三月
底の薄い革靴で歩く。
あのアカシアが咲き乱れた春を。
朱く漆で輝く門を。
車のホイールが目の前で真円になり、再び楕円に還る一瞬のひらめきの中に入れておいた秘かな君を
鳩の数匹が羽音で消し去る。
ミモザに揺れ、雲は落ち着き払い、
程なくして気がつくと私は歩みを止めていた。
そして頬は青春の光に照らされた。
あのアカシアが咲き乱れた春を。
朱く漆で輝く門を。
車のホイールが目の前で真円になり、再び楕円に還る一瞬のひらめきの中に入れておいた秘かな君を
鳩の数匹が羽音で消し去る。
ミモザに揺れ、雲は落ち着き払い、
程なくして気がつくと私は歩みを止めていた。
そして頬は青春の光に照らされた。
錆
壊れ朽ちるものが儚く美しいのなら
永遠の愛を信じてしまった私はさぞ醜かろう。
道化ほどの軽やかさもなく、地に這いつくばった四足ほどの真面目さもない。
くすんだ空気をただ吸い吐きし、生の一角に腰掛けている隠居のような存在。
川は寝返りをうつように向きを変え、岩は草のように風になでられ、
それでも私は頑なに醜かった。
忘れ去られた公園ですら、錆にまみれて過去を語り
私の指の関節は曲げられる度にあなたの手の形を忘れていく。
私の中に流れる川
私の中に流れる川は
岩々の間を曲がり狗ねり
音も軽やかに遠くへ続く。
水は透き通っているだろうか。
鳥たちは私の上を飛ぶ。
魚たちは私の中に泳ぐ。
虫たちは私の横で歌う。
人たちは私の心を穢す。
彼らの苦しみを押し付けるように。
彼女らの悲しみを紛らわすために。
流れはひたすら穏やかに流れる。
岩々の間を曲がり狗ねり
音も軽やかに遠くへ続く。
水は透き通っているだろうか。
鳥たちは私の上を飛ぶ。
魚たちは私の中に泳ぐ。
虫たちは私の横で歌う。
人たちは私の心を穢す。
彼らの苦しみを押し付けるように。
彼女らの悲しみを紛らわすために。
流れはひたすら穏やかに流れる。
冬の星の思考
冬の星は考える。
煌々と、それでも冷たく。
産まれた子鹿は立ち上がり、
魚は川を昇る。
風のない場所から見えるあなたは幾億の点の一つにしかすぎず、
どんなに想っても目印を失った私には探し出せないだろう。
それでもいいとコロンブスは笑っている。
時間は波のように船を 運び、
あなたの髪は揺れ、
星は煌々と、それでも冷たく。
話しかける言葉は叫びにならず、
音楽は旋律を失っている。
ティーカップの紅茶は冷めかけているので
私は悲しくなった。
サボテン
駆け抜ける喜びを失ったロバのように
私の足は歩みを止めている。
休息をとっているのではない。
まるで砂漠に囲まれたサボテンのように。
夜は空一面の星に心をときめかせ、
太陽は毎日東から西へ一日を語る。
百日に一度の雨を体に貯めて、
次の雨を待つだろう。
その間も心は心地良さと不安の間を行き来し、
時には混じり合い、
溜息の中に微量な幸せを含む。
何一つ変わらないようで、気づかない程ゆっくりと変化していたのはあなた。
ここは宇宙を感じずにはいられない場所。
私の足は歩みを止めている。
私の足は歩みを止めている。
休息をとっているのではない。
まるで砂漠に囲まれたサボテンのように。
夜は空一面の星に心をときめかせ、
太陽は毎日東から西へ一日を語る。
百日に一度の雨を体に貯めて、
次の雨を待つだろう。
その間も心は心地良さと不安の間を行き来し、
時には混じり合い、
溜息の中に微量な幸せを含む。
何一つ変わらないようで、気づかない程ゆっくりと変化していたのはあなた。
ここは宇宙を感じずにはいられない場所。
私の足は歩みを止めている。
海を愛した空はあなた
空は大地を映さず、海に魅入っている。
四十六億年かけて出会えたかすか な地平線で
色は溶け合うように、しかし混ざり合わずお互い身を寄せている。
海を愛した空はあなた。
私は私を永遠の青春にしまっておきたい。
世界が閉じられる。
重い闇
石鹸の泡のような雲
わたしの指は湿気た空気に触れ
目の奥には闇に似た安らぎと
先の見えない廊下が続く。
明らかに足は施錠され
頭髪は燃えているのにも関わらず
心は冷たい泥のように
一つの波紋すら許さない。
羽のささくれた青緑の小鳥が異様な形で落ちています。
美しくあったであろうに。