どこかで人が死ぬように 1
「どこかで人が死ぬように」
どこかで人が死ぬように
今日も誰かが愛し始める。
そして誰かの恋が終わるように
どこかで赤ん坊が生まれる。
町の暖かい地下道で寝起きしている限り未来はない。
そう呟いた若いホームレスはおぼつかない足取りで階段を上り、夜中の寒空へ歩み出た。
つい三日前まで残暑が居座っていたかと思っていたら、冬を感じさせる乾燥した空気が丈の足りないズボンから流れ込んできた。
これからの季節は家を持たない身の上に不自由な季節だ。
枯れ葉に未来はない
でも葉の落ちた木々に未来はある。
私にはどんな未来が
彼はあてどない未来を目で追いかけた。
己の姿をまじまじと見つめる。
二枚の掌は赤黒く、重ねて履いた二枚の破れた靴下にも、ゴミ捨て場で拾った誰も知らないブランドのバックパックの中にも未来は見えない。
こうして今日もまた探すだけの一日が始まる。
彼が実際に探すものはきらめく未来ではなく、一つ3円未満にしかならない空き缶と自動販売機に残された小銭。
そんな毎日は人間の意志と感覚を希釈させた。
ホームレス社会は不潔で混沌としていて、無法で浮世離れしていると思われがちだが意外にも縦社会で、礼儀とルールを侵すような者はまず生きていけない。
生活する上で欠かせない食事も寝場所もすべては目に見えない情報と義理という"コネ"の上に成り立っていて、そこが実に律儀で日本らしいとでもいうか。
彼の地域では空き缶拾い、雑誌拾いというジョブと、コンビニやスーパーから賞味期限切れをいただく食事当番があった。
ジョブは各自の必要に応じてだが、食事当番は絶対である。
社会に適応し得なかった者達、社会に裏切られた者達の生きつなぐためだけの社会構造は無駄がなく、下町の傾きかけの会社よりもシンプルにして理に適っていた。
そして彼は空き缶専門、地域の自動販売機を業者が訪れる前の時間帯に毎日同じルートでまわる。
自動販売機業者はジュースの補充時に空き缶を回収するので多くの場所は午前中から昼過ぎにかけて、彼の仕事は深夜から始まる。
誰もいない薄明かりに照らされている街は時間の感覚を失うが、水滴がバケツを満たすように疲労だけは増していく。
冷たい空気の刃に耳が切り裂かれそうになる。
皮膚の硬くなった指でも、もはや温度というものから切り離されてしまった。
どれくらい歩いたろう
どれだけ時間が経っただろう
音のない世界。
街灯が疲れた目に霧もやをかけて、若いホームレスはまるで夢の中のにいるようだった。
高いビルとビルの間に必然的に作られた自動販売機の列、その最後のコイン口から手を抜くと彼は疲労のあまりに横に座り込んだ。
そして再び立ち上がることができないまま、彼は深いまどろみの世界へ落ちていった。
私はずっと昔の夢を見た
暖かい日差しの中、ベビーカーに乗せられている。
そしてそれを押すやさしい母親。
私は
私は誰よりも未来に満ちあふれていた。
ドブネズミの詩
「ドブネズミの詩」
人間のゴミを漁ればカラスについばまれ、裏路地ではノラ猫供に追いかけ回される。
あって無いような軽い命に産まれた僕は生きる事が嫌だった。
唯一の楽しみは夜の繁華街へ繰り出す事。
その中でも一番のお気に入りは、きらびやかな照明や人間、そして音楽が流れているお店。
みな楽しそうに酒を飲み、お喋りをしたり、踊りを踊っていたりした。
「人間になりたい」
僕は何度も何度もそう思った。
でも、ここは現実の世界、神様も魔法使いのおばあさんもいない。
諦めるしかなかった。
昼は駅のホームの傍の草むらで寝て、夜は食べ物を漁りいつものお店に紛れ込む。
不満はあるけどしょうがない。
これが僕の運命だもの。
ある日、いつものように繁華街で食べ物を蓄え、寝床へ戻ろうと線路沿いを歩いていた。
ふとした瞬間に、僕の目の前で17、8歳くらいの少女が投身自殺をした。
電車は止まり、みな混乱していた。
僕はその少女の肉片を口にくわえ巣へ逃げた。
次の日の夜に、僕は彼女の肉片をくわえ、お気に入りのお店に行った。
僕は天井裏にもぐり込んだ。
いつもと変わらず、ここは素敵な場所だ。
僕は彼女の肉片を置いて、力一杯に電線を噛んだ。
激しい爆発音と供に目の前は真っ白になった。
--END
場所
生まれたとき
自分の場所は体だけ
生まれて一年
自分の場所は揺り篭の中
生まれて5年
自分の場所はこの町
生まれて18年
自分の場所はこの国全部
生まれて30年
自分の場所は丸い地球
生まれて60年
自分の場所はローンを終えた自分の家
生まれて80年
自分の場所は一枚の布団
生まれて100年
自分はもう小さな骨壷の中
灰色のネズミ
「灰色のネズミ」
耳の奥で何かが聞こえる。
大粒の雨が町を叩いたと思ったら 猛烈な太陽が雨雲を払いのけた。
そんな夏の日にボクは生まれた。
ネズミとして。
何をするために生まれたのか、何もわからないまま 夕暮れは遠くの空に吸い込まれて町は灰色に染まっていった。
町の人はなぜかボクを見ると 叫び声をあげたり手に持っているビニール傘で叩こうとする。
ボクは悲しい思いをするために生まれたのかな?
何も悪いことしていないのに 小さい涙が出てきた
人々の顔も灰色に染まっている。
暗い公園で誰かの食べ残しを探していると子供が立ちつくして泣いていた。
花も、葉っぱも、滑り台もブランコも、あたり一面 灰色になっていた。
その子供を見ているとボクはどうしようもなく悲しくなった。
自分が嫌で嫌で仕方なくなって
だから体をそこらじゅうにぶつけた。
爪は剥がれて、耳がちぎれて、背中の皮がめくれた。
そうしたら体から虹色の血が大量に流れ出た。
血は虹色の大波となって、そして大渦となって公園を飲み込む。
黄色をした血は花を彩って
緑色をした血は木々の葉っぱを潤して
赤色の血は滑り台を光らせて
紫色の血はブランコを揺さぶって
青色をした血は空をおおいつくして
まばゆい程の光と色につつまれた子供の顔も虹色に染まっていた。
すべての血を失ったボクは真っ白の動かない物体になってしまった もう力が入らない。
体が軽くなったかと思うと空高くグングン浮いていった。
小さくなった意識の中でボクは真っ白い雲になった。
そして雲は公園の光を浴びて虹になった。
tears
..tears
黒い砂のこすれる音
一つの言葉が君を泣かせた。
長い髪の隙間から海が見える
二つ目の言葉が君を黙らせた。
きつく結んだ唇が水平線と重なった。
三つ目の言葉はない。
言葉はすでに存在できなかった。
四つ目の言葉で二人は朝をむかえた。
feel the same
feel the same
僕は醜いと思った
あなたも醜いと思うだろう
feel the same
永遠の時間の中で
一瞬の時
feel the same
僕はあなたの思いのまま
髪を伸ばせと言われれば伸ばすし
舌を噛みきれと言われたら抗うことはできない。
feel the same
一瞬の恋の後の
永遠の愛
feel the same
一つの地球に一つの想いと
一人の僕とあ なた