ナオキは、体勢を整えた。
最初に前に出たのは、マグマラシだった。
「さあ、かかってきな!貴様のくだらない野望が潰えた事に対する私への八つ当たりなんだろうけど、そんな理由ごときじゃ私には勝てないよ!」
ナオキは、一触即発のような中にいるアカギをさらに挑発するように言った。
その言動は、ナオキが余裕を持っているからのように思えたが、ナオキはそれとは別の雰囲気を醸し出しているようだった。
アカギは、それに即答するように言った。
「それならば、容赦なくいかせてもらう!ゆけ、マニューラ!」
アカギが最初に繰り出したのは、頭部に扇子のようなものがつき、かぎつめがさらに鋭くなったポケモンだった。
名前からして、ニューラの進化系なのだろう。
「いくぞ!」
トバリ以来のナオキとアカギの戦いが始まった。
先手を取ったのは、マニューラだった。
「マニューラ、『つじぎり』!」
アカギの一声と共に、マニューラが飛びかかった。
「マグマラシ、『火炎放射』!」
マニューラの素早さに対抗する形で、マグマラシも応戦した。
バッ!
マニューラは、火炎放射をひらりとかわした。
「!」
マグマラシが避けられた事に怯んだ瞬間、マニューラが飛びかかった。
「く…」
マグマラシは、どうにか防御しようとした。
その時…
シュバッ!
マニューラは、マグマラシを避けるように飛びかかっていった。
「…なんだ、アイツ…?勢いがつきすぎて外したのか…?」
マグマラシは、マニューラの行いに懐疑を抱いた。
今の状態なら、マグマラシに攻撃を直に当てる事は普通に出来ていた。
それなのに、命中率が100%である技を外すなんて…
その時、マグマラシの中で一筋の不安がよぎった。
「…やべえ!アイツの狙いは…」
マグマラシは、咄嗟にマニューラの飛びかかった方を振り返った。
その瞬間、マグマラシの不安が的中したように、マグマラシは慌てた。
「ナオキの方だ!」
マニューラが飛びかかったのは、マグマラシの後ろにいたナオキの方だった。
マグマラシが振り返った時、既にナオキにマニューラのかぎつめが襲いかかっていた。
ザシュ!!
マニューラのかぎつめがナオキを襲った。
「ぐあっ…!!」
マニューラの斬撃をくらったナオキは、その勢いで遠くに飛ばされた。
ズザザザザザ…
飛ばされたナオキは、地面に叩きつけられ、その勢いで地面に引きずられた。
「あの野郎!トレーナーを直に狙いやがった!」
ムクホークが言った。
「ナオキ!」
マグマラシは、ナオキのもとに駆け寄った。
「ぐ…」
ナオキは、体を持ち上げるように立ち上がった。
「大丈夫か、ナオキ!?」
マグマラシは、心配そうにナオキに言った。
「マグマラシ…私なら大丈夫だよ。君が咄嗟に判断してくれなかったら、直撃してたよ。」
ナオキは、マニューラに切り裂かれる前に、トライス・ソードを引き抜き、咄嗟に防御していた。
直に切り裂かれるのは免れたものの、それなりの威力はあったようで、切り裂き傷があり、遠くに飛ばされた事で多少のダメージを受けた。
ナオキは、体を持ち上げるように立ち上がった。
「思った通り、奴は野望を砕かれた事に対する私への憎しみと怒りによって、完全に私を直にたたきのめそうとしている。あの様子からすれば、私をポケモンバトルで負かすだけじゃ済まされないのは明らか…下手すれば…いや、負ければ確実に殺されるかもしれないね。」
ナオキの見る先には、野望を『あかいくさり』と共に打ち砕かれた事により、今までとは真逆の、むしろ今までにないような形相でナオキを見るアカギの姿があった。
その感情を殺したとは思えない、怒りと憎悪に満ちた表情は今までにない殺気を漂わせていた。
今のアカギは、例え人間相手であろうと容赦しないと言っていいであろう。
ましてや、ポケモンと同じ立場で戦うナオキならなおさらである。
「でも、その心配はないよ。」
「?」
明らかに危険な状況でありながら、ナオキが意外な事を言ったのに対して、マグマラシ達はきょとんとした。
ナオキは言った。
「奴がああいう状態であるなら、その時点で確信したんだ。『私達の勝ち』だってね!」
「…!」
マグマラシは、ナオキの言った事に『そういう事か!』というような反応をした。
どうやら、マグマラシにはナオキがそう確信した理由がすぐにわかったようだ。
ナオキは、体制を立て直し、アカギの方を向いた。
「私がポケモンと同じ立場で戦ってる事を間に受けてたとはね。どうやら、この戦い、ただのポケモンバトルとして受け止めちゃいけなさそうだ。」
「ふん、言ったはずだ。私の野望を邪魔した以上、例え人間であれど容赦はしない。もう二度と邪魔をされないよう、ポケモンバトルで叩きのめすだけに限らず、おまえの全てを排除してやる!!」
アカギの言動は、ナオキがあの時挑発した以上の殺気に満ちていた。
ナオキがポケモンと同じ立場で戦う存在である以上、それを理屈にナオキを直に狙い、そして排除する事はもはや確信以外ないわけだ。
命を狙われているに等しい中にいながら、それでもナオキは冷静な様子でいた。
「言ってくれるね。逆恨みも甚だしいったらないよ。」
ナオキは、トライス・ソードを構え、マグマラシの側に行った。
「貴様がそうくるならば、私もそれなりの対処をさせてもらうよ。」
アカギは、ナオキ本人が参戦する形で対処すると思ったらしく、さっきより緩くなったような口調で言った。
「ふん、ならばいくぞ。マニューラ、再び『つじぎり』だ!」
アカギの指示と同時にマニューラは再び飛びかかった。
案の定、狙いはナオキの方だった。
今度は先を読んだように、ナオキはトライス・ソードで防御した。
しかし、アカギの指示なのか、マニューラの性格によるものなのか、その後もマニューラのナオキに対する攻撃は続いた。
その度に、ナオキはトライス・ソードで攻撃を防ぎつつ、マグマラシに指示をした。
「今だよマグマラシ!」
ナオキがそう言うと、マグマラシはマニューラに向けて『火炎放射』をぶつけた。
マニューラは、それを間一髪でひらりとかわした。
「私ばかりを狙っていていいのかな?私を狙ったところでマグマラシの格好の餌食になるだけだよ!」
ナオキは、アカギを挑発するように言った。
その挑発をしている言動は、ナオキがそれだけ余裕を持っているように思えるようなものだった。
しかし、一概に、むしろひそかにそうとは言えないような感じのあるようだった。
というのも、ナオキは『ナオキを直に狙ってくる事に対する防御』はしているものの、『ナオキ自身が反撃をする』事はしていなかったからだ。
いつものナオキならば、防御に徹する事はなく、防御と共に攻撃に転じる戦い方をするものだった。
しかし、今のナオキは明らかに攻撃を防いでばかりいる、というよりもむしろ、防御しか出来ないような様子だった。
その様子からアカギは察した。
「ふん、どうやらポケモンに命令できないほど防戦一方のようだな。ならば…」
そう言うと、アカギはもう一つボールを取り出した。
「ゆけ、ギャラドス!」
アカギは、取り出したボールを投げ、新たなポケモンを繰り出した。
「! あいつ、ナオキが満足に戦えないのをいい事にさらにポケモンを追加してダメ出ししやがった!」
ムクホークは、アカギの考えを察したように反応して言った。
「まずいな…ただでさえナオキが常に狙われてるのに、そんな中でさらにそれをしてくる奴を加えてくるなんて…」
レントラーは、額に汗をかきながら言った。
今の状況は、紛れもなくナオキが追い詰められている中で、さらにダメ押しを加えた状況だった。
ディアルガを助けるための戦いの影響で満足に戦えず、常に自身が直に狙われる中で、その相手がさらに加わった状況…
誰がどう見てもナオキが不利である以外の何ものでもない状況である事だけは確かだった。
ナオキ側に緊迫した空気が漂う。
その状況の中、ナオキは言った。
「…好都合だ。」
そう言うと、ナオキはトライス・ソードを構えた。
その構え方は、さっきまでの防御に徹した構えではなく、むしろ、防御をやめたような両手を下に下げた体勢だった。
アカギは、ナオキの状態を察したように言った。
「どうやら、自らの身を守るのに精一杯な状態が続いて体力の限界がきたようだな。」
アカギは、マニューラとギャラドスをダブルバトルの配置のようにその場に集めた。
「せめて最後は仲間と共に始末してやる。」
そう言って、アカギは二匹に言った。
「ゆけ、マニューラ、ギャラドス!奴らにとどめをさせ!」
アカギの指示と共に二匹は同時にナオキとマグマラシに向けて飛びかかった。
お互いピクリとも動かない状態のナオキとマグマラシに、二匹の攻撃が容赦なく襲い掛かった。
その瞬間…
シュバッ!
「!?」
アカギは、目の前の目の当たりにした光景に一瞬動揺した。
さっきまで防戦一方のような状態だったはずのナオキとマグマラシが、さっきまでとは打って変わるような形で二匹の攻撃をひらりとかわしたのだ。
二人は息が合うように、同時に着地した。
それと共に、ナオキとマグマラシは共に攻撃体勢になった。
目の前の光景に動揺しながらも、アカギはどうにか体勢を整えようとした。
「くっ…おのれ…偶然かわせたからと言っていい気になるな!」
アカギは、二匹に再びナオキを狙うのを命令して攻め続けた。
しかし、二人はさっきとは真逆のように二匹の攻撃をかわした。
それだけではない。
「くらえ、『ライトニング・スラッシュ』!」
「隙だらけだぜ!『火炎車』!!」
ナオキとマグマラシは、息を合わせるように同時に攻撃をぶつけた。
二人の攻撃は、アカギのポケモンに同時に直撃した。
「な…なんだと…」
アカギは、再び動揺した様子でその光景を見ていた。
さっきまで仲間でさえもそうとしか思えないほど、ナオキは追い詰められていたはず…
しかし、アカギがもう一匹のポケモンを出した瞬間、あたかもそれがスイッチになったかのように流れが変わった。
その瞬間、ナオキは急に調子を取り戻したかのように、今度はアカギ側が防戦一方になるような形で一気に攻めだした。
ナオキとマグマラシの攻めのラッシュは、止まらなかった。
アカギも負けじと反撃したが、その度に今度は余裕であるかのように防がれ、同時に反撃をくらわされた。
アカギが今の状況をとらえきれないうちに、ナオキとマグマラシは同時に飛びかかった。
「とどめだ!『ライトニング・グランドクロス』!!」
「オレもいくぜ!オリジナル技、『シール・メテオ・フレア』!!」
ナオキは、トライス・ソードを交差して振り下ろした。
その瞬間、大きなクロスの形をした雷が放たれ、ギャラドスに襲い掛かった。
マグマラシは、全身を炎のオーラが包み込み、その瞬間『ふんか』を発動したように、マグマラシの額から大きな炎の塊が柱を描くように空に放たれた。
炎の柱が空に吸い込まれるように飛んでいくと、その場所が真っ赤に染まり、その瞬間空から流星群のように無数の矢のような形をした炎の塊が降り注ぎ、マニューラを襲った。
バリィィィィィ!!
ドドドドドドドドドド!!
「ぎゃああああああああああ!!」
ただでさえ効果抜群の電気技を、今までの電気を遥かに超える高電圧でくらったギャラドスは大きな声をあげた。
マニューラは、もはやかわせる場所もない中で無数に降り注ぐ炎の矢をあび、大声をあげた。
全ては一瞬だった。
電気がおさまり、降り注ぐ炎の矢が止んだ時、そこにあったのは、戦闘不能となって倒れているアカギのポケモンと、アカギの方を向く形でたたずんでいるナオキとマグマラシの姿だった。
「バ…バカな…」
アカギはいまだに目の前の光景が信じられないでいた。
戦いが始まった当初から戦いは間違いなくこちらが優勢だった。
実際ナオキもマグマラシも満足に戦えている状態じゃないのは明らかだった。
それなのに、なぜ…
すると、その事を察したかのようにナオキが言った。
「どうやら戸惑っているようだね。私が普通に戦えた事に。」
「!」
ナオキに自らの考えを見透かされた事に気づいたアカギは、思わずピクリと反応した。
ナオキは、アカギに言った。
「あの時、私はそれなりに普通に戦う事は出来ていたけど、貴様が1対1で戦う事にしていたから例え私が狙われる事になっても、あえて私は戦わなかったのさ。」
「!」
ナオキの意外な一言に、アカギは隠せない動揺をあらわにした。
「私がマグマラシ一人に対して、貴様もマニューラ一匹を考えたら、いくら私が狙われる形とはいえ、2対1で戦うのは、割に合わないだろうと思って、あえて貴様からの攻撃を防ぐ事だけにしていたのさ。それをわざわざ2対2にしてくれたのは、これで心置きなく私自身も戦える事になったからまさしく好都合だったよ。」
アカギは、ナオキが言った事にさらに動揺した。
アカギは、あの時のナオキの防戦一方な状態からもうまともに戦えないと思っていたが、それは勘違いだった。
ナオキは戦いが始まった時から、ひそかに余裕を見せていたのだ。
最初の不意打ちは仕方ないが、それ以降はとある理由を背景に、ナオキは常に冷静な判断をしつつ、1対1の戦いをあくまで守る形で防戦一方のような戦い方をしていたのだ。
アカギがそれをナオキがもう戦えない状態にあると勘違いするのを計算に入れていたのは定かではないが、さっきまでの状態は完全にナオキが余裕を持った中で自らのペースに乗せていたのだった。
その時…
「ぐ…」
マグマラシが体勢を崩した。
「マグマラシ!」
ナオキは、マグマラシの方を向いた。
「すまねえ、ナオキ…どうにか戦えたけど、もうオレには立つ事が精一杯みてえだ…」
マグマラシは、立つ事までは出来たが、もう戦う事が出来る状態じゃないとナオキは一目でわかった。
(私は防御だけをしていたからそれなりに体力は温存出来たけど、それまではマグマラシにずっと戦ってもらってたからな…倒せたまではよかったけど、マグマラシに予想以上の負担を強いてしまったか…)
その様子を察したように、アカギは冷静な様子で言った。
「安心するのはまだ早いのではないのかね?わたしのポケモンはまだいるぞ。」
そう言うと、アカギは二匹のポケモンを繰り出してきた。
一匹は、まるで親分のような姿をしたカラスのポケモン、もう一匹はナオキがジョウト地方で見た事があるコウモリポケモンのクロバットだった。
前者はおそらくヤミカラスから進化したポケモンなのだろう。
(マニューラといい、今のポケモンといい…さっきまで進化していなかったポケモンをこんな短期間で進化させるとは…少なくとも、アカギのポケモンバトルでの実力は本物だと認めざるを得ないな…)
ナオキがこう思っている背景には、ナオキがさっき述べた勝機がある理由とは別に、アカギにもそれなりの実力がある事が確かである事をあらためて実感し、ひそかに焦っている部分があった。
ナオキ本人やナオキ側のポケモンは、先ほどのディアルガを助け出す戦いの後が響いている状態だったので、それなりに戦えても満足に戦えるとは言えないのが実状だった。
自身を含め、満足に戦える状態とは言えない一方で、向こう側は万全の状態で戦えるポケモンが二匹もいる…
しかも、アカギは常にナオキをターゲットに狙う形で戦っている…
ポケモンもナオキ本人も満足に戦えない状態の中で、バトル本編だけでなく、ナオキ自身の身を守る事もしなくてはならない形で戦わなくてはならない事は、いまだにナオキが不利である事を物語っていた。
「ここまでわたしを追い込んだ事。それは認めてやろう。」
アカギはナオキに言った。
ナオキは、その言動が単なる上から目線ではなく、ナオキがひそかに追い詰められている中で自身を追い込んでいる事を見据えている中での事だという事がわかった。
ナオキは、相手に余裕を持たせないために冷静に振舞っていたが、アカギに見透かされているように、内心では焦っていた。
ナオキが最初に余裕を持ってるように振舞ったのも、内心の焦りをごまかすためだったのだ。
(奴が少なくともトバリで戦った時のポケモンを持っているのはわかっていたけど、それがみんな進化していて、しかもトバリでは連れていなかったポケモンまでいたのは予想外だった…さっきの戦いでは、どうにかなったけど、この流れからすれば私の仲間達で戦いきれるだろうか…)
ナオキの仲間は、アカギよりも多くいるが、マグマラシとナオキ本人同様、ディアルガを助けるための戦いでかなりの深手を負っている。
そのため、どこまで満足に戦えるかわからず、戦ってる中でそのあおりを受ければ間違いなくナオキ側が不利になる。
ナオキ自身も、マグマラシほどではないにせよ、既に限界が近い。
その時…
「待て。」
「…?」
ナオキは、後ろから声がしたのに反応して一旦止まった。
ナオキは、声がした事に対して、見るからに意外そうな顔をしていた。
ナオキがそういった様子になったのは、その声が明らかに『ナオキのパーティーにいるポケモンの声』じゃなかったからだった。
ナオキは、声がした方を振り返った。
ナオキが振り返った方に、その声の主はいた。
声の時点で既にわかっていたが、ナオキはいまだに意外そうな顔をしていた。
ナオキに話しかけてきたのは、ディアルガだった。