もう多くは語りますまい……。(というか語れん)
こんばんは、渋谷です。
桜庭一樹さんの「赤朽葉家の伝説」を読みましたー。いやー、面白かった!
日本推理作家協会賞受賞作です。好きな作家さんである桜庭さんですが、「推理小説かー」と思って手が伸びなかったこの作品。だって、気付いちゃったんだけど私あんまり「ミステリー!」みたいなのが好物じゃないのよね。こないだ道尾秀介さんはミステリーを期待して読んだんですが。ああいう気分になることってあんまりない。もちろん読めば面白いんですが、それより純文学系の方が好きなんだなって最近気付いたんです。
こないだ読んだとあるコラムで羽田圭介さんが、「エンタメ小説って起承転結がちゃんとあるけど、純文学にはそれが強制されないから読むのも書くのも自由。だから面白い」的なことをおっしゃってて、それ読んで私「なるほどなー!」って膝を打ったのよね。私がほんのり「……なんか純文学の方がロックだぞ」と思ってた理由を明かしてもらったような気がして。推理小説だと「……そろそろ死ぬな」「お、どんでん返し」「あ、最後にこんな驚きが!」みたいなのが、大体パターン化されてるもんね。
その予定調和を越えていく純文学って面白いんだなと思って。がっちがちの昭和純文学なんかは読んでてしんどいのもありますけどねえ。最近の芥川賞受賞作なんかはホントに馴染みやすくてどれもこれもかなりロックだ。面白いねえ。
さてさて、前置きはそれぐらいにして「赤朽葉家の伝説」は純文学も大衆小説も、ミステリーも大河ドラマもちゃんぽんにしたような作品でした。全体は3部から構成されていて、桜庭さんがおっしゃるには「1部は歴史小説、2部は少女漫画、3部は青春ミステリー」ですって。ほんとにおっしゃる通り、3冊の小説をいっぺんに読んだような満足感でした。長くなるので、あらすじはざっくりと。
赤朽葉家は鳥取の西部に位置する紅緑村で鉄鋼業を営む旧家です。そこに嫁いだ「千里眼奥様」と呼ばれた万葉、万葉の娘でキレッキレのレディースの頭だった漫画家毛毬、毛毬の娘でぼんやりした現代っ子の娘瞳子の女三代にわたる一族の物語。
いわゆる大河ドラマ的な長編です。間には万葉をいじめる造船会社の一人娘みどりだったり、万葉の夫の妾だったり、毛毬の彼氏を片っ端から寝取る妾腹の娘百夜だったり、万葉を愛しながらも製鉄所とともに生き独身を貫いた豊寿だったり、いろんな人間が絡んできます。ちょっと渡鬼的要素も濃いんですね。昼メロみたいな側面もあり。でも時代に抗う企業小説としても読めるし、最後瞳子の代になるとミステリー的要素も濃くなってきます。恋愛要素もオカルト要素も民族小説的要素も満載。ちょっとこれは、私には一言で語ることができない作品です。
ほら、NHKで夜やってる「ファミリーヒストリー」ってあるやん? 芸能人の3代前ぐらいまでをさかのぼって調べるみたいなやつ。あれの「赤朽葉家」バージョンって感じやね。ものすごいてんこ盛りな「ファミリーヒストリー」。5週ぐらいに分けて放送せないかんぐらいの「ファミリーヒストリー」。
山陰のくもった小さな村で栄華を極めた一族の没落。時代は流れ、瞳子が説いた謎とともに赤朽葉家は観念的な終わりを迎えます。終戦直後から平成までの、一つの村の栄枯盛衰にとてつもなく感動してしまいました。田舎帰って父親に地域の古い話を聞いてみたいような気分。うちの実家はとんでもない田舎なので、父親が元気なうちに聞いておかないと、土地の伝承はすぐにでも途絶えてしまう。
私が知らない先祖のことも、聞いてみたいなと思いました。家系を遡るってもしかしたらどんな小説を読むより面白いことなのかもしれない。だって最終的にその物語は自分につながるんだもんね。それが一族の記録で、いわば「ファミリーヒストリー」なんだよね。
というわけで、大して語れず今回はおしまい。こういう作品って「全体小説」っていうんですって。個人があり、家庭があり、国の歴史、恋愛、労働……。色々詰め込まれた「全体小説」。
私もそのうち、遠い未来に書けるようになったらいいなあ。うっとりと夢見ながら読ませて頂きました。桜庭一樹さん、やっぱり面白い。
また新しいの見つけてこよっ。
ではまた―。