恥辱とカタルシス -27ページ目

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

もう多くは語りますまい……。(というか語れん)

 

こんばんは、渋谷です。

 

 

 

桜庭一樹さんの「赤朽葉家の伝説」を読みましたー。いやー、面白かった!

 

日本推理作家協会賞受賞作です。好きな作家さんである桜庭さんですが、「推理小説かー」と思って手が伸びなかったこの作品。だって、気付いちゃったんだけど私あんまり「ミステリー!」みたいなのが好物じゃないのよね。こないだ道尾秀介さんはミステリーを期待して読んだんですが。ああいう気分になることってあんまりない。もちろん読めば面白いんですが、それより純文学系の方が好きなんだなって最近気付いたんです。

 

こないだ読んだとあるコラムで羽田圭介さんが、「エンタメ小説って起承転結がちゃんとあるけど、純文学にはそれが強制されないから読むのも書くのも自由。だから面白い」的なことをおっしゃってて、それ読んで私「なるほどなー!」って膝を打ったのよね。私がほんのり「……なんか純文学の方がロックだぞ」と思ってた理由を明かしてもらったような気がして。推理小説だと「……そろそろ死ぬな」「お、どんでん返し」「あ、最後にこんな驚きが!」みたいなのが、大体パターン化されてるもんね。

 

その予定調和を越えていく純文学って面白いんだなと思って。がっちがちの昭和純文学なんかは読んでてしんどいのもありますけどねえ。最近の芥川賞受賞作なんかはホントに馴染みやすくてどれもこれもかなりロックだ。面白いねえ。

 

さてさて、前置きはそれぐらいにして「赤朽葉家の伝説」は純文学も大衆小説も、ミステリーも大河ドラマもちゃんぽんにしたような作品でした。全体は3部から構成されていて、桜庭さんがおっしゃるには「1部は歴史小説、2部は少女漫画、3部は青春ミステリー」ですって。ほんとにおっしゃる通り、3冊の小説をいっぺんに読んだような満足感でした。長くなるので、あらすじはざっくりと。

 

 

 

赤朽葉家は鳥取の西部に位置する紅緑村で鉄鋼業を営む旧家です。そこに嫁いだ「千里眼奥様」と呼ばれた万葉、万葉の娘でキレッキレのレディースの頭だった漫画家毛毬、毛毬の娘でぼんやりした現代っ子の娘瞳子の女三代にわたる一族の物語。

 

いわゆる大河ドラマ的な長編です。間には万葉をいじめる造船会社の一人娘みどりだったり、万葉の夫の妾だったり、毛毬の彼氏を片っ端から寝取る妾腹の娘百夜だったり、万葉を愛しながらも製鉄所とともに生き独身を貫いた豊寿だったり、いろんな人間が絡んできます。ちょっと渡鬼的要素も濃いんですね。昼メロみたいな側面もあり。でも時代に抗う企業小説としても読めるし、最後瞳子の代になるとミステリー的要素も濃くなってきます。恋愛要素もオカルト要素も民族小説的要素も満載。ちょっとこれは、私には一言で語ることができない作品です。

 

ほら、NHKで夜やってる「ファミリーヒストリー」ってあるやん? 芸能人の3代前ぐらいまでをさかのぼって調べるみたいなやつ。あれの「赤朽葉家」バージョンって感じやね。ものすごいてんこ盛りな「ファミリーヒストリー」。5週ぐらいに分けて放送せないかんぐらいの「ファミリーヒストリー」。

 

山陰のくもった小さな村で栄華を極めた一族の没落。時代は流れ、瞳子が説いた謎とともに赤朽葉家は観念的な終わりを迎えます。終戦直後から平成までの、一つの村の栄枯盛衰にとてつもなく感動してしまいました。田舎帰って父親に地域の古い話を聞いてみたいような気分。うちの実家はとんでもない田舎なので、父親が元気なうちに聞いておかないと、土地の伝承はすぐにでも途絶えてしまう。

 

私が知らない先祖のことも、聞いてみたいなと思いました。家系を遡るってもしかしたらどんな小説を読むより面白いことなのかもしれない。だって最終的にその物語は自分につながるんだもんね。それが一族の記録で、いわば「ファミリーヒストリー」なんだよね。

 

 

 

というわけで、大して語れず今回はおしまい。こういう作品って「全体小説」っていうんですって。個人があり、家庭があり、国の歴史、恋愛、労働……。色々詰め込まれた「全体小説」。

 

私もそのうち、遠い未来に書けるようになったらいいなあ。うっとりと夢見ながら読ませて頂きました。桜庭一樹さん、やっぱり面白い。

 

また新しいの見つけてこよっ。

 

ではまた―。

うーん、驚いた!

 
こんにちはー渋谷ですっ。
 
 
 
窪美澄さんの「ふがいない僕は空を見た」を読みましたよー。山本周五郎賞受賞作、本屋大賞2位。
 
短編集で、収録作は
 
ミクマリ
世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸
2035年のオーガズム
セイタカアワダチソウの空
花粉・受粉
 
となっております。
 
「ミクマリ」が女のためのR18の大賞受賞作なんですね。それは面白そう、と思って読み始めたのですが、しょっぱつで私はドン引きしてしまいました。
 
「ミクマリ」、私の大大大嫌いな世界……!
 
 
 
斉藤くんは高校1年生。そこそこ綺麗な顔をした、何ごとにも気だるげな男の子です。お母さんが助産院を営むおうちに育ち、お父さんは斉藤くんが小さいときに出ていってしまいました。
 
そんな斉藤くんはある日友達に誘われコミケに連れて行かれます。そこで「なんとかいうアニメのなんとかいうコスプレ」をした小太りの女誘われ、女の家に通うことになります。
 
そこで「なんとかいうアニメ」の「むらまささま」なるキャラのコスプレをさせられる斉藤くん。女が書いた台本通りに、「ドSキャラむらまささま」を演じる斉藤くんとコスプレ小太り主婦のセックスが繰り広げられるわけです。捕らえられた小太り主婦を痛ぶる男子高校生。「むらまささまあ、イッてしまいますうう!」
 
きっもいわあああああ!
 
……いや、フィクションなんですよ。わかってますよ。わかってるけど、本気でキモい。ない。あり得ん。なんかねじくれた世界がそこには広がっています。倒錯なんて言葉は当てはまらない、異様な世界。
 
斉藤くんには言い寄ってくる女の子がいっぱいいるんですよ?なのにこのキモい主婦をなんか好きになっちゃう。キモいセックスしたくてしょうがなくなっちゃう。なんで?理由があるのかも知らんけど知りたくない。それぐらい嫌悪感しかないセックス描写でした。これが大賞?ってほんとに思った。この本読むの、もーやめよかなーって。
 
でも読み進めてみた。まあ結論から言えば小太り主婦はちょっと頭が痛い人な訳です。2話目の「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」は彼女が主人公でどこまでも気持ち悪い彼女の思考が書き連ねられていきます。
 
能力が低くなにやっても怒られるから働きたくない。だからストーカーとして有名なマザコン男と結婚しちゃう。家でだらだらしてマンガやアニメの世界に浸っていたいわけです。
 
若い頃言い寄る男みんなとやっちゃったもんだから性病になってて妊娠できない。孫よこせ姑に突かれて不妊治療しますが妊娠しない。それで家に高校生連れ込むって!コスプレさせてバカなエロゲの再現って!
 
ストーカー夫にすべてバレ、斉藤くんのハメ撮り画像が流出しちゃいます。人生半分終わったも同然。小太り主婦は体外受精しにアメリカに行っちゃうし。失意の斉藤くんはすっかり引きこもりに。まーそらそやな。
 
ここまではほんま何が面白いんかわからんかった。きもっ。ないわー。ぐらいしか感想なかった。でも後半が良かった。斉藤くんのお友達、良太くんのお話と斉藤くんのお母さん、助産院の先生のお話。
 
 
 
引きこもりになった斉藤くんを気遣う良太くんは、貧しい家庭が集まる団地に住んでいます。痴呆症のお祖母ちゃんと二人暮し。お父さんは借金苦の果てに自殺、お母さんは彼氏と同棲中で家に帰ってきません。
 
高校に通いながらバイトに明け暮れる良太くんは、人生になんの希望も持っていません。勉強も嫌いだし。なんにもいいことなんかない。
 
でもバイト先のコンビニに元進学塾講師の男性、田岡さんがいて、良太くんを明るい場所に戻してくれようとする。勉強を教えてくれてごはんを食べさせてくれて。良太くんの成績はぐんぐん上がります。それで良太くんは自分のしていたことを恥じます。優しいお母さんに守られている斉藤くんに嫉妬して、良太くんは斉藤くんのハメ撮り画像をご近所さんにポスティングいたんですね。……なにやってるんでしょうか。
 
良太くんのお母さんは良太くんの貯金を全額引き出して逃げちゃったんですが、そんなことがあっても田岡さんのおかげで良太くんはひねずにすみました。でもその田岡さんは小児性愛者。しかも男児限定。
 
捕まっちゃう田岡さん。良太くんはそれでも、最短であの団地から抜け出すべく努力を続けていくのでしょう。環境にひねて他者を羨むだけだった良太くん、大きな成長です。
 
 
 
斉藤くんのお母さんのお話、「花粉・受粉」は壮大な命のお話。助産院で繰り広げられる命のドラマ。それとお母さんの今までの人生と、ハメ撮りを垂れ流されて引きこもりになった息子への愛と苦悩が絡みます。要はこの話に至るために、他の4篇はあったんですね。
 
お母さんは助産師さんなので、赤ちゃんをとりあげることはしますが、外科的な処置が必要だったり胎児に危険が迫ると産婦人科に頼ることになります。「自然なお産」を望んで妊婦さんたちは助産院の扉をたたきます。でも、お母さんは「自然なお産」という観念に疑問を持ってるんですね。
 
「自然なお産」っていうのは、つまり淘汰される命もあるってことよ?っていう。外科的処置がなければ昔は難産で死んだ妊婦さんも赤ちゃんもたくさんいた訳でねえ。分かるわー。私も妊娠中に3ヶ月入院した。
 
西洋医学に助けられなければ、うちの子供は死んでました。今横でぴんぴんしてますけど。でも西洋医学が助けようとしても死ぬ赤ん坊は死ぬ。
 
斉藤くんのお母さんは、「どーやったって死ぬ子は死ぬ」っていうのが身に沁みてるのかなと思います。自分がなにやったって大きな力の前では無力だって知ってる感じ。だからエライことになった息子にもぎゃんぎゃん言いません。一歩引いたところから見てる。もちろん心配はしてますが余計な口は出さない。自分が何言ったって大局は動かないって知ってるから。でも誰より深く息子を愛していて、ひと言だって責めようとはしない。
 
うーん、こんなお母さんって素晴らしいなあ。私もこうありたい。母として、と言うか、人間としてデカイ。「じたばたしたってどうにもならん!腹据えとけ!」的な強さ。そうしてるうちに、「オセロのように状況が変わる瞬間がくる」んだって。お母さんが通ってる漢方の先生のセリフなんですが。確かに。明けない夜はないし、止まない雨はないね。
 
そんなわけで最後には少し元気になった斉藤くん。5話目まで読んでやっと、この本の素晴らしさが分かりました。途中でやめなくて良かった。1話目との落差に驚いたよー。
 
他の本も読んでみよ、窪美澄さん。
 
ではまたー。

ああー、しみじみ面白かった!

 

こんにちは、渋谷です。

 

 

道尾秀介さんの「月と蟹」を読みましたよー。直木賞受賞作。

 

道尾さんと言えばミステリーのイメージで、昨日読んだ村田沙耶香さんがしんどかったのでちょっとエンタメ色の濃いものが読みたくて手にしてみたんですよね。直木賞受賞したミステリー。絶対「バーン!ドーン!ボーン!」みたいになって、「すっきり爽快!」てなるんやろなと思ったから。

 

でも全然かんちがーい。重くて暗くて悲しくて。小学校高学年の主人公たちの、逃げ場のないやるせなさに溢れた作品でした。でもあまりにも丁寧で計算された文章に、悲しみも重苦しさも越えて夢中になってしまいました。あっという間に読了です。

 

にしても、こういうミステリー、たった今私が書いてる話が目指してるところなんですよね。すごくいいお手本に出会えました。私、ホント運がいいなあ。

 

 

 

舞台は神奈川県鎌倉市。主人公は多分小5かな?の慎一くんという少年です。彼は東京から引っ越してきて2年が経ちますが学校に馴染めません。田舎者は他者を排除するのでね。クラスには大阪から引っ越してきて同じように浮いている少年、春也くんもいてふたりは放課後一緒に遊ぶ仲になります。学校ではつかず離れず、って感じなんだけどね。

 

この少年ふたりの心の機微が、細やかに丁寧に書き連ねられていきます。慎一くんは病気でお父さんを亡くし、お母さんとおじいちゃんと3人暮らし。最近お母さんに彼氏が出来たようなのですが、どうしても受け入れることができません。

 

春也くんはろくでなしの父ちゃんに暴力を受けています。食事を与えてもらえなかったりもします。……辛い。でも少年ふたりは互いに痛みを見せることなく付き合っています。なんか男の子ってそういうプライドがあるんでしょうか?弱みを見せたくないっていう。

 

このふたりの少年は、何がしたいのかよくわかりませんがヤドカリを捕まえてきて裏からライターであぶってみたりして遊びます。するとヤドカリが「あちちちち」っつって出てくるのが楽しいんだって。何が楽しいのかおばちゃんには一切わかりませんが、男の子ってこういう遊びをするものなんでしょうか。なんでしょうね。そしてそのうち、この出てきたヤドカリを「ヤドカミ様」と名付け、この「ヤドカミ様」に願いをかけて殺すと叶うんだ、という話になります。慎一くんが「お金が欲しい」と願をかけると、すぐ翌日には海で500円玉を見つけたのです。「おお!ヤドカミ様すげー!」と盛り上がるふたり。

 

実際にはもちろんヤドカリに願をかけたって叶うはずはありません。誰かが海に500円玉を置いた。その先も、ヤドカミ様にかけた願はすべて叶っていきます。慎一くんをいじめるクラスのガキ大将をやっつけたい、とお願いすると、翌日には階段踏み外しちゃったりしてね。

 

やがてふたりの間には鳴海ちゃんというクラスのアイドルが入り込んできて、微妙な三角関係が構築されていきます。鳴海ちゃんはお母さんを船の事故で亡くしているのですが、その事故の原因を作ったのが慎一くんのおじいちゃんだったりします。にもかかわらず、転校してきて浮いていた慎一くんにも明るく声をかけてくれるような女の子。人気のある子なので、慎一くんが鳴海ちゃんと接近するたびに教室の慎一くんの机には謎の怪文書が入れられることになります。「鳴海ちゃんとどこそこで会ってたなあ、ラブラブやなあ」みたいな冷やかしの手紙は、やがて卑猥な内容に、最終的には「死ね」なんていう暴力的なものになっていく。

 

慎一くんは鳴海ちゃんが好きで、鳴海ちゃんと春也くんが親密になるのが嫌でたまりません。しかもお母さんが毎週土曜日に嘘をついて会いに行く男は鳴海ちゃんのお父さん。……複雑ねえ。でも複雑さを抱えていたのは慎一くんだけではありません。それ以上に闇を抱えた春也くん。春也くんはやっとできた友達である慎一くんを、大切に思い、手放したくなくて、父親からの暴力も止まず、追い詰められていたのです……。

 

 

 

ふたりは反目し、慎一くんは春也くんの嘘を暴きます。友達だと思っていた春也くんは、慎一くんを陰で蔑んでいた。そうせざるを得ない精神状態だったと告白し、初めて自分の弱みを見せあうふたり。お互い心底叶えたい願いを持っているふたりは再び「ヤドカミ様」に願をかけます。まずは慎一くんから。慎一くんの願いは、「鳴海ちゃんのお父さんをこの世から消してほしい」。

 

さあ、ヤドカミ様は慎一くんの願いを叶えるのでしょうか。叶えてもらっちゃったら今度は春也くんがヤドカミ様に願をかける番です。もちろん慎一くんにはヤドカミ様の正体がわかっています。かつては親友だと思っていた彼に、犯罪を犯させていいのか?

 

最後にはなんとも盛り上がるラストです。くうう、痺れるっ。盛り上がるラストのあと、静かに語られた終章もまた良かった。じんわり、と少年たちの苦悩が昇華されていくようでした。これがテクニック、いうやつなんかなあー……。

 

 

 

私ね、読み終わって初めて「ああ、この作品はミステリーだったんだな」と腑に落ちたんです。読んでるときはそういう感じじゃないのよね。最初の半分ぐらいは友達の少ない少年の日常しか書かれていませんから。

 

辛くもどかしい少年の日常。青春ものなのかな、みたいな。でも、残り三分の一になって前半の日常の描写が効いてくる。急にエンジンがかかってハラハラドキドキさせられる。そして終わってみれば、前半にちりばめられた伏線がすべて回収されて、「あ、これミステリーだったのね」とわかる。この流れ、私今目指してるところなんです。

 

読み終わってみると、ミステリーだった、っていうお話。読んでる最中は日常を追ってるかのようなのに、終盤にきて「あ、あれはそういうこと?」「じゃああれってあそこにつながるの?」「じゃあもしかしてこの後、ああなっちゃうんじゃない……⁉」みたいに出来たらいいなって。とてもとても難しいことのようにも思いますが。

 

しかもすかっとハッピーエンドじゃないところがいい。すかっとしたくてこの本を開いたんですがね。ハッピーエンドもいいですが、辛さの残り香みたいなのが読後に尾を引きます。参考にしよう。こんなラストもいいな。

 

というわけで面白かった道尾秀介さん。また読みます。

 

ではまたー!

あー、げっそり……。

 

こんばんは、渋谷です。




村田沙耶香さんの「ギンイロノウタ」を読みましたよ。中編2篇を収録したこの作品、収録作は「ひかりのあしおと」と「ギンイロノウタ」となっております。「ギンイロノウタ」は野間文芸新人賞受賞作です。


両方若い女の子が主人公。両方とも主人公は病んでいて性についてこじれている。こじらせものに抵抗がない私ですが、この本はちょっとヤバかった……。ヤバかったというか、はっきり言ってついて行けなかったです。


「コンビニ人間」が面白かった村田沙耶香さんですが、あれはだいぶマイルドだったんだなあ。作家仲間から「クレイジー沙耶香」と呼ばれてらっしゃるそうなんですが、納得。この作家さん、ちょっと変わっとるわー……。




「ひかりのあしおと」は、子供の頃「光る人型」に公衆トイレに連れ込まれ、謎の呪文を刷り込まれちゃった女の子、誉ちゃんが主人公です。この子はそれ以来光が怖くなっちゃって、大学の教室でも蛍光灯から遠い席ばっかり探してます。いつ光人間が襲ってくるかわからないから。挙動不審で周りからキモがられる女の子。でも彼氏は切れず、常にセックスの相手には事欠きません。


誉ちゃんは恋愛したいんじゃなくて、セックスしたいのね。その間は光る人型から逃れられるから。だからまあセフレですわね。でもそのセックスも暗くて気持ち悪い。どうやって早いとこ服を汚さず射精させるかばっか考えている。 


もう基本から病んでる子なのでやってることも意味不明です。誉ちゃんのお母さんは可愛らしいまるで少女のような女性で、誉ちゃんにも夫にも甘えまくります。でもなんか影ではお母さんも病んでいる。その病み方に理由がないから、気持ち悪いんだよなあ。


しまいにはなんだか分からん刃傷沙汰を起こす誉ちゃん。彼女は一体何を求めているんだ。欲しがっているものが分からない。だから、ひたすら気持ち悪かったです。これはホラーと言っていいんじゃないかと思います。




「ギンイロノウタ」はもっと気持ち悪かった。名古屋大の女の子が、宗教の勧誘のおばさんを殺しちゃった事件あったやん?あそこに至るまでの心情を綴ったような作品。


主人公の有里ちゃんは産まれたときから卑屈な女の子。神経質で高圧的なお母さんに育てられはしましたが、まあどこにだっている程度の高圧ぶりです。母親というのは怒るもんです。いらいらする時だってあるよ。母親だって人間なんだよ。


ですが卑屈っ子有里ちゃんは幼稚園児にして妙な具合にねじれます。魔女っ子アニメの中で、「まいっちんぐマチコ先生」的なシチュエーションを見ちゃって、「そっか、大人になって身体を晒せば男の人が注目してくれるんだ!」と思っちゃう。


もー変やって。チラシから男性モデルの目元だけ切り抜いて、押入れの天井に貼りまくる。その押入れの中で裸になって自慰にふける子供。……キモい……キツイ。なんか私の嫌なシチュエーションです。


そのまま中学生になって、自己肯定感を高めるために誘ってきた先輩とロストバージンしちゃおうとするんですが、うまくいかない。自分はセックスさえできない不良品なのかとがっくりきちゃう。そんな時に担任になった熱血教師に恨みを抱き、デスノートをつくって教師を「あーやって殺すこーやって殺す」と書き連ねる。最後には暴れる引きこもりみたいになって、殺意を道行く人にぶちまけ始める卑屈っ子有里ちゃん。


なんかね、とにかく不快なお話でした。逆の意味で私の琴線に触れる。そもそも、村田さんの描く主人公って、理由もなく病んでるんですよね。ふんわり理由らしきものは提示されますが、「その程度でその思考になる?」って疑問に思う。多分生まれつきの病み人間なんだろうなって。


まあ生まれつき病んでる人も世の中には多数おられるんでしょう。病みに理由が必要な訳でもない。その「理由なき狂気」みたいなのがめちゃ怖かった。あと、「私には理解できない」っていうのが不快だった。


道を歩いてたら知らないおっさんがパンツ一丁でデカいパグをボーリング球みたいに転がしてたとしましょう。……怖いですよね。不快ですよね。それに近い恐怖。あー、疲れた。




ちなみにこんな怖いの書いてるのに、村田沙耶香さんってお父さん裁判官で、家庭はちゃんとしてて家族の仲がすごくいいんだって。絶対変な親御さんやと思ったのに(失礼)。


お父さんとお母さんは仲良しで、お兄さんもいて大人になってからも4人でレストランに食事に行ったりするんだって。……そんな家庭環境で育って、なんでこんな話をかけるような作家さんが生み出されるんだろう。


あ、もしかして、「生まれつきの病み人間」……?いや、そんな馬鹿な。村田さんはエンタメとしてこういう作品を書いてるんだ。誉ちゃんや有里ちゃんが村田さんの投影とは限らない。限らない……よね?


同じ暗い作品でも、田中慎弥さんとはまったく違う作風だった村田沙耶香さん。


……ちょっと、時間を置いてから別の著作も読んでみたいと思います。文章の美しさは特筆すべきものがあったから。でも、すぐには無理だ。


そんなわけで、ではまたっ!

ペナルティ中ですよー。

こんばんは、渋谷です。



エブリスタでペナルティ食らいました。大人の人に怒られたのは久しぶりです。怒られた……なんか、逆に可笑しい。

理由は簡単なことで、私がメッセージ使ってメアドを送信しようとしたんですね。メアドそのまんま書いて送信しようとしたらエラーになりました。それで翌日からペナルティ。

もう4、5日になるかなあ。結構長いのね。まあ私はエブリスタでもう書いてないのでペナルティになっても大して困らないんですが、アカウント削除になったらちょっと悲しい。エブリスタにしか置いてない話もあるので、それらはパソコンのオフィスやセルバンテスに移しました。

多分1週間ぐらいでペナルティ解除になるのかな。普通そのままメアドなんか送ろうとしないよね。アホやな私。ちなみに送ろうとしたお相手は女性です。そのお姉さんがこんなことおっしゃってて、笑った。

「春休みで、女子高生たちが悪事働くためにメアドの交換とかしたがる時期だから……」

援交少女と間違えられた私。不良中年。相手は同性なのに。本当に何やってるんでしょうね。自分のマヌケさに苦笑です。お姉さん、その節はお騒がせしました笑

でね、ある朝パソコン開けたら、エブリスタにのっけたフリーメールにいきなり90件とかメールが着てるのよ。「えっ!」ってなるよね。普段は静かなアドレスだったので。何事かと思ったら、全部ヤフーからだった。

とあるニュースについて、なんとなくヤフコメに書き込みしたのよね。そしたらそれが沸いて返信が全部で200件ぐらい来た。あれ、返信が1件あるごとにメールが1通くるのね。

 
途中からめんどくなって読むのやめちゃいましたが、私が書いたことに賛否両論が巻き起こっててびびった。私は私の意見を書いただけなんですが、それを悪のように受け取る人もいるんだなあ。
 
まあ7割は肯定的でしたけど。もう当分ヤフコメはいいや。色々めんどい。話が逸れましたが、そんな訳で只今私、エブリスタペナルティ中です。メアドそのまま載っけるのは止めよう!大人に怒られちゃうよ笑!
 
で、今日の読書感想文は田中慎弥さんの「共喰い」。面白かったー!田中慎弥さん、やっぱり大好きです!
 
 
 
表題作の「共喰い」は芥川賞受賞作です。菅田将暉くんで映画にもなってますね。私は見てません。さっきググったら映画は小説に後日談を足してるところがあるのね。小説は映画のラストだいぶ前で終わってます。私は小説のラストの方が良かったんじゃないかなーと思う。見てないのでアレなんですが。
 
舞台は田中さんの出身地である山口県の「川辺」と呼ばれる地区。時代は昭和63年。
 
「川辺」という地名、貧しい地域であるそこがどういう地域か、わかる方には想像がつくかと思います。はっきりとは書かれていませんが。下水が川に垂れ流されて、悪臭を放つ地域。時代は昭和でまだそこには光が射していません。そこで父親と後妻の琴子と3人で住む高校生遠馬が主人公。川向うには空襲で片腕をなくして、特殊な金属製の義手をつけてひとり魚屋を営んでいる実母、仁子が住んでいます。彼女は同じ地域に住む幼馴染、千種。
 
遠馬の父親は怪しい商売で生計を立てながら、あっちこっちで女をとっかえひっかえするような男です。しかもセックスのたびに女をぶん殴ったり首絞めたりします。いるいる。こういう男いる。私が今書いてる話にもこういう男が出てくる。遠馬の実母の仁子さんも、現在の妻である琴子さんも被害者ですが、なんか父ちゃんは悪びれません。琴子さんは顔にあざを作りながらも、明るく遠馬くんのお世話に励みます。暴力が容認されている町なんですね。仁子さんなんかは切れて遠馬くんを置いて家を出ますが、だからって父ちゃんと縁を切ったわけでもない。「男は暴力をふるうもの」というあきらめみたいなものが根底にある。そしてその子供である遠馬くんに、「あんたは父ちゃんにそっくりやわー」と繰り返す仁子さん。
 
遠馬くんかわいそうやんね。家では父ちゃんが若い後妻をゴスゴスに殴りながら犯している。こんな環境で遠馬くんがまともに育つはずもなく、彼女の千種ちゃんとセックスの最中に思わず首絞めちゃいます。こらっ。そーゆーのは容認してくれる相手を見極めんと犯罪ですよー!
 
血が自分をそうさせてしまうのかと遠馬くんは悩みます。千種ちゃんには嫌われちゃったし。やけになってお父さんがご常連の立ちんぼさんを抱いちゃいます。もちろんゴッスゴスに殴りながら。でも立ちんぼさんは、「お父ちゃんよりだいぶマシやったから、安くしといたるわ」
 
そんなときに地域は夏祭りを迎えます。近所の子供たちがおせっかいを焼いて、神社の社で再び顔を合わす遠馬くんと千種ちゃん。千種ちゃんは遠馬くんを許すと言ってくれたのに、遠馬くんたら意地張っちゃう。だって、自分にはあの野獣の血が流れてるんですもんね。もう千種ちゃんを殴ったりしたくないんですから。逃げ出す遠馬くんに、「祭りの日にここでまっちょるけー」みたいな千種ちゃん。……なんか、一途ないい子です。
 
さて夏祭りの当日は大雨。その期に乗じて琴子さんは遠馬くんちから逃げ出します。子供ができたんですね。子供を守ろうとしたのか、もうDV夫に付き合いきれなくなったのか。遠馬くんに琴子さんの出奔を聞かされた父ちゃんはブチ切れて探しに出ます。探しに出て……神社の裏で見つけちゃったのが千種ちゃん。
 
あの獣は千種ちゃんを琴子さんの代わりにえらい目に合わせてしまいます。もうっ。根っからの獣!生きる価値なし!それを知った仁子さんは大雨の中、すべてに決着をつけるべく遠馬くんの父ちゃん、自分をかつて苦しめた夫を探しに出るのです……。
 
何が起きたのかは言わずもがなですね。なんとも衝撃的で、なのに全然現実離れしていないのは田中さんの筆力のなせる業なんでしょう。ざっくりあらすじを書きましたがこんな簡単なもんじゃないです。もっと複雑で果てしないお話です。タイトルの「共喰い」も、誰と誰が「共喰い」をしたのか、いろんな意味に受け止めることができます。

ああー面白いなっ。私もこんなん書けるようになりたい。グロくて暴力的ですが、繊細でギラギラした作品です。楽しいだけの本もそりゃ楽しいけど、私はこういうのが好きだ。そして田中慎弥さん、大好きだ。



もう1作、「第三期層の魚」という短編も収録されています。やはり下関で釣りが趣味の少年が主人公。お父さんは亡くなっていてお母さんと二人暮しの少年は、母親が仕事の間、祖母と曽祖父が暮らす家に預けられます。この曽祖父が弱り、亡くなっていく中での少年の機微がつぶさに描かれています。少年、傷つきやすいなあ。

なんか男っていちいち説明せんやん?それが女からしたら「言いたいことあるんやったらしゃんしゃんお言いや!(伊予弁)」なんですが、なんか沈黙の美学みたいのがあるんですねえ。年端のいかぬ少年でもそうなんだ。

なんか「察してちゃん」みたいだ。感じてることをちゃんと口に出してくれ。でもこの葛藤が美しいね。男の人の繊細さを綺麗に書き出した作品で、とても良かったです。



というわけで、面白かった田中慎弥さん。また読みます。楽しみだわ。

ではまたー。