その向けた剣が

私の喉を裂く前に

浮かべた笑みの意味を

誰も知る事は無い


堕ちていく人の心を

静かに見やる人の目を

確かに覚えている

真暗に淀んだ闇を

呑み込んでしまう貴方を

私は腕に抱いたのだから


番う扉の向こう側で

知っていた筈の言葉を

殺してしまったと

泣く事すら出来ないで

黙ったまま押し込む


刃は逆さに貼り付いて

眼窩に焼き付く

空の色は鮮明に溺れて

痛みを伴うその心を

茨の檻に仕舞い込んだ


褪せていく世界に

貴方が生きる事を

私一人許せなくて

眠れないままに

貴方を腕に潰す


飛んでいく渡り鳥は

私を知らない

何処にも貴方が行かない様に

堕ちていく人の群れを

私は静かに見やる


それでも貴方が

幸せだと笑ったから


巡り巡る時間に

立ち竦む余裕すらなく

頬を掠める熱は

痛みを孕んだまま

腹の奥底に沈む


鉛の様な空

深く淀んだままの

堕ちては嗤わない空に

雨が漸く歪めた様で

泥の様に泣いている

踏み躙る様が似合っていて


硝煙は解けていく

紡いだはずの言葉は

何時しか遠くに在ること、

色の飽和した世界は

何時だって夢物語だ


時間は緩やかに巡る

同じ様なシチュエーションで

同じ様に銃口を向ける

同じ様な顔の群れに

どうしたって霞んだ目を

閉ざす事なんて出来やしないんだ


その指先を殺して

駆けだす翼すらも

撃ち落としてしまえば

繰り返した筈の世界は

終わるのだろうか、


最早誰が悪いかも

分かりやしないのに。


その手を出して

振り払うよりも先に

笑っておくれよ

そんなの必要ないって

笑っておくれよ

それまでは

安心なんて

出来やしないんだよ


跡を残して

歩く道よりも

正しさを残して

走り抜けた道へ

貴方は何も見ないから

僕は一人笑うのさ


冷たくなっていく

その指先を掻き抱いて

口付けてしまえよ

僕は笑ってみせるよ

貴方が其処に在ること

寂しくなんてないさ

笑っていられるまでが

僕の人生なのだから


貴方が走り去る

僕は跡を辿って

正しいのかい?

座り込んだ道端で

泣いてしまうよって

膝を抱えて

顔を埋めてしまって


笑っておくれよ

泣かないでおくれよ

芽吹いたその言葉で

貴方を抱く事が出来たら

何よりも心を置いて

笑えただろうに


嗚呼、ほら、ほら、

笑っておくれよ、

笑っておくれよ。

振り払うその手の先まで

僕は愛する事が出来るから


もう泣かなくていいんだ

正しさなんて

誰も選べやしないさ

だから、だからほら、


笑っておくれ、

愛するものの為だけに。


飲み干した嘘

指先で撫ぜる赤

どうしたって僕は

悲しいと声をあげて


繰り返した

言葉は変わらない

反響する

愛おしい音を

僕は抱きしめて

溶け出したって

返せやしないから


僕が泣いたって

僕は笑ったって

僕は生きたって

僕が死んだって

何一つ変わらない


息を殺したって

足を止めたって

手を伸ばしたって

口を閉ざしたって

何一つ言い出せない


そうなんだって

言える筈なくて

嘘を愛するには

知りすぎてしまって


嗚呼、それでいいんだろう?

たったそれだけで

良かったんだろう?


生きているなら

その声を、

静かに忘れて

愛せる様に


割れたグラスに

立ち竦む僕は

想いを傾けた

滑り落ちる

音は逸れて

あぁ、そうなんだって

笑い泣いた僕へ

何度伝えたって

意味なんてないんだ


言葉を飲んで

空気を吐きだした

止めた呼吸の次は

もうやってこないだろう?


さよならの言葉は

もういらないよ

息衝いた鼓動は

どこにもないから


愛をはなした

溢れた言葉の続きを

知らないままで