遠くまでやってきて

僕は何を見たのだろうか

活字の中の様な

夢を見るでもなく

不規則な揺れと

震える指先が

どうしようもなく情けないまま

考える事すらも

途中放棄したのに


失くしたものが

簡単に拾えないと

泣き出したその背中を

横目で見るに抑えて

爪を立てた、

傷付いたのは

掌なのか心なのか

誰も気付かないのに

気付く気すらないのに


なにもかもが雑然とした

雑居ビルの間を駆ける

鉄の塊に乗っけられて

笑えないままに

冷たくなっていくのを感じた


遠ざかる

もと居た位置と

自分のポジションと

見失ってた

本音という名の戯言も

言いかえればただの言葉で

動かないのは当たり前、と

投げ捨てた言葉に

自分一人傷付いたんだ


僕は君になれないよ


分かってるはずなのに

分かってたはずなのに

また僕は一人で居るんだ

折り目のつけられた心は

綺麗になんかなれなくて

滑稽なほどに虚ろで

泣き出したくなる程、

僕は嘘吐きだったんだ


僕は、君に、なれないよ。


何時だって、そうだった

何時だって遠ざかっていったのは

僕のほうだ


他の誰でもない、僕だったんだ。


死にたくなる程に

擦り切れた心が

動くのを嫌がって

溺れていく

酸素不足の海の中


泡沫の想い出は

語る程のものじゃなく

言いたい事も

伝えそこねては

静かに落ちていく

知っていた筈なのに、

君は何も言わないんだ


怖いだけの未来と

棄ててばかりの過去が

切り刻んでいく

足元から崩れ落ちていった

壊れたのは誰かの心

声が聞こえなくなって

また一人遠くなる

届かないのは、

全てを折り続けた

挫折と苦節と、妥協ばかりで


泣きたくなるのは

いつもの事なんだ

言える事も少ないから

死にたくなるのは

優しくないからだって

優しい君の呟く声に

また耳を塞いで


この言葉がもし届くなら

焼かれて死んでいく心に

きっともう何も意味はないけど


それでも愛という

嘘で殺して。


もう一度巻き戻して

君を愛する事を許して

遮られた視界は

何処までも不明瞭で不鮮明なまま

死に絶えていく嘘の話も

本当に物語だったら良かったのに


歌えないまま喉を潰した

その眼に映さない癖に

誰かに囁く愛の言葉も

笑えない僕の横で

君が笑うだけで

また最初からになってしまう


何度も繰り返して

終わりを迎えた話

リセットをするのは

いつも僕のほうだ


君は僕を見ないで

無情な朝焼けの色も

透ける様な色彩も

もう忘れてしまいたいのに


もう何度も同じ様に

いつもどおりの道を

何回も、何回も、

繰り返して

何度も見てきた

同じ風景と

同じ結末に

僕はいない。


僕はいない。


エンドロールのキャストは

いつだって同じなんだ。


紙の感触と

ページを捲る無機質な音

君は踊り続ける

テレプシコーラの映し鏡


その愛を語るのは

触れる事のない

続かない台詞

君は分からないだろう

無機物の瞳と

二つの眼差しが


吐き出された本当は

僕にとっての嘘で在る様に

擦られた腕の感覚は

きっと零れていく様

愛を語るには

最も安く安易な方法で


思い出せない台詞の続きは

君が言う事のない

落ちてきた照明の奥

スポットライトは

何時までも煌々と光る


微笑んだその先は


何度も何度も

もしもの話をして

泣きそうになりながら

許しを請う様に

温もりを与え続けた


開かない目蓋と

緩く死んでいく脳細胞

離されていくのは

遠くの意識


白くなった部屋の中で

君が膝をついている

強がりな癖して弱虫の君は

僕の掌を掴んで

涙を零しているんだ

何も言えなくなってさ、

だけど言いたい事だけは

ずっと胸に仕舞ってんだ


浮かんでいく言葉と

部屋に溶けていく言葉と

白くなっていく言葉が

もしも話になっていく


今の僕は君にどう映るのだろう

立ち止ってばかりだけど

溢れだしていくものだけが

確かな真実であってほしいけど

力の入らない目蓋に

止まる事のない涙が

冷たく頬を流れていくんだ


もう戻れない所まできて

君の掌を離れて

僕の事を忘れたとしても

消えていった温もりでさえ

愛おしいものであると

確かにそう思ったんだ


同化して、

変わらないままでも

それでも僕は

確かに君を愛していた


愛していると

そう言いたかった。