TRIANGLE -19ページ目
その向けた剣が
私の喉を裂く前に
浮かべた笑みの意味を
誰も知る事は無い
堕ちていく人の心を
静かに見やる人の目を
確かに覚えている
真暗に淀んだ闇を
呑み込んでしまう貴方を
私は腕に抱いたのだから
番う扉の向こう側で
知っていた筈の言葉を
殺してしまったと
泣く事すら出来ないで
黙ったまま押し込む
刃は逆さに貼り付いて
眼窩に焼き付く
空の色は鮮明に溺れて
痛みを伴うその心を
茨の檻に仕舞い込んだ
褪せていく世界に
貴方が生きる事を
私一人許せなくて
眠れないままに
貴方を腕に潰す
飛んでいく渡り鳥は
私を知らない
何処にも貴方が行かない様に
堕ちていく人の群れを
私は静かに見やる
それでも貴方が
幸せだと笑ったから
巡り巡る時間に
立ち竦む余裕すらなく
頬を掠める熱は
痛みを孕んだまま
腹の奥底に沈む
鉛の様な空
深く淀んだままの
堕ちては嗤わない空に
雨が漸く歪めた様で
泥の様に泣いている
踏み躙る様が似合っていて
硝煙は解けていく
紡いだはずの言葉は
何時しか遠くに在ること、
色の飽和した世界は
何時だって夢物語だ
時間は緩やかに巡る
同じ様なシチュエーションで
同じ様に銃口を向ける
同じ様な顔の群れに
どうしたって霞んだ目を
閉ざす事なんて出来やしないんだ
その指先を殺して
駆けだす翼すらも
撃ち落としてしまえば
繰り返した筈の世界は
終わるのだろうか、
最早誰が悪いかも
分かりやしないのに。
その手を出して
振り払うよりも先に
笑っておくれよ
そんなの必要ないって
笑っておくれよ
それまでは
安心なんて
出来やしないんだよ
跡を残して
歩く道よりも
正しさを残して
走り抜けた道へ
貴方は何も見ないから
僕は一人笑うのさ
冷たくなっていく
その指先を掻き抱いて
口付けてしまえよ
僕は笑ってみせるよ
貴方が其処に在ること
寂しくなんてないさ
笑っていられるまでが
僕の人生なのだから
貴方が走り去る
僕は跡を辿って
正しいのかい?
座り込んだ道端で
泣いてしまうよって
膝を抱えて
顔を埋めてしまって
笑っておくれよ
泣かないでおくれよ
芽吹いたその言葉で
貴方を抱く事が出来たら
何よりも心を置いて
笑えただろうに
嗚呼、ほら、ほら、
笑っておくれよ、
笑っておくれよ。
振り払うその手の先まで
僕は愛する事が出来るから
もう泣かなくていいんだ
正しさなんて
誰も選べやしないさ
だから、だからほら、
笑っておくれ、
愛するものの為だけに。
飲み干した嘘
指先で撫ぜる赤
どうしたって僕は
悲しいと声をあげて
繰り返した
言葉は変わらない
反響する
愛おしい音を
僕は抱きしめて
溶け出したって
返せやしないから
僕が泣いたって
僕は笑ったって
僕は生きたって
僕が死んだって
何一つ変わらない
息を殺したって
足を止めたって
手を伸ばしたって
口を閉ざしたって
何一つ言い出せない
そうなんだって
言える筈なくて
嘘を愛するには
知りすぎてしまって
嗚呼、それでいいんだろう?
たったそれだけで
良かったんだろう?
生きているなら
その声を、
静かに忘れて
愛せる様に
割れたグラスに
立ち竦む僕は
想いを傾けた
滑り落ちる
音は逸れて
あぁ、そうなんだって
笑い泣いた僕へ
何度伝えたって
意味なんてないんだ
言葉を飲んで
空気を吐きだした
止めた呼吸の次は
もうやってこないだろう?
さよならの言葉は
もういらないよ
息衝いた鼓動は
どこにもないから
愛をはなした
溢れた言葉の続きを
知らないままで

