両手で支えた

銀糸は緩やかに

指の腹に波打つ


息を静かに止め

美しい限りの海へ

足を踏み出す

千切れてしまいそうな

柔らかな愛しさを

きっと貴方は知らない


腕を落とす

目蓋を押し上げ

掻き分けた指先は

銀糸が絡まったまま


この感情は

溺れてしまえと

貴方が笑うたび

きっと心を殺す

たったの一本で

この愛を埋め尽くして


縋り付いた腕に

緩く解けた愛を

絶えまなく手折る


息を止めるほどの

美しい海へと

きっと忘れはしない

伝ってきた声も

解けた指先も

貴方へ繋がる

銀糸でさえも

きっと愛していた


愛していたと

願っていた。


揺られた吊り革と

流れていく雲の隙間は

僕が選んだ未来を

擦り抜ける様に遠ざかる


それは夢を消して

汚した掌の様で

「僕は変われたでしょうか」

そんな強がりすらも

くしゃくしゃに丸めた紙屑で

呼ばれた筈の僕の名前は

まるで首から下げた

番号札の様に思えて


それを汚してまで

僕が生きたかった未来は

悲しそうなものだったか


「僕は変われたでしょうか」


僕が選んだ未来は

間違ってなんかいないって

僕は確かにそう言いたくて

揺られて零れる

その言葉は何時だって

正しいものなんだって

言っていただろう


僕が背中を預けた

世界の果てなんてものは

遠くになんて在りはしないのだから


その硝子は何も映さない

ちらりと煌めく

嘘の様な瞳は

何も答えをくれないで


優しくはなれない

優しくは出来ない

何時だって自分の為だ

痛みを隠すことだって

何も言わないことだって


言葉を殺してまで

伝えたい感情は

きっと君に優しくない

そんな世界なら

僕は何時までも黙ったまま


その硝子は罅割れて

正しくはないんだろう

だって真直ぐには見れない

何処にもないんだろうって

その日々を指差す


何時もとは果たして

許せないモノとは

どうにもこうにも

云う事など出来ない

僕は何一つ知らないから


優しくはなれない

優しくは出来ない

どれだって其れだって

悲しくはないんだと

嘘吐く事さえ


きっと言葉はどこまでも

遠くまで飛んでいくだろうか

果てしない世界は

本当のことなど知らないまま


その奥に眠る瞳を

その瞳を優しく撫ぜる指を

僕はまだ知らない


移ろう季節は

追いかけるには

少し寂しい


柔らかく触れた指先は

解れた感情の様に

緩やかに離れていく

静かに瞬いた瞳は

全てをなぞる様に

優しく手を振る


変わっていく

歩みを止めて

振り向いた先

風は僕を追い越した


忘れてしまうよ

最初から何も、

何も知らなかったのに

きっと分かっていた

小さく吹きかけた息が

薄く広げた青に溶ける様に


その季節に顔を埋めた

確かに其処に触れた筈の

君の瞳は溢れたまま

寂しさを溶かした


口に出す事はしない

愛おしいと合わせた両手も

願い続けた事を

何時しか笑える様に


吐き出した夜を飾る

それは不気味な程に暗く

淀んだ瞳は光を呑み込む


誰の為の夢なのか

誰の為の理想なのか

選んだ言葉は

最早誰にも届かない

胸に一つ抱えた絶望

綺麗事ばかりを並べて

歪んでいく現実


また一つ手折って

嘘を重ねていくたび

誰の為に僕は笑う?


底に残る残滓を

指先で辿る

愛想笑いを続けるには

あまりに知りすぎた

それは絶望にとてもよく似た

言葉で言い表せない程の


また一つ吐き出す

眩んだままの暗闇は

星屑は何処か鈍く

綺麗とは到底言い難い


当たり前の日常に芽生えた

懺悔の姿に見えた