ツリース フィールド -5ページ目

悲しみの谷から見上げる空はなんとも蒼く
そんな谷底でも暖かい日差しは届く。

ブランコに揺られるあの子を中心に揺れる地球。
足は宙に投げ出され空を切り
遠心力と重力の織り成す世界と、私の立っている赤い土の上ではあまりに遠い。
暖かい日差しは一つ。
空も一つ。
しかし私たちは二つの個体でしかない。
影すら混じらないまま、日は暮れる。
夜は無数の影を闇に巻き込むが
もう私はあなたの夢すら見ないだろう。
悲しみの谷の底で。

美しくなりたいので

美しくなりたい。

美しくならなければならない。

悲しいなら曇った目を涙で洗い

怒ったなら愚痴を吐き出し

爪は切りそろえ、贅肉は削ぎ落とし

一つのシンプルな物体として生きていく。

多くを持たずに太陽を風をいつも身近に感じ

道に迷っても迷った道を楽しみ、目的地を忘れても小さな発見は忘れず

時間は私を置いて過ぎ去り、ひとりぼっちになっても

美しくなりたい。

美しくならなければならない。

部屋に鏡はなく、愛する人はいなくても

点滅した横断歩道は渡らずに

言葉が通じずとも困った人には最善を尽くし

嫌味を赦し、悪口を受け入れ

落ち込んで地面に倒れてもそこには大地が広がり

地球の丸さを感じるだろう。

私は限りなくちっぽけである。

ちっぽけである。

美しくなりたい。

美しくならなければならない。

ダンボール

今朝ダンボールに入れられて届いたあなたの悲しみはあなたの匂いがした。

黒い山の向こうから銀色の海を越えて、ただ頑なに私の元へ届けられた。

(想いは届かず)

ジップロックの中でさえ新鮮に保たれなかった悲しみがトグロを巻いて私を睨むので

私の体はベトベトした脂汗にまみれ動くことすら危ぶまれた。

肉は石膏のように硬く固まり、逆に心臓だけがよく動いていたので

私を生かす心臓は私のモノではなく、胸中に住む別の生き物の様。

醜いエイリアンのような姿でありながら人の温かさのすべて。

痛い程に感じていた愛も悲しみも心臓のものだったので

私はつい笑ってしまった。

土偶

土偶の口はポカンと新鮮な闇を吸い込み吐き出し

土に還れぬ土は私も同じなのだ。

失われてもなお失われず

生み出された瞬間から存在は永遠に存在する。

(白い壁に囲まれた螺旋階段は円を描き

その一段一段は四角く、私はあなたと手を繋いでいた。)

思い出は思い出せば思い出ではなくなり、

現実は虚ろに溶け

困惑した私はただ目と口をポカンと開けているだけの存在になってしまった。

私は土偶を羨む。

静かな土に眠り、朝に起こされたとしても何も言わず

それが土偶なら私も土偶ではないか。


道端には晒される悲しみだけが転がっている。

幸せと不幸

あなたを不幸にするものはなんですか?

もしそれが貧乏なら私のお金をすべて差し上げましょう。

もしそれが不健康なら私の寝床と食べ物をすべて差し上げましょう。

私はあなたの幸せのために不幸でいなければならない。

私が幸せを感じていたら、きっとあなたは不幸なのです。

太陽の輝きに幸せを感じ、山々の美しさに幸せを感じ、水の流れの優雅さに幸せを感じ

私はどうやっても幸せになってしまう私はなんと不幸せなことか。

あなたは幸せになってくれますか?

蝶の夢

燕はひらりと一回転。
今頃枯葉は宇宙の果て、気が付けば春だった。
ぼーっとしてたら日は暮れて、目を覚ましたら昼は過ぎ
気が付けばあなたはいなかった。
私は蝶になり探しに行くが、小さな脳みそでは花の蜜が魅力的なので
元が人間であった事すら忘れて花から花へと飛び渡る。
あなたを見かけても、もう分からないだろう。
もう愛せないし、もう悲しまないだろう。
だから私は幸せなのだ、靴を揃えて蝶になろう。

僕の指

僕の親指はゲームのボタンを押すためにある。

僕の人差し指は誰かの過ちを指摘するためにある。

僕の中指は誰かの快楽のためにある。

僕の薬指は鼻の穴の中にメンソレータムを塗るためにある。

僕の小指は誰かと破られる約束を誓うためにある。

雨上がり

回る時計に地球も回り

こうも落ち込んでいなければ私は遠心力で宇宙へ放り出されてしまう。

雨は上がり、木々の葉と葉の間に潤った空気が留まる。

薄い雲ごしの太陽は愁い者のために。

水溜りに写った空はまた別の世界の空。

私は幸せを求めて思い切り飛び込んだ。

泥水は跳ね上がり靴は汚れ、別の世界は失われた。

五月の憂い

五月、私の体調は優れず少々熱を出す。

季節は変わる。

街もあなたも本当の姿は永遠に見えない。

深く黒い流れに造られたダム。

幾つもの死によって生かされ生きている私は誰に死を捧げられるのだろう。

朝のカラスは知らぬふり。

ツツジの花は派手に咲き乱れている。

今週はずっと雨が降る。

触れられなくとも、見ることはできる。
見えなくても、聞くことができる。
聞こえなくても、想うことができる。
想いが届かなくとも、忘れることができる。
忘れることができた時、私は悲しくならないだろう。
地球の丸さよりも宇宙の平さに驚く夜空
静かな水面で白鳥は眠り、その眠りの淵に私は片足で傾いている。
眠りの底に落ちた時、私は時の縛りから魂を開放して闇の中を泳ぐ。
白鳥が東から昇る朝に目を細める時、再び悲しみの雨は降りはじめるが
私は傘を持っていないので、全身に水分を吸い込みすっかり膨らんでしまった。
四肢は肥大し、腹部の皮膚はどこまでも伸び、顔の原型は失われた。

蛭の様に腫れた唇で美しい言葉を発することは忍ばれるが、

太陽は醜い私をも光に晒し

私は強要される。

私は私の役を演じていなければいけない。

そこは豪華な舞台ではなく、派手やかな衣装も響く台詞も

幸せの物語もない。

当然拍手なども送られず、ただ私は私になりきり

世の中は常に地の底から空へ昇る流れと

微かなそよ風でしかない。

人々は無言で向かう。

私もそれにちなんで無言で向かう。

人々は無意識に息をする。

私もそれを真似て息をする。

人々は微笑む。

私も微笑む。