漁師町と温泉街の雰囲気が交差する稲取温泉。日本一の呼び声が高い稲取キンメがいただけます。稲取温泉は伊豆半島からさらに突き出たミニ半島にある相模湾に向けて開けた港町、路地が迷路のように入り組んでいます。そこに迷いこむのが楽しく、路地の先に突如、稲取の総鎮守。八幡社が現れたり、海が見え潮の香りがしてきたりとワクワクさせてくれます。温泉とキンメダイで有名なこの町にはもう一つ素晴らしい宝物があります。雛のつるし飾りで福岡県柳川の「さげもん」山形県酒田の「傘福」と並び日本三大つるし飾りのひとつです。
生まれた赤ちゃんの健やかな成長を願い、赤いひもに、着物地の端切れで作った色とりどりの飾り物が華やかに揺れる、この節句飾りは、稲取の庶民の間で江戸時代から作られてきたといい稲取が発祥の地といわれています。ここ稲取では平成10年から毎年「雛のつるし飾りまつり」が開かれています。会場は全部で4カ所で「文化公園 雛の館」「雛の館 むかい庵」をメイン会場に「収穫体験農園 ふたつぼり」「なぶらとと」でつるし雛を展示しています。
訪れたのは「なぶらとと」で商店街の方たちによるつるし飾りを展示しています。布で手づくりした細工ものを竹輪に奇数になるように赤い紐でつり下げ、雛段の両側に天井から飾ります。一つ一つ全てに謂われがあり、厄を除け幸せを祈り無病息災、良縁を願うものです。
語呂合わせや言い伝えがもとになっていて、例えば桃は延命長寿と多産の象徴、サルは厄や難が去るという掛け言葉、巾着はお金に困らないようにとの意味です。もちろんおめでたいまっ赤なキンメダイの飾りもあります。運に恵まれ幸多い人生が送れるようにと心をこめて母や祖母の手で一針一針縫われてきた愛と招福の形です。
昔の飾りは素朴ながら味があって、忙しさの合間に針をとる、母の思いが伝わってくるようです。
圧巻なのは「三嶋神社」「素盞鳴神社雛段飾り」。鳥居から続く118段の石段に雛人形が海を見下ろして並び、つるし飾りが風に揺れています。雛に木漏れ日が落ち、鳥のさえずりも聞こえて、そこだけ別世界のようです。
射的など昔懐かしい店も残る温泉街、漁港や遠く大島を望む海沿いの道など、雛巡りの道々も楽しいのですがお目当ては稲取名物のキンメダイです。稲取のキンメは餌の大い近場の漁場で取り、早朝に漁に出て、素の日に市に出すから脂も乗って新鮮なのです。大型で、名前の通り目がキラキラと金色に光っています。
目の前が海。まるで船の形のようなお店「きんめ処 なぶらとと」できんめ鯛どんぶり(2646円)をいただきます。稲取キンメ鯛の「刺身」「たたき」「なめろう」がいっぺんに楽しめる丼です。
どうしてもキンメの煮つけを食べたく一品料理でいただきました。