったために、ドゥーニャとの結婚は破談となるのです。

 

ラスコーリニコフはマルメラードフの娘で娼婦であるソーニャ(大島優子さん)のところへ行き、聖書の朗読を頼んだり君と僕は同類だと言って、ソーニャを不安がらせます。そして、再びポルフィーリと対決しますが、その横で事件当日そこにいたペンキ屋が、自分が犯人だとわめき出したので、驚きながらも解放されるのです。

 

ソーニャはマルメラードフの葬式後の会食で、同じアパートに逗留していたルージンの策略により、金銭泥棒に陥れられます。周囲の証言によりルージンの狂言であることがわかるのですが、傷ついたソーニャはその場を飛び出して帰宅してしまいます。

 

ラスコーリニコフは彼女を追いかけ、ついに彼女の部屋で殺人の罪を告白するのです。しかし、隣の部屋に居たスヴィドリガイロフが薄い壁を通して会話を聞いていたのでした。

 

ポルフィーリが3度現れてペンキ屋でなくお前が犯人だと主張し、罪が軽くなるので自首することを勧めます。一方、スヴィドリガイロフはラスコーリニコフの犯罪をネタに、ドゥーニャに結婚を迫っていました。ドゥーニャはスヴィドリガイロフのところへと現われますが、結局結婚を拒絶したのでスヴィドリガイロフは有り金を周囲に渡したり、おごったりしたあと自殺してしまうのです。

 

とうとう罪の意識に耐えられなくなったラスコーリニコフは、母に別れを告げます。何か恐ろしいことが起こった事だけを母は悟ります。妹のドゥーニャはすべてを知っていました。ラスコーリニコフは自殺を考えていましたが、ソーニャの力を借りてついに自首するのです。

 

ラスコーリニコフへの罰は、それまでの善行や自首したこと、取り調べの際の態度などを考慮し、シベリア流刑8年という寛大な刑罰になります。ラスコーリニコフを追ってソーニャもシベリアに移住し、ラスコーリニコフを見守ると決めるのです。そのことを知ったラスコーリニコフはソーニャへの愛を確信するのでした…。

 

『罪と罰』という小説は、貧しく、頭脳明晰な元大学生ラスコーリニコフが、「一つの微細な罪悪は百の善行に償われる」「選ばれた非凡人は、新たな世の中の成長のためなら、社会道徳を踏み外す権利を持つ」という独自の犯罪理論をもとに、金貸しの強欲で狡猾な老婆を殺害し、奪った金で世の中のために善行をしようと企てますが、殺害の現場に偶然居合わせたその妹まで殺害してしまったがために、罪の意識が増長し、苦悩する姿を通して、貧困に喘ぐ民衆、有神論と無神論の対決などの普遍的かつ哲学的なテーマを扱い、現実と理想との乖離や論理の矛盾・崩壊などを描いた作品と言われています。

 

こう書くと、難しい物語と思いますけど…そんなことないですよ〜。

 

最後には、ラスコーリニコフは自分よりも惨憺たる生活を送る娼婦ソーニャの、家族のためにつくす徹底された自己犠牲の生き方に心をうたれ、自首を決心します。人間回復への強烈な願望を訴えたヒューマニズムが描かれた小説であるとも言われています。

 

さてさて、観た感想ですけれど…。

 

『罪と罰』は、ミステリー、サスペンス、ラブロマンス小説とも思えますし、哲学的だし、家族への愛、神への深い信仰心なども感じられ、様々な要素が1つになって展開される、20世紀を代表する世界文学の傑作なんだとは思いましたが…

しかし、この舞台を観て、そこまで深い物語には感じられませんでした〜。

 

ラスコーリニコフは自分が犯した罪にどのように対峙したのか?

 

その答えは僕には最後まで見えませんでした。

 

上に書いたあらすじを、ただ奇抜なセット美術の中でなぞっているだけのようで、登場人物たちが抱えている心情が僕には伝わってこなかったですね〜。

 

ラスコーリニコフを演じた、三浦春馬さん。熱演でしたよ〜。役柄の為にダイエットをされたんでしょうね。一瞬、幽鬼が漂うような瞬間もあり、目が離せませんでしたが、セリフが多くて可哀想でした。

 

カットを積み重ねる、映像作品ならわかるんです。

 

舞台の台詞としては、原作があるとしても、もう少し簡潔に観客に届く言葉として脚本は書かれるべきだと思います。

 

僕が観たのは、幕が開いてまだ間がなかったですし、セリフが言葉になっていない所もありましたし。台詞を言うだけで精一杯にどうしても見えてしまいます。

 

台詞を聞かされているだけのようで…

 

ラスコーリニコフは、学費滞納のため大学から除籍された貧乏青年です。それでも自分は一般人とは異なる「選ばれた非凡人」との意識を持っている青年です。貧乏だからといってあの浮浪者のようなスタイルはどうなんでしょう…。

 

ラスコーリニコフは、犯行前からもともと神経が弱っていたようですが、犯行後は完全に神経が衰弱した状態になります。友人の医師や学友・ラズミーヒンが手厚く看病にあたりますが、譫妄状態になり、老婆殺しの事件の噂や「血」という言葉を聞いて、興奮状態におちいり、何度か失神し気を失うのですが、そのシーンがなんだかコミカルに演出されていて、その度に舞台が暗転するんです。

 

その演出意図も僕は良く分からなかったんですけれど…。

 

演出のトーンが一貫してないように感じましたね〜。

 

ラスコーリニコフが金貸しの強欲な老婆を殺害するシーンにしても、それを決心するまでの彼の心の葛藤や苦悩がサラリとしていて物足りないし。

 

この物語のもう一人の重要なキャラクター、娼婦ソーニャを演じたのは、大島優子さん。

 

罪を犯したラスコーリニコフの心を改心させ、自首をさせる大切な役柄です。

 

ソーニャは家族を飢餓から救うため、売春婦となり、世間から冷たい目で見られ、虐げられても信仰によって清らかな心を持ち続ける聖母のような女性として原作では描かれているようです。

 

しかし、この舞台を観て、彼女がそう言う女性だと分かります? 疑問です〜。出番も台詞も少ないし…

 

ただ舞台の上をチョコチョコ走り回っているだけのような…。

 

これは大島さんを悪くいっているのではないのです。こんな描き方、演出でいいんですかと言いたいのです。

 

僕は原作を読んでいないので、よく分からないのですが、読んだ方に聞きたいなぁ〜。これで納得できましたか?

 

ラスコーリニコフを心理的証拠だけで追い詰める予審判事、ポルフィーリーを演じたのは、勝村政信さん。

 

勝村さんのラスコーリニコフに対する尋問の仕方が誰かに似ているなあと思ったら、名優、小池朝雄さんの吹き替えでおなじみのピーター・フォーク主演の『刑事コロンボ』でした。『刑事コロンボ』の製作スタッフはこのポルフィーリーのキャラクターを参考にしたらしいですね。

 

だからと言って『刑事コロンボ』風にしなくても…。

 

それを知った勝村さんが演技に取り入れたんでしょうが、そのシーンになると客席から外国人の笑い声が聞こえたのです。あとでその方が演出家のフィリップ・ブリーンだと分かるのですが、楽屋受けのようで白けました。

 

なんだか、不満や愚痴のような感想になってしまったことが、僕としては悔しいですね〜。

 

ラストシーンのビジュアルは、磔刑にあったイエス・キリストのようで美しかったです。ここだけは褒めておきましょう。三浦春馬さんの肉体も眼福でした(笑)。

 

麻実れいさんのキャラクターも、もっと上手く描けなかったのかなぁ〜。ファンとしては残念です。

 

最後に客席から、演出家自らスタンディングを促すようなことはどうなんでしょうか。観客の皆さんが立ち上がるから、僕も仕方なく立ち上がりましたが、本心ではないですからね〜。悪しからず(笑)。

 

ちょっと偉そうに聞こえるかもしれませんが、もっと、俳優さんたちの熱い演技のぶつかり合いを、掬い上げてくれる演出家に演出してもらいたかったです。

 

5月にWOWOWで中継が放送されるようです。

もう一度、確認してみよっ〜と。

 

最後に、ドストエフスキーが残した格言で、僕が好きな言葉を書いておきます。

 

人は笑い方でわかる。

知らない人に初めて会って、

その笑顔が気持ちよかったら、

それはいい人間と思ってさしつかえない。

 

僕もそう思ってもらえる人間になりたいですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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