TRIANGLE -18ページ目
浮かべた翠の道は
諸手を挙げて喜ぶには
あまりにも犠牲に満ちていて
溢れた雫は悲しく笑った
指を差しては何時だって
まだ。まだ。って
背中を押しては沈んでいく
言葉を惜しむには
時間は迫ってきて
触れる事すら許されないのに
忘れる事さえ出来ないで
その笑顔の裏側では
どれだけ悲しく蹲っても
届きやしないんだろう
僕を見る視線の奥深くで
光は透過していく
伸ばした腕の中に
溢れんばかりの愛が
ずっとこびり付いたまま
君だけに捧げるには
もう時間は許してくれなくて
大人になる度に繰り返した
犠牲ばかりの墓標を
何度も踏み締めて歩く
君の元へ行けるように
翠の道が涙を零す
僕が許される日がくれば
きっと君だけを愛する事が出来ると
言葉に出来ない痛みを
静かに胸に沈めた
君が深く愛した物を
僕も愛せたのなら
悲しいと思うまでもない
正しさなのだろう
此処まで届かない光の束に
ずっとずっと手の伸ばして
影が落ちていく
僕を擦り抜けていくのは
何時だって触れる事の出来ない
僕だけの罪になる様に
空の青さに溶けていく
君の日常から解かれた
もう合わせる事の出来ない
独り大きくなった背中に
言葉にならないだけの言葉を
それで良かったんだろって
そういって泣いた僕の事を
君はもう知らないだろうけど
君が深く愛したように
僕も愛する事が出来たら
きっとそれはとても素晴らしく
愛おしいものになるんだろう
茜が小さく溶けていく
まるでもう繋がらない様な
焼け付いた目蓋の奥で
泣いてしまえば良かった
焦げ付いた指先は
もう愛を囁けないから
其処まで届かない
光の束を掻き抱いた
君の事を、僕は。
茜を溶かしきった夜空の
その隅で僕は膝を抱えていた
この手さえ振り払って
心を押し殺してしまえば
きっと君は知らないままで
愛を囁いていられただろう
何処まで透き通る様な
蒼穹は僕の心を突き刺して
どれだって良かったんじゃないかって
そう言い募る音の続きを
君を認めてはくれないんだろう
真直ぐに見つめたその先の
翡翠が溢れてしまった感情を
守りたいものは何時だって
その腕の中に在ったんだろう
零れ落ちてしまった時間が
何時までもその胸を殺し続けて
泣く事も許されずに
立ち止る事も、息を止める事も
何一つ許される事のなかった
確かな愛を掲げていたって
もう忘れてしまえば良かったのに
君は全部抱えては空を飛ぶ
焦げ付いた夢の跡を
一筋眼窩に焼き付けて
息を失う程の紺碧は
君が愛した世界の全てで
最早笑うしかない世界の淵を
僕は目一杯に伸ばした両腕で
君を抱きしめて溺れてしまおう
君が全てなんだと
そう呟いた呼吸さえ
愛おしそうに泣いた君と僕で
空高くに溺れた深く夜の底へ
吐き出したモノが
痛みを伴って
熱を孕んで呑み込む
その腕を引いて
その目蓋を閉ざして
何かを守れたか
何もかも無くなって
誰も彼も居なくなって
知りたいと願った事
それすらも死んでしまえば
何も変わらないのに
許してほしい事は
何時だって遠くにあって
『僕は明日も、××ます』
手に持った作文は
傷口を何度も抉って
ぐずぐずにふやけた
垂れ流した痛みに
僕は何度も手を伸ばして
離れていく声を掴んで
生きている事が
悲しいと囁いて
だけど何も変わらない
愛したって
愛したって
こんな事、意味ないって
笑えない事を
泣けない事を
生き辛い事を
僕はいつだって呑み込んで
吐き出した言葉を
全部全部破り捨てた
『僕は明日も、』
ほら、やっぱり変わらないじゃないか
沸き上がる感情
置いてきた心は
ふわりと浮かんで
口惜しさに指が揺れる
溶けた声は
硝子に貼りついた
もう忘れただろうか
僕は何時だって
そうあったんだって
君はそう言うけど
目蓋に解けだす
茜は覚えてるんだ
忘れられないまま
ずっとずっと
心に残っている
あの茜の色彩を
硝子が割れた先で
君が笑えないのなら
僕はそうありたいと
願い続けるのに
悲しみと寂しさと
少しの安堵を
心に沈めたまま
茜は瞳を埋めていく

