少年は駆け上がる
雑踏を掻き分けて
鉄筋コンクリートの隙間を
縫う様に走る
廃墟群の嘘と
煤けた黒を飲み込んで
7階の高さを飛び出していく
鉄塔と鉄格子と
鉛色の空は汚く
少年の居場所を奪っていく
どうしてだろうか、
今までの全てを天秤にかけてまで
この手が手に入れるものに
価値があるのか
埃塗れの台詞は
冷たい路地裏に溶けていく
傷だらけの身体は
歪んだ世界を映しだす鏡
網膜が拾い上げた偶像は
誰の為にもならない
ただのイカれた幻想に過ぎない
有刺鉄線が蔓延るこの街で
少年は強く息衝いていた
「意味」など要らなかった
ただ「価値」が欲しかった
吹き上げる風は
影を吹き飛ばす
落ちていく身体は
重力と浮力の合間で
揺れる感情に込み上げる笑み、
折れたままの翼は
汚れきったままの言葉
少年はそれで良かった
それだけで良かった
巻き上がる前髪の間から覗く
見通す為の双眸も
少年は全部を望んだ
雑踏の間を掻き進む
少年が生きる街は此処だった
灰色の雑居ビルの群れ
嘘ばかりの汚いこの場所が
少年の世界の全てだった
「少年はただ其処で生きていた」