「ディアルガ?」
ナオキがそう言った時、ディアルガがナオキの方を向いた。
「ナオキ、もしくはトライスと言ったな。一つ、オレの頼みを聞いてくれないか?」
「頼み?」
ナオキが言うと、ディアルガはナオキに言った。
「オレを戦いに参戦させてくれ。」
「え?」
ディアルガからの意外な要求に、ナオキは一瞬動揺した。
「ディアルガ…それ、本気で言ってるの?」
ナオキがそう言うと、ディアルガは即答した。
「もちろんだ。オレの方からお願いしたい。」
ディアルガは再びナオキに頭を下げた。
「ディ、ディアルガ!?」
またも神と呼ばれしポケモンから頭を下げられた事に、ナオキはさらに動揺した。
動揺しているナオキに対して、ディアルガは言った。
「オレが奴に捕らわれた時、オマエは命を懸けてオレを助けてくれた。そして、オレを無理やり縛り付けておのれの身勝手な目的でオレを利用しようとし、それによってシンオウ地方を支配しようとした奴をオレは奴以上に許さない。これらを踏まえれば、オレが奴と戦う利害はオマエと一致しているはずだ。」
ディアルガは、自らナオキに加勢したいと言った理由を出来る限り集められる形で述べた。
わざわざこうしたのは、神と呼ばれしポケモンが自ら申し出る形で協力してくれる事に対してナオキが動揺したからなのだろう。
「それに何より…」
「?」
ナオキが反応した後、ディアルガはナオキに言った。
「オマエのポケモンに対する『心』の強さを感じているからだ。オレにはわかる。オマエなら、オレと共に戦えるという事を…」
ディアルガは『心』から感じていた。
ナオキのポケモンに対する思い、そしてそれによる絆の強さを…
神と呼ばれしポケモンだからこそわかるのか、ディアルガはナオキの姿うを一目見ただけでそれが本当の事であると『心』から確信していた。
ナオキはしばらくディアルガを見ていた。
ディアルガの目は本気だった。
ナオキは、ディアルガの真っ直ぐ見つめる瞳から、ディアルガの『心』の思いを感じ取った。
「…わかった。それじゃあ、お願いするよ、ディアルガ。」
ディアルガは小さく頷いた。
「みんな、協力してくれてありがとう。これから、ディアルガと一緒に戦うけど、いいかな?」
マグマラシから始まる形で、ナオキの仲間達は即答した。
「ああ。わかったぜ。」
「絶対勝ってよ。」
「ナオキさんなら、神様と共に戦う事だって出来るはずですわ。」
「神様の前で失態晒すんじゃねえぞ!」
「ボクにはわかるよ。ディアルガと戦うのは、キミだからこそ出来る事だってね。」
「ありがとう。」
ナオキは、仲間達に感謝した。
「いい仲間を持ったな。」
ディアルガはナオキに言った。
ナオキはこくりと頷いた後、ディアルガに言った。
「君もその一人だよ、ディアルガ。」
ナオキがそう言うと、ディアルガは一瞬反応を示した後、顔を小さく動かしたような仕草をした。
それはまるで、ナオキに微笑んでいるかのようだった。
あらためてナオキは、アカギの方を向いた。
それに続いて、ディアルガもアカギの方を向いた。
神と呼ばれしポケモンがナオキ側についた状況でありながら、アカギは動じていないように冷静だった。
「ふん、『あかいくさり』もないものごときに、神が操れるものか。」
アカギは、さっきよりも多少熱が下がったような口調で言った。
それを聞いた事にぴくりと反応したように、ナオキがアカギを険しい表情で睨みつけた。
「それはどうかな。」
そう言うと、ナオキはディアルガの方を向いた。
それに続くように、ディアルガもナオキの方を向いた。
二人はしばらくお互いを見つめ合っていた。
それから少しの間、時が止まったように静かな状態が続いた。
しばらくして、ディアルガが最初に動いた。
ディアルガは何も言わず、小さくこくりと頷いた。
それに続くように、ナオキも小さく微笑むと、ディアルガに向かって小さくこくりと頷いた。
二人は息を合わせるように、同時にアカギの方を向いた。
「ふん。何を考えてるかはわからんが…いや、わかる必要などないだろうな。」
アカギはさっきまでの熱がだいぶ収まったように、以前のような冷静さを取り戻したような口調で言った。
「所詮、くだらない『心』による信頼か何かだと言いたいのだろうが、そんなまやかしの存在など、何の意味もなさん。自ら戦い慣れたポケモンを下げ、使いこなせるはずのないポケモン、しかも神と呼ばれしポケモンを従えて戦うなど、せっかくの勝機をわざわざ負けるために放り出すようなものだ。」
アカギは、完全に勝ち誇ったかのような雰囲気だった。
「『あかいくさり』もなしに神を従えようとして、せっかくの勝機を投げだした事を後悔するがいい。」
アカギに、あの時のようなボロクソな言われ方を再びされたに等しいような中、ナオキはその時とは違う、むしろ真逆な雰囲気でアカギを見ていた。
ナオキは言った。
「その言葉、私はそれ以上の真逆の言葉にして貴様に返すぜ!」
ナオキは、ディアルガの方を向いた。
「ディアルガ、あらためてお願いするよ。」
ディアルガは、こくりと頷き、アカギの方を向いた。
「ゆくぞ!ゆけ、ドンカラス、クロバット!」
アカギは二匹のポケモンに言った。
どうやら、もう一方のポケモンは『ドンカラス』と言うようだ。
少なくとも、ヤミカラスの進化系であるのは確かだろう。
「神と呼ばれしポケモンがついたぐらいのところで、何になる。おまえごときに神と呼ばれしポケモンが使いこなせるものか。」
アカギは、勝ち誇ったかのようにナオキに言った。
自らは『あかいくさり』を使って従わせた以上、それがないナオキにはディアルガを従わせる事など出来はしないと自身の視点から判断したのだろう。
例えそうでなくても、初めて組む事と、何よりレジェンドのポケモンである以上、ナオキとは息が合わず話にならないとアカギには予測できたというのもあるようだ。
すると、ナオキは言った。
「そんな御託言ってる暇があるなら、さっさとかかってきな。私はもういつでも戦えるよ。」
ナオキからの挑発に、アカギは再びあの時のような様子になり、言った。
「ならば容赦なくいかせてもらうぞ!ドンカラス、クロバット、奴を叩きのめせ!!」
アカギの荒げた声と共に、ドンカラスとクロバットがナオキに襲い掛かった。
ナオキは、一方では攻撃を防ぎ、もう一方ではそれに合わせる形でひらりと攻撃をかわした。
ディアルガもナオキに参戦しようと、前に出た。
「戦えるトレーナーばかりを狙ってオレをそっちのけにしてていいのか?『竜の波動』!!」
ディアルガは、ナオキを狙うアカギのポケモンに技を放った。
しかし、決してディアルガの存在を見逃していたわけではなく、二匹のポケモンはディアルガの攻撃をひらりとかわした。
「狙いは私ばかりだけど、ディアルガの事もそれなりに見ているというわけか…」
ナオキは、アカギのポケモンがナオキに気を取られているところを狙ってディアルガに攻撃のチャンスを与えようとしていたが、それはさすがに読まれていた事に気づいた。
アカギも、ナオキばかりを狙いつつも、それなりの判断は出来ているようだ。
ナオキは、ディアルガのもとに着地した。
ディアルガは、ナオキの方を向いた。
「奴は明らかにオマエだけを狙っている。オレが狙われる事はしばらくはないだろうが、オマエを狙う隙を狙って攻撃しても、かわされてしまう…オマエも、今の状態では、戦う事は出来ても、そう長く戦う事は出来まい。それまでに、奴のポケモンを倒すにはどうすればいいのか…」
ディアルガは、ナオキの事を心配していた。
一応まだ戦えるとはいえ、さっきの戦い以前に、ディアルガを助けるための戦いでの傷が残ってる以上、ナオキが戦い続ける事が出来ないのは周知の通り。
アカギも、ナオキに防戦一方の状態を強いて体力を間接的に体力を奪い、最終的にナオキが戦えなくなったところを狙ってとどめを刺そうとしている狙いがあるのだろう。
このまま向こうがナオキ達の攻めを回避し続ければ、確実にナオキ側が不利であるのは確かである。
ディアルガも、いくらレジェンドで神と呼ばれしポケモンであるとはいえ、2対1で戦うのは不可能ではないにせよ、さすがに厳しい。
ましてや、今2対2の状態で戦っていてこの状況にいるならなおさらである。
すると、ナオキは言った。
「大丈夫だよ。」
「?」
ナオキのこの一言に、ディアルガは一瞬きょとんとした。
「ディアルガが私と共に戦ってくれる事になった時から私はわかっているんだ。『君となら勝てる』ってね。」
ナオキは自信を持った様子で言った。
根拠はわからなくても、ディアルガにはそれが本当である事だけは確かだと『心』から感じていた。
ナオキはディアルガに言った。
「ディアルガ、ちょっといいかな?」
「?」
ディアルガは、ナオキに顔を近づけた。
ナオキはディアルガに顔を近づけると、耳打ちするような様子で何かを話し始めた。
その様子をアカギは余裕ぶった様子で見ていた。
「ふん、神と呼ばれしポケモンと何を話しているかは知らんが…いや、知る必要はないだろうな。知ったところでおまえごときに出来るはずもないのだからな。」
アカギは、ナオキを見下すような様子で言った。
その雰囲気は、トバリの時にナオキの事を否定した時以上のものだった。
「『心』というまやかしの存在ごときで、神と呼ばれしポケモンを従わせるという幻想にとらわれた時点でおまえの負けは既に決まっていたようなものだ。今度こそおまえを始末し、再びディアルガをこの手に…」
ビシャアアアアアアアアン!
アカギが話している途中、それに割り込むようにナオキはアカギのポケモンに雷を放った。
アカギのポケモンは、間一髪かわしたが、アカギは唐突の攻撃に一瞬動揺した。
動揺しているアカギに対して、ナオキは言った。
「さっきから御託はいいと言ってるのに、本当にうるさいよ。今は貴様からけしかけた戦いの最中だよ。そんな御託を並べてる暇があるなら、私がディアルガと話してる間にそれをさせない意味もこめて私を攻撃すればよかったのにさ。」
トバリで自らがナオキに言った事が返ってきたかのように、ナオキからのさらなる挑発を受けたアカギは一瞬憤慨しそうになりながらも、どうにか抑えた。
「く…ならばその出来るはずのない戦いでせいぜいあがくがいい!」
そう言ってアカギは、再びナオキに向かって二匹のポケモンをけしかけた。
それに対して、今度はディアルガが先に応戦した。
「『ラスターカノン』!」
ディアルガの胸元の部分から、鋼のエネルギー弾が放たれた。
「ふん、そんなものくらうものか。」
アカギのその一言に合わせるように、二匹のポケモンはひらりとかわした。
その時…
「隙あり!『トライス・スラッシュ』!」
ザシュ!
ディアルガの『ラスターカノン』をかわす過程で二手に分かれたのと、ナオキのいる範囲に一匹が入ったのを狙い、ナオキはクロバットを切りつけた。
「何っ!?」
アカギが目の前の光景に動揺した時、それに続いてディアルガが攻めた。
「『竜の波動』!」
ディアルガは、かわす過程で隙を作ったのを狙い、今度は見事技を命中させた。
「な…なんだと…?」
アカギは、目の前の光景にさらに動揺していた。
ナオキとディアルガは、今会ったばかりの関係。
しかも、ボールで捕まえる事も一切していない。
何より、ディアルガはレジェンドで、しかも神と呼ばれしポケモン。
言うなれば、神様そのもの…
それなのに、ナオキとディアルガはお互いそんな事は一切関係ないかのように、絶妙なコンビネーションを見せていた。
それはまるで、ナオキとディアルガが見えない何かでつながっているようだった。
それに続くように、ナオキとディアルガは初対面とは思えないような息の合ったコンビネーションでアカギのポケモンを追い詰めていった。
その光景をアカギは、呆然とした様子で見ていた。
「バ…バカな…『あかいくさり』もなしに、神と呼ばれしポケモンを従えるなど…」
アカギが動揺している中、ナオキは言った。
「私は、ポケモンに鎖をつけたりなんかしない!互いに心と心の『絆』を通じあう事が出来れば、神と呼ばれし存在でも、私に協力してくれるんだ!」
ナオキは、初めて組んだとは思えないほどディアルガと息の合う形で、最高のコンビネーションを見せた。
初めてであり、しかもレジェンドで神と呼ばれしポケモンとここまで息の合う戦いが出来る事は、ナオキとディアルガの『心』が通じ合っている事を象徴していた。
『縛り付けて』無理やり従わせるのではなく、お互いがお互いを思い、共に信頼を持ち、絆を『結んで』戦いに臨む。
そんなナオキの『心の絆』は、鎖とは真逆の、お互いを結び合い、共に一つとなって、ただ共に戦ってくれる事に限らない大きな可能性を生み出していた。
神と呼ばれしポケモンと共に戦い、お互いがお互いを支え、単体では発揮できない事を、想像を遥かに超越する規模で出来るようになり、それはまた新たな可能性を生み、形にしていく…
ナオキとディアルガの『心の絆』は、ただ一緒に戦うだけに限らない大きな力をお互いの想像を超える規模で生み出していたのだった。
それはまるで、神を超えるかのように…
アカギのポケモンは、もはや防戦一方だった。
「おのれええええええええええ!!」
もはや完全に冷静さを失ったアカギは、自暴自棄になったかのようにナオキに向けてドンカラスとクロバットをけしかけた。
ナオキに向かってくる二匹のポケモン。
しかし、ナオキにとってこの状況はもはや格好の獲物だった。
「いくよ、ディアルガ!」
ディアルガはこくりと頷き、ナオキと共に向かってくる相手の方を向いた。
ナオキとディアルガは息が合うように、同時に体勢を構えた。
二人のもとにドンカラスとクロバットがせまる。
その瞬間、ナオキとディアルガは同時に技を放った。
「くらえ!『グロリアス・ギガ』!!」
「『時の咆哮』!!」
ナオキの全身を光が包み込み、ナオキがトライス・ソードを振り下ろした瞬間、先ほど放った『テラ・グロリアス』と似たような大きな光の塊が放たれた。
『テラ・グロリアス』よりは下の技のようだが、それでもそれに劣らない規模の光の塊が雷を帯びながら飛んでいった。
ディアルガは、一旦口を閉じて頭を下げた後、勢いよく頭を上げ、それと同時に空にまで大きく響き渡るほどの大きな咆え声を上げた。
すると、ディアルガの咆哮が大きな波動となり、アカギのポケモンに襲い掛かった。
二人の技がアカギのポケモンに向かっていく。
するとその瞬間、二人の放った技が一つになり、大きな光に包まれた波動になった。
そして…
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
アカギのポケモンに着弾した瞬間、お互いの目の前は大きな轟音と眩い光に包まれた。
その轟音は、アカギのポケモンの叫び声をかき消し、その光はアカギのポケモンがどうなってるのか目に見えないほどその様子を覆い隠してしまった。
その轟音と光は少しの間続いた。
ほんの少しの間であっても、その間はまるで長い時間のように思えた。
まるで、お互いにそれぞれの形で時が止まったかのように…
『テンガン山』の頂上に、大きな光の柱が少しの間佇んでいた…
轟音と光はやがて収まり、再び時は動いた。
動き出した時は、最初は静かな時間の中で動いていた。
その静かな時間の中、同じ時と場所にいながら、お互い違う中にいる状態でたたずんでいるそれぞれの姿があった。
アカギは、しばらく呆然とした様子でその場に立ちすくんでいた。
アカギの目の前には、戦闘不能になり、地べたに倒れ込んでいるドンカラスとクロバットの姿があった。
そして、その背景には自身とは真逆に、神と呼ばれしポケモンと共に立ち尽くすナオキの姿があった。
アカギは、崩れ落ちるようにその場に膝をついた。
うつむいたまま握りこぶしをわなわな震わせながらアカギは言った。
「…認めるか…!神話の力を…従えたのではなく、我が物にしたというのに!!」
悔し紛れに叫ぶアカギに、ナオキは言った。
「戯れ言を抜かすな。貴様は神の力なんか得てすらいないし、従えてもいない。貴様は、ただ神を無理矢理縛りつけて従えたつもりでいて、本当の神の後ろでこそこそ隠れてそう抜かしてただけに過ぎない。」
ナオキは、そう言うと、それに続くようにアカギに言った。
「そして私も、ディアルガの協力のもとでいても、神の力を得てはいないし、従えてもいない。ただ、心を通じあえてもらえた神と呼ばれしポケモンから、力を貸してもらえた。ただそれだけの事さ。」