TRIANGLE -90ページ目
幸せな話を
繰り返して
君は笑う、
そんな時間が
何よりも愛しくて
撫ぜた頬の温度も
触れた唇も
重ねた掌も
何にも変えられない
幸せの形で
見守るだけの優しさを
両手に抱き締めて
全てを背負う君を
僕は愛しているんだ
強くなくていい
弱くてもいい
この鼓動が
脈打つ幸せを
君を分けあいたいだけで
柔らかな世界を
僕らで作るんだ
僕は笑っている
君が飛ばした帽子の行方
追いかけた海の向こう
冷たく足元を満たす
約束の事、
君は覚えてるかな
此処にいるだけでいい
君が笑うなら
僕も一緒に笑うから
どうしようもないね、って
ただそれだけの事で
僕は幸せなんだ
熱を持った命が
確かに今輝いていて
君が描く幸せが
少しずつ形になっていく
明日また描いて
明後日も、その次の日も
君の幸せを描き足そうか
ただ愛せたら
それでいいよ。
君と僕と、幸せと。
微笑みながら
愛を語ろうか。
白いキャンバスに描き始める
僕の話をしようか、
きっと誰も
望んじゃいないけど
他愛もない話を繰り返すうち、
僕は胸が詰まり始めた
呼吸も苦しくなって
灰の様にちりちり痛みだす
痛みの続きは、知らないで
この声が響くなら
寂しい事も悲しい事も
全部全部吐き出して
白を塗り潰して
思いのままに描いて
壊して、
壊して。
泣いてしまいたくて
許されはしないから
僕は何度も選ぶんだ
戻せない癖に、
聞こえるふりをして
全部を裏返して
言葉も感情も、
僕の全てを裏返して
白いキャンバスは
塗り潰された絵具の上
泣き続ける様に垂れ流す
思い出せないよ、
それでいいのかな。
越えられないけど
きっとまだ泣いてしまうけど
辛くても苦しくても
僕が持った筆が
この世界を選び始めた
その中の話。
僕の話を、しようか。
遠くのほうで
誰かが泣いている
綺麗な箱庭の夢
あの時の時間が
悲しく壊れていく
誰の為の時間だったのか
夢の様な世界で
木々の隙間から覗いた
木漏れ日の輪に俯く
眩しいのは寂しく
逢えない痛みすら
きっと愛おしい
飽和して弾ける
窓辺の憂鬱すら
口付けて夜に眠る
綺麗なものを鏤めて
慈しむ様に笑みを浮かべる
君の声はもう聞こえない
夢はもう、聞こえない
思いの分だけ
世界が歩むなら
罅割れた時間も
きっと愛せるだろう
あの時の箱庭が
少年の世界を望んだなら
きっと其処に行き着く
全ての道の先で
笑える様に
「少年は夢に生きる箱庭を望む」
少年は知っていた
止まない雨の行方を
息詰まった世界は
一人少年を置いていく
傘の内側で俯いたまま
少年は全てを見失った
街灯が光り始める
人混みの外側
少年は立ち竦む
答えなどない
振り翳す傘一つ
一人遊びを繰り返した
滲む世界はきっと少年の心
空高くに覆い被さる
鉛の空は悲しく
円を描く様に境界が出来て
少年のいる場所は
雨水に濡れそぼった
誰も望まないこの場所が
誰かの救いになるはずもなく
少年はあの高いビルを見つめた
それは終わる世界の始まり
汚いだけのあの場所で
折りたためないまま
傘の中で少年は泣く
何も無いから
ゼロに還す雨降りの夜
足元に広がる闇も
水面に弾ける嘘
白む空の彼方
臙脂に描く言葉の端を
きっと誰かが望むから
少年は一人見送った
その世界の行方を
「ゼロ」だけの居場所で
「イチ」の世界を
イチが選んだ答えが
全ての引き金になっても
少年は傘の中
一人目蓋を閉じた
「少年は街の外から全てを見ていた」
少年は駆け上がる
雑踏を掻き分けて
鉄筋コンクリートの隙間を
縫う様に走る
廃墟群の嘘と
煤けた黒を飲み込んで
7階の高さを飛び出していく
鉄塔と鉄格子と
鉛色の空は汚く
少年の居場所を奪っていく
どうしてだろうか、
今までの全てを天秤にかけてまで
この手が手に入れるものに
価値があるのか
埃塗れの台詞は
冷たい路地裏に溶けていく
傷だらけの身体は
歪んだ世界を映しだす鏡
網膜が拾い上げた偶像は
誰の為にもならない
ただのイカれた幻想に過ぎない
有刺鉄線が蔓延るこの街で
少年は強く息衝いていた
「意味」など要らなかった
ただ「価値」が欲しかった
吹き上げる風は
影を吹き飛ばす
落ちていく身体は
重力と浮力の合間で
揺れる感情に込み上げる笑み、
折れたままの翼は
汚れきったままの言葉
少年はそれで良かった
それだけで良かった
巻き上がる前髪の間から覗く
見通す為の双眸も
少年は全部を望んだ
雑踏の間を掻き進む
少年が生きる街は此処だった
灰色の雑居ビルの群れ
嘘ばかりの汚いこの場所が
少年の世界の全てだった
「少年はただ其処で生きていた」

